第2部第95話 クララちゃんのママは未だ幼いです。
(10月16日です。)
イオーク王国からゴロタ帝国の帝都に戻って、フミさんにクララちゃん達の学校入学手続きをお願いしてから直ぐに帰るつもりだったが、エーデルやジェーン達が帰してくれなかった。それに、国内の行政機構の改革による混乱が至る所に出ており、最終的には僕とシルフで決定しなければならないものが山積していた。
例えば、旧貴族の処遇とか、領地争いの裁定など高度の政治判断が要求される事項だ。僕には難しいことは分からないが、シルフが分かりやすく説明してくれて、対応策を教えてくれるので、僕がそれを承認するかどうかを決めるのだ。
そうこうしている内に、クララちゃんの小学校への転入が決まった。直ぐには、普通学級には入れないので、まずはグレーテル語クラスで予備勉強だ。グレーテル語の発音からお勉強だ。幸いな事に、母親のクリシアさんは、アメリア語は堪能な野田が、グレーテル語は殆ど話せない。でもシルフが両言語とも古代ルーン語を起源としているので、直ぐに話せるようになるだろうと言っていた。イオニ君とイオミちゃんもアメリア語しか話せないので、やはりグレーテル語クラスに編入だ。年齢からすると、イオニ君は小学6年生、イオミちゃんは小学4年生相当なのだが、今まで学校に行った事がないので、二人は、グレーテル語の他に、算数や理科、国語を1年生コースから補修を受ける事になっていた。
白龍城には、クララちゃんと歳の近い子達も多かったので、一緒に遊びながら言葉も直ぐに覚えるだろう。南アメリア統治領にいた時にも、グングン言葉を覚えていたし。
クリシアさんとイオフさんは、アメリア語は普通に話せるが、グレーテル語は勉強してもらわなければ、この国での日常生活に困るだろう。まあ、当分はシルフの作った首輪型翻訳機が手放せないだろう。しかし、この翻訳機にも能力の限界があり、多人数が一度に話している場合、翻訳不能となるのだ。まあ、ターゲットを固定すれば、その人の言葉だけを翻訳するのだが、慣れが必要だ。
次の日、シェルは、皆を連れて、帝都一の百貨店に買い物に行った。一緒にシズとジェーンも随行してくれた。街の人達からはクララちゃんやイオミちゃんを見て、『まあ、可愛い。』と注目の的だった。確かに、初めて見るイオークの子供は、ぬいぐるみを大きくしたようで、とても可愛らしく、今日も、妻達全員が一緒に買い物に行きたがったが、警備が大変になるので、この二人に絞らせてもらったのだ。
この百貨店では、買った物は『白龍城』に届けてもらえるし、支払いも後日の請求なので、買い物の苦労など全くない。欲しい物を選ぶだけだ。シェルに任せるとフロア全部を顔締めかねないので、しっかりした随行が必要なのだ。ジェーンとシズは、そういう面では適任だった。しかし、百貨店では社長や店長は勿論、売り場責任者やデザイナーなどが、シェル達の後をゾロゾロとついて歩くのには参ったらしい。シェルとしては、自由気ままに見て歩きたかったらしいのだ。
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(クリシアさんの独り言です。)
私はクリシア、イオークの王女として生まれたんだけど、今日、ゴロタさんの住むお城に来てみて、国王と言うものの本当の姿を知ったの。不思議な魔法で、一瞬でイオーク国からここまで来たので、ここがどこなのかさっぱり分からないけど、とにかく大きな部屋に転移できたの。見たこともない灯りが天井から下がっているランプに点されているし、このフカフカの床、なんで床にお布団を敷いているのかと思ったんだけど、コレはお布団ではなく絨毯というものらしいの。部屋を出て、また吃驚、端が見えない位長い廊下があって、いっぱいドアが並んでいたの。奥のドアを開けると、私が育った木の上のお城よりも広い部屋だったわ。大きなテーブルがあって、脇には座り後ことの良さげなソファがいくつも置かれていたわ。この部屋は、ゴロタさんの奥様達と食事をする部屋だと言われた。奥様達って、シェルさん以外にも奥様がいるのかしら。
直ぐに、背の高い凄い美人の女性が、小さな女の子を連れてきたの。クララも可愛らしいいけど、その子は、人間の子として特別に可愛らしいみたい。まだヨチヨチ歩きだけど、すぐにクララのところに来てクララをジッと見ていたわ。
何故か分からないけど、この子、普通じゃないみたい。嫌ではないけれど、特別な力を感じてしまったわ。この子は、ゴロタさんの娘さんで『マリア』ちゃんというんだって。お母様は、『クレスタ』さんと言って、大人しい人だった。ゴロタさんも、自分の奥様なのに、何故かよそよそしい感じがしたわ。
