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第2部第80話 殲滅戦線その3

(8月19日です。)

  今日の午後、中央アメリア王国の国王陛下に面会を求めるつもりだ。シェルとシルフの3人で行くことにした。僕一人では、上手く話せないし、きっと前国王の所業を許してはくれないだろう。お金で済むのなら、ある程度は支払っても良いつもりだ。しかし、領土の割譲は、そこに住んでいる国民のことを考えると断るつもりだった。


  3人で、王城の正門前に転移した。正門は、固く閉ざされていたが、門番をしている狼人の衛士さん二人が立っていたので、シルフが用件を伝えていた。今日は、普通の貴族服をきているので、衛士さん達も無碍に断ることが出来ずにこまっていたので、取り敢えず、責任者に取り次いでもらうようにお願いしていた。勿論、僕はそれをじっと見ているだけだった。今は、『ベルの剣』も下げていない全くの丸腰なので、衛士さん達も警戒はしていないようだった。


  衛士さんの一人が通用門の中に入って行った。暫くすると、通用門から、王城内の侍従のような方が現れて来て、僕達に用件を聞いていた。また、シルフが用件を伝えていたのだが、今度は、通用門の中に入れてくれた。王城や皇帝の居城と言うものは、どこでもいっしょで、大きな正門の脇に通用門があり、その通用門を入ると、事務所みたいなところの脇を通って中庭に出るのだ。この中庭は、敵を招き入れて、城郭の上から攻撃するための者なので、中庭から城内に入れないようになっているのだ。僕達は、事務所脇の応接室に案内された。火の気のない部屋は寒々としていたが、アポイントメントなしで来たのだ。部屋を暖かくしているわけがない。暫くすると、猫人の女性が、火鉢を持って来てくれた。中には暖房用の魔石が置かれており、2時間程度持つくらいの魔力を込めて持って来てくれたのだろう。


  次に来たのは、小柄なネズミ人の女性で、温かいお湯の入ったお茶碗を持って来てくれた。身体が冷え切っていたので、温かいお湯がありがたかった。シルフは勿論、全く必要が無かった。2時間位待っただろうか。事務所の周りを兵士が取り囲む様子が気配で分かった。さすがに、何も警戒をしないで敵国の者を招き入れる訳がない。ドアが開き、屈強そうな護衛の兵士2名に守られて狐人が入ってきた。その人は、恭しく頭を下げてから、自己紹介を始めた。


  「初めまして。私は、この王城の警備主任をしている『グレン』と申します。ゴロタ帝国の方とお聞きしましたが、何か証明する書面のようなものはありますか?」


  「すみません。私達は、急に参ったので帝国皇帝の印を何も持って来ていないのですが、どうしても必要とあれば、何か準備しますが、何がお望みでしょうか。」


  「はあ、皇族の証明とかは難しいと思うのですが、皇帝陛下の親書などはありませんでしょうか?」


  「それなら、昨日、お城の中庭に投下したもの位ですが。」


  「え、あれは貴方達でしたか。あの爆弾のせいで、わが王城の前庭が当分使えなくなってしまったのですが。」


  「あ、それなら今日中に直しますので、お気を悪くなさらないでください。」


  「え、今日中に直す?あなた、何を言っているのですが。深さが10m近くもある大きな穴が空いてしまっているのですよ。それに樹々もなぎ倒されたりもえてしまっているのに。」


  「はい、大丈夫です。まあ、これからの会談結果次第ですが。」


  「とにかく、こちらにおいでください。あ、武器の類は全てお預かりします。」


  「ええ、何も持っていませんから。」


  僕は、シルフとグレンさんのやり取りを聞いていて、昨日、王城を直撃しなくて良かったなと思った。今のところ、王都には明確な被害は無かったようだ。グレンさんに続いて事務所を出ると、中庭には200名近い近衛兵が待機していた。僕達たった3人に対しては大げさと思うのだが、昨日の攻撃の後なので、警戒してし過ぎると言う事は無いのだろう。中庭をぐるりと回り、衝立の陰の鉄製の扉を開けて、王城の中に入って行った。入ってすぐは、広い階段のある広間になっていたが、僕達は、その東側にある立派な応接室に案内された。そこには5人位の人達がいたが、文官3人と軍人2人だった。僕達が入って行くと、皆、立ち上がって迎えてくれた。


  真ん中の文官の方は、この国の宰相で猿人の人だった。名前をアンヌと言うそうだ。アンヌ宰相が、他の方達を紹介してくれた。


  ・ドエル外務大臣兼ねて辺境伯(猿人)

  ・トロワ司法大臣(猿人)

  ・クアト防衛大臣(ライオン人)

  ・サント国防軍最高司令官(虎人)


  この国も、ゴロタ帝国の旧中央フェニック帝国と同様、文官は猿人が多く、軍人は肉食獣が多いのだろう。まあ、体質や性格からどうしてもそうなるのだろう。僕達のことは、シルフが紹介してくれた。


  「こちらにおわしますは、神聖ゴロタ帝国初代皇帝の『ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン1世』陛下です。こちらのご婦人は、『シェルナブール・アスコット・タイタン』皇后陛下です。そして申し遅れましたが、私は、皇帝陛下の筆頭秘書をしております『シルフ・アメリア』と申します。本日は、貴国との和平について話し合いたいと思い参上しましたが、その前に、ドエル・フォン・タイガ3世国王陛下の皇太女であるノラ王女が行方不明との事。私達は、捜索の参考になればとおもい、手掛かりになりそうな物をお持ちしたのですが。」


