第52話 ジェイク村は大変です。
死の匂いがする村、ゴロタはどんな無双を見せてくれるのでしょうか
(5月17日です。)
ジェイク村は、死の村だった。
至る所に死体が散乱している。ほとんどの死体は、お腹が食い散らかされており、左胸に大きな穴が開いている。おそらく、心臓を生きたまま取り出されてしまったのだろう。
死体は、殆どが男性か老人で、40代以下の女性の死体と15歳以下の子供の死体は見つからなかった。騎士さん達の中には、死体の惨状を見て、嘔吐する人もいた。シェルさん達も、こんな死体を見るのは初めてだが、死と隣り合わせの冒険をしているせいか、結構平気そうだった。でもノエルは、顔が青ざめていた。
先ほどから低級なガーゴイルが散発的に襲ってくる。彼らは、殆ど蝙蝠とサルの混じった感じであるが、額から生えている角2本が禍々しさを放っていた。そのガーゴイルは、クレスタさんのアイス・ランスか、シェルさんの3本の弓矢で瞬殺されている。その後、イフちゃんが灰も残らぬ程に焼き尽くしている。
村の中央にある教会まで来た。そこから、禍々しい気が発せられている。
僕達が、中に入ると、レッサー・デーモンが女の子のハラワタを食べている最中だった。赤黒い皮膚と大きく裂けた口、大きさは2mほどだが、背中の黒い羽がパタパタと瞬いている。頭のてっぺんに大きなコブがあり、そこから三角錐のような角が生えている。下半身の中心にある生殖器がグルグルと渦を巻いているのが異様だった。レッサー・デーモンは僕達に気が付いて、振り向いた瞬間、僕の『斬撃』が、レッサー・デーモンの首と胴体を切り離していた。
僕達は、村の中に残っているガーゴイルを殲滅したが、生存者はいなかった。僕は、騎士さん達がいるのも構わずに、イフちゃんに周辺を探索するように頼んだ。
一瞬で、消えたイフちゃん、しかし騎士さん達は、何も言わない。いや、言えなかった。あまりにもレベルが違い過ぎる。ガーゴイル1匹なら騎士5人で、レッサー・デーモンは、騎士10人以上で対処しないと全滅するおそれのある魔物だ。それを次から次へと瞬殺していく僕達。畏怖の念を持って見るしかない騎士さん達だった。
しばらくして、イフちゃんが帰って来た。生存者はいるらしい。200名位で、森の中に生じた、瘴気の穴の中に閉じ込められているそうだ。
ボスは、オーガ・デーモン。上級デーモンだ。食人鬼のオーガが、デーモンに憑依され自我を持っている魔物だ。魔法も使えれば、戦闘力も高い。
都市で暴れられたら、壊滅しかねない都市災害級の魔物だ。過去に聖職者数十名以上の大規模魔法により、威力を減じたことはあったが、討伐した記録はない。
今から30年前に、1匹のオーガ・デーモンが現れ、1つの町と2つの村が死に絶えた。多くの聖職者の犠牲を出して、ようやく追い払うことが出来たが、今回のはそれと同じかどうかは分からない。
僕達は、森に向かった。騎士さん達は、応援を貰ってから立ち向かおうと言っていたが、それでは村人さん達は助からない。今、助けに行かなければ手遅れになってしまう。
森の中には、おびただしい数のレッサー・デーモンと1匹のオーガ・デーモンがいた。僕達を見つけると、レッサー・デーモン達が襲ってきた。村人達は、ここにはいない。魔物達の陰になっているが、瘴気で作られた結界の中にいるようだ。あそこに見える黒い穴は、その中へ入るための出入り口のような物らしい。僕は、そのことを確認すると、ベルの剣を上に向けて、気をためていく。剣が白く光り始めた。
僕は、『斬撃』を横方向に薙ぎ払うように飛ばした。
ジュバババババーーーーーン!
白い斬撃が、扇状に広がる。後に残ったのは、上下に分断されたレッサー・デーモンの死体だけだった。
オーガ・デーモンは、さすがに『斬撃』を食らう前に高い梢の上に飛びのいていた。速さと運動力、人間では、けっして到達することができない領域であった。
僕は、構うことなく『瞬動』を繰り返し、100mを一気に飛び越して近づいた。
思いっきり地面を蹴る。オーガ・デーモンの真正面まで飛び上がると、ベルの剣を振り下ろした。
ガキン!
