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第2部第82話 殲滅戦線その5

(8月22日です。)

  今日は、朝から御前閣議が行われている。通常は、大臣全員と、議題を主管する省庁の次官が出席するのだが、今日は、僕とシルフが出席するので、次官全員と随行の部長が何名か出ている。資料を作成するのも大変だと思うのだが、皆で手分けをして大臣分だけは準備しているみたいだった。


  今日の議題は、国内の反乱軍の対応についてと中央アメリア王国との和平についてだ。両案件とも、国の存亡に関わる最重要課題だ。特に、反乱軍への対応は、今日、基本方針を決めるとのことだった。


  反乱軍の総大将は、王都の西で、旧国王直轄統治領と接している、公爵だった。名前をザビエル・ブレードナット・インカンと言い、亡くなったインカン国王の甥にあたる男だ。インカン国王は、周囲を自分と血縁のある公爵家で固めていた。ザビエル公爵の母親は、死んだブレードナット宰相の妹で、父親は、インカン国王の従兄弟にあたる。そのような公爵が全部で3人、それぞれが北と東西に配置されていた。本来は、南側も公爵家だったのだが、血筋が絶えたことから、当時のブキャナン侯爵が、国王の承諾を得て公爵領を拝領したらしいのだ。


  今、ゴロタ帝国南アメリア統治領内の正規軍は、約2万人、傭兵部隊を入れても3万人は行かない。しかも、もう、周辺貴族の応援は貰えない。国防軍は、北部戦線および南部遠征隊の出兵等疲弊しており、兵士には長期休暇を与えると約束していた。それを反故にするわけには行かない。


  反乱軍の要求は、インカン王朝の復活と公爵をはじめ各貴族の所領の安泰だった。まあ、そうだろう。分からないのは、その支援に、中央アメリア王顧南部の貴族達が参加しているのが分からない。我が国と王国の和平に反対なのだろうか?未確認だが、この前の毒ガス部隊を殲滅したとき、指揮官や守備隊長が南部出身の貴族達だったらしいのだ。その仇が僕と言うことになるそうなのだが、戦争で戦死した仇を討つことを容認していたら、いつまでも戦争が終わるわけがない。


  あの毒ガス攻撃は、闇魔法使いが生み出した有毒物質を風魔法使いが、敵陣に流し込んだもので、そのために大勢の兵士が死に、生き残った者達も後遺症に苦しんでいた。僕だって、あの時は怒りに任せて行動しなかったと言えば嘘になるが、停戦になれば、特に何も思わなかった。


  今度、あのような攻撃が来れば、敵部隊ごとシールドで包み込んで、毒ガスを送り込めなくしてやるつもりだ。自分達で作った悪魔の兵器により、自滅させてやるだけだ。


  今日の閣議での議題では無かったが、僕はゴロタ帝国憲法を勉強していただくようお願いした。司法長官には、旧インカン王国時代の法律は、今後の法律関係の争いには適用できないことを周知して貰いたいと言ったのだ。


  司法長官は、ポカンとしていた。良く意味が理解できなかったみたいだ。そもそもゴロタ帝国の現行法は、ほとんどシルフが作ったものだった。ゴロタ帝国だって、新法はまだまだ浸透していないが、ここでは、そう言う類の法律があるかどうかも分からない。


  奴隷制は廃止すると言ってみたが、現在の奴隷をどうするかが決まっていない。奴隷全てが悲惨な生活をしている訳ではないのだ。奴隷ではないからと、放逐したのでは、その奴隷達の生活の糧が困ってしまう。


  根本的には、この国が豊かにならなければ成立しない法律が多い。例えば『義務教育及び学校設立法』と言う法律があるが、12歳以下の子女には小学校に行かせなければならない。例え奴隷と言えどもだ。と言って、年少の奴隷を契約解雇して放り出すことも、『要保護者遺棄罪』で、重罪となる。この国には罪人を収容する施設はない。あるのは刑が確定するまで一時的に拘束する留置場があるだけだ。刑罰は、罰金、鞭叩き、奴隷落ち、鉱山奴隷落ちそして死刑だ。鉱山奴隷落ちも、ほぼ死刑と同一だ。3年以上生き延びた者はいないらしい。爆発、有毒ガス、過労など死因は様々だが、超危険な仕事なのだ。