マリアちゃん、クララちゃんの手を握ってから、スカートの両橋を摘んで、きちんとお辞儀をしたの。そういえば、クララちゃんには、人間族の女の子の挨拶の仕方を教えていなかった事を思い出した。
「クララちゃん、ご挨拶は。」
クララちゃん、挨拶もしないで私の後ろに隠れてしまったの。なんか恥ずかしかったけど、まあ、しょうがないわね。シェルさんが、私たちの部屋に案内してくれた。上の階の部屋なんだけど、親子二人で暮らすには広すぎるくらい広い部屋だったわ。私の育ったお城は、木の上にあったので、そんなに大きくなく、1階は大きな会議室、2階は食堂と寝室が2つあるだけだった。
この部屋は、あの1階の会議室よりも広いようだわ。それに、トイレとお風呂が付いていて、お風呂にはもうお湯が貼っていたの。シェルさんが、『お風呂にはいってちょうだい。』って言ってくれたの。でも、入り方がよく分からないので、黙って立っていたら、壁についているボタンを押していたわ。直ぐに紺色のワンピースを着て、白いエプロンをしている女の人が来て、私たちをお風呂に入れてくれたわ。身体のあちこちに出来ていた毛玉をきれいにカットしてくれた後、物凄くいい匂いのするシャンプーで全身を洗ってくれたの。前も洗ってくれそうだったので、慌てて自分で洗ったんだけど、自分でも驚く位汚れていたわ。クララちゃんは、毎日、お風呂に入っているみたいで、金色の毛が本当に綺麗。自分で身体が洗えるみたい。偉いわ。
お風呂から上がったら、毛並みを揃えるために、専門の美容師さんが来てくれて、背中から腕、足と余分な毛をカットしてもらったの。美容師さんが、無駄な毛を剃ってしまった方が綺麗になると言ってくれたんだけど、それってとっても恥ずかしいので、お断りしたの。
それから、準備してくれた洋服を着たんだけど、パンツとブラジャーをつけるのが、人間の風習らしいの。パンツはいいんだけど、ブラジャーの付け方が分からなかったわ。まず膨らんでいる方を背中に回して、前で両橋をフォックで止めるの。そうしたらブラジャーをぐるりと回して、膨らんでいる部分をオッパイに合わせて、後は肩紐に腕を通すだけ。手伝ってくれた女の人が、私の胸は綺麗な形をしていると言って褒めてくれたわ。それから、ワンピースを着たんだけど、とっても裾が短いの。さっきパンツを履いた意味が分かったわ。パンツを履いてないと大事な所が見えてしまうもんね。
最後にストッキングを履いて靴を履いたんだけど、ストッキングがピッタリしていたので足の毛がモコモコしてしまうの。足だけでも毛を剃ってもらおうかしら。女の人は、すぐに分かったらしく、もう一度、お風呂に入る事になったわ。私の足の毛は、とっても細くて柔らかいので、剃ってもチクチクなんかしないって言っていたんだけど、こんど『永久脱毛』という物をする事になってしまったの。よく分からないけど、その方がいいんだって。
剃り終わってからのストッキングを履いたんだけど、素肌を晒しているようで、ちょっと恥ずかしかった。でも、『とても綺麗な足ですね。』って言われたので、なんとなく嬉しくなっちゃった。ゴロタさんも気に入ってくれるかな?
あれ?なんで、ゴロタさんのことを思い出したのかしら。
それからは、もう、驚きの連続。このお城の大きさや、働いている人たちの多さもそうなんだけど、ゴロタさんの妻や婚約者さんがとっても多いの。もう、覚えきれない。あと、子供達も結構いて、クララちゃんより少し大きいキティちゃんや、ずっと小さいレオナちゃんやシンシアちゃんそれにリトちゃんなんかもいたんだけど、クララちゃんよりもしっかりしているみたい。クララちゃん、負けないように一生懸命お勉強してね。
食事の時は、皆、テーブルに着くんだけど、紺色の制服を着た人達、この人達ってメイドさんと言うそうなんだけど、その方達が食事のお皿を運んでくれるの。今日は、鹿肉のスモークハムと小エビのリゾットがメインの食事だったんだけど、食べたことのない味がしてとっても美味しかった。
イオークのお城では、木の実と乾燥したお肉がメインの食事だったけど、こっちでは木の実は食べないのかしら。クルミの粉で作ったパンって、結構美味しいんだけど。食事が終ったら、もう何もやることが無いんだけど、シルフさんから、宿題を貰っているの。グレーテル語の文字を書く練習。隣には、アメリア語で意味が書かれているんだけど、私、アメリア語も余り良く読めないので、とっても難しいの。でも、薄い点線をなぞって書くと、文字になって行くので、何とか書くことができたわ。クララちゃんは、なんだか分からないんだけど、色々な形の穴の開いた板に同じ形の木を埋めていくの。結構楽しそうだったわ。
明日は、シェルさんと一緒にお買い物って言っていたけど、人間の世界では物をお金で買えるって聞いたことがあるので、今から楽しみね。あ、眠くなってきちゃった。クララちゃん、もう寝ましょう。




