表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
534/753

第2部第85話 南アメリア統治領の経営が始まりました。

(9月10日です。)

  今日は、首都にある各官公庁に勤務している事務官達の資格認定試験の日だ。この国には、貴族たちの子女が学ぶ学校が王都にあったが、全員が通うわけではなく、家庭教師から読み書きを習ったり、地元の教会のシスターから学んだりしている者がほとんどだ。領地を持っている貴族は、そのまま領地に留まって父親の領地経営を手伝うのだが、領地を持たない貴族は、殆どが王都の行政官として勤務している。採用試験などはなく、父親の就いている職種をそのまま引き継ぐものが殆どだ。専門的な知識は、就職してから獲得すれば良いという考えだ。さすがに読み書きができない貴族はいないが、資質や適性については考慮せずにそのまま見習いとして採用になるのが通例だった。


  採用年齢は15歳から30歳までが基準だが、殆どの者は15歳になった春に入庁している。ゴロタ帝国本国では、学制がしっかりしていることから、上級官僚は全て大学卒業程度の学力を要求される。各省庁ともに、毎年20人を募集しているが、今年の採用競争率は50倍以上だったと聞いている。


  今日の試験問題は、シルフが作成して印刷したものだ。印刷は、油をしみこませた紙に文字を傷つけて、インクをしみこませて転写するのだが、1時間に2000枚程度は印刷できるようだ。試験問題は、一律ではなく、食急に応じて難易度を変えているようだ。年功序列で昇進するとともに、職種の変更は原則ないので、一般常識が欠けている職員が多いようだ。部長級の問題は、シルフの予想では平均3割は取れないだろうと言っていた。まあ、学力だけで免職してしまったら、官公庁の事務が滞ってしまう事になってしまうので、平均点よりも少し低いラインを合格ラインとしているとのことだった。


  重要なのは、部長級以上の幹部職員だ。全員、面接をすることにした

が、面接官はシルフが行うことになっている。僕は、衝立の陰に座って、応答状況を確認することになっているが、本当の目的は嘘偽りのない言葉を聞きたいためだ。ほんの少しだけ『威嚇』スキルを使って、綺麗ごとや嘘を付けないようにするのだ。


  「あなたのお名前と役職をお願いします。」


  「ブライトン・レオナードです。子爵に叙せられ徴税庁の年貢徴収部長をしております。」


  「あなたの家には奴隷はおりますか?」


  「は、ど、奴隷ですか?3、いやおりま、いや3人おります。」


  「3人の性別と年齢それと種族名を教えてください。」


  「はあ、そ、それは、あ、あの・・・。人間族の女で12歳が一人、猫人族の女で・・・・9歳です。最後は、イオークの女で歳は知りません。」


  「その子達は、どんな仕事をしているのですか?」


  「か、家事手伝いと・・・・。よ、夜の相手です。」


  「それは違法なのではないですか。」


  「いや、皆がやって・・・。はい、違法です。」


  この部長は、面接終了後、荷物をまとめて退官してしまった。このようにして、その人物の性癖や資質を中心に面接を行ったが、10省庁77部の部長以上を面接するのに、10日以上かかってしまった。結局、16人の部長が即日免職となってしまった。この噂は、全省庁に知れ渡り、自ら退職願を出す者もいたが、内容を吟味して退職を認めることにしている。あまり、大量に退職されても行政が立ち行かなくなるためだ。


  資格認定試験が一通り終わった段階で、現長官9人と宰相代理を合わせた10人と、その省庁の次席を皇居の大会議室に集めた。集まったのは、衛士隊本部と国防軍本部を除いた


    宰相府(総務省)、法務庁、徴税庁、商業庁、貴族庁、奴隷庁、農産物管理庁、王室調達庁、王室管理庁、式典部


  以上の長官10人だが、全て伯爵以上の上級貴族だった。どう考えてもいらない省庁があるだけでなく、教育や福祉と言った面の省庁がないし、運輸・交通も無ければ最重要な外交関係の専門省庁がない。はっきり言って、どこか田舎の貴族領の領内運営を基準に大規模にしているだけのような気がする。このままでは、国内の運営が上手く行くわけがない。


  ゴロタ帝国本国のように、総務省、財務省、国土交通省、厚生労働省、法務省、外務省、経済産業省、文部科学省、農業水産省、国防省の10省に大再編をすることにした。本日、旧長官をそれぞれ各省の大臣に任命した。次席の方々は実務面の最高責任者ということで、『事務次官』という役職を創設した。この役職は、能力さえあれば、平民も亜人も就任する事が出来ることにした。将来的には、上級公務員採用試験に合格した者の中から先行するが、きっと数十年先になるだろう。


  後、国防大臣は国防軍の出身者で、かつ過去3年以内に軍に在籍していなかった者を当てることにした。どの国でも、軍の暴走により起きる戦争に頭を悩ませているのだが、少しだけ距離を置くことにした。


  公務員及び国防軍幹部は、グレーテル語を習得してもらう事にした。最終的には、本国との人事交流も考慮している。これから解説する小学校や中学校では、外国語科目を必修とすることにしている。この大陸の言語は、古代ルーン語に近く、天井界の神々の言葉とよく似ている。グレーテル語も言語のルーツは同じだが、文法や発音が大きく異なり、完全に理解できるのには、3年程度はかかりそうだと言っていた。