  皆は色めき立った。そのために戦争を起こしたのだ。しかし、次の言葉で息を飲んでしまった。


  「ただし、今回、お持ちしたのは、旧インカン王国の王城地下で発見されたご遺体です。何名かの生存者は、現在、ゴロタ帝国の施設で保護しておりますが、ご希望があれば直ぐにお連れ申し上げます。」


  それから、大広間の奥の大会議室に仮の遺体安置所が設けられた。35体の女の子の遺体を白い布で包んで並べ、遺品も机の上に並べられた。何もない空間から次々と出てくる遺体や装飾品を見て、シルフやゴロタが只者でないことは分かったらしい。一人ひとり、見分して回ったアンヌ宰相は、一人の女の子の前に立ちすくんだ。猫人いやトラ模様の毛髪から虎人と思われる女の子だった。


  「こ、国王陛下と皇后陛下をお呼びしろ。直ぐにだ。ええい、誰か、走ってお伝えしろ。」


  どうやらビンゴだったらしい。宰相は、装飾品の中からも、エメラルドの髪飾りを見つけた。目には涙が浮かんでいる。


  「ゴ、ゴロタ殿。このご遺体は、どのような状況だったのでしょうか。」


  えーと、とても説明なんかできない。遺体には、傷一つついていない。行方不明になった当時のままの身体に戻しておいたからだ。ノラ王女がさらわれたのが2年前とすると、きっと白骨になっていたに違いない。そのことは黙っていることにした。


  暫くすると、王族のマントを付けた虎人の大きな人と、やはり虎人だが、目つきがとても綺麗な女性、きっと皇后陛下だろう。二人がやってきた。ノラ王女の遺体を目にして皇后陛下は泣き崩れてしまった。生きているのではないかという僅かな希望が失われた瞬間だった。僕達は黙って、二人を見つめていた。侍女たちがノラ王女のご遺体を丁寧に運んで行った。これからお湯で身体を洗い、綺麗な服を着せるのだろう。


  国王陛下が、ノラ王女を見送ってから僕達の方に向いた。その目には殺意がこもっていた。


  「その方らが、ノラを連れて来たのか。ノラは誰に殺されたのだ。」


  アンヌ宰相が、慌ててタイガ国王に耳打ちをしている。僕達が、新南アメリア統治領を治める皇帝だとは知らせていなかったらしい。しかし、国王陛下は、胸中の怒りが治まらないようで、僕達の素性を知っても、なおも殺意が消えなかった。まあ、僕達も殺されるのは嫌なので、必要ならば戦うけれど、できることなら戦いたくなどなかった。その時、シェルが口を開いた。


  「国王陛下、胸中、お察し申し上げます。しかし、ご息女を誘拐し殺したインカン国王とブレードナット宰相を亡き者にしたのは、ここにいるゴロタ君です。私達を殺しても、それはお門違いと言う者です。私達は、国王陛下の恨みを晴らしてあげたことになり訳ですから。」


  なんか、高ビーな言い方な気がしたが、言っていることはもっともだった。だが、たった一点、重大な誤りがある。国王陛下もブレードナットも、あの『名前を呼んではいけない男』に殺されたんだけど。でも、あの時死ななくても、きっと僕に殲滅されていただろうから、まったくの嘘という訳でもない。国王陛下は、それでも、絞り出すように、たった一言だけ言ってさってしまった。


  「許せ。今は、外交など考えられん。」


  その後で、宰相事務室脇の応接室で、簡単な停戦協議を始めた。もちろん、僕とシェルは何も言わない。というか、シェルが僕にヒソヒソと話を始めた。お詫びの印を渡したいそうだ。僕に異論はない。


  「あのう、宰相閣下、お話し中申し訳ありませんが、この度の出来事のお詫びと、これからの両国の良好な関係を築くための品として、いくらかの弔慰金をお渡ししたいのですが、よろしいでしょうか?


  「弔慰金ですか?国王陛下が受け取るとは思えませんが、お預かりしておきましょう。」


  「それで、どちらに置けばよろしいでしょうか。」


  「はあ、置く?それなら、そこのテーブルの上にでも置いてください。後で、主税官が確認いたします。」


  宰相は、これだけのことをしておいて、弔慰金程度で許されると思っているのかとでも言いそうな雰囲気だった。気持ちは良く分かるので、特に腹も立たない。きっとノラ王女は誰からも愛されていたのだろう。


  僕は、イフクロークから大金貨を取り出した。1枚、約2キロだ。それを10枚ずつ出して積み重ねる。50枚重ねたところで、次の山を作り始めた。これ以上一箇所に積み重ねると、重さに耐えかねてテーブルが壊れてしまう。次の山も50枚、そしてその次も50枚と、全部で600枚を置いたところで、テーブルが轟音を立てて壊れてしまった。あと、400枚を出すつもりだ。帝国の通貨で100億ギル、これが弔慰金の額だった。宰相は、口から泡を吹いている。この国の年間予算がどれ位か知らないが、ゴロタ帝国にとっては、微々たる金額だ。直ぐに主税官達がやってきて、袋に10枚ずつ入れている。それでも、1袋20キロだ。軽々と運べる重さではない。


  「あのう、あなた様、いえ、ゴロタ帝国というのはどちらにあるのでしょうか。」


  さすがに、アンヌ宰相は、南アメリア大陸の農業生産力を把握しているだけあって、この金額が、あの大陸では決して生み出されるわけがない事を知っていた。


  「こんど、ご案内いたしますわ。オホホホホ。」


  あ、高ビーなシェルが戻ってきてしまった。


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