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第2部第92話 『イオークの王』その3

(10月12日です。)

  『肉食い』さんの集落から、大陸の東海岸までは、40分程度のフライトだった。高度12000mを音速の2倍で飛行するのだが、離陸に要する時間と着陸のための減速時間がかかってしまうので、概ね1000キロと言うところだろうか。東海岸は、南の方角には岩礁が見えているが北に向かっては真っ白な砂浜が広がっていた。森は、海岸線から4キロ位の所まで迫っていたが、あとは緑の草原と砂浜で、風光明媚なところだ。別荘地としても最適化もしれない。僕達の搭乗している『F35ライトニングⅢ』は、森が切れる場所の近くの開けた所に着陸した。地上に降り立つと同時に、強いイオーク臭を感じた。どうやら森の中に潜んでいるようだ。気配から数十人はいるようだった。


  クララちゃん、ヘルメットを外して、丸めておいた金色の髪の毛を下ろした。綺麗な金色の長髪が風になびいている。人間から見ても美少女系であることが分かるが、イオーク族の中ではどうなのだろうか。クララちゃん、長袖のフライトジャケットと、フライトズボンを着用していたが、地上では暑いのか直ぐに脱ぎ始めた。ジャケットとズボンの中は何も着ていなかった。金色の短い体毛が身体を覆っているので、恥ずかしくはないが、ジッと見ているわけにも行かない。直ぐに、イフクロークの中からクララちゃんの下着とミニスカワンピを出してあげた。モゾモゾと来ていたが、スカートのホックが上手く嵌められないようなので、切るのを手伝ってあげた。


  『F35』をイフクロークに収納してから、森の方に歩き始める。僕が先頭を歩こうとしたが、クララちゃん、僕の右手をギュッと握り締めているので、二人で横に並んで歩いていく。僕は左利きなので、誰かと手を握って歩くときは、僕の右側を歩かせることにしている。ただし、シェルだけは、その時の気分で決めているので、必ずという訳ではないけれど。


  あ、いけない。そう言えばシェルのことを忘れていた。直ぐにゲートを開けてシェルとイオフさん達を転移させた。森の中に潜んでいるイオーク達にも、その様子を見られていたはずだが、特に隠す必要もないので放っておくことにした。しかし、イオーク達から感じる雰囲気が明らかに変わったのが分かる。『警戒心』から『恐怖心』へとだ。あれ、少しまずかったかな。しかし、警戒されて逃げられるよりも、恐怖で動けない方が都合がいい。それに、直接話す時も、きっと攻撃的にならないはずだ。僕達は、構わず森の中に入って行く。


  100m位進んだところで、森が少し開けている場所に出た。森と言っても、密林ではなく、針葉樹中心で、ところどころに大きな樹が生えているが、下草もそれほど生えていないため、森の中もかなり明かるい。僕は、大きな声で呼びかけた。勿論、イオーク語に翻訳してからだ。


  「こんにちわ。僕は、ゴロタ。怪しい者ではありません。皆さんに聞きたいことがあって来ました。」


  怪しいものではないと言う者が一番怪しいのだが、それは置いとくことにする。僕は、樹の上で息をひそめているイオークに向かって、直接、念話で話しかけた。


  『怖がらないでください。この金色の毛のイオークの女の子について聞きたいのです。』


  木の葉ざわついた。あちらこちらから、イオークの声が聞こえてくる。通常なら『グオ、グオ!』位にしか聞こえないのだが、僕の首の翻訳機は、全てのイオークの声を同時通訳してくれる。さすが並列処理のコンピュータだ。でも、それがどんなものかは知らない。シルフの受け売りだ。


  『あの男は、怖い。逃げよう。』


  『いや、待て。金色のイオークを見なければ。』


  『王は、どこかへ行ってしまった。姫がいなくなって3年だ。』


  『お妃は病気だ。連れて来れない。』


  『長を呼んで来い。そのための長だ。』


  『長は、さっき逃げて行った。暫く帰って来ない。』


  『じゃあ、次長を呼んで来い。』


  暫く待っていると、小柄なイオークが樹の上から降りて来た。見るからに若そうだ。何で、こんなイオークが1人で降りて来たのだろう。


  「こんにちわ、僕はイオーク、この国の次長をしています。」


  「こんにちわ。僕はゴロタ。この金色のイオークはクララちゃん、そしてイオフさんとイオニ君とイオミちゃんです。」


  「クララちゃん?名前があるんですか?それに、そちらの3人にも。」


  「うん、僕が付けた。名前が無いと不便だから。」


  「フーン、そうなんだ。名前を付けて、奴隷になったのですか?」


  「いや、別に奴隷でもなんでもないけど。」


  「普通、イオークは名前を付けられると『隷従』の契約を結ばれてしまい、奴隷になってしまうんですが。」


  へ?『隷従』の契約?うーん、記憶にないな。『隷従』の契約は、一定の条件が必要で、あのトラちゃんとかアオちゃん、それにコマちゃん達とは、圧倒的な力の差を見せつけてから名前を付けたので『隷従』の契約が成立したけど、クララちゃん達には、不便だから付けてしまっただけだし。


