第2部第77話 お城を修理します。
(8月16日です。)
僕が、この国の国家元首となって、一番最初にやらなければいけないのは、昨日、ほぼ全壊に近いまでに破壊された後宮つまりお城の北側部分の補修だった。侍従長のセバスさんという人と一緒に後宮まで行って見ると、地下から屋根まで大きな穴が空いていた。この穴は、上の階に行くほど大きくなっており、3階から上は、殆ど消滅していた。セバスさんは、『今の状態では、とても後宮に住むわけにはいきません。』と言っていた。確かに、台所や風呂場も壊れてしまい、満足な施設など何もないに等しかった。また、北側の残った部分も、強度的に弱くなってしまったため、いつ全壊してもおかしくない状況だとのことだった。
セバスさんは、王室宝物庫も破壊されてしまい、大切なもの、特にインカン王室に伝わる『三種の神器』が亡くなってしまったのが非常に残念だと言っていた。その『三種の神器』とは、
1.岩をも貫く宝剣『エクスカリバン』
2.すべての魔法攻撃を跳ね返す『水鏡の盾』
3.持ち主の代わりになる『身代わりの勾玉』
全て、どこかで聞いたことがあるような物ばかりであったが、あの男が持って行くわけはない。瘴気エネルギーで破壊されてはいるだろうが、その破片は、必ず、地上の瓦礫の中にあるはずだ。僕は、セバスさんとともに地上部に降りて行った。
地上部の瓦礫は、高さ3m位まで積みあがっており、破壊の凄さを物語っていた。セバスさんが、ため息をついている。王都内の建設会社の社長からは、この瓦礫を片付け、元通りの城にするためには、3年はかかるだろうと言われたそうだ。まあ、普通はそうだろう。一般の建物は、どんなに立派なものでも煉瓦造りが相場だが、王城は大理石作りだ。今まで使われていた大理石と同じものを探すのには、経費と期間が必要だ。しかし、そんなに待ってはいられない。
僕は、瓦礫の山に手をついて、それぞれの部材の行く先を確認していた。良かった。部材に重大な欠損は無いようだ。まあ、これなら何とかなるだろう。僕は、セバスさんに後ろに下がって貰うようにお願いした。セバスさんは、『何をする気だろう。』という顔で後ろに下がって行った。僕は、まず、瓦礫の山をそのままソクッと持ち上げて、修復の邪魔にならないところまで移動させた。さあ、お城を修復するか。僕は、こんなに大規模な修復などしたことは無かったが、きっと何とかなるだろう。
まず、地下室部分の修復だ。これは、『土魔法』で壊れた床、壁、階段等を錬成してくみ上げていく。地下牢部分は、今度、慰霊と浄化が完了するまでは封印しておくことにした。浄化が終われば、内装を修理してもらおう。
次に地下1階部分だ。床の穴の開いたところに梁を渡し支柱で支えながら、地下牢の天井兼ねて地下1階部分の床を補修をする。部材を空中に浮かばせておいて、梁を組み合わせて井桁にして、その上に、割れた床材を乗せていく。接合部分は、外れないように軽く接着しておいた。あとは、釘で固定すればいいけど、釘を打たなくても動かないように次合わせの形を工夫しておく。寸法の足りないところは『錬成』で伸ばしておいた。
次は、1階部分の元あったところにはめ込むイメージを部材に流し込んでいく。最初は、床暖房。同じように組んでいく。パイン材の梁と根太で木組みをし、床材のパイン材を張っていく。その上に、大理石とオーク材を重ね貼りして床の完成だ。
次は、大きく崩れてしまった壁だ。ブロック単位で固めていき、そのブロックをモルタルで固めていった。宙に浮いている部材は、まるで意思持つものみたいで、自ら、元あった場所に飛んでいく。20分位したら、1階事務室、書庫、倉庫及び使用人部屋が組みあがってしまった。内装までは直せないが、取り敢えず、地上部のラインまでは完了した。同じような手順で3階部分まで作り上げる。複雑な作りのドアや窓、什器類に壁紙やカーペット天井の絵画などは、専門の職人に任せることにしたが、これなら1か月程で直るはずだ。
昼食は、南アメリア市に戻ってシェル達と一緒に取ることにしたが、ベンジャミン国防軍総司令官とワイバール衛士隊本部長も同行することにした。いわゆるワーキング・ランチをすることにしたのだ。南アメリア離宮の応接間に空間転移すると、シルフが待っていた。僕達が到着したのに気が付いたのか、セレンちゃんが客間のドアを開けて走って入ってきた。僕の胸に飛びついてギュッと抱きしめている。そう言えば、最近、セレンちゃんの相手をしていなかったなと思い出していた。
「陛下、その娘御は?」
ベンジャミン長官が聞いてきた。
「ああ、この街の西にあるダンジョンで見つけた子で、たった一人であのダンジョンの中で暮らしていたので連れて来たのです。」
「なんと、女の子一人でどうやってダンジョンの中で生き延びられたのでしょうか。しかも、この街の西のダンジョンは、国内でも有数の難易度の高いダンジョンだと聞いておりますが。」
