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第2部第79話 殲滅戦線その2

(8月18日です。)

  翌朝、前線基地の前には、即席の監視台が作られていた。まあ、作ったのは僕だけど。高さ30mほどで、なだらかな階段を付けておいた。シルフが、総司令官と中将用に双眼鏡を貸していた。双眼鏡を初めて手にした二人は、色々なところを見て楽しんでいた。あのう、女性兵士の更衣所を除いたらいけませんよ。


  シルフが前線基地前の広場にF35を出現させた。え、色が違うんですけど。いつものキラキラしている銀の無地とは違い、今日のF35は、上面が暗緑色に塗られていた。機体下部は明るいグレー、シルフが『明灰色』と言っていたが、その2色に塗り分けられていた。胴体の真ん中に白縁で真っ青な盾が書かれている。真ん中には、真っ赤な剣が1本描かれているが、これがゴロタ帝国空軍機の正式マークらしい。このマークは、主翼両端の上下にも書かれていた。


  今日は、シェルはお留守番なので、先に帰るように言ったが、王都には一緒に帰ると我儘を言っていた。しょうがないので、基地に残すことにしたが、野戦病院に慰問に行くと言っていた。戦闘には全く興味のないシェルだった。


  F35には、250キロ爆弾を4発、翼下にぶら下げ、胴体内格納庫には、6発を装填している。まあ、普通にオーバーキルな気がする。前線の目標は、敵後方の指令基地だが、毒ガス攻撃をした本拠地も攻撃する予定だ。シルフが衛星画像を解析して、詳しい座標軸を入手済みだったので、オートパイロットに入力するだけだった。爆撃についても、オートにしていたので、僕達は、オートパイロットスイッチを押すだけだった。F35は、マッハ2.0の巡行速度で北を目指していった。


  あっという間に敵基地の上空だ。高度を徐々に低くしていく。一気に高度6000mから高度300mまで降下していったが、急激な気圧の変化にも、『蒼き盾』に守られているので、全く平気だった。敵基地には、翼下の4発の爆弾全てを投下した。F35の爆音を確認しようとmすべての将兵がテントや塹壕から出ていたため、被害は甚大になってしまった。かなり大きな閃光が円形に広がったあと、真黒な煙が上空に上って行った。下界では、火災も起きており、敵司令部のテントの周囲200m以内に生存者はいないようだった。


  次に、毒ガス部隊のいると思われる密林の上に向かう。上空からは、木の葉が邪魔をしてよく見えないが、部隊の気配がするので、間違いないだろう。爆弾格納庫の扉を開き、4発の250キロ爆弾を投下した。うん、これで毒ガス部隊は、ほぼ全滅しただろう。地上から、火魔法が放たれてきたが、上空300mまで届く火魔法使いはいないようだった。向こうの密林の間から、ワイバーン3匹が現れた。こちらに向かってくる。僕は、シルフから操縦を引き継いだ。操縦桿を引き上げるとともにフルブーストを掛ける。機体は、急角度で上昇に転じた。高度2000mから機首を回頭してフルダイブだ。1匹のワイバーンがヘッドアップディスプレイの照準内に入った。すかさず20mmバルカン機関砲を曳光弾が紅い光を引きながらワイバーンに吸い込まれていく。ハチの巣にされたワイバーンは、翼もボロボロとなり、頭もちぎれかかっていた。次のワイバーンを標的にして、ロックオンしたが、ワイバーンは必死に逃げている。その中で発射タイミングをオートにしているので、ロックオンさせるために追尾をするだけだった。2匹目は、逃げ切ることが出来ずに、20mmバルカン砲の餌食になった。最後の1匹は、その間にしっかり逃げてしまった。追尾誘導型のミサイルを搭載してこなかったので、深追いはせずに、そのまま機首を北に向ける。


  目的地は、敵国の王都だ。敵国は、南アメリア大陸と北アメリア大陸の間の東西に狭くなっている所から北アメリア大陸に向けてのエリアだが、北アメリア大陸は、ほぼ未開の地らしい。狭くなっているエリアには赤道があるため、国全体が常夏の国らしい。確か、ベンジャミン総司令官から敵国の名前を聞いていたが、あまり興味が無かったので直ぐに忘れてしまった。何だったかな?


  そんなことを考えていると、ヘルメットのヘッドセットから


  「敵国は、中央アメリア王国といい、獣人族の国です。首都は、ハブナン市で、人口は30万人ほどです。」


  と、適切な情報を教えてくれた。そうか、獣人の国か。だから魔物使いが多いのかも知れない。獣人は、その生い立ちから、魔物との相性が良く、かなり上級の魔物もテイムできるらしいのだ。あれ、そう言えば、亡くなったインカン国王は獣人の女の子を誘拐してきたと聞いているが、もしかして獣人の国から誘拐してきてはいないだろうな。あれ、そもそもなぜ、中央アメリア王国とインカン王国は戦争をしているのだろう。ベンジャミン総司令官は、中央アメリア王国側から攻めて来たと言っていたが、攻めて来た理由や、中央アメリア王国側の要求をきちんと聞いていなかった気がする。うん、どうしようか。今回、王都ハブナン市を爆撃するつもりだったが、あまり派手にやらない方が良いな。王城を直接狙わずに、それなりに効果があるところを狙う事にしよう。


