表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
500/753

第2部51話 侯爵閣下の陰謀その2

(6月28日です。)

  調室を血だらけにするのも嫌だったので、『念動』で彼らの脳幹を切断してしまう。脳幹は呼吸や心臓などを動かす中枢となるので、ここを切断すると、一瞬で死んでしまうらしい。魔物の脳幹が何処にあるか知らないが、人間の場合は、首の後ろの凹んだところの先にあるので、イメージだけで『念動操作』ができるのだ。


  2人を椅子に座らせ、シェルと一緒に取調室を出た。取調室の外には、騎士達が10人位順番待ちをしていた。何の順番待ちか直ぐに分かった。シェルの取り調べだ。取調べと言う名の『強制わいせつ』か、それ以上のことだろう。


  僕達が、2人だけで出て来たのを見てギョッとしている騎士達に、僕の『ベルの剣』が次々と突き刺さって行く。心臓を突き刺された場合、心臓がすぐに停止してしまうので、出血が噴き出ることはない。10人の騎士達の心臓を鎧越しに突き出すのに10秒は要しなかった。ホールの方の人達は、奥で何が起きていたか分からなかったろう。


  それから直ぐに地下に降りていった。嫌な予感がした。予感は当たった。地下の取調室は拷問室だった。メリちゃんは、裸に剥かれて鎖に繋がれていた。その前には、下半身が剥き出しの小太りの騎士がいた。メリちゃんの身体はミミズ腫れだらけだった。これからメリちゃんを犯そうとしていたらしい。男の中には、散々痛めつけてから犯すドS性癖がいるらしいが、こいつもそうらしい。どうにか、間に合ったようだ。メリちゃんの下半身からは出血は無いようだ。


  男は、僕に気がついたようで、傍に転がしていた剣を取ろうとしたが、剣を掴んだ瞬間、手首が腕から離れていた。血の吹き出る腕を見て、恐怖に怯えた目で僕を見て逃げ出そうとした。まあ、逃がさないけど。男の両足は、足首から先が切り離されていた。もう、残された左手だけで這いずることしか出来ない。シェルは、メリちゃんのビリビリに裂けた下着を持って着せようとしていたが、怪我がひどいし、まだ鎖に繋がれているので、着せるのは無理だろう。僕は、手首の手枷を外してから、後はシェルに任せておく。あ、床が血だらけになっても嫌だったので、血だけは止めてやった。まあ、熱くなった『ベルの剣』を押し付けて止めているだけだが。男が騒ぐのを防ぐためにら『威嚇』で気を失わせておく。


  その時、イフちゃんの『念話』が聞こえた。


  『ゴロタよ。隣の部屋に来てみろ。』


  隣の部屋に行ってみると、鉄の扉があって、カギが掛けられていた。解錠して中に入ると、明かりが真っ暗だった。『暗視』スキルを使うと部屋に二つの固まりがあった。


  「ライティング」


  部屋が明るくなった。部屋の床に、毛玉みたいな物が2つある。よく見ると裸のイオークだ。身体の至る所に血の固まりが付いている。大きいのと小さいイオークだ。


  僕は、直ぐに小さい方のイオークを抱き上げる。この小さなイオークが誰か直ぐに分かった。イオイチ君だ。直ぐに『ヒール』で怪我を治そうとするが全く効果が無い。『ヒール』は、本人の治癒力を活性化して傷を治すものだが、治らないと言うことは、傷の程度が酷すぎるか、死んでいるかだ。僕は、イオイチ君の胸に手を当てる。だめだ。心臓の鼓動がない。


  『治癒』スキルを使って傷口を防ぐ。シェルほど強力ではないが、ある程度は効果がある。しかし、止まった心臓を動かすことはできない。心臓を『念動』で動かす。イオイチ君の顔色に赤みが出てきた。しかし、自発呼吸はしていない。心臓を動かすのをやめると、すぐに顔色が悪くなってしまう。


  『無駄だ。イオイチは死んでいる。』


  何で。何で死んだの?僕が、守ってあげなかったから?


