第2部第74話 鬼畜の王室
(8月15日です。)
ブレードナット宰相達は、突然現れた僕達に驚いていたようだ。と言うか、ドアの外には警備の者が5人程いたのだが、僕が急にゲートを開いて現れたので、剣を抜こうとしたが、『威嚇』スキルで何もできないようにしておいたのだ。会議ー室の中には、警備の騎士はいなかったので、僕は、普通にブレードナット宰相の方に近づいていった。
「お久しぶりです。ブレードナット宰相閣下、ベンジャミン長官閣下。」
この前、白龍城に招待したばかりなのだが、これは他の閣僚には内緒にしているみたいなので、それ以上詳しいことは言わなかった。
「ゴロタ殿、今日はどのようなご用件ですか。」
これから先は、シルフが対応を取ってくれることになっている。僕が話すと時間がかかってしまうし、思ったことがキチンと伝わらないので、複雑な交渉は全てシルフに任せている。
「いえ、今、皆さまが読んでいらした『親書』に関することです。まず、インカン国王陛下自身にご自分が何をされていたのかお話を聞こうと思いまして。」
「え、国王陛下に直接ですか?」
「はい、ご案内できますか?」
「いや、それは・・・」
これは、絶対に無理な申し入れだと言う事は十分に理解している。今まで交戦をしていた敵国の皇帝が、自国の国王陛下に直接面会するなど前例がないだろう。
「いえ、ゴロタ皇帝陛下は国王陛下には絶対に危害を加えないのでご安心ください。もし危害を加えるのなら、この城ごと消滅させても良いのですから。」
シルフさん、さらっと怖い事を言ってます。ベンジャミン総司令官は、僕達の国情及び攻撃の威力を良く知っているので、黙っていた。ここで僕達との協議が決裂してしまったら、折角、停戦まで持ち込んだことが灰燼に帰してしまうからだ。しかし、ブレードナット宰相は、素直に面会をさせる気持ちはないようだ。
「いえ、駄目だとは言いませんが、国王陛下は、現在、体調不良でご寝所でお休み中ですので、直ぐに面会をするの難しいかと。」
「あら、それならちょうど良かったですわ。ゴロタ皇帝陛下は、国内でも有数な治癒師ですのよ。ぜひ、御診せ下さい。」
「え?『治癒師』?あの攻撃魔法の他に『治癒』までですか?はあ。」
他の閣僚達は、固唾をのんで僕と宰相のやり取りを見守っていた。僕の狙いは、たった一つ。インカン国王に会って、正直にやってきたことを確認するだけだ。その結果、犯罪行為に該当することが明らかになった段階で、その後の処置を検討するつもりだ。この王城を消滅させることは、以後の王国の運営に支障が出るので我慢することにしている。徐々に罪状を明らかにしていくつもりだ。当然、今、城内に幽閉若しくは軟禁されている獣人の娘たちは開放するつもりだ。本当は、もっと早く来たかったのだが、この日まで待つようにシルフに言われていたのだ。
「さあ、ブレードナット宰相閣下、ご案内をよろしくお願いします。」
僕は、ほんの少しだけ『威力』スキルを使った。ブレードナット宰相は、ビクンとしてから、僕達の方を見た。今、自分に起きたことが僕の魔法によるものかを確認したかったのだろう。ブレードナット宰相の頭の中で、僕達を案内しなければという気持ちが沸き上がってきている筈だ。ゆっくりと踵を返し、無言で会議室から外の廊下に出ていく。当然、僕とシルフはその後をついていく。ベンジャミン総司令官達が僕の後からついて来ようとしていたが、しるふが、『皆様にはここでお待ちください。』の一言であきらめたようだ。中には、ホッとした表情の閣僚もいた。きっと後宮に立ち入るのは気が進まなかったのだろう。
ブレードナット宰相は、力のない歩き方で、廊下の奥の方に向かう。奥には大きな階段があって、3階に上がれるようになっている。階段を上がって行くと大きな広間になっており、円柱が何本も経っていた。円柱の間を抜けていくと、謁見の間の大きな扉があったが、その脇にある小さな扉を開けて入って行く。途中に何箇所かの部屋があり、騎士達が詰めていたが、ブレードナット宰相の姿を見て、皆、気を付けをして通してくれている。
