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第2部第99話 可哀そうな妹 その3

(10月30日です。)

  結局、ラミアは、公正な裁判により、死刑が宣告された。奴隷売買の罪の他に、未成年者猥褻目的略取誘拐、強姦殺人、青少年健全育成法違反それと脱税の罪が有罪とされた。本来なら10回以上死刑になる位の罪だ。それと、使用人たちの中で、奴隷売買や殺人、死体遺棄に加担したものも、犯情により死刑または犯罪奴隷落ちで無期鉱山労働の刑に処せられた。別荘のメイド達も同様だった。女性の鉱山労働は、つらいらしい。重労働で疲れ切った後で、下半身の重労働が待っているらしいのだ。そのため、3年以上生きて働いた者はいないらしい。


  あの年配のメイドは半狂乱になって泣き喚いていたが、猿轡をされて西のロンキー山脈の地下まで連行されていった。ラミアが経営していた両替店やレストランなどすべては国庫に没収となった。ラミアには妻と子供がいたが、僅かな生活用品だけを与えられて屋敷を追い出されてしまった。子供は、既に15歳を過ぎていたが、学校は中退して働かなければ、明日からの住むところも困ってしまうだろう。まあ、本人たちには犯罪前歴はないので、冒険者として町の掃除でもしていれば生きていけるだろう。


  セカンド君の妹のイーちゃんは、『イオン』ちゃんと名付けて、神聖ゴロタ帝国の帝都セント・ゴロタ市にある救護施設に預けられた。その施設は、妻のフミさんが運営しており帝立治癒院の院長であるフランちゃんの治療を受けることになっている。その前に、イオンちゃんの身体の傷、処女膜や傷だらけでボロボロの肛門などを『復元』で元に戻しておいたのは、セカンド君には内緒だった。


  しかし、精神内部までは、僕には治療できないので、そこはフミさんやフランちゃんに任せるしかない。13歳のイオンちゃんは、人間族から見ると8歳位にしか見えない。イオミちゃんよりも年上の筈なのに、身体の大きさなども殆ど変わらなかった。


  イオンちゃん、日常生活もほとんどできなかった。朝、目覚めてもベッドから起き上がってこない。そして、よくオネショをしている。食事も、自分では積極的に食べようとはしない。口元まで持っていってあげると、ほんの少しだけ口を開ける。咀嚼は本能でできるようだが、とても時間が掛かってしまう。


  勿論、自分で服を着ることも出来ない。養護院の職員では、ケアも十分に出来ないので、泊まり込みの専従の世話係を雇う事にした。雇ったのは、30歳過ぎの女性でも、娘も成人して家事も暇になった事から、養護院の職員募集に応募してきたのだ。名前は、テルさんと言うそうだ。


  テルさんは、イオンちゃんを一目見て『まあ、可愛い。』と気に入ったようだ。しかし、フミさんから、今の状況を聞いて、そうなった理由を聞いていた時に、ボロボロ涙を流し始めていた。うん、いい人そうだ。


  しかしイオンちゃんの世話は、可愛いだけでは済まなかった。犬や猫の世話よりも大変だ。朝6時にイオンちゃんを起こし、まずベッドを点検する。オネショをしていたら、シーツとマットを交換しなければならない。着替えも大変だ。黙って立っているだけのイオンちゃんに、パジャマを脱がせ、ワンピース型の服を着せる。ベッドに座らせ、靴下を履かせる。靴もバックルの付いた履きやすいものだが、靴を履く習慣がないのか、とても嫌がるそうだ。


  温かいタオルで顔を拭き、歯ブラシで歯を磨いてあげるが、真磨き粉を飲み込んでしまうので、余り歯磨き粉を付けないで磨いてあげている。シルフが、飲み込んでも害のない歯磨き粉を用意したが、終わった後の口の中をすすぐのが無理なので、タオルで周りを拭いてあげるだけになってしまい。


  トイレも困ってしまう。テルさんがパンツを脱がそうとすると、大きな声で嫌がるのだ。テルさんも首に翻訳機を巻いているので、イオンちゃんが、


  『いや、いや。許して。お願いだから。』


  と泣き叫ぶのだ。下半身を露出することに対してのトラウマが、癒されてなく、恐怖の記憶が蘇るのだろう。平素は何も喋らずに、人形のようなイオンちゃんとは思えない位、泣き叫ぶのだが、テルさんが宥めすかして、なんとかトイレに座らせているそうだ。


  当然に夜になって、お風呂に入れるときも一苦労だった。その時は、イオンちゃんをテルさんが宥めている特に、もう一人の手伝いのメイドさんが身体を洗うのだが、大切な所や肛門周りだけは、テルさんにしか洗わせないそうだ。


  夜、寝る時は、ずっとテルさんの手を握り続けていて、やっと寝たかと思うと、突然、悲鳴をあげて起きてしまうそうだ。シルフが、精神安定剤と睡眠薬を処方しているが、それでも眠りが浅く、少しの物音でも目を覚ましてしまう。


  テルさん、3日でやつれ切ってしまったが、辛抱強くイオンちゃんの世話を続けていた。セカンド君が、涙を流しながらテルさんにお礼を言っていたが、こればかりは兄とはいえ、男のセカンド君では何も出来なかったみたいだ。