  『ゴロタよ。イオラも見てやれ。』


  そうだ。イオラさんは、大丈夫かな。イオイチ君をそっと床に置いて、イオラさんの方に駆け寄る。イオラさんもひどい状況だ。脇腹からの出血が酷い。直ぐに『治癒』で傷口を塞ぐ。イオラさんが、薄っすらと目を開けた。僕の方に手を伸ばしてくる。僕は、しっかりと手を握ってあげた。


  「だ、旦那様。すまねえだ。馬車、守れなかっただ。」


  え?馬車?何を言ってるの。イオイチ君が死んだんだよ。自分だって死にかけているんだよ。


  「お、おねげえがあるだ。オッカと子供らを、子供らを・・・』


  イオラさんの最後の言葉だった。出血多量で、命の火が消えかかっていたのだ。『治癒』や『錬成』、『復元』では、失われた血液を再生することができない。早急に輸血をすれば助かったかも知れないが、イオーク用の輸血用血液など準備できる訳がなかった。


  開け放たれた扉の外にシェルとメリちゃんが立っている。メリちゃんが走ってイオイチ君のところに行く。


  「イオイチ君。イオイチ君!」


  小さな手でイオイチ君を抱き上げようとしている。しかし、直ぐに無駄だと言うことを悟ったようだ。シェルが、そっとメリちゃんの肩を抱いた。メリちゃんは、シェルに顔を埋めて泣いている。


  僕は、取り敢えず2人の遺体をイフクロークに安置してから、隣の部屋に戻った。そこには、さっき両足と片腕を切られた男が横たわっていた。騒がないように意識を刈り取っていたが、蘇生してやる。気がついた男は、大声を出そうとしていたが、僕の『騒ぐな。』の命令に、涙を流しながら従っている。


  「一度だけ聞く。誰の命令で、こんなことをした?」


  男は、喉の奥から絞り出すような声で、


  「だ、団長。カイ、カイマン団長だ。」


  「何故、このような事をした。」


  「知らねえ。兎に角、女を連れて来いって言われただけだ。」


  「隣の部屋のイオークは誰が殺した。」


  「し、知らねえ。し、指揮官はキリ副団長だった。」


  「そいつは何処にいる。」


  「上で、エルフを取り調べると言っていた。」


  あ、さっき殺した男のどちらかがキリ副団長だったのか。まあ、いい。イオラさん、イオイチ君。仇は取ったよ。


  シェルとメリちゃんは、ゲートを使ってホテルに戻しておく。さあ、1階に上がる。『ベルの剣』は抜いたままだ。ホールは大混乱だった。逃げ出す者。その場で気を失っている者。一塊になって震えている者。一人の女性に声を掛ける。


  「司法長官は、何処にいますか?」


  その女性は、2階を指さす。どうやら2階にいるらしい。きっと長官室だ。


  2階に上がると、一番奥が司法長官室だった。中から殺気が放たれている。構わずに、ドアを開けて中に入って行く。ドア付近にいた騎士が上段から剣を振り下ろしてきた。必殺の上段切りだ。しかし僕の『蒼き盾』により剣はポキンと折れてしまった。勿論、僕は無傷だ。僕は、左手の掌を、岸の胸に当てた。


  ドン!


  鈍い音がして騎士の心臓が潰れてしまった。長官室には、護衛の棋士は彼一人だった。部屋の奥に剣を持った男が立っていた。眼鏡をかけた痩せた男で、剣を持つ手が震えている。


  僕は、気を失わない程度に『威嚇』を使った。長官に命令する。


  「剣を捨てろ。」


  彼は、意思のない人形のように、僕の命令に従った。彼から、事の真相の全てを聞いた。聞いていて、怒りで震えてきた。金か?そんなはした金のためにイオラさん達が殺され、メリちゃんが酷い目にあったのか?


