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第2部第69部 開戦前夜

(7月31日です。)

  明日、いよいよ開戦となる予定だ。王国軍は、既に、旧ブキャナン公爵領つまり神聖ゴロタ帝国南アメリア統治領国境に向け、部隊は進軍中だ。明日、インカン王国から最終回答を貰う予定だ。衛星画像からの情報及びイフちゃんの定期偵察により、ゴロタ帝国の割譲申し入れを拒否し、戦争により領土奪還をしようとしている事は明らかだ。まあ、通常はそうなるだろう。今回の戦争の原因は、一方的に僕がいけないのだろう。しかし、この国から『専制と隷従』をなくすためには、この方法しかないということも確かだ。


  本来なら、国民の総意をもとに王政国家の転覆、つまりクーデターを起こすのが正解かも知れない。しかし、それを成功させるためには、支配階級つまり貴族達の懐柔若しくは粛清が必要であり、国王及び一族のの処刑により王制復活の望みを遮断しなければならない。それは歴史が証明していた。しかし、またクーデター後の内乱が延々と続いたことも然りだった。その間、犠牲を強いられるのは無力な国民達だ。戦争により圧倒的な力の差を見せつけ、王政回顧派の反逆心を押さえつけるのだ。しかし、出来ることなら無駄な戦いで多くの人々の命を奪う様な事はしたくない。この戦いは、決してイオラさんとイオイチくんの仇討ちではないのだから。


  今日、シルフが王都へ最終確認に行くことになっている。王城の正門前にゲートを広げ、部隊を展開してから、最後にシルフが向こうに転移する予定だ。また『F35』で行ってもいいが、大部隊を瞬間で移動できるということを見せつけてやるみたいだ。







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  午後2時、帝国国防軍部隊2000名が勢揃いしている。総戦力が4000名弱なので、総力の半分が集合している。隊員達の戦闘服がやっと間に合った様だ。通常勤務用の制服は、これから作成にかかるそうだ。今まで使用していた剣や鎧、兜は記念に払い下げていた。あっても邪魔なだけだ。その代わり、明細カバー付きのヘルメットと、ナイフ程度は貫通しない特殊繊維のベストを支給している。剣の代わりに全員にM16カービンを支給している。使い方は、30分程で覚えたみたいだった。試射をしたそうだったが、今日は我慢して貰う。


  またM16の銃身の先には銃剣が装備できる様になっているが、使用する事は無いだろう。また、将校には9mmパラベラム弾17発を装填できる拳銃『SIG SAUER P320』も支給している。最終的には、全員に支給する予定だが、適正を考えて支給する銃器を検討するそうだ。国防軍跡地広場に整列してもらっている。まだ隊本部と宿舎の建築は始まっていないため、ほとんどの隊員は幕舎に仮住まいだ。しかし、3日に1度の隊舎警戒勤務をゴーレム兵がやってくれているので、暇な隊員達は走ったり格闘技の訓練をしている。中には、ゴーレム兵と勝負したがっていた者もいたが、1m足らずのゴーレム兵に全く歯が立たなかった。スピードもさることながら、そのパワーが人外なのだ。魔力をエネルギーに変換しているが、瞬間的には200馬力を軽く超えるパワーを持っているのだ。もっと最悪だったのは、その戦法だ。確実に人間の急所を狙ってくるのだ。容赦のない攻撃で、死の一歩手前まで行った隊員達が続出したのだ。ヒムラ総司令官から、ゴーレム兵との格闘訓練禁止令が出されたのは間もない頃だった。


  2000名の部隊は、4個大隊に分け1個大隊は4個中隊、1個中隊は4個小隊、1個小隊は3個分隊に分かれていた。分隊長は曹クラス、小隊長は准尉から、中隊長は大尉以上の者を当てている。大隊長は佐官クラスとしていたみたいだった。


  50名のゴーレム兵に続いて、国防軍兵士が整列する。王城内からの反撃はなかった。いや出来なかったのだ。主な兵士達は、南方討伐軍に参加しており、僅かな警備の兵士しかいなかったのだ。


