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第2部第94話 『イオークの王』その5

(10月12日です。)

  奴隷狩りの男たちが、この森の東の端まで着始めたのは、3年前の9月の事だった。厳しい冬が終わり、日差しに温かさを感じ始めたころのことだ。この季節は、樹々の下に生えている植物が芽生え、小さな花を咲かせる時期であり、その柔らかい穂を採集して食料にするために、樹上に潜んでいたイオーク達も木の下に降りてこなければならなかったのである。それを狙って、イオーク狩りの男どもが森にやってきたのだ。


  「ガンス親分、今度の部落には、若くて綺麗なイオークや小さな娘っ子どもがいますかね。」


  「ああ、きっといる筈だ。」


  ガンスと呼ばれた男、今、僕達につかまっている男の事だが。ガンスは、今度こそ、上玉を見つけられるだろうと思っていた。インカン王国バーミット男爵領から南の荒野を過ぎた森には、イオークが住んでいるが、度重なるイオーク狩りでめぼしいイオークがいなくなってしまったのだ。若い女で。人間に近い顔つきのイオークは売春宿に高く売れるし、小さな女の子も同様だ。まあ、小さな女の子は闇ルートで、その手の趣味がある金持ちどもが相場の倍以上の値段で買い取ってくれるのだが。体つきがしっかりしている男イオークは、通常の奴隷として奴隷商が相場で買い取ってくれるが、遠征費と輸送費を考えるとかんがえると赤字になってしまう。


  度重なる奴隷狩りで、この辺のイオークの集落は、ほぼ狩りつくしていたのだ。今回は、この付近はスルーして、すぐに東に向かって行く。昔、イオーク王国という国があった時の王都の後を通り過ぎて、海岸線の近くまで行くつもりだ。1日10時間歩いても片道1か月以上かかるのだが、その苦労に見合った収穫があるだろう。森には道らしい道がないので、馬車や馬は使えない。歩くしかないのだ。


  苦労しながら、仲間たちとその集落についたのは、9月の終わり頃だった。木々が芽吹き、柔らかくて美味しい新芽が地面からニョキニョキ生えている。ガンスたちは、大きな樹の陰にジッと身を潜めて隠れていた。暫くすると、女たちの声が聞こえて来た。イオーク語なので、人間の耳には『グー、グッグ!』としか聞こえないが、声質から明らかに若い女だ。ガンスは、仲間の男達を散会させて待ち伏せすることにした。


  女達の姿が見えた。期待していたとおり、極めて人間に近いイオークオンナと子供達だ。中でも、ひときわ目を引いたのが金色の髪の毛をしたイオークだ。あのイオークなら金貨1枚以上で売れるだろう。傍には小さな娘までいる。ガンスは、固い革製の鞭を持った。女どもを傷物にしてはならない。この鞭なら、傷をつけずに抵抗する意思を奪う事ができる。そっと近づいていき、まず近場の女の首筋を鞭で打ち据えた。意識を失った女が、その場で崩れ落ちていく。まず、一人目だ。このまま奴隷として連れていくかどうかは、後でじっくり吟味することにして、次々と女どもを襲っていく。そして、あの金髪の女の傍まで来たとき、女がなにか訳の分からない液体をガンスに振りかけて来た。目に染みる液体だ。毒ではなさそうだが、視界をうしなってしまった。


  「このアマ!何をしやがる。」


  女は、身を子供を抱え、身をひるがえして逃げ始めた。ガンスは追いかけたが、目が良く見えないので、どんどん距離が離されていく。しかし、この先は大きな川だ。そこから先は逃げられない。何人かの男どもを従えて女の後を追っていく。


  いた、女が川のほとりに立っていた。もう、逃げられない。川の流れは速い。子供を抱いて泳いで渡るなど不可能だ。もう少しで、女を捕まえられる距離まで迫った時、女は川に飛び込んでしまったのだ。


  「チッ!しょうがねえ。一旦、戻るぞ。」


  ガンスは、ヒリヒリしている目をこすりながら、元の場所に戻った。そこには、若い女イオークが4人と幼児イオークが2人いた。男の子と、年寄りイオークは、別の所に固まって座らせている。これから、女イオークの見分だ。一人ずつ、皆の前に立たせる。粗末な服を脱がせると、下着を履いていないイオークは素っ裸だ。茶色のクリクリの毛が身体の前面以外に密集して生えていた。下半身の大事な所には濃い茶色の毛が生えている。まあ、商売の時は剃ってしまうから関係ないが。うん、これなら商品になりそうだ。合格だ。結局、今回の初遠征は、これが成果品になった。年寄りたちは、そのまま開放して、ガンスたちは、北西に向かった。このままバーミット市の闇市場まで連れていくのだ。女どもは、その間、男どもの慰み者になるだろうが、ガンスにはそういう趣味は無かった。やはり人間の女でなければ、ナニが勃たないのだ。


  金色の女が飛び込んだ川を北上していくと、渡河できる浅瀬があった。そこで、逃げられた金色の毛の女の子供を見つけた。母親はいない。女の子供は、しばりつけて、他の子供達と一緒に数珠つなぎにした。子供の足では、森の中を歩くのは辛そうだったが、構わないで歩き続けた。2週間後、やっと森を抜けた。迎えの馬車との待ち合わせ場所まで直ぐだった。これから2週間、奴隷どもを檻の付いた馬車に乗せていく。ガンスたちは徒歩だったが、これ位どうってことはない。この奴隷を売り飛ばすと、金貨10枚にはなるだろう。自分の取り分は、金貨3枚は欲しい所だ。町に着いたら女を買うぞ。体に毛の生えていない人間の女を。