  最近、鉱山は人手不足らしい。賄賂を使って、鉱山奴隷落ちを逃れて、普通の犯罪奴隷となり、隷属期間の年季が明けるのを待つらしいのだ。あと鉱山で辛い労働をして死にくらいならと自殺をしてしまう者も多いらしいのだ。鉱山は、基本的に国家か貴族の所有となるのだが、労働力不足のため、超高額報酬で一般労働者を雇っている鉱山が多いらしいのだ。


  奴隷制度廃止に関しての問題点も多いが、その前にこの国の統治機構を整備する必要がある。貴族に自治権を認めていると、領地防衛と称して自前の騎士団を編成し、今回のように中央政府に反抗するのだ。そして騎士団を持つことによって、領地拡大ひいては国家転覆を狙う者も出てくるのだ。インカン国王亡き後、この国の正当な後継者となるためには、圧倒的な武力を持ってチップに立たなければならない。そのためには、ブキャナン侯爵領を奪取した程度の者を討伐する必要があるらしいのだ。


  なんかドロドロした欲望が渦巻いている気がするが、人間はきっとそう言う生き物だろう。ゴロタ帝国の設立に際し、そのような場面を何回も見てきた僕は、つい深いため息をついてしまった。兎に角、内乱は早期に収集し人身の安寧を図る必要がある事が分かった。


  内乱軍の首魁、ザビエル・ブレードナット・インカン公爵に勅使を送ろう。直視は、当然、シルフに頼もうと思ったが、皆に反対された。シルフの美少女姿では、相手にバカにされると言うのだ。シルフさん、何故そこで得意そうに鼻を膨らませているんですか?シルフの顔は、シェルの顔をコピペして作っているので、本当の美少女はシェルですよ。


  それでは、ビンセント君に頼もう。彼なら、きっと大丈夫だろう。若いけど、シルフが随行すれば良い。要件は簡単だ。勅書を渡して降伏を勧告するだけだ。危なくなったらシルフがなんとかしてくれるはずだ。


  早速、ビンセント君を呼び出すことにした。







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  次の日の朝、ビンセント君は、最重要任務に緊張していた。いくらシルフがいても、敵は反乱軍の首謀者で、あの猛牛将軍と呼ばれるザビエル公爵だ。敵を殲滅するのに躊躇などせず、今までも100戦して99勝している。1敗は、北部戦線の初戦で、『獣人如きが。』と、少数の部隊で切り込んでいったが、ほぼ全滅の目に遭っている。


 勇猛果敢、猪突猛進、唯我独尊の絵に描いたような大将だ。そんな相手に、ビンセント君が太刀打ちできる訳がないが、まあ、渡すだけだから良い経験になるだろう。


  早速、ビンセント君、騎士姿になって敵の本陣に向かうことになった。敵の本陣は、王都の西に位置するウェスト・インカン市の郊外だ。移動は、最初F35にしようとしたが、甲冑姿では搭乗するのに苦労するので、B2爆撃機を改装して、後部格納庫に乗員を乗せられるように改装した機に搭乗することにした。この機体は、機密事項が多いので部外者に機内立ち入りは禁止していたが、特別に許可するらしいのだ。何が機密なのか分からないが、軍用機とはそういうものらしいのだ。機はアンドロイド兵士が操縦している。自動操縦モードなら、パイロットは不要なのだが


  南アメリア統治領の首都は、現在は、旧セント・インカン市だが、南アメリア市では能がないし、元のサウス・インカン市がダブってしまう。ここは発想を超えて、古代からの都市名であった『リオン・デジャ・ネウロン』と言う地名を参考に『リオン市』と名付けることにした。行政庁の代表者が、皇帝布告文を作成することになっているそうだ。そのリオン市から反乱軍の本陣上空まで、距離にして100キロ、纔か10分で到着した。物凄い轟音と共に降下してくる不気味な物体に、敵兵士達は我先に下がっていって、B2の周囲100mには、誰もいなくなってしまった。


  ビンセント君が、後部ゲートから出てきた。ピカピカの甲冑を着た少年を見て、皆も少し安心していたが、続いて完全武装のシルフとアンドロイド兵士50体を見て、また緊張が走った。ビンセント君は、じっと立ち尽くしていた。『機を降りたらそうしろ。』とシルフに指示されていたのだ。


