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第2部第81話 殲滅戦線その4

(8月20日です。)

  久しぶりに、南アメリア市の離宮に帰った。セレンちゃんが、僕の胸に飛び込んできた。何故か泣いている。このだだっ広い離宮で、メリちゃんがいるとは言え、やる事もなく、ずっと留守番をしていたのだ。しかもメリちゃんは、市内の職人街にある鍛治職人の所へ仕事を教わるため、朝から夕方まで留守にしているのだ。本来は王都の職人ギルドから紹介を受けて、どこかに弟子入りするつもりだったのだが、この街でも無駄に時間を過ごしたくないようだ。勿論、セレンちゃんを連れてなどいけない。


  ミリアさんは、王都に行く目的が消失してしまったので、若干虚脱状態になっていたが、最近はこの街の行政立て直しや福祉施設の慰問、それに屋敷の修復の指示等、とても忙しい。将来は、ミリアさんとビンセント君が一緒になって、元々のバーミット領とギュート子爵領を一緒にして伯爵領にするつもりだが、まだ国内体制が固まっていないので、落ち着いてからの話になるだろう。ここでの仕事は、将来のお勉強というわけだ。


  という事で、セレンちゃんは話し相手もおらず、ずっとボッチで窓の外を見ていたらしいのだ。ダンジョンにいた頃も、何も目的がなく時間が過ぎていくだけだったが、今は、僕の帰りを待つという目的があるらしいのだ。そうなると、時間の進みも遅く、今か今かと僕が帰ってくるのを待っているのだ。


  離宮のメイドさん達も、セレンちゃんにはあまり話しかけない。会話ができない事もあるが、やはり違和感を感じているみたいなのだ。



  そう思うと、少し可哀想になってきた。今日は、セレンちゃんと一緒にお出かけしよう。勿論、シェルも一緒だ。行き先は、中央アメリア王国の東側にある大きな湾の中央付近にある島だ。赤道直下の島なので、海水浴には最適だろう。この前、ハブナン市を攻撃する際に、眼下に見えていたので、今度遊びに行こうと思っていたのだ。


  島は、かなり大きい物で、歩いて一周などできない。いや、国といっても良いくらいの大きさだろう。東西に長く、中央には1000m級の山があって、その周りを熱帯雨林が取り囲んでいた。シェルとセレンちゃんは、椰子の木の陰で着替えている。シルフは、既に水着になっていた。


  「マスター、あの山の上にゴロタ帝国の国旗を立てましょう。あと、あの密林の中にバンガロー程度で良いですから、コヤを立ててください。そうすれば、我が国の領土と主張できます。」


  ふうん、そう言う物なのか。早速、シルフに言われた通りにした。あの山は、花崗岩が盛り上がって出来た山のようで、この島は、きっと火山の隆起によりできたのだろうここは、中央アメリア王国に一番近い島だが、この山の上からも大陸は見えない。この卯山は、山脈の一番西寄りにあり、ずっと西に尾根が続いていた。西から噴き上げてくる風が強いです。


  シルフが渡してくれた旗は、金属製でかなり大きい物だった。棒がなかったので、土魔法でかなり大きなキューブを創成し、その西側、つまり大陸に向かった面に貼り付けた。この山は『M1』と名付け、山脈はマエストロ山脈と呼ぶ事にした。この島は、クーバ島、この島から西に続く島嶼は、クーバ・バナナ諸島と呼ぶ事にした。下のビーチに戻ると、既にシルフが地図を取り出して、島と山の名前を書き込んでいた。この地図を、中央アメリア王国に送って意見紹介するそうだ。まあ、彼らの小舟では、ここまで到達するのも難しいだろうから、問題は無いだろう。


  シェルとセレンちゃんは、既に海の中だった。シェルは、大きな浮き輪に乗っていて、セレンちゃんが物凄いスピードで引っ張っていた。あれ、セレンちゃん、下半身がお魚になってますよ。どうやら、海の中でパンツを脱いで、人魚の姿になったらしいのだ。セレンちゃん、顔を上に向けて泳いでいるので、時々水没しているけど、息継ぎは大丈夫なようだ。水が肺の中に入っても、そのまま水の中に含まれる酸素を取り込んで、また鼻から水を吐き出すんだそうだ。なるほど。エラもないのに水中で生活できるのは、そう言うわけだったのか。


  僕は、水着に着替えると、今日のお昼ご飯を捕まえに行く事にした。

ここは暖かい海なので、大型のロブスターとシャコガイそれにイカを捕獲する。僕は、水中では顔の周りにシールドを張って水が入らないようにしている。呼吸は、『念動」で空中の新鮮な酸素と交換しているので、呼吸をしている感じはしない。泳ぎも、手足はまったく動かさず、行きたいところに移動しているだかだ。


  魚や貝は、僅かな電流を、獲物の周囲に流してやるだけだ。一瞬で気を失ってしまう。そのままビーチに移しておく。


  あっという間に、今日のお昼ご飯のおかずが出来上がった。全てバンガローのキッチンの中にしまっておく。このバンガローは、一応、寝室が2つとリビングそれにダイニングキッチンを作ってある。勿論、バスとトイレ2つは標準装備だ。簡単なテーブルとラタンの椅子4脚は並べておいた。


  内装は、今度、ゆっくり手を入れることにして、外装だけはハリケーンでも大丈夫なように作っておく。煉瓦作りだが、H型の鋼材で骨組みを作っている。煉瓦では、熱を吸収して熱いので、珊瑚砂と石灰で外装材を練り、壁一面に塗っておく。と言っても。外壁材が、勝手に張り付いていくのだけれど。屋根瓦は、S型瓦にして、カラフルなものにした。ゴロタ帝国の保養地ニースタウンの標準仕様だ。入り口の前に柱を建て、バナナや椰子の葉で屋根を拭いておいた。今日だけの簡易シェードだ。


