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第2部第55話 恐怖と戦慄の街その2

(6月29日です。)

  『鉄面皮団』を壊滅させてから、事務所の中を検索した。死体は、総長を含めて50体以上あった。保護した女性は人間種6人、亜人と獣人が3名。女児と男児が7名だった。皆、奴隷に売られるはずだったが、間一発助かったようだ。


  総長室の奥の金庫から押収した金貨、銀貨類は鉄貨1枚残さず押収した。書類は借用書と奴隷売買許可証それと奴隷取引同意書などだった。全て灰にする。死体の散乱する総長室で金貨類の押収品目録を作成するのも大変だろうが、しょうがない。


  この付近に奴隷市場があり、奴隷商人の事務所も多いらしいが、今、大量の奴隷を保護するわけに行かない。後回しにしよう。


  次に、南部エリアを仕切っている『喧嘩上等団』に向かった。変な名前だが、人の好みにとやかく言う気はない。事務所は、ホテルから3キロ位行った商店街にあった。パッと見には何の店か分からない建物だった。看板もない。イリス隊長が最近のギャングは、こう言うのが多いらしいのだ。一見、真っ当な商売をしているように見せかけているのだ。玄関の扉は鍵がかかっていなかった。中に入るとカウンターがあって女性が二人座っていた。


  イリス隊長を見て少し驚いていたが、平成を装っていて、


  「いらっしゃいませ。ファイト一発商会にようこそ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」


  「会長はいるの?」


  「申し訳ありません。会長は、ただいま出かけていますが、お言付けを承ります。」


  「嘘を言わないで。いるのはわかっているんだから。」


  イフちゃんが、会長の所在をリサーチ済みだった。それよりも、事務所に入って直ぐに気が付いたのだが、変な匂いがしている。甘酸っぱい匂いと焦げ臭い臭いが入り混じっている。


  受付の女性の制止を無視して、階段を上がって行く。2階には会長室の前に30人位の男達が待機していた。何人かの男達が剣を抜いて向かって来た。僕は、『ベルの剣』を抜き、赤く熱する。それからは剣舞を踊っているようだ。周り、しゃがみ飛び上がる。その度に何人かの腕や足が切り離される。全員の戦闘能力を奪って、トドメを刺す前に、チラッとシェルを見る。


  「もう、いいんじゃない?」


  うん、僕は『ベルの剣』を納めてから、会長室のドアを開けようとした。鍵がかかっていたが、そのままドアノブを引く。ドアごと引きちぎられてしまった。


  部屋の中に入ろうとすると、男が上段からロングソードを振り下ろして来た。手で振り払うと同時に、ロングソードごと、男の右手首を切り飛ばす。右手は部屋の隅に飛んでいった。


  男は、かなり太っている大男で、一人だけだったので、きっとこの男が会長だろう。


  「お前、誰だ?イリス、俺は何もしていねえぞ。」


  手首を切り離されたの平気で話している。ゴロツキながら、すごい胆力だ。イリスが、質問に答えた。


  「ジャンゴ、こちらは、新領主、いや新皇帝のゴロタ陛下だ。麻薬取締法及び未成年誘拐で処刑する。」


  え、イリスさん、聞いてませんが。結局、ジャンゴはイリス隊長に胸を刺されて絶命した。イリス隊長、このジャンゴ会長に大勢の部下をアヘン漬けにされてしまったらしいのだ。アヘン中毒になった衛士隊員ほど始末に困るものはない。いわゆる情報の筒抜けとなってしまい、いつもまんまと逃げられてしまうのだ。それにアヘンん売買の収益の一部がブキャナン侯爵に流れているとの噂もあったが、捜査を進める度に妨害されていたらしいのだ。


  この事務所の地下は、アヘン部屋となっていて、誘拐したり、甘い言葉で誘惑した女、子供をアヘン漬けにして王都に売り飛ばすための仕立て部屋になっていた。30人程を保護したが、これで孤児院と養護施設は定員オーバーになってしまったらしい。


  会長室の奥の金庫にも大量の金貨と借用書類それとアヘンの練り固めたものがビッシリと入っていた。アヘンは、僕が押収した。シルフが、麻酔薬を作る原材料にするのだ。







  先程からサウス・カイン市上空を飛び回っていたF35が降下してきた。シルフが帰って来たのだ。シルフの報告は驚くべきものだった。


  ・領内には、至る所に無人の村が点在しており、畑だったらしい場所は雑草が伸び切って荒地になっていた。


  ・市内には、浮浪者が大勢屯しており、墓地には埋葬されずに積み重ねられた遺体が腐乱していた。


  ・子爵邸は綺麗なままで、騎士団が厳重に警備をしていた。


  これ以上のことは分からなかったようだが、今、現在餓死しかかっている人たちがいると言うのは放置できない。僕は、直ぐに緊急援助隊を編成することとした。ケバック長官に救援の有志を募るとともに、明日の朝にはできるだけ多くの職員の派遣をお願いした。


  それから、フォックス子爵に対する勾引状を準備して貰う。罪名は、所得税法違反だ。同法は、税率の上限や基本控除の種別まで細かく規定されているのに、全く守られていなかったようだ。