廊下の突き当りは、変わった部屋だった。誰もいない広い部屋だ。奥に鉄製の扉がある。その扉の脇には、太いロープが垂れさがっている。真っ赤な絹糸でできていて、大きな房飾りがついている。ここが、後宮との境界部屋なのだろう。ブレードナット宰相は、そのロープを3回引いた。暫くすると、大扉の脇の小窓が開けられ、中年の女性が顔を覗かせた。その女性は、僕達の姿を見て、少し驚いているようだった。
「ブレードナット閣下、この方たちは何ですか。ただいま、国王陛下はお取込み中です。」
「いや、この方は、ゴロタ帝国の皇帝陛下だ。国王陛下への親書の件でお尋ねしたきことがあるとの事だそうじゃ。」
僕は、そのままブレードナット宰相の脇を通り過ぎ、鉄の扉に手を掛けた。中から鍵と閂が掛けられているようだ。僕は、構うことなく、その扉を押し開けた。鍵は『開錠』しておいたが、閂はそのままへし折ってしまったようだ。女性が持てる程度の閂棒だ。へし折るのは訳が無かった。
「な、何をするのじゃ。で、出会え。皆の者、出会え。」
後宮の奥から、女性衛士達が剣を抜いて駆けて来た。これは困った。僕は、今まで女性と戦ったことは無い。しかし、女性といえども衛士ともなると武芸に秀でているのだろう。その証拠に剣の構えに隙がなかった。シルフは、『異次元空間』からMP5を取り出して、スライドレバーを引き薬室に9mm弾を叩きこんでから構えた。僕は、手を差し伸べて、シルフを止めた。黙っていると、この女性衛士さん達は全滅しかねない。シルフにとって、男性も女性もなかった。自分達に害をなす存在かどうかだけだった。
僕は、剣も抜かずにそのまま彼女達に近づいた。
バチン!
戦闘の騎士の素晴らしい上段打ちが僕の脳天を狙ってきたが、『蒼き盾』が自動発動して完全に防御してしまう。物凄く固いものに打ち込んだように剣が弾かれ、女性騎士は思わず剣を落としてしまった。うん、きっと手が痛かったのだろう。僕は、そのまま、彼女の脇を通り過ぎて、手の平を彼女の方に向けた。一瞬で彼女は、その場にへたり込んでしまった。眠ってしまったのだ。 『威嚇』スキルで反抗力を奪っても良かったが、これだけ大勢に『威嚇』を使うとなると、威力の調整が難しい。強すぎて、失禁・脱糞でもしてしまったらお嫁に行けなくなってしまう。それで、『スリープ』を掛けることにしたのだ。勿論、無詠唱だし、効果は瞬間的だ。あ、眠り込んだ騎士さんの短いスカートから白い布地が見えているが、見なかったことにしよう。
ブレードナット宰相は、何が起きているか分からないまま、恐る恐る僕達の後からついて来る。中の人の気配から、この後宮には200人位の女性がいるようだ。そして男性はたった1人、国王陛下だろう。その気配のする方に向かって行く。僕の聴覚強化により、国王陛下の在室している部屋で何が行われているのか丸わかりだった。幼い女の子の声と、品の無い男の声が聞こえてくる。その声のしている部屋の前に立つ。扉のノブに手を掛けると、中から鍵がかかっているみたいだ。当然、鍵など無かったの如く扉をあけ放つ。
中には信じられない光景が繰り広げられていた。薄いベール越しの向こうでは、ベッドの上で、裸の男、きっと国王陛下だろう、その男の上に2人の猫人の女の子が乗っているのだ。勿論、何も着ていないが、幼すぎるのか胸もまっ平だ。一人は、国王陛下の腰の辺りに自分の腰を下ろして前後に振っている。もう一人は、国王陛下の顔の上に腰をおろしているのだ。二人の猫娘たちは、まだ幼いはずなのに、口から涎を垂らしながらうめいている。部屋の中には、変な煙と香りが漂っていた。僕の顔の周りに『蒼き盾』がうっすらとシールドしているので、きっと催淫薬か麻薬だろう。
国王陛下が僕達に気が付いて、猫娘達を突き飛ばして立ち上がった。下半身にはピクピクと上下に動いている大切なものが屹立していた。しかし、小さい。この小ささでは、普通の女性では相手にできないだろう。その小さな物は、更に小さくなって、どこにあるのか分からなくなった。
