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第49話 プチ・ファッションショーと竜の火柱

  もう、女性陣に振り回されっぱなしのゴロタです。こんな展開じゃなかったんです。最初は、残念エルフとの二人旅で、まったりと愛をはぐくむはずが。今回は、女性の本質を鋭く突いた問題作です。(嘘です。)

(5月8日の夕方です。)

  シェルさん達が、買い物から帰ってきた。沢山の袋に、色々な服が入っていた。僕の前で、ファッションショーの開始だ。


  普通、ファッションショーって、ステージの袖の方で、モデルさんが着替えるのだが、ホテルの部屋では、そんなスペースなどあるわけない。僕の視界の中で着替えている。目のやり場に困ります。


  僕は、ベッドに座って、彼女達が買ってきた服を見て、


    綺麗だ。

    可愛い。

    素敵 。

    見たことない。

    デザインがいい。

    色がいい。


  もう、凡ゆる褒め言葉を駆使して褒め続ける。とても、平素、コミュ障とは思えない。極め付けは大きなつばの付いた帽子。これから日差しが強くなるので、必需品だとか。


  あれ、シェルさん、以前、似たようなのを持っていましたよね。僕がそう言うと、シェルさんは、横を向いて、口笛を吹いている。


  僕が、皆にお願いした。


  それぞれの荷物を、袋に入れて、誰のか直ぐ分かるようにして貰いたいと。どうして、そんなことをするのか聞かれたので、イフちゃんの異次元空間のことを説明すると、皆の、眼の色が急に変わった。


  また、買い物に行くと言うのだ。何を買うのかと聞いたら、服を入れる可愛い袋とか、あれとか、それとか。兎に角、もう洋服は買ってはダメとお願いしてから買い物に行かせた。


  帰ってきたシェルさん達は、それぞれに色の違う大きな旅行鞄を持っていて、名札が付けられていた。そして、反対の手には、何かが入っている大きな袋を持っていた。


  結局、彼女達の洋服、下着、靴、化粧品は旅行鞄に入れ、武器や防具、それに今は着なくなった冬物の洋服を、新たに買ってきた大きなザックに入れる事になった。平素は、ミニスカ姿で旅行すると言う。完全に、冒険者だと言う事を無視しているような気がする。


  しょうがない。もう片方のザックには、キャンプ用品や食料品を入れる。飲料水は、クレスタさんが、水魔法で出してくれるので、携行用の水筒のみを持つ事にした。







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(5月9日です。)

  次の日、駅馬車の停車場には、異様な集団がいた。白を基調としたミニスカ集団で、大きなつば広帽子を被っている女性が4人。そして、真っ赤なワンピースを着た小さな女の子が1人。小さな女の子以外は、それぞれが、高級品で有名な馬車のバッジが貼ってあるハンドバッグやショルダーバッグを持っている。


  随行している小さな男の子(僕のことだけど)だけが、鎧を付けて双剣を帯剣している。一体、この集団は、何処へ何をしに行く気なんだろう。野宿もある旅なのに、あんな短いスカートで、どうする気だろう。他の旅行客には、そう思われていただろうことは間違いない。


  僕達が向かうのは、ダンベル辺境伯領の領都。その先は、帝国領になる。その間に、キャッシュ伯爵領内の村が1つと、辺境伯領内の町が1つ、村が2つあるそうだ。途中、野宿が5回あり、順調に行けば、11日間から12日間の旅だ。


  ダンベル辺境伯領は、広大なため、未開の地も多く、ハッシュ村のように、旅行者が行かないような村が南北に数多く点在しているみたいだ。そのような村々は、領都ダンベル市との直通馬車が週に何便かあるが、全く無い村もあるそうだ。そのような村は、自分たちの馬車や牛車で移動しなければならない。