  さあ、フォックス子爵領へ行く準備は終わった。僕と一緒に行くのは、シェルとビンセント君、ミリアさんの3人、それとイリス隊長だ。メリちゃんとセレンちゃんはお留守番をして貰う。シルフが、ホテルとフォックス市の城門前を繋いでくれた。皆で、一斉に転移する。イリス隊長は、初めての空間転移に少し緊張気味だった。


  フォックス市の東側にある城門は、他の都市と違って、城門前にスラム街が広がっていない。きっと城門街にいても生きていけないので他の都市へ逃げていったのだろう。それに、普通なら郊外に地平線まで続く農地や牧草地があるはずなのに、至る所が雑草でボウボウだった。


  城門の騎士は、僕達を胡散臭げに見ていたが、特に身分を確認もせずに市内に入れてくれた。全くやる気がないようだ。通常なら、犯罪者かどうかをチェックし、また入城税を取らなければ行けないはずなのに、そんな気はさらさらないようだ。


  市内に入ると、そこは無音の世界だった。道を歩いている人が極端に少ないのだ。勿論、城門前に並んでいる屋台もなくがらんとしていたのだ。どこからか死臭が漂ってくる。近くの商店に入ってみる。きっと豆類を売っていたのだろう。ケースに値札だけついていたが、ケースの中は空だった。店主は力無く座っていた。


  「こんにちわ。」


  「いらっしゃい。と言ったって売る物は、豆粒ひとつないんでな。他を当たってくれ。俺だって3日も食ってねえんだ。」


  「これ、良かったら。」


  柔らかいパンとミルクを分けてあげる。本当は、ケース一杯になるだけの豆を分けても良いのだが、消化の悪い豆を急に食べると、お腹を壊すので、それは今度にしてあげよう。


  フォックス市の行政庁に向かう。人通りの少ない通りを歩いて行くと、市民達がじっと僕達を見ていた。行政庁の中は、何人かの職員がいるだけだった。イリス隊長が、責任者に面会を求めた。奥の方から、小さな男の職員が出てきた。ベンソンさんと言う総務部長さんだった。


  「私は、サウス・インカン市の衛士隊長イリスと申します。本日は、当市への緊急支援物資をお持ちしました。」


  「サウス・インカン市と申しますと、ブキャナン侯爵閣下からですか?」


  「いいえ、ブキャナン公爵閣下は亡くなられました。今回の救援物資は、こちらにいらっしゃるゴロタ陛下からです。」


  「陛下?と言うことは、インカン国王陛下も・・・」


  「いいえ、ゴロタ陛下は、別の大陸のゴロタ帝国の皇帝陛下です。」


  ベンソンさん、理解が追いつかないようだ。それよりも物資だ。事務所の脇に、30キロ入りの小麦袋を置けるだけ置いた。後、倉庫にも満杯になるだけの量を積み上げた。しかし、これだけあっても、全市民には1食分だろう。あと教会にも配布したいが、その前にフォックス子爵を逮捕しなければならない。


  ベンソンさんと職員5人を引き連れて、フォックス子爵邸に行く。子爵邸は、広大な敷地に豪華な建物が建っている。騎士団が警備をしているようだが、たった1人が門の前に立っているだけだった。イリス隊長を見たが、『お前は何だ?』と言う顔をするだけで、後は無視された。イリス隊長、少しムッときたのか『子爵を訪ねてきたのだから、用件を聞くのが礼儀だろう。』と叱り飛ばしていた。タジタジとなった騎士は、慌てて屋敷の中に入っていった。屋敷から、ワラワラと騎士達が出てきた。その後ろに屋敷の家令達、最後に偉そうな態度の男が出てきた。このデブの男がフォックス子爵だろう。


  「何の騒ぎだ。そこにいるのはベンソンじゃないか。そこで何をしている。」


  イリス隊長が、逮捕令状を取り出して読み上げる。


  「ブラウン・フェニクリ・フォックス。あなたには王国への税金を着服した国税法違反容疑がかけられており、逮捕令状が出ています。」


  「何い、逮捕令状?それはブキャナン公爵閣下の許可を得ているのか。」


  「ブキャナン侯爵は死にました。」


  「死んだだと。そんなことは聞いておらんぞ。大体、お前達2人で、この儂を逮捕できると思っているのか?」


  騎士達が、屋敷の裏側からどんどん走り寄ってくる。きっと、この屋敷の裏に騎士団の駐屯地があるのだろう。まあ、人数的には200人位かな。僕は、構わずにフォックス子爵に近づいて行く。左右の騎士が、何も言わずに切り掛かってきた。僕は『ベルの剣』を一閃した。彼らのロングソードごと胴体が上下に分かれた。それから10人位、斬り伏せたら誰もかかって来なくなった。フォックス子爵は真っ青になって震えている。


  「逮捕されますか?」


  「ふざけるなあ!」


  フォックス子爵はショートソードを抜いて切り掛かってきた。僕の『ベルの剣』が、ショートソードを刷り上げたと同時にフォックス子爵を頭から左右に切り裂いていた。


  それからはフォックス子爵の財産を差し押さえるとともに、裏の倉庫に蓄えていた備蓄食料も全て行政庁の前に運ばせた。勿論、運んだのは明日からの職を失った騎士達だった。あ、そういえば年配の騎士団長さんが1対1の果たし合いを申し込んできたので、キチンと相手をしてあげた。約10秒くらいだったけど。

  

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