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第2部第83話 殲滅戦線その6

(8月23日です。)

  アンドロイド兵50体がすべて『B2』の機内に収容した。両翼の先端と胴体の先端、中央、後部に設置されている『飛行石』に魔石貯蔵タンク内から魔力が流される。フワリと高度10mほどに浮かび上がってから、メインジェットエンジンが轟音を奏で始める。あっという間に時速200キロ以上の速度に達してから急上昇を始めた。高度1000mで、爆弾倉の格納扉を開く。900キロ爆弾16発全てを敵部隊駐屯場所に投下する。被害がどの程度か分からないが、どのみち、後ほど報復に来るつもりのシルフは、何も考えずに南アメリア市に向かって帰還していた。


  シルフは王城の中庭に『B2』を着陸させると、直ぐに僕とシェルのいる部屋にやってきた。ビンセント君が魔法攻撃を受けて大火傷を負ってしまったことを話してから、ビンセント君を『異次元空間』から出してきた。酷い。『ファイアボール』の直撃を受けたのだ。通常だったら即死だったろう。幸いなことに、シルフが咄嗟に引き下げたので、皮膚の火傷だけで済んだが、ほぼ全身が火傷だ。このまま放置していたら、絶対に死んでいた。幸いなことに『異次元空間』は時間の狭間でもあり、全ての物が時間経過ゼロとなってしまう空間だ。勿論、大火傷を負ったビンセント君の命の灯が消えるのも止まっていた。


  いま、『異次元空間』から引き出したビンセント君は、死へのタイマーが動き始めている。僕は、直ぐにビンセント君の肺に新鮮な空気を『念動』で送り込むと同時に、弱くなっている心臓の動きを強制的に動かし始めた。その間、シェルがビンセント君の胸に手を当てて『治癒』の力を流し始めた。シェルの身体が白く光り、緑と紫のパートカラーの髪の毛が逆立っている。手のひらから溢れている白い光がビンセント君の身体を包み始めた。手のひらの周辺の皮膚が赤黒い色から肌色になってきた。徐々に肌色の部分が広がって行く。


  ビンセント君の皮膚が元の浅黒く健康的な肌になるのに3時間以上かかってしまった。また目と呼吸器の修復には、シェルの『治癒』スキルではダメで、僕の『復元』スキルで何とかもとに戻すことが出来た。シルフが仮死状態のビンセント君を『異次元空間』に放り込んでくれたおかげだ。シルフ、グッジョブ!


  シルフは、一人で中庭に出ていくと、そのまま『B2』爆撃機に搭乗した。既にアンドロイド兵は機から降りていた。『B2』のエンジンが点火された。操縦はシルフだ。アンドロイド操縦士はコ・パイロットだ。機体はそのまま上昇を続けると、上空に『異次元空間』のポケットが大きく口を開けている。『B2』はそのままポケットの中に入って行った。


  3時間後、先ほどの爆撃で壊滅的な打撃を受けた反乱軍は、死傷者の救護や陣形の立て直しでテンヤワンヤしていたが、突然、はるか上空に円形の光が現れた。ある一人の兵士が気が付いて、大声で皆に伝えた。皆も、上空を見上げた。白い光の中から小さな十字型の機体の『F35』1機と、それよりもはるかに大きく黒い三角形の機体の『B2』爆撃機が現れた。それも12機だ。『B2』は、機体下部の爆弾倉を開くと次々と900キロ爆弾とナパーム弾を投下していく。もう地上は、爆発の煙とナフサを原料としている特殊焼夷薬の炎で、さながら地獄絵図のごとくだった。魔導騎士たちのシールドは全く役に立たなかった。


  隊列から離れた『F35』1機には、シルフが搭乗していた。西の方角に向かって飛行していると、地上では西のビンセント公爵領に向かっている騎馬が12騎見えている。『F35』は、翼下に搭載している地対空誘導ミサイル『AGM-84H SLAM-ER』をハンガーからリリースした。直ぐに翼を広げたSLAMは、まっすぐに地上の騎馬に向かって行く。異変に気付いた騎馬たちが散会しようとしていたが、もう遅い。広範囲の爆風が騎馬たちを襲って完全に殲滅されてしまった。勿論、先頭の騎馬に乗っていたサビエル公爵も僅かな部分を残すだけとなってしまった。


  空爆を終えた『B2』爆撃機群は、そのまま、西に向かっている。西には、ザビエル公爵の領都、ウエスト・インカン市があるが、爆撃は行わず、その上空を通過するだけだった。これから、西方12000キロかなたにあるゴロタ帝国まで無給油で飛行していくのだ。爆弾倉は空になっているし、飛行石により、浮力の補助を受けているので可能となる航続距離だった。


  空爆の煙は上空1万mまで上がり、偏西風に流されて南アメリア市まで樹木が燃える匂いと硝煙の匂いが漂ってきた。『F35』で帰還したシルフは、何事も無かったような顔で、いつものように宰相代行に行政文書の整理や法整備に関する指示を出していた。僕は、シルフが何をやってきたのか薄々気が付いていたが、シルフがやらなくても僕がきっと仕返しをしただろうから、特に意見等も無かった。ベンジャミン総司令官が、叛乱軍討伐のための部隊編成案を持ってきたが、当然、却下だ。すべての兵士に対して、これから1か月間の休暇を与えることにした。勿論、有給だ。隊本部や王城の警備はアンドロイド兵にやらせるので、ベンジャミン総司令官以下、好きにして貰うことにした。