  それから、毎年4回は東の集落まで遠征して奴隷狩りをしていたが、最近は、あまり上物が出なくなっている。このままだとジリ貧だ。それにイオーク狩りも禁止されていて、捕まると死刑になるそうだ。ここら辺が潮時かなと考えていた矢先、上物を捕まえることが出来た。それが3か月前だ。毛色は茶色だが、明らかに美形だし、体形も素晴らしい。人間の女をそのまま縮小したような体つきだ。ガンスは、内心、しめたと思った。女には、兄らしい男がついていたが、ガンスのパンチで吹っ飛んで行ってしまった。女を抱え、そのまま仲間たちと一緒に戻ることにした。この日は、若い女イオークを5人程捕まえることが出来た。


  用意していた袋にしばりつけた女を入れ、肩に担いで森を抜けるのだ。これが一番早かった。イオークに歩かせると、歩行速度が遅いのか時間がかかってしょうがなかった。結局、この若い女イオークは金貨3枚半で売れたが、売る前に十分に味見をしたことは今でもはっきりと覚えていた。処女だったらしく、最初は痛がっていたが、そのうち腰を振るようになった。女なんて、人間もイオークも一緒だ。


  ガンスは、涙を流しながら全てを話した。次長さん、最後の部分を聴いている途中、懐から石のナイフを出してガンスの左胸に突き刺した。ガンスは、一瞬で絶命してしまった。あ、奴隷達をどこに売ったか聞きたかったのに。





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  結局、クララちゃんのパパ、つまり現イオーク王の事は聞けずじまいだった。戦闘で死んでしまったのか、生きてどこかにいるのか不明のままだ。しかし、生きていれば、その噂が聞こえて来てもおかしくないのに、まったく手掛かりが無いと言う事は、望みが無いのかもしれない。


  僕は、クララちゃんのママ、つまり女王陛下に今後の事を尋ねた。クララちゃんのママは、『クリシア』さんと言う名前だそうだ。王室の復興は後で考えるとして、今後の事を考えることにした。


  クリシアさん、僕の方を向いて、真剣な眼差しで話しかけて来た。


  「お願いがあります。クララをゴロタ様のお国で育てて貰えないでしょうか。この子には、十分な教育を与えたかったのですが、こんな状況では満足な教育が出来ません。お願いです。」


  はい、構いません。クリシアさんは、南アメリア統治領イオーク王国の女王陛下として、ゴロタ帝国の賓客として接遇させていただきます。勿論、クララちゃんは王女殿下として一緒です。宮殿を何とかしなければならないけれど、当分の間は、『白龍城』に住んで貰いましょう。イオフさん達は、クリシアさん付きの女官として勤めて貰いたいのですが、いかがでしょう。イオフさんからの条件は、イオニ君とイオミちゃんを人間の学校に行かせて、きちんと学ばせていただけるならどこにでも参りますと言う事だった。うん、これで全てが丸く収まったかな。


  あ、次長さんの妹の件があった。次長さんに、妹を探しに行くけど一緒に行くか聞いたところ、『行きます。』と即答だった。そもそも、次長さん、今、幾つなんですか。聞いたところ、今、23歳だそうだ。それで、この集落の次長をしているのかと驚いたが、この集落で、流暢に人間語を話せるのは、次長さんだけだったらしい。次長さんも、人間語は奴隷として働いているときに主の家令から習ったのだが、もともと優秀なのか、直ぐに覚えてしまったらしいのだ。これからイオーク王国の運営について、誰かにお願いしなければならないが、次長さんをその候補者筆頭にしようと思っている。


  ところで、次長さん、いつまでも次長さんと呼ぶわけにも行かないので、何か名前を付けたいのですが。色々考えていたけど、上手い名前が思いつかないので、取り敢えず『セカンド』君という名前にしておいた。とっても安易な気がするが、まあ、いいでしょう。グレーテル語で二番目と言う意味だ。


  




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  次の日、クリシアさん、クララちゃん、イオフさん、イオニ君、イオミちゃん、それにセカンド君を連れてセント・ゴロタ市の『白龍城』に転移した。皆、始めて見る王城に目を丸くしていたが、クララちゃんとイオミちゃんは『ワーッ!』と言った切り、あとは興味を失ったのか大広間で駆けっこをしている。直ぐに、神聖ゴロタ帝国統括行政庁長官兼宰相のカノッサダレスさんを呼んで、イオーク王国との国交樹立及び統治権を信託する旨の交換文書を作成してクリシアさんに署名、捺印をお願いした。印章を持っていなかったので、取り敢えず24金のインゴットで金印を作って渡しておいた。この金印は、国王の徴なので大事に保管して貰うようにお願いしておく。


  シルフにお願いして、イオーク王国との国交樹立及び信託統治領としての扱いについて全国に告示をお願いした。シルフは、衛星写真から、神聖ゴロタ帝国南アメリア統治領とイオーク王国との国境線を座標軸で示して、明確にした。東西に直線の国境だが、その延長は約1000キロと広大なものだった。


  南アメリア統治領の運営をしながら、イオーク王国の再建をするのは大変だが、優秀なセカンド君がいるのだ。きっと、大丈夫だろう。あ、その前に、セカンド君の妹さんを探さないと。

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