表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
551/753

第2部第102話 イオーク王国建国その3

(12月3日です。)

  イオークの新しい町、首都予定地は、来年3月にできるそうだ。しかし、電力供給は発電所建設や送電線施設のため6月以降になるそうだ。電力がなくても、魔法である程度文化的な生活はできるが、魔法が使えないイオーク達では、灯り一つ付けることも出来ないだろう。彼らは、森の中では、地面で焚き火をし、自分達は樹上で息を潜めて暮らしいていた。まあ、当分はランプの生活になるだろう。


  クララちゃんは、帝国中央学院初等部1年に通学している。算数や体育、音楽の授業は、皆と一緒に受けているが、

国語や社会など、この大陸で育たなければ理解できない科目は、特別授業を受けている。放課後はグレーテル語の補習だ。一緒にクリシア女王陛下も受講している。


  セカンド君は、最近メキメキ語学能力が向上している。イオーク語、アメリア語そしてグレーテル語とトリプル・リンガルだ。シルフ特製翻訳機を活用するほかに、睡眠学習もしているらしい。また、彼は読書家で、常に本を読んでいた。特に法律関係や経済学の本を夢中になって読んでいる。僕は、今、建設中のイオーク王国の王都について教えてあげると、是非、見てみたいと言う。うん、来年、皆で見に行くことにしようと約束しておいた。






  今日は、バーミット州の州知事に任命したビンセント君が赴任する日だ。州都は、バーミット市にした。前ギュート市の方が、街の規模は大きいのだが、イオーク王国との交易等を考えると、最南端のバーミット市の方が州都に相応しいからだ。


  ビンセント君は、ミリアさんと結婚してバーミットを名乗ることにした。男爵から2段跳びで伯爵に叙し、旧ギュート子爵領は3分割して、それぞれ男爵や子爵を知事に任じた。


  ギュート市の行政官代行は男爵に叙爵して、西部ギュート県の知事にした。バーミット市の衛士隊長のニコラスさんも男爵として東部ギュート県の知事に任命した。最後に、ギュート市の衛士隊長だったデボラさんは、子爵に叙して、ギュート市を含む中央ギュート県の知事に任命した。


  それから、現在、建設中のイオーク王国の新王都に、職人の派遣をお願いした。現在、ゴロタ帝国のバンブーセントラル建設に都市計画から住宅及び商店の建設をお願いしているが、圧倒的に人手が足りないらしいのだ。相互の言葉の問題はあっても、設計図があれば、きちんと建設できるはずなので、是非お願いしたいと申し入れたのだ。賃金は、バンブーセントラル建設の方々には、出張旅費も含めて1日25000ギルを支払っているので、アメリア統治領通貨で同額を支払う約束をした。これは、破格の条件らしく、希望者が殺到するだろうと言われた。


  あと、現在、バーミット市やギュート市で働いているイオーク達の処遇について確認した。以前は、農奴や売春奴隷が数多くいたが、もう奴隷ではなくなっているので、自由に生きている筈だ。しかし、ビンセント君の歯切れが悪い。シルフが、質問を始めた。


  「バーミット市、ギュート市それと周辺の村々でイオークの労働者及びその家族は何人いますか?」


  「はっきりとは分かりませんが、1万人位ではないかと思います。」


  「そのうち、奴隷以外だったイオークはいましたか?」


  「いなかった筈です。」


  「それでは、その奴隷だったイオーク達は、奴隷解放された後、どのような仕事についていましたか?」


  「ほとんどの者は、奴隷だった時と同じ仕事をしております。」


  イオーク達は、奴隷として働いていた場所を追い出されると、住むところもなくなるし、収入の手段も失ってしまう。特に、娼婦達は、自分の身体しか売り物がないので、奴隷解放されても娼婦を続けざるを得ないようだ。農奴にしても、農作業以外に何もできないイオーク達に街で働くなどできる訳が無かった。街中の労働力は、人間達だけで間に合っているのだ。また、汚くきつい仕事も、既にイオーク奴隷の仕事であり、新たに仕事が発生する余地はなかったようだ。


  「奴隷解放されたイオーク達は、きちんと労働の対価を支払われていますか。」


  「はあ、それが成人男子イオークが1日12時間働いて、銅貨120枚。新通貨で120ギルほどの収入だそうです。娼婦は、1日に5人の客を取って、大銅貨2枚、新通貨で2000ギルの収入が相場だそうです。」


  開放されたイオーク達の処遇は酷いだろうとは思ったが、これほどとは思わなかった。


  「分かりました。それでは、ビンセント伯爵、新知事としての初めての任務です。バーミット州内のイオークを全て集めてください。最初は、娼婦達を集めてください。その人たちの移動のため、『空間転移』のゲートを開けておきます。このバーミット市行政庁前にテントを立てますので、そこに集めてください。勿論、本人とその家族も一緒です。」