「そち達は何者だ。ここを余の寝所とし知っての狼藉か。おお、ブレードナット、どうした。なぜ、黙っておる。こやつらの首を撥ねよ。余の命令じゃぞ。」
ブレードナット宰相は黙って下を向いていた。もう『威嚇』は解いておいたのだが、何も言えないようだ。
「インカン国王陛下ですね。僕はゴロタと申します。」
「ゴロタ、下郎、お主の名前か。『ゴロタ』?聞いたことがあるような。そのゴロタが何の用で、このような無礼を働いているのじゃ。」
ああ、この国王陛下、今、自分の国が戦っている相手の皇帝の名前も知らいないようだ。さっき飛ばされた猫娘は、裸のまま、寝室の脇で抱き合って震えている。一人の娘の股間からは血がたれているようだ。きっと無理やりに挿入されたのだろう。いかに小さい物でも、幼女にとっては大きすぎるのだろう。
ここからは、シルフが質問をする。
「初めまして、私は『神聖ゴロタ帝国』の王室筆頭侍女のシルフと申します。いくつか国王陛下に質問がございます。」:
国王陛下、シルフを前にしても前を隠そうともしない。通常人の恥じらいとは無縁に生きて来たし、そもそも、毛に隠れて何も見えないのだから、恥ずかしがる必要もないようだ。
「質問なら、そこにいるブレードナットに聞け。余は、忙しいのじゃ。」
「いえ、国王陛下御自身にお答え願いたいのですが。そこにいる猫人の娘、随分幼そうですがお幾つかご存じですか?」
「知らん、そんなことは本人たちに聞け。」
シルフは、『異次元空間』から毛布を2枚出し、娘達に与えた。いくら暖房が効いているとは言え、季節は真冬だ。部屋の隅で震えているのは、恐怖からだけではないだろう。
「お嬢さん達は、今、お幾つですか?」
一人は、指を5本立てた。もう一人は、4本だ。え、4歳?それはひどい。むごすぎる。先ほどの股間から出血していた子だ。猫人特有のクリクリした目をしている可愛らしい子だ。猫人は、乳首が4つあるのだが、この子達は、乳房らしきものもないので、パッと見には人間の幼女と変わらない。シルフは、国王陛下の方を向いて、質問を続ける。
「この子達は、どこから連れて来たのですか?」
「知らん。そこにいるブレードナットに聞け。そいつが連れて来たのじゃ。」
シフルが、ブレードナット宰相に向き直った。
「ブレードナット閣下。国王陛下は、このように言っていますが、どうなんでしょうか?」
「あ、あ、あの子達は、王都の奴隷商から購入したのだ。あの子達が何処から来たのかは、良く分からない。」
「ここ、インカン王国では、性奴隷は何歳から売買できるのですか?」
「う・・・・。15歳からだ。通常の奴隷は12歳から、性奴隷は15歳からでなければ売買してはいけない決まりになっている。」
「それでは、この子達は、正式な売買によって購入されたのですか。両親又は保護者の売買承諾書はありますか。」
「確認しておらん。」
「それって、違法行為ではありませんか。」
「うむ、そ、その通りじゃ。」
「それでは、次に、ここで国王陛下の愛妾として慰み者になった子達は、それからどこへ行ったのですか?どこかの施設に預けられているのですか?それとも売却したのですか?」
「売却じゃ。売却したのじゃ。」
「それでは、売却した場合の売却証明書の写しと領収書を見せてください。必ずあるはずですが。」
「う、それは、もうない。焼却処分したのじゃ。」
「本当ですね。誰が焼却したのですか?」
「部下だ。部下が焼却したのじゃ。」
「なるほど、それでは最後に1点だけ。」
「な、何じゃ。」
「この城の地下牢の一角に、たくさんの人骨が埋められているのですが、それは何ですか?」
「う、な、何でそれを?」
「しかも、その骨の大きさからどう見ても、幼児らしいのですが。」
ブレードナット宰相は、夥しい尿を漏らしながら気を失ってしまった。




