表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
502/753

第2部第53話 侯爵閣下の陰謀その4

(6月28日です。)

  僕は、シェルとともに、ブキャナン侯爵邸に向かった。シェルは何も武装していなかったが、心配などしていなかった。さっきの騎士団の連中のレベルなら、自分の魔法だけで対応できると思ったからだった。それよりも新領主の奥方がこんな普段着のスエットとパンツ姿で良いのかしら?変な事を心配しているシェルだった。


  ゴロタは、自分がここの新領主になるなどとは考えてなかった。さっき、ケバックさんから法律公布者の名前を聞かれたので、権威をつけるために帝国での呼称を教えただけだ。それ以外の意図は全くなかった。でもケバックさん、どうしてニッコリ笑ったんだろう。それにイリス隊長も緊張していたし。まあ僕には関係ないからいいけど。


  侯爵邸はとても大きかった。道路を挟んで、向かい側には行政庁と司法庁、税務庁それと衛士隊本部が並んでいるが、それよりも大きいようだ。


  正門には騎士4人が警戒していたが、騎士団本部で何が起きているか知らないようだ。と言うか、のんびりとしている。司法庁や行政庁から少し距離があるためだろうか。4人のうち1番若そうな人に用件を告げたら、鼻であしらわれたが、一応礼儀は尽くしたので、硬く閉じられた正門の扉に手を掛けた。騎士達が『ふん、何をしている。バカめ。』と言う顔をして見ていたが、次の瞬間、爆発してこな後場になった扉を見て呆然としていた。というか、爆風で吹き飛ばされてしまって、その辺に転がっていたのだが。


  放っておいて門の中に入る。屋敷の中から警備の騎士達が出てきた。中には鎧もつけずに、抜き身の剣だけを持って出てくる者もいた。


  シェルが、『ウインド・カッター』で戦闘力を奪う。腕や足の一本が切断された程度の弱めの攻撃だ。地面でのたうち回る騎士達は放っておいて、屋敷の中に入っていく。中では、執事さんみたいな人達がいて、皆、剣を構えている。あら、この人達、ロンギ男爵のところの家令達とは大分違うようだ。


  「剣を捨てろ。」


  僕が『威嚇』を込めて命令する。力を込めすぎたのか、皆、その場で土下座をしてしまった大きなシミが床に広がっている。この人達の処分もイリス隊長に任せよう。イフちゃんに、邸内を検索させる。侯爵は、直ぐに見つかった。3階の秘密の部屋に隠れているらしい。その前に、この部屋で幽閉されている人達がいるそうだ。ああ、またか。幽閉箇所は地下室だそうだ。地下に行って見て驚いた。地下は、大きな留置場みたいだった。廊下を挟んで、鉄格子が並んでいる。見張りの男が2人いて、僕に襲いかかってきたが、掌底突きで心臓を破裂させた。そのまま留置室の鉄の扉の鍵を開錠して歩く。一つの鍵で、全部の扉が開くので楽だった。中にいたのは、皆、裸同然の女性達で人間以外にも亜人や獣人、イオークもいた。亜人の中にはエルフもいて、それを見たシェルが、既に死んでいる看守の首をウインド・カッターで切り飛ばしていた。


  この女性達も一旦ホテルに転移させることにした。全部で15人位いて、ホテルの空室がいくつあるのだろうか。又、イオークが居るのだが、緊急事態だ。追加料金も払って、止めて貰おう。


  『ブキャナンが逃げるぞ。』


  逃がさないように、お願いしたが、殺さないようにもお願いした。まあ、最後には死ぬだろうけど。


  シェルがいなくなってしまったので、一人で上に上がっていく。家令達は、未だ土下座をし続けていた。そのままにして3階に上がっていく。3階の廊下には、イフちゃんが立っていた。いつもの可愛らしい女の子だ。側に男が一人倒れている。可哀想に。右足が炭になってしまっている。確かに死んではいないが、生きたまま片足を燃やされるのも、きっと辛いと思う。まあ、それくらい当然だけど。


 「侯爵閣下、何故こうなったか分かりますか。」


  「ヒッ!ゆ、許してくれ。何でもやるから。金か?女か?女なら好きなだけやるぞ。この領地内の女、全部をやるぞ。」


  僕は、深いため息をついた。


  「何故、イオラさんとイオイチ君を殺した。彼らが何をした?」


  「誰じゃ。そんな奴は知らん。」


  「僕の友達のイオーク達だ。」


  「何じゃと。イオークだと。お主、イオークのために、こんな事をしたのか?儂に何かあってみろ。3000の騎士団が黙っておらんぞ。」


  彼に本当のことを教えてやることにしよう。彼を3階のバルコニーに出してやる。向かいの行政庁越しに東の空に白い雲が上がっているのを見せてあげた。流石に、キノコ状の雲は風に流されて消えていた。


  「な、何じゃ、あれは。」


  僕は、ブキャナン侯爵の襟首を掴んで、飛び上がった。目指すは、騎士団本部の跡地だ。上空から見ても、凄まじい状況だ。爆心地を中心に、半月状に木々が倒れ、燻っている。ブキャナン侯爵は、初めて自分が何を相手にしているか分かったようだ。


  「た、助けてくれ。わ、儂が悪かった。」


  僕は、上空200mから、未だ煮えたぎっているマグマの穴の中にブキャナン侯爵を投げ捨てた。イオラさん、イオイチ君。仇は取ったよ。しかし心は晴れない。あんなつまらない奴に殺されるなんて。僕は、涙が溢れて止まらなかった。