  結局、娼婦をしているイオーク女性たちは800人ほどだった。人間では、相手が分からない子供を産む娼婦が多いが、イオークは、人間との交雑は起きないらしく、殆どが独り身だった。皆、粗末な服を着ていて、娼婦としての華やかさなど微塵もなかった。年齢は、一見しただけでは分からないが、皆、結構若そうだった。中には、誰かの子供かと思ったら、娼婦だというイオークもいた。年齢を聞いても、自分が何歳か分からないようだが、どう見ても10歳以下にしか見えない娘だ。


  シルフが、皆の身分証明書を発行していた。名前が無いイオークが殆どだったが、ID番号をふった証明書だ。生年月日も分からないので、シルフが、変な機械を使って年齢を測定している。どうやら、細胞の遺伝子から生体年齢を割り出すらしいのだ。驚いたことに、このイオークさん達、7歳から24歳までしかいなかった。それ以上の年齢のイオークは、どうしたのか聞くと、いつの間にかいなくなってしまうらしい。25歳位になると商品価値がなくなるらしいので、売り飛ばすか処分してしまうのだろう。今度、娼館の一斉手入れをしなければならない。


  この娼婦さん達に、現状を説明する。きっと奴隷解放されたことも良く知らないだろうし、1日働いての最低労働賃金など全く分かっていない筈だ。娼婦さん達に動揺が走った。雇用主は、1日8時間働かせたら、6400ギルを支払わなければならず、労働のための衣装や場所代を給与から天引きすることは許されない。一人のイオークがおずおずと手を挙げた。


  「あのう、私、お給料は全く貰っておらず、毎日、2食の食事をいただいているのですが。」


  「それは、どこの何という店ですか?」


  「南ポルト町の『ベンの慰安所』という店です。」


  「あなたは、1日に何人位のお客さんをとっていますか?」


  「はあ、5人位です。」


  「あなたは、これからも今の仕事を続けたいですか。」


  その子は、目に涙をためながら強く首を振った。


  「皆さん、皆さんは、神聖ゴロタ帝国の国民として、幸福で安全な生活をする権利を持っています。この権利は、何者も犯すことが出来ません。また、労働は、必ず正当な対価が支払われるべきで、ゴロタ帝国本国で同じ仕事をしている方達は、1日に銀貨2枚以上の収入があります。」


  1日銀貨2枚と聞いて、娼婦達の間に衝撃が走った。彼女達は、僅か大銅貨3枚つまり3000ギルで春を売っているのだ。しかも、その売り上げの全てを雇い主に巻き上げられている。


  「皆さんには、いくつか選択肢があります。このままイオークの森に帰ることが出来ます。イオークの森は、今後、イオーク王国として、イオークの女王が納める国となります。」


  「二つ目の選択肢は、このまま、この街で働き続けることです。今までどおりの仕事も選択できますが、その場合には、こちらで用意した契約書により、正当な労働の対価をえることが必須です。また、住むところや食べるものについては、ある程度バーミット伯爵が準備しますが、当然、住居費と食費はかかります。」


  「最後は、新しくできるイオーク王国の王都、クリシア市に移住することです。移住するまでの間は、この街で職業訓練を受けて貰います。当然、住まいと食事は準備させていただきます。」


  え、今、『クリシア市』って言いませんでした。いつ、そんな名前を決めたんですか?そう思ったが、そのことをシルフに言うと、超絶長時間、説明が始まってしまうので、黙って聞いている僕だった。


  結局、殆どの者が、第3案、つまりこれから職業訓練を受けながら、新しい国が出来るのを待つことになった。しかし、中には、元の娼婦をそのまま続けたいという者も数十名いた。理由を聞くと、単に、アレが好きだからということだった。ああ、聞かなければ良かった。その者達には、娼館の店主と正式な契約書を結ぶことになる。


  売り上げ、この場合は公定サービス料の7割は、娼婦の取り分とし、客からのチップは全額、娼婦のものとする。また、営業場所及び娼婦の生活場所を提供するが、娼婦から公定価格以上に聴取してはならない。さらに娼婦の着用する衣服は、無償貸与とすることなど、娼館経営において、暴利をむさぼることが出来ない内容になっている。


  商館を営む者は、新たに契約を結ぶか、既契約を更新する場合には、その写しを管轄の警察本部に提出しなければならないことも決めておいた。この条件を聞いて、新都市に移住を希望していた娼婦たちの中に、そのまま今の職業を継続しようかなと言いだす者もいたが、それこそ職業選択の自由で、こちらから何かを言う事はなかった。


  一人の娼婦が質問してきた。


  「あのう、公定サービス料って、幾らなんでしょうか。」


  「公定サービス料とは、行為に応じて決められており、手によるサービスは、大銅貨5枚以上、口及びその他の穴を使ってのサービスは銀貨1枚以上です。この価額は、人種やその女性の美醜、年齢によらず一定であり、勿論、これ以上の対価を求めることは自由です。」


  あ、これで、さらに200人程のイオークが現職業の続行を希望してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