  ベンジャミン総司令官が、『そんなに休んでいたら、北の国境線を超えて、中央アメリア王国が再び攻めてくるのでは。』と心配していたが、それこそ望むところだ。今度、国境を越えて攻め込んできたら、中央アメリア王国への空爆を実施するつもりだ。シルフが、長距離弾道ミサイルを製作中と言っていたが、それがどんな武器なのかは分からない。ただ、遠い敵を殲滅することができる武器だとのことだった。ゴロタ帝国の皇居『白龍城』の屋上に設置してある攻撃兵器を大型化したものらしい。


  しかし、この心配は杞憂に終わった。後で聞いたのだが、反乱軍が壊滅した状況は、中央アメリア王国のスパイが逐一、本国に報告していたらしいのだ。王国では、早期に和平協定と相互不可侵条約を締結することに決したらしいのだ。まあ、調印式は2ヶ月以上先になるだろうが。


  インカン王国には、公爵家が4つあり、そのうちザビエル公爵家は改易となった。家族や一族は西海岸に面した領地に移封されたが、高さ3000m級の山々が連なるラッキー山脈の向こう側になり、長い冬場は、交易もできない寂れた領地だが、無領地にならなかっただけマシだろう。








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  こうして反乱は収束した。今回の反乱鎮圧に関し、僕は全く力を使わなかった。いや、ビンセント君の火傷の治療に少しだけ力を使ったが、後はシルフ一人が頑張っただけだ。今までの戦争は、兵士の数と魔法力の大きさだけで雌雄が決せられていたが、今回、兵器の総合力の差に勝敗が決まってしまった。


  これからのことは、誰かに任せることにしよう。基本的なところは、シルフが決めてくれるが、そこから先は、この国の行政官達に頑張って貰いたい。




  9月になって、シルフが、行政各部の責任者を集めた。皆、伯爵以上の上級貴族ばかりだった。公爵は、南部を除く各方面の統治官に任じられていて、行政庁の各長官とは別格だった。各長官は、自分の領地経営と行政庁の運営の二足の草鞋を履いていたが、優秀なスタッフがいるので、それなりの実績をあげているようだった。


  シルフは、集まった各長官に対し、省庁再編を申し渡した。まず、すべての行政部門を管理する統括行政庁を設ける。その下に、各行政事務を取り扱う庁を設置することになる。今までは、伯爵以上の高位貴族が各長官を務めていたが、今後は行政機関の長から退いて貰う。今後行われる各省庁に対するヒヤリングにより、専門的な知識を有し、かつ人間的にも問題が無ければ、各省を統括管理する政務大臣に就任して貰うが、そうでなければ退官していただき、領地に帰るか、首都である南アメリア市で他の仕事を見つけて貰うことになる。


  今年の12月に、公務員認定試験を行う予定だ。公務員は、初級職から上級職まで3階層に分かれていて、初級職は簡単な試験と適性検査の結果で合格とする予定だ。中級職はゴロタ帝国本国の大学卒業程度の学力と、公務員としての専門的な知識及び適性検査の結果で任用となる。上級職は、各省庁の部長以上に職に就くための資格で、中級職合格者の中からトップ20の者が、今後の行政の在り方についての提言をして貰って認定する予定だそうだ。既に、試験問題は出来上がっているが、この国の公務員全員が一度に受けたのでは行政事務が滞ってしまうので、何回かに分けて行う予定だ。


  一般事務官の他に専門職制度を設けて、事務は苦手だが仕事はピカイチという職人肌の職員は、そのまま任用する予定だ。特に、教育機関及び医療機関の専門職は今でも人手不足なので、広く募集していかなければならない。この国の脆弱な教育制度と医療制度を抜本的に見直し、ゴロタ帝国本国並みの制度を設ける予定だ。本当は、フランちゃんとフミさんに応援に来て貰いたいのだが、本国だってこれからどんどん施設が増えてくるので、それだけで手いっぱいだろう。


  のんびり冒険の旅をするつもりだったのに、なんでこんなことになってしまったのだろうか。でも、ここで手を引くわけにはいかない。まったく新しい国づくりをしていかなければならないけれど、この国の人々が不幸にならないための基盤を作ると言う事は、絶対に避けては通れないだろう。


  冒険の旅ではないけれど、首都が落ち着いたら各地方都市を巡回して歩く必要がある。この国の広さはゴロタ帝国の本州とフェニック州を合わせた位の広さだそうだ。半分以上は熱帯のジャングルだが、苦労して切り開いて農地にしてなんとか国民の食糧を確保しているようだ。しかし、その労働力の殆どは獣人とイオークでは、本当の豊かな国とは言えない。奴隷制度を廃止し、国民はイオークと言えども皆、同等の権利を有していると言う事を浸透させるのは、かなり難しいようだが、あのヘンデル帝国も何とかなったのだ。この国でも、きっとうまくいくだろう。


  僕は、シルフが行政官達に説明している間、そんなことを考えていた。

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