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第2部第61話 ブキャナン侯爵領の叛乱その2

(7月12日です。)

  僕達は、サウス・インカン市の北東を流れるネグロ・アマソン川のほとりにいた。対岸には、約8000名の兵士達が待機している。昨日、ブレメン子爵には勧告状を送付しておいた。『このまま兵を引き返せば、本人及び家族の安全は保障してあげる。』という内容だった。返答は、無かった。通常なら、死者の首を送り返すらしいのだが、この勧告状を持って行ったのはイフちゃんだった。それも何時もの女の子の格好で。イフちゃんには、『どんなことがあっても絶対に敵を殺さないで。』とお願いしておいたので、近くの兵が子爵の合図で切りかかってきたときには消えていたそうだ。


  しょうがない。戦闘開始は、本日の正午と決めていた。相手は、投石器を河原に並べていたが、一体、どこを攻撃するのだろうか。こちらには、僕とシェル、ビンセント君とミリアさん、それにイリス隊長と衛士隊200名、それにケバック長官だけしかいない。


  正午になった。向こう岸から攻撃を知らせるラッパの音が聞こえる。しかし、河が邪魔をして、大部隊では寄せて来られない。木造の古びた橋を渡ろうとして来た。その時、後方から、物凄い轟音が聞こえて来た。『F35改ライトニングⅢ』だ。勿論、操縦しているのはシルフだ。敵の上空にから反転、急行下をしてくる。狙いは、敵本陣の幕舎だ。ご丁寧に貴族達の紋章旗が掲げられている。全部で6本立っている。と言うことは、ブレメン子爵以下貴族全員が集まっているのだろう。その幕舎に200キロ爆弾2発を投下する。幕舎に命中する。大爆発が起きた。F35は、地上スレスレで機首を上げながらターンをする。今度は、水平飛行になり幕舎の上に戻って来た。速度を落とし、ホバリングモードになって、幕舎があった付近を点検している。幕舎を中心に半径50m位の穴が空いている。周辺には負傷者が大勢いるが、穴の中に生存者はいないみたいだ。F35は、そのままゆっくりと方向変換し、こちら側の河原へ向かって来る。僕達は、河原の土手の上に立っていたが、目の前にF35が着陸した。


  F35のキャノピーが開き、シルフが降りて来た。僕達の方を向いて右手で敬礼し『ミッション・コンプリート』と言った。絶対、何かを真似している。


  そんな光景を見てイリス隊長をはじめ、衛士隊の皆が震えている。ケバックさんは、とっくに気を失っている。


  戦闘は1分程度で終了した。あれが戦闘と言うならばだ。結局、爆心地周辺の負傷者と遺体を回収してサウス・インカン市の診療所に搬送し終わるのに夕方まで掛かってしまった。


  逃げた騎士達のうち、戻って来て帰順した者が4000名、残りの4000名近い者は、王都に向かうか元々の住まいに帰ったのだろう。心配なのは、金で雇われたゴロツキ出身の傭兵達だ。野盗などにならなければ良いが。


  診療所では、シェルとミリアさんが待っていた。重傷者については、シェルが『治癒』をし、軽傷者についてはミリアさんが『ヒール』をしてあげたが、途中で魔力が尽きてしまったらしい。しょうがない。僕が診療所全体に『ヒール』を掛けてあげた。回収した遺体は、32体だった。教会の共同墓地に埋葬したがブレメン子爵達の遺体は見つからなかった。貴族たちは、全滅したのだろう。この貴族の中には、ブレメン子爵に逆らえずに仕方なく出陣してきた者もいるのだろう。可哀そうだが、戦争なんてそんなものだ。多くの将兵は、命令に従っただけで、命を落としてしまったのだ。この償いは、ブレメン子爵及びその配下の貴族達が負うべきものだ。これから、この領内を正常化するのに、一体何日かかるのだろうか。







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(7月20日です。)

  結局、あの戦闘後、捕虜にした者は、直ぐに開放し、身元を調査し、騎士だった者は帝国直轄の騎士団に入るかどうかの意思確認をした。この前、ブキャナン麾下の騎士団を殲滅したので、通常兵力が皆無の状態になっている。その補充だ。冒険者で、傭兵をやっている者は、そのまま無罪放免だった。冒険者証は、そのままで、資格喪失にはしなかった。ゴロツキ出身者達は、今までの罪状を自供してもらい、自供内容に応じて、帝国刑法に従って処断した。殆どの者は死刑又は犯罪奴隷落ちだった。


  騎士として採用した者の中から元の階級で最高位にあった人は、ブレメン子爵領の北側にあるネブリ男爵領の騎士団長をしていたヒムラさんという人だった。ヒムラさんは、ネブリ男爵には、ブレメン子爵の呼びかけに応じず様子を見るように諫言したが、全く聞き入れてもらえなかったそうだ。ネブリ男爵麾下の騎士団600名を引き連れて参戦したのだった。