  侯爵邸に戻ってから、土下座のままの家令達が、寒さに震えていた。僕は、直ぐ衛士隊本部とゲートを繋いで、イリス隊長に彼らの連行をお願いした。容疑は、誘拐・監禁及び性的暴行の共犯容疑だ。


  彼らが連行された後、ケバック長官と税務庁の職員数人で無人の侯爵邸内を探索する。豪華な調度品や家具・美術品などはそのままに、侯爵の事務室に行く。事務室の中の大きな事務机の後ろには、大きな本棚があった。その本棚の中の本のうち、一番薄汚れた本を倒すと、何かが外れる音がした。本棚が左右に開き、奥には大きな金庫室があった。長年溜め込んできたものだろう。


  「この金貨は、全てこの国のものです。この街の復興に使って下さい。」


  ゴロタは、未だ自分の言っている重要性が分かっていない。『この国』とは、インカン王国のことか、ゴロタ帝国のことか。


  侯爵が処刑されたことは、すぐに市民の間に広まってしまった。侯爵邸前に、大勢の市民が押し寄せていた。中には、拉致された自分の妻や娘を返して貰おうと来た者もいるだろうが、多くは侯爵が蓄えた財宝を略奪しようとしているもの達だった。正門は爆破されて無くなっていたので、自由に侵入できたのだ。


  僕は、金庫室内の調査は、ケバックさんに任せて、屋敷の外に出た。外には、欲望で目をぎらつかせている市民達が大勢いた。僕は、弱い電流を地面に走らせた。先頭の何人かが、電撃で飛び上がってから気を失って倒れた。何回か繰り返したら、皆、僕から距離をとった。それでも、立ち去ろうとしない。背は高いが15〜6歳の童顔の少年だ。怖がる素振りはなかった。


  「シルフ。」


  一言、声をかけると異次元空間から、フル・コンバット装備のシルフが出てきた。その後から、50体のゴーレム兵が現れた。隊列を組んで、前進する。シルフが、右手を上げて、『制圧隊形!』と叫んだ。前列15人、中央列15名、後列20名の3列応対になった。続いて、『構え!』の号令で、前列は伏射、中央列は膝射、後列は立射の姿勢でM16を構えた。


  「撃て!」


  シルフの容赦ない号令で、50丁のM16が、一斉に火を吹く。狙っているのは、群衆の足元だ。土煙が上がっているが、何人かは跳弾に当たって倒れていく。最初、何が起きているか分からなかった市民達も、身の危険を感じたのか、一斉に逃げ始めた。


  「撃ち方、やめ。」


  シルフの号令で、射撃が終わった。ゴーレム兵は、そのまま侯爵邸の要所要所に配置となった。これで、暴徒などに襲われることはないだろう。


  「ロンギ男爵の市長皇帝も警備しますか?」


  「ああ、お願いする。」


  シルフは、異次元空間の中に入っていった。このゴーレム、全部で何体あるんだろう。後、誰が動かしているのだろうか。しかし、詳しい説明をシルフに求めるのは厳禁だ。無駄知識を何時間も喋り続けようとするに決まっている。


  衛士隊本部に行くとイリス隊長が忙しそうにしていた。侯爵邸と市長公邸の警備部隊を編成していたが、絶対数が足りない様だ。市内の治安維持と犯罪捜査、今までも一杯一杯だったのに、騎士団が行っていた任務までしなければいけない。僅か200名の衛士隊でこなせる訳がなかった。


  僕は、イリス隊長に、侯爵邸と市長公邸の警備は任せてもらうように伝えた。本当なら、ゴロタ帝国の警察官と国防軍兵士を展開すれば、色々な問題は一気に解決するだろうが、言葉が通じなければ、かなり難しいだろう。ここは、現有のゴーレム兵力でこなすしか無い。


  イリス隊長は、素直に事態を把握して、衛士隊員達に新たな任務を与えていた。僕は、「今日は、一旦帰るので明日打ち合わせをしよう。」とだけ伝えて衛士隊本部を後にした。衛士隊の皆さんが、僕に対して『捧げ剣』で敬礼をするのには参った。衛士隊の玄関を出たら、後ろで『ゴロタ陛下、万歳。』の声がしたが、恥ずかしいので知らんぷりをしていた。


  ホテルに戻ったら、何か物凄いことになっていた。1階ロビーは幼稚園状態だ。また、レストランはバスローブを羽織った女性達が寛いでいた。フロントに行くと、疲れ切った支配人さんが今までのことを話してくれた。急に女性用が15室と子供用に5室を開けてくれと言われ、既に予約の入っていたり、チェックインしたお客様を他のホテルに移すので大変だったそうだ。そのための経費と、今日の宿泊費、それと慰労費として金貨2枚を渡そうとしたら、既にシェルから頂いていますからと固辞されてしまった。この支配人、とてもいい人だ。


  「あのう、それよりゴロタ様、貴方様が新国王になられたという噂があるのですが?」


  へ?新国王?誰が?


  噂というものは、あっという間に広がるもので、このホテル、街の中心から5キロも離れているのに、どうして、そんな噂が伝わってくるんだろうか。ポカンとしていると、シェルとミリアさん、それにビンセント君が外から帰って来た。皆、大きな荷物を抱えていた。レストランの中に入っていって、女性達の名前を呼んで袋を1つずつ渡している。シェルがニコニコ機嫌がいい理由がわかった。今日は思いっきり買い物ができたんですね。女性達は、すぐに袋を開けて中を点検している。隣の女性と見せ合いっこをしている子もいた。さっきまで檻の中に閉じ込められ、侯爵に酷い目に遭っていたはずなのに。ああ、女性って・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