第2部第63話 勅使派遣
(7月22日です。)
今日は、インカン王国の王都にある王城に領土割譲の申し入れをするため、勅使を派遣する。勅使は、勿論シルフだ。今日のシルフの服装は、ミニスカ貴族服だ。護衛はゴーレム兵が1体だ。まあ、護衛はいなくても良いが、国家の威厳を保つためにも護衛がゼロという訳にも行かないそうだ。僕が書いたことになっている勅書も、当然、シルフが作成している。内容は良く分からなかったが、8月1日が調印期限にしているらしい。割譲した場合、向後3年間の納税と交易の自由つまり自由貿易を認めるが、拒否した場合には、当然にすべての権利を失う他、神聖ゴロタ帝国に宣戦布告をしたと見なすと書いているらしい。もう、殆ど脅しだ。
シルフは、『F35改ライトニングⅢ』で王都に向かう事にした。すでに、王都の詳細な地図は完成しており、今回の着陸地点は、王城の中庭だ。王城は、砦の機能も有しているので、敵部隊を引き込んで城壁の上から一気に攻めるための広い中庭をゆうしているのだ。あ、そう言えば、『白龍城』には、そんな中庭などないが、前庭に来た段階で殲滅できるので必要ないそうだ。シルフは、貴族服にフライト・ヘルメットという訳の分からない格好をして『F35改ライトニングⅢ』の前操縦席に乗り込んだ。ゴーレム兵は、いつもの戦闘服に暗視鏡付きの戦闘ヘルメット、それにM16小銃を持ったまま後部座席に乗り込んだ。轟音を残して垂直に離陸していった。高度200m位で水平飛行に移って行ったが、安定した離陸だった。でもどうして、翼下に250キロ爆弾を2発と対地用のロケット弾4発を装備しているのか分からない。
ビンセント君が、『どうなるでしょうね?』と不安そうだった。まあ、このままだったら、ビンセント君はお国には帰れないだろうが、どうしても帰りたいのなら、外交交渉で帰還させてもいいと思っている。でも、このまま帝国にいて、バーミット男爵領を引き継いだ方がいいのではないかと考えている。
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シルフ達がサウス・インカン市を飛び立ってから約1時間後、インカン王国の王都、セント・インカン市の中央にある王城では、聞きなれない音にアンドレ・ベンリ・インカン7世国王陛下をはじめ、全ての重臣及び兵士、使用人たちが戦慄を覚えた。そらから銀色の見たこともない飛竜が降りて来たのだ。いや、飛竜ではない。見たこともない機械だった。この機械は、はるか南から豆粒みたいに見えていたところ、あっという間に王城の上空に来てしまったのだ。
アンドレ国王陛下は、その空飛ぶ機械を城壁の上からジッと見ていた。ベンジャミン国防軍総司令官が『陛下、危ないから城の中へ。』と言ったので、直ぐに供の愛妾とともに寝所に戻った。ちょうど、午後の営みを始めようとしていた矢先だったのだ。
城壁の上には、国王陛下の他には、
・ブレードナット宰相
・ベンジャミン国防軍総司令官
・バーモント王国魔法騎士団長
・ビンセント外務大臣
・ボロネーズ司法大臣
・バイマール衛士庁長官
と、王国の重臣達が勢ぞろいしていた。ベンジャミン国防総司令官は、ジッと銀色に光る不思議な機械を見つめている。我が国にはない異形の機械だ。その機械は空から、ゆっくりと中庭に降りてきたが、その機械から吐き出される炎と風それに轟音は、この世の終わりかと思われるほどだった。上についているガラス製の蓋が上がったかと思うと、奇妙な姿をした者が降りて来た。まだらの模様が付いた服の上下を着て、カブトに似た帽子を被っている。変な眼鏡もついているようだ。男か女が分からないが、身長は1m位しかなく、手には武器だろうか、細長い不細工な機械を構えていた。その男が周囲を警戒する素振りを見せている間に、先ほどの機械から貴族服を着た女の子?が降りて来た。スカートを履いているが、身長は150センチ位しかないので女の子だろう。やはり変わったヘルメットを被っていたが、そのヘルメットを脱ぐと、超絶可愛い部類の女の子だった。緑色の長髪を風になびかせて、何かを喋っている。あ、物凄い声だ。中庭中に響き渡るような大きな声だ。これは絶対に『拡声』の魔法だ。大声に驚いた騎士たちが、弓を構える。いつでも、城壁の上から攻撃できる。しかし、
「私は、神聖ゴロタ帝国の勅使です。皇帝陛下の親書をお持ちしました。宰相か外務大臣はいらっしゃいませんか?」
声は、あの小さな女の子ではなく、乗ってきた空飛ぶ機会から聞こえてくるようだ。
「武器を捨てなさい。」
ベンジャミン司令官は、大きな声で叫んだ。女の子は、直ぐに返事をしてきた。
「あなた達が、私達に向かって弓矢を向けているのに、どうして私達だけ武器を捨てなければいけないのですか?それとも、あなた達の国では、諸外国に対していつもこのような態度を取るのですか。」