  そんなことを考えていたら、あっという間に赤道を超えて、もうすぐ王都上空に到着と言われた。飛行時間にして40分、約2000キロの空の度だった。ハブナン市は、赤道に近いため、太陽光線を反射するために白い壁の建物が多かった。あの白い壁は、石灰石を溶いたものか、珊瑚を砕いて粉にしたものを塗っているのだろう。王城が見えて来た。かなり変わった格好の王城だ。尖塔の上には、帽子のような紡錘形の屋根が付いており、金色に光っていた。城壁も王城本体も真っ白で、至る所に金色の装飾がされていた。王城の前の広場には、長い直線路が付けられており、その道路の両脇には、ヤシの木が植えられていた。いかにも南国という雰囲気の王城だった。


  攻撃目標は、王城前広場にある、小さな小屋にした。あの小屋は、きっと熱い日差しを避けるための休憩所だろう。その小屋に向けて急降下をしていく。高度300mの所で、急上昇に転ずるとともに、爆弾を2発落としておいた。地上では、ジェットエンジンの轟音とともに、爆弾が空気を切り裂く音、続いての大爆発と続いたが、人々は、それがインカン王国からの攻撃とは直ぐには分からず、きっとどこかのドラゴンが攻めて来たと勘違いしたかも知れない。王城の裏手から、10匹のワイバーンが飛び立ってきたが、完全に無視して、そのまま上昇をする。高度2000mで、ワイバーンの上昇速度が極端に遅くなってきた。空気が薄いために、翼の揚力が足りなくなってきたのだろう。上昇気流でもない限り、ワイバーンと言えども、高度3000m以上に上昇するのは殆ど不可能らしいのだ。


  ワイバーンの追撃を振り切ったところで、シルフは、再度、急降下を始めた。そのまま、王城の中庭の上に何かを落として、あとは南に向けて帰還だ。今、落とした物を聞いたところ、インカン国王は滅ぼされ、現在はゴロタ帝国に併合されていることを記した書面だとの事だった。


  前線基地へ戻ってから、ベンジャミン総司令官に、この戦争の発端について聞いたところ、先に攻めてきたのは中央アメリア王国だったそうだ。しかし、宣戦布告の前に、外交ルートを通じてインカン王国内において、ある人物を捜索させてほしいとの申し入れがあったそうだ。捜索くらいさせてやれば良いのに、ブレードナット宰相は、頑なに断り続けたそうだ。


  中央アメリア王国が捜索したい人物とは、国王の皇太女ノラ王女だったそうだ。え?王女がいなくなった?しかも皇太女?現中央アメリア王国の国王ドエル・フォン・タイガ3世は、虎人なのに、なかなか子供が出来ず、晩年になって漸く娘が産まれたらしい。もう、本当に猫可愛がりで育てたらしいのだが、3年程前、国境付近の離宮まで避暑に来ていて行方不明になってしまったらしいのだ。当然、自国内は隈なく探したが、王女が歩いた痕跡さえ見つからなかったそうだ。


  それで、国境に近いせいもあり、捜索の手をインカン王国領内にも伸ばしたいが、断りもなく捜索のための兵や衛士を入れる訳にもいかない。最初は、穏便に申し入れをしていたのだが、何度、申し入れても承諾しないため、最後は武力により承諾させようとしたことが、この戦争のきっかけだったらしいのだ。


  きっと、前国王の慰み者にするために、ブレードナットの配下の者が、獣人国である中央アメリア王国のの国境付近まで獲物を探しに来て、たまたまノラ王女を見つけたのだろう。きっと最初は王女とは気が付かなかったかも知れない。しかし、捜索の申し入れを頑なに拒んだところを見ると、その時点では、拉致してきた幼女が王女である事に気が付いていたはずだ。


  ブレードナットが死んでしまった今、確認する術はない。いや、もしかすると方法があるかも知れない。僕は、王城の地下2階の地下牢に捨てられていた犠牲者達の遺骸のことを思い出したのだ。あれから、適当な埋葬地がなかったので、イフクロークに収納していたままになっていた。僕は、一人で前進基地から大分離れたところまで移動した。シルフには、白いシーツを大量に準備して一緒に来て貰う。


  僕達が到着した目的地は、森が少し開けた場所だ。僕は全ての遺骸を、イフクロークから取り出す。まだ体の原型がきちんと残っている綺麗な遺体から、バラバラの骨になってしまったものまで、程度の差が大きい。僕は、遺骸の山上に牛や猪、鹿の死体を素材として置いた。さあ、作業を始めよう。


  僕は、遺体の『復元』を始めた。綺麗な遺体なら、傷口の『修復』だけで良かったが、古い遺体や骨だけになったものは、ない部分を作り上げてゆく。そのために必要な肉体の必要元素は、獣の物を使うのだ。生きていた頃の顔や体付きは知らないが、残された骨が覚えているのだ。


  「DNA情報により、全ての臓器や外部機関の複製が可能です。」


  また、シルフが、意味のわからないことを言い始めたが、無視する事にした。骨からの復元が、最も時間がかかったが、同時復元が可能だったので、3時間後全ての遺体の復元が終了した。全部で65体もあった。全ての遺体を白いシーツに包んで、イフクロークに収納する。あと、幾つかの遺品、幼児には似つかわしくない宝飾品なども発見したので、これらも収納しておいた。


  その後、また前進基地に戻って、これからの事を相談した。総合的に考えても、どうも、こちらの方が分が悪そうだ。こんな時は、やはりシェルの意見を聞こう。直ぐにシェルを呼んで事情を話してみた。シェルは、即答した。


  「謝りましょう。」


  全く、外交ルールとか国のメンツなどは考慮していない。悪い時は悪いと素直に認めるだけだった。明日、シェルと一緒に、中央アメリア市を訪問する事にしよう。


 

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