  クララちゃんが口を開いた。


  「私のママを知りませんか?金色の毛のイオークです。パパはどこかに行ってしまって、ママに会いたいの。」


  あ、クララちゃん、泣いちゃいけない。涙が止まらなくなっちゃうよ。


  「クララちゃん、君のママかどうかは知らないけど、女王陛下なら僕達の村にいるよ。でも、ずっと病気で起きないんだ。会ってみる?」


  すごい有力情報だ。僕達は、次長君の後をついていく事にした。下草をかき分けながら歩いて行った。暫く歩くと、大きな楡の樹があって、その上の家に、女王陛下と言う人が寝ているそうだ。次長さんは、スルスルと樹の上に登っていったが、さすがにシェルやイオフさんはミニスカートなので、樹の上には登れない。僕は、『浮遊』の術で、クララちゃんと一緒に樹上に上がると、『異次元空間』ゲートを地上と結んであげた。シェル達全員が上がってきたが、シェルは初めて見る樹上の家に興味深げだった。


  樹上の家は、大きな枝の間に梁を渡し、その上に軽い材木や竹を使って組み立てられているが、周囲を動物の皮で囲んでおり、風や冷気が入らないようにしていた。中は、結構広く、部屋の隅には毛皮や藁クズが置かれていたので、そこが寝どこなのだろう。食事をするためのテーブルが中央に置かれていたが、小さな木のブロックを器用に組み合わせて作られていた。床には、細く編んだ草のマットが敷かれていた。炊事は、家の外でするらしく、そのための施設が、この家の更に上に作られているようだった。そうしなければ、炊事の際の煙が、家の中に立ち込めてしまうので困ることになるからだ。


  広間の先には、小さなドアがあって、そこを開けると、薬草の匂いが漂ってきた。あの手で触ると臭くなる草だが、熱さましの効果がある草だ。中に入ると、小さな毛皮にくるまれている女の人が寝ていた。もともと金色の髪の毛だったようだが、今は白っぽい色に変わっている。褐色の肌は血色が悪く、茶色に近い色だった。


  クララちゃんは、その女の人を一目見るなり、駆け寄って抱きついた。


  「ママ、ママ。クだよ。ねえ、ママ。起きて。クが、帰ってきたよ。」


  クララちゃん、母親の細い首筋に両手を回し、頬に顔を押し付けて泣いているが、母親は目を覚ますことはなかった。


  次長さんに事情を聞くと、3年前、奴隷狩りから逃れるために、女王陛下は王女様を連れて、この村まで逃げようとしたが、途中、王女様と離れ離れになってしまい、それ以来、ずっと森の中を探し続けていたそうだ。皆は、もう奴隷狩りの連中に連れ去られているだろうが、きっといつか再会できるからと言って、なぐさめていたのだが、女王陛下は諦めることなかった。1週間ほど前に、森の中で魔物に遭遇してしまい、必死に逃げて来たのだが、そのとき魔物の毒にやられてしまい、依頼、ずっと昏睡状態だそうだ。


  僕は、女王陛下の手を静かに取って、『気』を流し込んだ。『気』は、女王陛下の体内を駆け巡り、様々な情報をもたらしてくれた。女王陛下は、魔物の持つ『瘴気』、いわゆる『魔障』にやられたらしい。通常の薬草では、症状を和らげることが出来たとしても、根治することは出来ない。まして、その辺に生えている匂いの強い薬草など、解熱・解毒の効果はあっても『魔障』を取り除く効果は全くない。しかも、女王陛下は『魔障』のダメージを受けてから1週間以上経過している。臓器や脳にどのような影響が出ているかも分からないのだ。


  僕は、そのまま女王陛下の体内に『聖なる力』を巡らせた。体内に残って悪さをしている『魔障』を取り除くのだ。固着してしまった『魔障』はなかなか取り除けなかったが、30分位かけて何とか取り除くことが出来た。こんなに頑固な『魔障』を患って、よく今まで生きていたものだ。次に、僕は、次長さんから小さな小皿を借りて、テーブルの上に置いた。イフクロークから薬草を取り出して並べる。


   『蛍の光の花』

   『鬼八つ手の葉』

   『癒やし草』

   『銀アロエの葉』

   『赤ドクダミの実』

   『長命草』


  乾燥した物もあれば、採れたての新鮮なものもある。用途によって、さまざまだ。全てを皿の上ですりつぶし、僕の『錬成』の力を流し込む。皿が紫色に光り始めた。光が強くなる。紫色が白く変化し始めたころ、『錬成』が終了した。皿の中に、ドロッとした緑色の液体が溜まっている。出来上がりだ。


  僕は、その液体を女王陛下の口元に流し込む。自分で飲み込むことが出来ないようなので、『念動力』を使って、そのまま胃の中に移動させた。久しぶりの流動物を得た彼女の胃は、弱いながらもかすかに蠕動運動を始めている。今度は、『治癒』の力を流し込み始めた。彼女の肌に血色が戻ってきているようだ。それから30分、漸く、彼女の臓器が正常に動き始めた。さらにどす黒い茶色だった顔色も薄い褐色の健康そうな色に戻って行った。驚いたことに、彼女の髪の毛の色も、眩しいばかりのプラチナ・ゴールドに変わって行った。


  彼女が、パチリと目をさましたのは、それから間もない時だった。


  

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