うむ、一理あると思った。しかし、我がインカン王国は、諸外国との交流がほとんどない。唯一国境を接している中央アメリア諸国連合とは、現在、戦争状態にあり友好的な関係など数百年に渡って記録が無かった。
「弓矢隊、弓を下げろ。投げ槍隊、槍を納めろ。」
城壁の上の騎士団は、ベンジャミン司令官の命令に従い、射線から退いた。しかし、魔法騎士達だけは、いつでも魔法が打てるように準備していた。ワンドに嵌められた魔石が光っている。相手がどんな武器を持っていても、これだけの数の魔法騎士から一斉攻撃を浴びたら、普通の人間なら生き残れるはずがなかった。しかし、それは、彼女からは見えないように隠匿していた。それとは知らない勅使の女の子は、すぐ傍の小さな兵隊に何か命令していた。あの小さな兵隊、身長から言うとコボルト族程度だが、皮膚の色が銀色なので、亜人ではないのかも知れない。その兵隊は、手にしていた武器らしいものを肩にかけて気を付けをしている。その動作は、鍛錬を重ねた兵卒のものだった。
ベンジャミン司令長官は、ブレードナット宰相とビンセント外務大臣らとともに中庭に降りて行った。中庭に面した鉄格子の門が開いた。ベンジャミン司令長官を先頭に2人がついて来る。このような場合、どうしても武人の長であるベンジャミンに文人達は従ってしまう。しかし、外交交渉そのものは、宰相と外務大臣の仕事だ。傍に近づくと、その女の子は15~6歳位で、エルフ族と思えるほどの美少女だ。しかし耳が通常の人間族の者なので、きっと人間族なのだろう。それよりも、あの貴族服、あんなに短くて、あれでは見えてしまうではないか。コホン、見たくなどないが。
「私は、神聖ゴロタ帝国のゴーレシア・ロード・オブ・タイタン皇帝陛下の秘書をしておりますシルフと申します。宰相閣下はどちらですか。」
ブレードナット宰相が手をあげて前に進んでくる。シルフ嬢の後ろの兵士が肩に担いでいた武器を両手で持ち直した。うん、良い、動きだ。訓練を重ねている事が良く分かる。
「儂が、宰相のブレードナットじゃ。シルフ殿。して、今日は、どのようなご用件じゃ?」
その女の子は、空中から大きな文箱を出してきた。見事な彫刻が彫られ、金箔が貼られている、眩しいばかりの箱だった。
「この中に、陛下の親書が入っております。内容は後ほどご確認ください。これより8日後の7月30日に、ご返事をお伺いに参ります。返答内容によってですが、8月1日には、ゴロタ皇帝陛下がお伺いする予定となっております。それでは、これにて。」
シルフは、そのまま踵を返して、F35に向かい、タラップを昇って行った。宰相以下、3人のおじさん達は、シルフの真っ白なパンツをしっかりと見てしまっていた。ああ。
兵士も機械の中に乗り込んだら、タラップは自動で格納され、キャノピーも自動で降りてきてロックされた。ヘルメットを被って、エンジン始動だ。轟音が中庭に響き渡る。ベンジャミン司令長官は、宰相達をかばいながら、城壁の中へと非難していく。彼らが避難したのを確認してから、F35はゆっくりと上昇を始めた。みるみる上昇していき高さ300m程度まで上昇してから、ゆっくりと方向を南側に向けていく。水平飛行に移ったら、あっという間に見えなくなってしまった。
城壁の上の兵士達に警戒を解くように命令してから、閣議室に重臣たちが集合した。各行政機関の長官も集っていたので、30名以上が閣議室に入って着席している。ブレードナット宰相が、金色の箱を開けて、内容を朗読する。内容は驚くべきものだった。王国の南半分をゴロタ帝国に割譲しろと言うものだった。しかし、一部の重臣達は、恐れていることが来たと思っていた。すでに、ゴロタ皇帝がブキャナン侯爵領内の貴族を全て殲滅したという報告が来ていた。ゴロタ皇帝に従わなかった貴族連合は、戦闘になるまえに、空飛ぶ機械で指揮官たちを爆殺したとのことだった。あと、ブキャナン侯爵の正規騎士団3000名が一瞬で殲滅されたという報告も入っている。とにかく、ゴロタ皇帝のやることは人間離れしていた。今日は何も無かったが、あの空飛ぶ機械が王都上空を飛び回る姿を想像してみると、あの黒龍が飛翔するのに匹敵するだけの恐怖だ。我々には何もなすべきことは無いだろう。
しかし、このまま領土の南半分を割譲して良いものだろうか。そのうち、残った北半分の領土も寄こせとなるかも知れない。そうしたら、ゴロタ帝国と戦争になるかもしれない。それでなくても、北の国境地帯では戦闘が絶えないというのに、南方にも戦力を振り分けるとなると膨大な戦費がかかってしまう。
重い空気の中、ビンセント外務大臣が、
「この問題は、我々だけで解決するのは、かなり困難なので、国王陛下のご意向を確認しましょう。もう、今日は陛下はお休みになられているので、明日、陛下に奏上すると言う事でいかがでしょうか?」
この意見が、本日の閣議の最終決定となった。その頃、肝心の国王陛下は、昼だというのに猫娘を押さえつけて、淫靡な行為を重ねていた。