  セカンド君は、ゴロタ帝国の行政庁において行政事務の勉強をしている。もともと聡明なイオークなのか、行政手続きのみならず、司法組織や裁判制度、それに治安維持のための警察組織について、一生懸命学んでいた。夜は、グレーテル語の勉強だ。特に、正確な発音と筆記について、専属の家庭教師がマンツーマンで指導に当たっていた。


  セカンド君にとって、ゴロタ帝国の統治機構は驚くことばかりだった。帝国の統治の基本理念は、法治と奉仕だ。法律に基づかない司法・行政行為は無効な行為であり、全ての行為は、法律の裏付けが必要とされている。超法規的行為はゴロタ皇帝のみに許されており、その際にも、国民の権利を侵害した程度に応じ、正当な補償が支払われるのだ。


  イオーク王国には、法律というものが存在していなかった。統治機構もなく、弱い者は、淘汰されるのが普通の世界だった。ただし、仲間内での略奪や身体への攻撃などは、他の仲間から制裁を受けるか、群れから追放されるし、時には、相応の報いを受けてしまう。因果応報、他に危害を加えた者は、相応の罰を受けるのが、イオーク族の絶対的な定めだった。そして、群れの統率は、長老たる長がする事になっており、幾つかの群れの場合には、長同士の互選で大長老が選ばれた。そして大長老達が認めたものが王となるのだが、王が欠けている今、イオーク王国の統治機構は、ほぼ機能していなかった。


  文字文化を持たなかったイオーク族も、最近になってアメリア文字を読み書きできる者が現れてきており、その中でもセカンド君は別格だったらしい。そのため、イオーク君は、23歳というのに、大長の補佐を任せられていたのだ。


  しかし、農耕の習慣のないイオーク族は、しっかりとした生活基盤もなく、国を豊かにすることは至難の業だった。セカンド君は、将来的には、イオーク族が樹上で魔物や獣に怯えながら生活するのではなく、地上でしっかりと自分達が生きて行くための糧を得るようになりたいと考えていた。


  僕は、セカンド君に課題を与えている。国民が飢えることもなく、国が豊かになるためにはどうしたら良いか考えて欲しいと。実は、シルフと相談して、イオーク王国をどうするかは決めていたのだが、あえてセカンド君に考えてもらう事にしたのだ。









  僕は、シェルと共にイオークの森の最北端、ここから北の丘陵地帯を抜けるとバーミット男爵領となる地点に来ている。目的は、ここに街を作るのだ。そして町の周辺の大地を肥沃な畑にするつもりだ。そのためには、森の中をうねうねと曲がりながら東の海まで流れ込んでいるアマゾナ川から運河を引いてこなければならない。


  アマゾナ川は、森の落ち葉などからの成分が混じり黒っぽい水だが、農業用水としては最適らしい。濾過すれば、飲用にも適しているとのことだった。僕は、まず大きな穴を掘った。深さは50m位で周囲は5キロ位の巨大なものだ。掘った土の殆どは固めて、穴の周囲を囲んだが、何箇所かには開けた場所を設けていた。その作業は、半日で終わったが、次は大変だ。アマゾナ川の支流をを作らなければならない。穴の周りの護岸の切れ目から、幅10m、深さ3m位の水路を作っていくが、やはり両側の土手は少し高く固めておく。シルフが時々、上空を見上げているのは、川の位置を確認しているのだろう。


  1日に10キロから20キロ位のペースで南に伸ばして行く。夕方になると、南アメリアの帝城に戻って、皇帝としての執務をこなすと言う忙しい毎日だった。シェルは、作業には加わらず、周囲の魔物を狩って暇潰しをしている。シェルの弓の威力は、最近ますます威力を増していて飛距離と破壊力は弓のレベルではなかった。森の大木の陰に隠れているトロール程度の魔物なら、大木ごと粉砕してしまうのだ。あのうシェルさん、森林破壊は最小限にしましょうね。


  運河の工事と並行して、町となるエリアのインフラ工事が始まった。これは、帝都セント・ゴロタ市にあるバルーンセントラル建設にお願いした。都市計画は、シルフが図面を引き、それに従って地下に上下水道の管路を敷設して行く。大勢の土魔導士が動員されていたが、夕方遅くまでヘトヘトになるまで穴を掘り、穴を埋めていた。最初は、朝、夕に帝都の本社とゲートをつなげていたが、簡易宿泊所を作ったので、週に1度だけ、帰宅する事になったらしい。ゼロから街を作るのは、本当に大変だ。


  西のロンキー山脈には、分水嶺の東側に大きな川の源流が何本かあるが、その中でも最も南側、アマゾネ川の源流を遡って行く。シェルが当てをつけていた通り、両脇が高い山に囲まれた渓谷があった。この渓谷を堰き止めてダムを作るらしいのだ。


  僕は、運河を作る際に余剰に出た土をイフクロークから取り出して、積み上げて行く。基礎ができたところで、鉄骨で骨組みを組んでいく。高さ50m位まで組み上げたところで、今日の作業は終わりだ。


  結局、このダムが完成するのにも10日位かかってしまった。しかし、今は、完全には塞が無い。これから雨季が始まるのだ。誰も管理せずに決壊でもしたら下流は大惨事になってしまう。新しい街が出来上がり、イオーク達が住み始めてから、このダムを完成させることにした。シルフも、発電用のパイプとタービンを作るのは時間がかかると言っていた。

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