  あの戦いでは、我が騎士団が先鋒を務める事になり、自分も早くから本陣を離れ、部隊の準備をしていたので爆撃を受けずに済んだとのことだった。


  僕は、ヒムラさんに騎士団の編成をお願いした。シルフが、


  「これから全国に騎士団員の募集をかけて下さい。募集人員は、今回の帰順者を含めて5000名です。」


  「全国というのは?」


  「はい、ここ旧ブキャナン公爵領から南側全てです。」


  「しかし、南側には、伯爵領や子爵領もある筈ですが。」


  「ご安心下さい。すでにゴロタ陛下の直轄地となっております。」


  え?!聞いていないんですけど。


  これから直ぐに子爵領に行って、勝利宣言をしても良かったが、シルフが『暫く様子を見ましょう。』と言った。まだ、新皇帝に不満を持っている者がいるかも知れないし、子爵や男爵がいなくなって、街を乗っ取ろうとしている者が出てくるかも知れない。


  それからが忙しい。まず、神聖ゴロタ帝国が、インカン王国の南側を割譲して貰う条約締結の使者を送ることになった。使者は、イフちゃんとビンセント君にお願いする。ビンセント君は、そのまま王国に留まっても良いし、帝国に帰って来ても良いけど、家族のこともあるだろうから、暫くは王国にいる事になった。


  それから、ケバックさんの紹介で、建設会社を訪ねた。サウス・インカン市の中心街にある『ディアアイランド建設』と言う会社だ。社長以下、幹部社員全員が整列して出迎えてくれた。社長のカジマさんには、幾つかのお願いをした。


  ・現在の侯爵邸を回収して貰いたい。特に、壁紙、カーペットは全て交換して貰いたい。また、トイレは水洗とし、全館、冷暖房とすること。


  ・現在、何も無くなっている旧騎士団本部を早急に建設すること。収容人員は、最大3000名規模とする。また、単身寮及び家族寮も別棟で建設して貰いたい。


  ・行政庁内部の模様替え及び冷暖房を完備すること。


  ・小学校及び中学校をつくって貰う。小学校は、8校、中学校は2校だ。将来的にはこの4倍は必要になるだろう。あと病院は、入院患者300人を収容出来る総合病院を建設する。


  ・あと、東西、南北メインストリート及び行政庁前広場を煉瓦舗装とすること。


  以上を、取り敢えずの要求とした。カジマさん、口をあんぐり開けている。自分の会社だけではとても対応できない。他の会社とジョイントベンジャーを組んで良いか聞いて来た。よく分からないが出来るならなんでも良かった。


  侯爵邸の内装改修は、シェルに一任した。行政庁のリフォームは、シルフとケバックさんが相談して決めて貰いたい。騎士団本部建設は、ヒムラさんにお願いすることにした。


  それから、洋服店に行き、騎士団の制服を作って貰う。ゴロタ帝国の国防軍と同じデザインの制服及び戦闘服を作って貰う。仕様の詳細は、シルフにお願いした。早速、明日、北門の郊外に駐屯している部隊に行って、採寸することになった。


  その後、行政庁に行ってケバックさんに来年度の教職員及び医師・看護婦の採用をお願いした。募集は、旧ギュート子爵領及びバーミット男爵領まで募集を掛けるようにお願いした。ケバックさんは、『現在の市財政にはそのような余裕はない。』と言ったが、費用のことは気にすることはない。将来的には、領地から十分な収益が上がる筈だ。それは、セント・ゴロタ市や各都市で実証済みだ。


  劣悪なインフラを整備して人々の生活環境が向上すれば労働意欲の向上と生産性が上がり、最終的には税収が上がると言うことになるわけだ。あと、この街の特産を考えるべきだ。農産品や工業製品ばかりではない。藝術でも学術でも首都ならではの高付加値の産業なり機能を持たせれば、必ず収益が上がって行くはずだ。また、この前攻略した西のダンジョン以外にも放置されているダンジョンがないか聞いてみよう。ダンジョンは、放置しておくと魔物が湧くだけではなく、鉱石やポップ品が新たに発見されることがあり、経済活動にも多大な貢献となるはずだ。


  市内の行政や、司法関連の計画が固まったら、騎士団長のヒムラさんと選抜部隊100名を引き連れて地方都市の巡閲して回る予定だ。各行政機関の確認や住民の困窮状況特に食料のひっ迫状況について、早急に手を打たなければならない。出発は、騎士団の制服が出来上がり、騎士団、いや正式には


  『神聖ゴロタ帝国南アメリア統治領防衛軍』


  とする予定だ。『南アメリア』とは、この大陸の名称だそうだ。シルフが、ブキャナン侯爵が所蔵していた古文書を解読して判明したそうだ。と言う事は、この大陸の北に位置している大陸は『北アメリア大陸』というのだろう。この大陸は、南北ともに、もともとは人類が住んでおらず、イオークが統治していたらしい。それが、2000年位前の人魔大戦の時に、逃れて来た旧大陸の人間族やエルフ、獣人等の亜人が、鉄製の武器により瞬く間にこの大陸を征服したそうだ。


  ちなみに、僕が生まれ育った大陸は、グレート大陸と呼ばれ、北側がグレーテル大陸、南側はタイタン大陸と呼んでいる。タイタン大陸は、南大陸を平定した際に、そう呼称することにしたのだ。タイタン大陸と南アメリア大陸の間の大陸は『マングローブ大陸』と呼んでいる。シルフが衛星画像等で確認したところ、タイタン大陸とアメリア大陸の間には、大陸は無いそうだ。


  とりあえず、今日は、ホテルに泊まって、明日、旧公爵邸に引っ越すつもりだ。

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