  それから、交通路の確保も大切だ。ここ南アメリア市と、旧サウス・インカン市、今は『南アメリア市』改めて『ニュー・パウロマ市』との間に鉄道を敷く予定だ。そのためには、線路の材料の鉄を生産する製鉄所が必要だ。


  また、密林を切り開くための優秀な魔導士が必要だ。樹木を切り倒す風魔導士と、路面を平らにする土魔導師だ。この国の魔導士は、先頭戦闘に特化した魔導士のみが王国魔導士団で出世し、生活魔法や建設・土木魔法使い達は冷遇されているそうだ。特に土木魔法は、安いイオーク奴隷を酷使して工事を進めている土木業者からの発注が皆無のため、街で出た生活ゴミを土に戻す位しか役に立たないらしいのだ。


  僕は、国民すべての台帳登録をお願いした。そして、その台帳には種族、異種族同士の子には、主たる種族と従たる種族を銘記するのだ。勿論、生年月日や出生地、両親の名前なども必須登録項目だ。そして、使用できる魔法や魔力量それと魔法レベルも必須項目にした。これで埋もれている魔導士が判明するだろう。


  しかし、ゴロタ帝国本国から支援したとしても、この国がゴロタ帝国並みの豊かで便利な国になるのは、だいぶ先になるだろう。しかし、この南アメリア大陸では、叛乱勢力はないことから、国内の再建はスムーズに行く事だろう。そう言えば、ミリアさんは、バーミット男爵領への帰還を希望していたようだけどどうするんだろう。僕は、貴族制度そのものには反対はしていない。長年、貴族として生活してきた伝統と格式、それは国の成り立ちから連綿と続くものであり、一概に『悪弊』と断じてはいけない気がした。ただ、あまりにも強大な権力を持たせてしまった場合、つい自分が特別の存在と言う誤解をしてしまい、領民、国民の困窮など平気で無視できるようになってしまう。いわゆる統治者たる貴族たちを律する者や仕組みがないのだ。


  この国は、現在の貴族領全てを一旦、国に返還させ統治機関は国に一元化することにした。いわゆる『中央集権制度』だ。そして、旧貴族領は、その広さに応じて『州』や『県』という単位に分類する。州の統治官は、『知事』と呼称し、『県』の統治官は『県令』と呼称される。『知事』も『県令』もすべて同じ権限を持ち、それ以上の権限は持たせない。その権限とは、憲法や法令に違反しない限度で『条例』を制定する権利や、領内の治安を守るための『警察官』を任命する権限だ。地方税も法律の範囲内で徴収することができるが、勿論、徴収しない権利も持っている。まあ、その権利は絶対に発動されないだろうけど。


  徴税官は、国家公務員として採用され、5年以上同一の地方に勤務できない仕組みを作った。そして、税務監察官制度を設け、法律以上の税率を徴したり、税収を誤魔化して私物化する者を断罪するための監察を行わせるのだ。この国の産業は脆弱で、農産物の収穫も最近の連作により大分落ちているそうだ。国民が食べていくだけでもやっとなのに、遠く離れた王都の隆盛のために重い年貢を納めたり、税金を支払う余裕などある訳がないのだ。国民の生活が安定するまで、国税・地方税共に免除をする予定だ。今後、2年間程度は、国の収入はゼロとなる可能性がある。


  各大臣や事務次官は、呆れた顔で僕を見ている。一人の事務次官が、僕に質問した。


  「あのう、それでは私達の収入はどうなるのでしょうか。それに学校や診療所を建設するにしても絶対に費用が必要なのですが・・・」


  シルフが試算していた。この国の人口は、約700万人、それにイオーク族が300万人だそうだ。国家財政は、破綻しているとはいえ、毎年、大金貨7000枚の収入があるそうだ。それを貴族たちと王家で費消しているのだが、シルフが生産力倍増計画を提唱した。まず、ゴロタ帝国では、ある秘密があって、毎年、豊作が続く。小麦なら、1000平方メートルあたり、60キロ入りの大袋で8袋は収穫できるが、最近は日照りや大風の影響で5袋、つまり300キロ程度しか収穫できないそうだ。しかし、ゴロタ帝国になったからには、豊穣の神と僕との約束で、豊作が約束されている。現に、ゴロタ帝国では、毎年、1000平方メートルあたり大袋13袋は収穫できる。例年の1.5倍以上だ。それに、これから鉱山開発をするつもりだ。この国に最も足りないのは鉱工業だ。西に連なる山脈、あの山脈には、きっと優良な鉱山がある事だろう。シルフが宇宙からの衛星写真を分析して有力な場所を幾つかピックアップしていた。


  鉱山労働者は、獣人の馬人や牛人それにイオーク達に頑張って貰おう。勿論、『危険、汚い、きつい』仕事になるだろうから、それに見合った以上の報酬を支払うのだ。この国の鉱山開発はどうなっているか聞くと、王都に大きな店を構えている『ガストン商会』というい店が専属的にしているそうだ。専属と言うことは、他の商人が手を出せないと言う事だろう。それでは、鉱山経営が専横化しやすいし、腐敗も生まれるはずだ。僕は、王都内の商人それも年間売り上げが大金貨1000枚以上の商人を集めることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