  シルフが、ゆっくりと現れた。銀色の貴族服を着ている。勿論、ミニスカバージョンだ。一人で正門の前に立った。正門の開くのを待っている。なかなか開かない。その内、城門の上の方から声がして来た。聞いた声だ。


  「シルフ殿、何をしに来られた。」


  ブレードナット宰相の声だ。上を見上げると、城門の上の小窓から宰相が顔を覗かせていた。まあ、これだけの兵士を連れて来ているのだ。普通、城門を開ける様な事はない。


  「明日の調印式の打ち合わせに来たのですが、城門を開けて下さい。」


  「打ち合わせに来るのに、その大部隊はなんじゃ。」


  「あら、これは私の護衛の部隊ですわ。返答によっては、貴国と戦争になるかもしれないのですもの。それで、明日の調印式、準備を進めてもよろしいですか。」


  「その件については、断固拒否すると言う事に決した。欲しければ剣で奪われればよかろう。われら5万の兵を相手に勝てるとお思いならばな。」


  「ホホホ!5万とは、随分、誇張されてますね。まあ、いいでしょう。それでは、口頭ですが正式に宣戦布告をさせていただきます。開戦は、明日正午とします。ご準備はよろしいですか?」


  城郭の上から矢が放たれてきた。使者を生きて返さないのは、戦時ではよくあることだ。魔法シールドを掛けることのできないシルフにとって、遠距離攻撃を防ぐ手立てはただ一つ。『異次元空間』へのゲートを開いて、そのゲートの中に矢を吸い込んでしまう。ゴーレム兵たちが一斉射撃をする。後方の部隊は、何もせずに見ているだけだった。下手に動いて、弓矢の餌食になっても面白くない。それに未だ射撃訓練もろくにしていないので、今日は何があっても待機するようにと指示しておいたのだ。ゴーレム兵たちの一斉射撃を浴びて弓矢部隊は沈黙してしまった。さあ、これで用はすんだ。踵を返して出て来たゲートの中に入って行くシルフだった。その様子を、城壁ののぞき窓からジッと見ていた士官が1人いた。グレコ大佐だ。グレコ大佐は我が目を疑った。あの憧れの少女、自分たちを助けてくれた少女が、敵の使者として来ているとは。芽生えたばかりの恋心が粉々に瓦解していくのを感じながら、流れる涙をふくこともせずにじっと立ち尽くすグレコ大佐だった。





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  その日の夜、またまた閣議を行っていた。ベンジャミン国防軍総司令官が、準備状況について説明していた。今日のように突然、2000もの兵が王城前広場に現れたら、わずか500名の王城守備隊では3日も持たないだろう。現在、南方に展開中の2万の王国国防軍から5000名を呼び戻し、王都の守りを固めることにした。しかし、いかに伝令を早く行かせても、戻ってくるのに1週間以上かかるだろう。その間、費用はかかるが冒険者ギルドに傭兵の依頼を出し、500名程の冒険者達で周囲を固めて貰いたい。


  ベンジャミンの意見には、誰も反対しなかった。専制攻撃を掛けるつもりで、早めに南方に兵を派遣したのに、あんな『空間転移魔法』を使われたら、何も役に立たない。逆に、進軍で長く伸びた派遣部隊最後方の輜重部隊を狙われたら、進軍そのものが困難になってしまう。とりあえず、進軍は中止して野戦の準備をして貰おう。あと、公爵領の騎士団達の応援が遅いが早く来るように督促の伝令を出すことも決まった。


  この時、ベンジャミンたちは、公爵達が示し合わせて騎士団派遣をわざと遅らせていると言う事に気が付かなかった。公爵達は、同じ一族とはいえ、弦国王のあまりにも非人道的な振る舞いに辟易していたのだ。自分たちの領内から奴隷でもない獣人の娘をかどわかしていくは、しかし、2万の国防軍を要する国王に表立って反抗するわけにも行かず、国王の要請に応諾はしたものの、『準備がかかる。』とか『流行り病が治まっていない。』などと言い訳をして部隊参集は遅々として進んでいないのだ。