  最後に、その場に居合わせた者達の素性を全て聞いた。皆、同罪だ。ゴロタ帝国の法に則り、全員死刑だ。児童虐殺の罪だ。いや、罪なんかどうでもいい。僕が許せないのだ。


  司法長官は、椅子に座ったまま脳幹部損傷により即死した。違法な令状を作成するような長官だ。これまでも酷い裁判をしてきたのだろう。


  司法庁を出ると、騎士団が玄関先に構えていた。約50人か?前方の弓矢隊以外、全員が抜刀している。不思議なことに犯罪を取り締まるべき衛士隊がいない。まあ、後で、衛士隊にも行くけど。


  騎士団の指揮官はまだ若いキツネ顔の男だった。偉そうな態度だ。何処かの貴族の子息だろう。どこでも騎士団の幹部は、実力のない貴族のバカ息子がなっている。それに従っている棋士達も、完全に僕を馬鹿にした顔だ。50対1、負ける訳がない。


  「お前、ゴロタだな。大人しくしろ殺人罪で逮捕する。」


  フーン、この国では、騎士団が逮捕権を行使するのか。まあ、無理だろうけど。僕は、左手を左に伸ばした。『紅き剣』が、顕現する。剣を右に払う。紅く光ったエネルギー波が、棋士達の胴を分断して行く。全員が即死した。切断された瞬間に、血管や体内組織が焼け付いてしまい、血が噴き出ることはなかった。


  遠巻きにして見ていた市民の一人に、騎士団本部の場所を聞いた。騎士団本部は、行政庁の東側、東門との中間にあり、広大な敷地が騎士団本部庁舎と練兵場、兵士宿舎となっているそうだ。


  僕は、その場から飛翔で飛び上がり、東に向かって飛行する。眼下に森と広大な緑地が広がっている。騎士団本部なのだろう。レンガ作りの3階立ての建物が本部庁舎なのだろう。正面玄関前に降り立つ。左右に衛兵が立っていたが、一人が庁舎内に知らせに駆け出し、もう一人がロングソードを抜刀して斬りかかってきた。僕は、『紅き剣』で、受けると同時に上段から切り下げた。衛兵は、ロングソードとともに二つになった。


  庁舎の中には、大勢の騎士達がいた。彼らは、階段の前に厚く布陣している。僕をどこに行かせたくないのか、丸分かりだった。もう騎士団長に聞きたい事は何一つもなかった。所在さえ分かれば良かったのだ。僕は、そのまま庁舎の外に出た。庁舎から300mくらい離れて行く。振り向くと、本部庁舎前に部隊が集結し始めていた。馬に乗っている偉そうな指揮官がいた。『遠見』スキルで見ると、そいつは年配の男で、きっと騎士団長だろう。何人かがこちらに向かって走ってきた。弓を構えている者もいた。特に戦う気もない。ただ殲滅しに来ただけだ。僕は、左手を上空に掲げた。胸の中の力が放たれて行くのを感じた。本部庁舎の上空に火球が現れた。騎士達が、恐怖の目で、上空を見ているのが分かる。どんどん力を注ぐ。火球が直径100m位になった。火球を圧縮しながら徐々に降ろして行く。上空50m位になった時、火球は臨界に達した。火球の制御を外す。圧縮の力を失った火球は、100万度の熱膨張を起こした。対本部庁舎本部を中心に、半径300mの物質は消滅した。半径3キロ以内の可燃物は、全て発火してしまった。火球の爆風は、もっと広がろうと暴力的な力で暴れまわっていたが、西側、つまり市街地側に紅いシールドを貼って、100%防いだ。西門は瓦解したが、西門は騎士団用の専用門と聞いていたので放っておく。真っ白な煙が上昇気流に乗って上に登っていく。上空でキノコの頭のようはるかになっていた。



  爆心地には大きな穴が空いていて、穴の底はグツグツと煮えたぎったマグマとなっていたが、放っておくことにした。変に水で冷やそうとすると、水蒸気爆発を起こして、この街がなくなってしまうだろう。


  さあ、次は市長と衛士隊本部だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