  今日は、皆と合わせて、麦わらのつば広帽子を被っている。さすがに高級バッグは持っていない。でも、どんなに日差しが強くても日焼けすることは無いはずなのに。


  今回の駅馬車は、8頭立ての馬車が2台、ダンベル辺境伯領の最初の町まで警護してくれる冒険者6人が乗る6頭立ての馬車が1台だ。


  冒険者さん達は、『B』ランクパーティーに、何人か応援の冒険者さんで編成されており、ある程度の盗賊集団にも対応できるとの事だった。


  初日は、野宿だ。イフちゃんが、物陰で、キャンプセットを入れているザックを持って現れた。持ってと言っても、ただ手を触れているだけだが。ザックは、そのまま地上に置かれていた状態で現れた。現れ方も、手前側から徐々に見えてくるのだ。きっと、異次元空間と結ばれているゲートのようなものが前後しているのだろう。


  6人用のテントを張り、竈門セットと食材、食器を出す。料理をするのは、クレスタさんとノエル、それに僕だ。


  今日の夕食は、カレーにする。以前、作った時に作りだめしたカレー粉があるので、簡単に作れるだろう。大きな鍋に、油を敷き、猪のロース肉を細切れにしたものと、玉ねぎを一緒に炒める。玉ねぎが飴色になってきたら、カレー粉と小麦粉を加えて、さらに少し炒める。水を足して、ジャガイモと人参を入れ、グツグツ煮込む。具材が柔らかくなったら、カレー粉を足して、一煮立ち。出来上がりだ。


  カレーを作っている脇では、クレスタさんが、小麦粉を練っている。


  あらかじめ、小麦粉には、イースト菌、砂糖、塩を加えている。練り終わったら、しばらく寝かしていた。カレーが出来上がるのを待って、今度はフライパンにバターを敷き、1.5倍に膨らんだ小麦粉を薄く伸ばして焼き始めた。ナンという料理らしい。


  全てを焼き終わったら、食事となった。4人掛けテーブルに6脚の折り畳み椅子を設置して皆で一緒に食べる。焼きたてのナンが美味い。


  カレーが辛かったが、ノエル以外には好評だった。ノエルには、辛過ぎたようだ。余ったカレーは、鍋ごとイフちゃんに仕舞って貰う。僕には、分からないが、異次元空間は時間が止まっていると言うか、時間の概念がないそうだ。


  本来ならば、物質も存在出来ずに、黒い穴の中に吸い込まれるのだが、精神的存在のイフちゃんが、そこに存在するだけで、空間は歪み、黒い穴も存在のみのものとなってしまうそうだ。良く分からなかった。


  で、イフちゃんが作り出した快適空間も、イフちゃんがその場所を見ようとすると現れ、平素は有るか、無いかのどちらかで、猫が決めているそうだ。無くても心配要らない。有ると思って見ると有るのだから。きっと、その猫は凄い猫なのだろう。


  でも、よく分からないので、説明はスルーすることにした。


  今日は、クレスタさんと一緒に寝袋に入った。最初は、下着の上下を着ていたが、魔光石を消すと、モゾモゾ動いて、裸になり、胸と下半身を押し付けてキスをしてきた。僕は、モシャモシャのビチャビチャお股に手を引き込まれながら眠ってしまった。






  次の日の朝、僕は一人で起き出し、小高い丘の向こう側に行った。


  「出でよ『ワイ』、その姿を現わせ。」


  ワイちゃんが、空中に姿を現した。最初から、地上に立った状態だと、障害物等が有った場合に都合が悪いので、空中に現れる事にしている。翼を目一杯広げているので、20m位の幅である。


  『呼んだ?』


  『僕を背中に乗せることが、出来るんですか?』


  『出来るよ。でも、鞍と手綱は?』


  『ああ、そうか。じゃあ、準備ができたらまた呼ぶよ。』


  『うんと、あのさあ、なんかご馳走が食べたいなあ。』


  『何が、食べたい?』


  『お肉。大きな獣がいいな。僕の山、あんまりいないから。7日ほど、何も食べてないんだ。』


  竜種は、魔法的存在であり、魔力さえ枯渇しなければ飢え死にする事は無いらしい。しかし、何も食べないと、お腹は空くようだ。


  『なんだ、早く言ってくれれば、準備したのに。』


  『うん、ありがとう。』


  ワイちゃんは消えた。


  テントに戻ると、ノエルが朝食の準備をしていた。お湯を沸かして、お茶の準備も終わっていた。ノエルは女子力が高いので、きっといいお婿さんが見つかるだろう。


  その日は、馬車に揺られて8時間、小さな村に到着した。今日は、宿屋に泊まれる。女性陣は、お風呂に入りたがったが、シャワーしかないという。仕方がないので、シャワー付きのダブルとツインを頼んだ。