  暫くすると、かなり立派な甲冑を着た騎士が1人、近づいてきていた。背中には大剣を背負っている。ビンセント君は、綺麗ようのショートソードしか身に付けていない。ビンセント君は、この騎士を知らなかった。先に口を開いたのは、この騎士の方だった。


  「拙者は、ザビエル公爵閣下の配下で騎士団長を務めるヒルムと申す。其方らは?」


  は、はい。ゴロタ皇帝陛下の使者を仰せ付かったビンセントと申します。今日は、皇帝陛下の勅書をお持ちしました。」


  「勅書だと。国王でもないのに。片腹痛いわ。どれ、見せてみろ。」


  「いえ、この軍の最高責任者であるザビエル公爵閣下に直にお渡しするのでお見せできません。」


  「何い!若造のくせに生意気を言うな。」


  ヒルム団長は、やにわに背中の大剣を抜き放った。目にも止まらぬ速さだ。ビンセント君には、そう見えた。大剣は、唸りを上げて、ビンセント君の脇の地面を抉っていた。流石に、重量のある大剣を、地面にぶつかる前に寸止めする事はできなかったらしい。


  「ヒッ!」


  ビンセント君は、小さな悲鳴をあげてしまった。しかし、シルフと護衛のアンドロイド兵は、黙っていなかった。一斉にMP5とM16が火を吹いたのだ。ヒルム団長は何が起きたか分からないまま絶命してしまった。それを見ていた反乱軍の兵士達は一斉に逃げ出そうとしていたが、何人かの騎士がそれを押しとどめていた。大きな盾を前に出しながら、3名の騎士が近寄ってきた。

しかし、あまり近づかない。15m位は離れている。そこで、大きな声で話しかけて来た。


  「先ほどは、我が団長が失礼した。当方に落ち度があるので、団長の死は不問にする。私は副長のミシガンと言う。今回の用件は何ですか?」


  少しは、まともな人が来たようだ。ビンセント君は、ゴロタ皇帝陛下からの勅書を渡したが、手が震えていた。今まで魔物は何匹も殺したが、人間が目の前で殺されるのは初めて見たからだ。


  勅書を受け取ったミシガン副長は、暫く待って貰いたいと言って本陣の方に戻って行った。やがて騎士達の向こうから、大楯を構えた重騎兵に守られながら、偉そうな貴族がやってきた。この男が、きっと、総大将のザビエル公爵だろう。


  ザビエル公爵は、1ビンセント君から10m位の所まで近づいてから、何も喋らずに勅書を破り捨ててしまった。と同時の、ザビエル公爵の後方から火炎弾が放たれた。真っ直ぐビンセント君の方に向かっている。 


  魔法の『ファイア・ボム』だ。魔法シールドを使えないビンセント君は、火だるまになってしまう。シルフは、削ぐにビンセント君を掴んで避けようとしたが、間に合わなかった。直ぐに、火だるまになったビンセント君を『異次元空間』の中に放り込んだ。その際、シルフのシリコン製の人工皮膚が少し焼けてしまったが、内部構造物は大丈夫そうだった。


  アンドロイド兵は、直ぐに地面に伏せ、M16の一斉掃射が始まった。シルフは、B2戦闘機の中に入り込み、機体の上部のゲートを上げた。空いた開閉口からエレベーター式で『M134ミニガン』が出て来た。6本の銃身がモーターで回転し、毎分2000発の7.62mm弾が発射された。先頭の大舘を構えた重騎士は勿論、有効射程距離内の騎士達は次々に倒れていく。魔法を使った魔導騎士もシールドを張ったが、まったく役に立たなかった。アンドロイド兵は、立ち上がり『MP16』を腰だめにして次々に生き残った騎士達にとどめを刺していく。1キロメートルほどの範囲の敵兵を殲滅してから、『B2』に戻ってきた。


  この『勅使殺人未遂事件』が、叛乱軍殲滅の狼煙となってしまったことを、ザビエル公爵は部隊から20キロほど離れたウエスト・サイド町でゆっくりとお茶を飲んでいて知らなかったのである。

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