  ベンジャミン国防総司令官は、この戦争は負けるかも知れないと考えていた。我が王国軍は、北方の蛮族からの侵攻を押さえるために随分長く戦い続けている。休む暇もなく、南方前線に派遣される兵士の士気は最悪だ。そもそも、南のブキャナン侯爵や子爵たちは苛政を強いる悪領主との評判を聞く。それを放置していた王国も王国だ。それに変態嗜好の強い国王に色々と貢物をしているブレードナット宰相や他の大臣達は、この戦争で多くの兵士が死ぬと言う事を理解しているのだろうか。


  まあ、明日、あの大部隊が王都に責めてきたら、守備隊の500を率いて死に場所を求めることにしよう。いや、500の兵士の内、妻や子ども、年老いた親を抱える者は除こう。200位しか残らないかな。武人としてここまで来れたのだ。もう未練はない。息子二人も、北方戦線で戦死してしまった。妻は、悲しみのあまり心の病になり、先日亡くなったばかりだ。もう何も未練はない。


  じっと死を見つめながら、ブレードナット宰相の恐怖におびえている顔を見続けていたベンジャミンだった。







  後宮と公務エリアの境は、鉄の扉で閉ざされている。宮廷衛士が二人立っているが、殆ど立っているだけだ。ここを通るのは、宰相だけであり、他の者が通ることは無かった。宰相は、小さな窓越しに後宮の老いた女官に用件を告げる。アンドレ・ベンリ・インカン7世国王陛下への拝謁をお願いしたのだ。暫く待たされた挙句、鉄の扉が、ほんの少しだけ開けられる。宰相1人だけが入れる隙間だった。


  中に入った宰相は、女官の案内で後宮の奥に入って行く。拝謁の間は、入ってすぐだが、その前を素通りする。


  「また、例の部屋ですか。」


  「はい、国王陛下は、夕食後はあの部屋からお出になりません。」


  「と言う事は、今は最中なのですか?」


  「はい、先日、宰相が差し入れてくれた虎人の娘をお可愛がり中です。」


  先日、といっても4日程まえだが、北の辺境の村から連れて来られた虎人の娘のことだ。虎人は、身体も大きく、女性でも成人すると身長が2m以上にもなってしまう。陛下の相手になるのには危険が大きいし、そのような巨体は好みではない。そのため、まだ5歳になったばかりの幼女を連れて来たのだ。幼女といっても、もう身長は120センチ位あった。女性の部分は、よく見えなかったが十分に使えるのだろう。


  陛下は、数年ぶりの虎人の娘だったので、いたくお気に召したらしく、この非常時だというのに1日に数度も閨を共にしている。そのうち腎虚になるのではないかと思うが、その時は、もっとましな後継者を見つければ良いか。


  インカン国王は、いくつかある寝所の内の1つの部屋にいた。ベッドの前には薄いベールが掛けられているが、何をしているかはよく見える。虎人の幼女を後ろから犯している。幼女は未だ5歳だというのに口から涎を垂らしながら腰を振っている。ああ、いつ見ても反吐が出る。ブレードナットは、膝を折り、頭を床に付けて陛下に声を掛ける。この姿勢なら、国王陛下の行為を直視しないで会話ができる。


  「陛下、ブレードナットでございます。」


  「なんじゃ、余は忙しい。もう少しなのじゃ。」


  「は、恐れ入りますが、明日、ゴロタという蛮人と戦争になります。そのことについてお願いがあるのですが。」


  「なんじゃ。すべてソチに任せているじゃろう。」


  「はあ、あす正午だけでよろしいのですが、拝謁の間にご臨席賜りたくお願いします。各、重臣や王都の貴族が集まりますので、戦意高揚の祝詞を賜りたいのです。」


  「何か、面倒じゃな。それは余がしなければならないのか。のお、余は、忙しい。お、どうじゃ。どうじゃ。もうすぐか?」


  「ああ、殿ちゃま、気持ちいい・・・」


  ブレードナットは、黙って部屋を出て行った。部屋からは、幼女の叫び声が響いて来ていた。

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