  シェル達が上がってきた。シェルさん、ブラジャーがズレているんですけど。まあ、まったく色気はありませんが。シェルよりもセレンちゃんの方が、少し胸がありそうだ。でも、セレンちゃん、300年もこの姿だったのだ。これからも、きっと大人になるのは無理なのかもしれない。


  お昼の海鮮バーベキューは、とても美味しくて、セレンちゃん、涙を浮かべながら食べている。理由を聞くと、こんなに美味しい食べ方を300年も知らないでいたのが悔しいらしいのだ。うーん、そうかも知れない。このバーベキューには、お醤油も使っているのだが、その味を知らない人は、この世界に数多くいる事だろう。


  南アメリア統治領の運営については、ベンジャミンシャン総司令官とワイバール衛士隊本部長がいるので、治安維持上は問題が無い。亡くなったブレードナット宰相の後任はまだ決めていないが、各省庁主管業務は変更はないし、宰相の仕事で事務的なことは、次官や各部長がやってくれているので、前年どおりの施策をするのならば、特に問題はないだろう。


  ビンセント君もそうだが、この国の中央官庁の官吏たちは貴族であることが第一条件らしい。貴族でない者も当然働いているが、その人たちは、貴族である管理が個人的に雇用している形になるらしい。勿論、給料は国から出ているのだが、貴族でない者は、どんなに出世をしても課長補佐どまりらしいのだ。この制度、この国ばかりではなく、グレーテル王国なども近い物があったが、いわゆる特権階級にあるのは、貴族だけと限定しているのだ。ゴロタ帝国では、当然、このような制度は無い。能力のない貴族は、要職どころか官職につくことも出来ない。精々、自分の領地運営で頑張ってもらうのだ。


  貴族制度は、ゴロタ帝国でも存続している。ヘンデル帝国や旧ゴーダー帝国では貴族制度はなかったが、僕は、貴族制度は名誉ある称号として、存続させているし、これからも拡充を図っていきたい。その代わり、給与や手当などは、貴族としての最低限の品位を保つ程度にしか支給していない。被服や使用人の給料などだ。使用人は、爵位によって厳格に人数が決められており、給与も国家公務員の中位の給与水準にしている。才能のある貴族は、領地運営や官公庁でのポジションにより高給をとっているので、その中からやりくりしてもらうのだ。執事又は公設秘書も、爵位により人数に厳しい制限を加えているし、使用人雇用費を受給しているのに雇用しない、いわゆる架空使用人は、法令違反として、損害賠償及び爵位はく奪となるし、最悪、刑務所に入って貰うことにした。


  そんなことを考えていたら、シルフが、国防軍服を着て、『異次元空間の狭間』から出て来た。どうしたのか聞いたところ、王都の北部方面で、旧貴族と大地主達が反乱を起こしているらしいのだ。どうやら、年貢免除が気に食わないらしいのだ。この前、第一次叛乱の時は、首謀者たちだけを厳選して殲滅したのだが、貴族だけでなく騎士団や地元の地回り達も、うまい汁が吸えないことに腹を立てているし、中央アメリア王国の一部貴族も資金援助等をしているみたいだ。シルフが言うには、ゴロタ帝国が強大になり過ぎるのは、将来的には中央アメリア王国の崩壊につながると考えている者がいるそうなのだ。


  僕は、平和主義者なので、武力で異国に侵略などする気はないが、あれだけの武器を見てしまうと、不安を覚えてしまうのだろう。しかし、それにしては、対応が早すぎる。かなり以前から、インカン王国でクーデターを起こさせ、そのすきに一気に北部方面の部隊が南下してくる準備をしていたらしいのだ。ああ、どこにでも謀略好きっているんですね。


  ベンジャミン総司令官率いる2万人の兵は、王都に向かっている途中だし、現場もかなり混乱していて、王国北側に何本も伸びている街道は、ほぼ無防備だと言う事だった。あ、これって危ないパターンだ。のんびり海水浴をしている時間ではない。しかし、折角来たのに、直ぐに帰ってしまったのでは、セレンちゃんに泣かれてしまいかねない。


  シルフに対応を聞いたところ、現在、ゴロタ帝国国防軍の航空戦力を総動員している最中だそうだ。あのう、叛乱軍といえども、我がゴロタ帝国の国民なんですけど。しかしシルフの言葉は容赦が無かった。我が国は国民主権ではなく、君主制を敷いている。その君主が君主であるためには、圧倒的な武力を国民の目に焼き付かせる必要がある。幸いに、王都から南部はほぼ平定し終わっているが、北部及び王都東西はこれから国王の尊厳と威力を見せつけなければならない。今回の叛乱は、そのためのいい機会だそうだ。中央アメリア王国の軍関係者達にもぜひ見せたいので、攻撃の時は、旅客機で迎えに行こう考えているようだ。でも、滑走路も無いのに、着陸は無理だと思うんですけど。


  これから、直ぐに戻らなければいけないかと思ったら、叛乱軍鎮圧の空爆は、明後日の予定だいう。それでは、その国防軍服を着ている理由をきいたところ、これは国防軍服を着て、国防戦略室で戦況を見ながら次の作戦を練るためのポーズだそうだ。


  ああ、この残念スーパーコンピューターめ。


  



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