オーガ・デーモンのシールドに跳ね返される。構わず、2の太刀で胴体を横払いする。しかし、シールドに邪魔をされて届かない。
通常、シールドは、聖魔法の守護神の力を借りる。しかし、デーモンが聖魔法を使うわけない。そうすると、闇の力、瘴気のシールドの可能性が高い。僕は、『気』ではなく、『聖なる力』を剣に流し込む。剣が白く輝くが、先ほどの『気』を込めたときの白とはちがい、光り輝く白だった。
良し、もういいだろう。僕は、もう一度、地面を蹴った。オーガ・デーモンの頭上から落下しながら『ベルの剣』を切り下ろす。オーガ・デーモンが、頭から胴体まで縦一文字に真っ二つになった。
しかし、ジョワジョワと、何か気持ちの悪いものが左右の切り口から、出て来て絡みあい、元の身体に戻った。
『キカナイ』
え、喋った。片言だが、念話で喋ってきた。なんだって、『効かない』だあ。上等だ、これならどうだ。
有り余る魔力を『聖なる力』として、剣に流し込む。うん、この感じだったら、無尽蔵に出来そうだな。
それって、かなりチートなんですが。
もう、『斬撃』を飛ばしたりする小細工は一切やめた。魔力のみを最大限に流し続けながら、切り続ける。さっきは、縦に真っ二つだったが、今度は、横に薙ぎ払う。次に、首を落とす。次に、胴体を左右に切り分ける。腕を間接ごとに切断する。足を、踝あたりで切断し、その後太腿を切り分ける。続いて、くっ付きそうな首を切断する。ピョンピョン跳ねながら、切る、切る、切る。
それでも、魔力は迸る位に潤沢だ。段々、細切れに近くなってきた。面倒臭くなってきたので、包丁でネギを刻むように、トントントンと切り始める。シェルさん達が、ジト目で僕を見ている。なんてチートな奴めと思いながら。
騎士さん達は、目の前の光景が信じられない。10歳位の坊やが、オーガ・デーモンを痛ぶっている。楽し気に切り刻んでいる。なんだ、これは。あのオーガ・デーモンだぞ。
ガキン、固いものが割れた。魔石であった。
戦いは終わった。イフちゃんが瘴気のトンネルを広げてやって、生き残った村人達を救いだす。生き残っている人たちは、200人位だった。女の人と子供だけだった。僕は、『聖なる力』で、瘴気を消滅させてやった。
ジェイク村は、3000人近い人が暮らしている村だった。それが、わずか200名、ジェノサイドである。しかし、このままにしておくわけには行かない。
残った人たちの中の遺体を確認したい人達だけで、村に入って貰った。あまりにも酷い惨状に、彼女達は泣きながら、村を出てきた。遺体確認は無理だったようだ。
騎士さん達と、火葬にするか土葬にするかを相談した。騎士さん達は、土葬にしてくれとの事だった。
僕は、イフちゃんと一緒に村に入り、見つけた死体を片っ端から、イフちゃんの空間に収納して歩いた。村中くまなく調べていたら、夜中になってしまった。もう、どこにも遺体は無かった。
そのころ、クレスタさんと騎士さん達で大きな穴をあけていた。と言っても、殆どは、クレスタさんの土魔法により、穴をあけていたのだが。長さ100m、幅3m、深さ10mの穴があけられた。
その穴の中に入って、イフちゃんが次々と遺体を並べていく。端から端まで並べると、クレスタさんが軽く土を掛けていく。そのようにして、折り重ねて3000人近い遺体を並べた。最後に、クレスタさんが土を盛り上げて行き、墳墓のように塚を作った。
その間、生き残った村人と、シェルさん達で、教会や、道路など公共的な場所に流れていた血を洗い流していた。エーデル姫のファイヤで乾燥させ、洗濯石で綺麗にする。皆、一言も口を利かずに作業をしていた。夕食は、誰も食べていない。本当は、お腹がすいているはずだった。しかし、不思議なことに空腹を覚えなかった。
すべての作業を終えたのは、東の空が白じんで来る頃だった。その時、皆が大事なことを思い出した。
「あ、いけない。駅馬車。」
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騎士さん達と、駅馬車のところまで戻ると、御者さんと他のお客さんが、車中泊をしていた。大したものも食べていなさそうだった。夜中に何が襲ってくるか分からないのに、外で食事などしていられなかったのだろう。
僕は、皆が見ていても構わず、キャンプセットを出して、皆の分の食事を作ることにした。新鮮な鹿肉と玉ねぎ、にんじん、ジャガイモを一緒に煮こんだスープと、柔らかいパンを少し温めて、ガーリックバターを塗ったものだ。鍋3つを使ったスープは好評だった。パンは、お代わりを作るのに大変だった。
騎士さん達も、休まないと、これから進むのも大変なので、この場所で、もう1泊することになった。あの村に泊まる気がしなかったのである。それに、旅館の中も、ひどい惨状だったので、満足な宿泊施設もないと思われた。
ひと寝してから、村の方に行ってみると、あの塚の前にほとんどの村人が集まって、泣き暮れていた。僕達は、何も言わずに、近くから摘んできた野の花を手向けた。村の中にある、食料品店から、必要な食材を買おうとしたが、店員が誰もいなかった。仕方がないので、必要な品物を選び、相当する銀貨を数枚置いて行った。貰う人がいるのだろうか。
騎士さんの話では、これから領都に入るが、この状況を報告し、必要な支援をするとの事。生活の糧を失ってしまった女性は、子供と一緒に救護院に、孤児になった子は孤児院に入ってもらう。それから、近隣の市町村に触れを出し、必要な開拓団を編成して入植してもらう予定だという。
僕には、よく分からなかったが、あの泣き崩れている女性を見ていると、生きていて貰いたいと思うのであった。
翌日、ジェイク村の近くを出発した駅馬車は、野営を2回して、漸くダンベル辺境伯領都サン・ダンベル市に到着した。
ゴロタは、魔物をやっつければ良いと言うわけでは有りません。その陰で、多くの悲しみがあります。ゴロタよ。泣くな。頑張れ。