詳しい話はしないでおいた。セレンちゃんが魔物だと言う事がバレて良い事は一つもないからだ。応接間でゆっくりお茶をしている最中に、2階からは改装工事の音が響いて来ていた。ワイバール隊長が工事のことについて聞いてきた。
「このお屋敷も改装中ですが、行政庁も改装しているし、国防軍本部も改装していると聞いております。この街の財政が、それほど潤沢とは思えませんが。」
この疑問には、シルフが答えた。
「あら、改装費用や国防軍南アメリア駐屯地の新設費用は、すべてゴロタ陛下の持ち出しです。旧ブキャナン侯爵領からの税金は、来年度まで免除ですから。」
「「え、免除ですか!!」」
ベンジャミン長官とワイバール本部長が一緒に声を上げた。
「ええ、この街ばかりではありませんのよ。領内全部、最終的には、南アメリア統治領全域の租税を免除する予定ですのよ。」
「そんなことをして、財政は大丈夫なのですか?」
「グレーテル大陸のゴロタ帝国の租税収入は、インカン王国の20倍ほどですから、当分の間、租税免除を継続しても大丈夫ですわ。それに新しい事業や鉱山開発も進めるので、きっと将来的には、事業収入だけで十分にやっていけるでしょうね。」
ああ、またゴロタ帝国でやっていた収益事業を始めるのだろう。しかし、ここ南アメリア大陸は、未開の地が多い。鉱物資源特にミスリルや金、銀それに石油や石炭などどんどん開発していけば、ゴロタ帝国のように富裕な国家になる可能性があるだろう。
「ところで、グレーテル大陸と言いましたが、それはどこにあり、どれくらい広いのでしょうか?」
シルフは、異次元空間から1枚の巻紙を出してきた。それを広げると、かなり詳細な世界地図になっていた。大陸や島は緑や茶色、大洋は水色から深い青まで綺麗な色彩で描かれていた。
地図の中央には、グレート・グレーテル大陸が書かれている。大陸は、メディレン海で東側から大きくえぐられており、西の山脈で南北の大陸が繋がれていた。北グレーテル大陸は、西から、ザイランド王国、その南にゴロタ帝国エクレア統治領、その東には、グレーテル王国、ヘンデル帝国と続き、ヘンデル帝国の北側3分の1は、ゴロタ帝国ヘンデル統治領だ。その東にはエルフ大公国と島国のニッポニア帝国がある。南グレーテル大陸はほとんどがゴロタ帝国で、西からカーマン統治領、フェニック統治領、聖ゼロス教大司教国を挟んでゴロタ帝国本国となっている。南大陸の西南端にはモンド王国が描かれていた。
グレート・グレーテル大陸の東側には太陽を挟んでパシフィック大陸があり、その大陸は西側がマングローブ王国、東側がセコイア王国となっていた。そして、グレート・グレーテル大陸の西側には、かなり広い大洋を挟んで南北アメリア大陸があり、南アメリア大陸全域が『ゴロタ帝国南アメリア統治領』となるのだ。ベンジャミン司令官やワイバール本部長は、ゴロタ帝国のあまりの広さにため息をついてしまった。
昼食は、メリちゃんと屋敷に以前からいたシェフ2人により作られていた。給仕は執事のセバスさんと、メイドさん達がしてくれた。セバスさんに、こんどこの国の皇帝になったことを言ったら、非常に驚いていたが、近い将来には、侍従長として王城、今は『南アメリア皇居』と呼ぶが、そこに来て貰いたいと言った。セバスさん、何故か、向こうを向いてしまった。あ、泣いているみたい。侍従長だから当然、王城の近くの官舎に住んで貰わなくてはならない。あ、叙爵もしなくっちゃ。
食事は、海鮮料理にした。王都は、海から離れているため、鮮魚類がすくなく、川魚か塩干物が多いので、新鮮なスズキのムニエルやオマールエビのパエリアを出したら、とても喜んで食べてくれた。デザートは、今の季節には珍しい梨のコンポートにしたら、これも美味しい、美味しいと言ってくれた。
食後は、事務的な話が続いた。
・喫緊の課題は、国防問題で、現在、北方国家とは交戦状態であり、戦局は一進一退を続けているが、最近は、負けが多くなっている。
・司法制度は、かなり脆弱で、憲法らしきものがなく、個別の法律で対応しているが、その場しのぎの法律ばかりで体系的ではないとのことだった。一番の問題は、各地の貴族が勝手に作った条例が優先してしまい、法律がないがしろにされても打つ手が無いと言う事だった。
・財政問題は、危機的状況にあり、数年続いている不作のため、国民の大多数は、満足に3食を食べられない状態にあるそうだ。
・医療問題は、完全に各地の貴族や教会にお任せであり、富裕層の身が高価な薬草を服用できるらしい。また、幼児の死亡率は極めて高く、大切な労働力も不足がちとなっている。
・教育問題は、存在さえしない。帝国にある大学というものはなく、貴族は、家庭教師を雇うし、一般市民は町内の塾に通わせて読み書きを習わせている。農村などは、教会の神父やシスターが慈善事業で読み書きを教えている。そのため、この国の識字率は極端に低く、数字が読めないばかりか、自分の名前さえ書けないものが多いそうだ。
そんな話をしていたら、あっという間に夕方になってしまった。明日は、ベンジャミン司令官と北方前線に行くことにした。