  村の食堂で郷土料理を食べた。海藻が入っているお湯に、肉や野菜を入れて、柔らかくなったら、濃いめ味のスープに付けて食べるのだ。非常にシンプルだが、美味かった。夜のベッドは、エーデル姫とノエルのペアだった。エーデル姫は、いつものように密着してきたが、僕はノエルの方を向いて直ぐに眠ってしまった。





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(5月11日です。)

  翌朝、まだ薄暗い時に起きた僕は、普段着に『ベルの剣』だけ持って、宿を抜け出した。


  村の外まで出て、思いっ切り息を吸って、身体中の細胞を覚醒させる。辺りの色々な音が聞こえてきた。色々な匂いがしてきた。僕は、雑多な情報の中から、1頭の獣の存在を感知していた。鹿だ。しかも、かなり大きい雄鹿だ。僕は走った。鹿に気付かれたって構わない。


  僕は、鹿に接近した。鹿は、漸く自分に接近する危険を感知して、横っ跳びに逃げようとした。


    遅い!


  僕は、剣を抜くと同時に『瞬動』により、雄鹿の逃げる方向に先回りすると共に、剣を突いた。


  雄鹿は、心の臓を刺し抜かれて動かなくなった。僕は、雄鹿の傷口を焼いて出血を止めると、ワイちゃんを呼んだ。


  「出でよ『ワイ』、その姿を現わせ。」


  ワイちゃんが、上空50m位の所に現れ、ユックリ降りてきた。


  『呼んだ?』


  『昨日、約束したお肉を準備しました。とっても新鮮です。どうぞ、召し上がって下さい。』


  『ええーっ、本当に、いいの?僕、一人で食べちゃうよ。』


  『あ、でも、食べにくいから、角を取ってくれるかな。』


  雄鹿の立派な角を切り落とした。ワイちゃんは、直ぐに食べ始めた。流石に、この大きさは、丸呑み出来ないので、3回に分けて噛み砕いていた。口元から、ダラダラと鹿の血が零れ落ち、なかなかエグい状況だった。


  食べ終わったら、ワイちゃんは、上空に顔を向けた。大きく息を吸ったのち、上空に向けて炎のブレスを吐いた。この前と違い、眩しい位に赤い、本当の意味でのブレスだった。はるか上空まで昇っていったブレスは、ユックリと白い雲になって流れていった。


  『ごめん、お腹が一杯になって、ついブレスしちゃった。』


  「い、いえ、大丈夫です。」


  『それからさあ、敬語は、もうそろそろ、やめてくんない。タメ口で行こうよ。』


  自分が、召喚された立場をすっかり忘れている、ワイちゃんだった。村に戻ると、大変な騒ぎになっていた。ワイちゃんは、目撃されていないが、真っ赤な炎が、空に駆け上がったかと思うと、白い雲になって風に流れていった。まるで、昇竜のようだったと、言う者もいた。いや、単なるブレスですから。


  ホテルでは、既に起き出していたシェルさん達が、玄関脇のベンチに座って、大分薄くなってきた雲を眺めていた。シェルさんが、僕を問い詰める。


  「ゴロタ君、君の仕業ね。君、何をやったの?」


  朝早く起こされたからか、ちょっときつい言い方だった。シェルさんは、いつも寝起きは機嫌が悪い。その声に吃驚して、昔に戻ってしまった僕は、下を向いて、小さな声で、


  「ワイちゃんが。」


  と言った。何故か、涙目になった。ハッと気付いたシェルさんが、僕の肩を両手で抱きしめて、


  「ごめんね。全然怒ってないから。泣かないで。」


  そう言いながら、長い朝のキスを始めたので、他のみんなに引き剥がされていた。部屋に戻ってから、ゆっくりと、ワイちゃんの事を話した。

  ワイちゃん、凄い。本物の竜みたいです。この物語では、竜は、前足が翼になっている蝙蝠や鳥類のような形にしました。蜥蜴の背中に翼が付いているのは、どうも恰好が決まらないのでやめました。

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