第2部第48話 サウス・インカン市ダンジョンその2
(6月26日です。)
第3階層のボスを討伐したので、ここでランチにした。ホテルのシェフに作って貰ったカツサンドだ。というか、カツサンドの素材は、全て提供したので、シェフは僕の描いたレシピを見ながら作っただけなんだけど。
豚肉のロースの部分を分厚くスライスして、小麦粉にまぶしておく。それから、良くかき混ぜた卵黄に付けてから、乾燥したパンを粉にしたものにくるんでおく。サラダ菜の身から抽出したオイルを大きなフライパンにたっぷり入れる。ここで油をケチったら美味しい『とんかつ』は作れない。パン粉を油に落としたときに真ん中まで沈んで浮き上がってきたら適温だ。そこに、静かに滑り込ませる。2分位したらひっくり返し、あげ始めのボコボコという低めの大きな音が、チリチリチリという高音になったら出来上がりだ。衣が綺麗なキツネ色になっている。それを直ぐにキャベツの千切りを敷いたパンに乗せて、挟み込み、ササっと切ったら出来上がり。本当は、ソースをかけておいた方が良いのだが、ソースの水分でパンがクタクタになるのを防ぐために、食べる直前にソースをかけることにしている。メリちゃん、初めて食べるカツサンドに、目から涙が浮かべている。
地下第4階層は、荒野エリアだった。ビュービュー強風が吹いており、砂埃で前が見えないほどだ。僕達は、シールドを張って前に進んでいる。時々シールドが『バチン!』と音を立てているのは小石が飛んできてシールドに当たっているのだ。
『前に何かおるぞ。』
イフちゃんが、『念話』で教えてくれた。この強風では、気配を感じるのは難しいので、イフちゃんに警戒をお願いしていたのだ。近づいてみて、それが蛇だと言うことが分かった。頭が2つの蛇だ。しかし、この蛇の脅威はそんな事ではない。その大きさだ。胴回りが5m以上ありそうだ。
頭が2つと言っても、首が長く、頭だけ見ていると2匹の蛇だ。その頭が左右から攻撃してくる。粘液まみれの舌が伸びてくる。早い。先っちょが二又に分かれているが、二又の間に紫色の粘液の塊を挟んでいて、それが舌が伸びるタイミングで撃たれてくる。シールドが紫色に染まって破壊された。シールドは、聖なる魔力で作った物だが、1度の攻撃で破壊されるとは、猛毒過ぎる。このままではシェル達が危ないので、力を解放して『蒼き盾』を展開した。これなら1枚破られても瞬時に貼り直されるので、絶対に破られないシールドとなる。さあ、こちらの攻撃の番だ。再度、毒の塊を撃とうと口を開けた瞬間、口の中にファイアボールを撃ち込む。喉の奥の方で大爆発を起こしてしまった。左右の頭を消滅させたが。胴体はまだクネクネと動いている。後は、『オロチの刀』で切り裂いて行くだけだ。骨ごと2枚に開いていった。シェルが、『相変わらずチートねえ!』と言って呆れていた。
その先は、巨大サソリや巨大タランチュラなど毒虫オンパレードだ。もう構っていられない。イフちゃんに『地獄の業火』で焼き尽くしてもらう。流石に3000度近い炎では、サソリや蜘蛛では対抗する術はないようだ。毒虫ゾーンを超えたら、広大な大地が広がっている。きっと夕焼けが綺麗だろう。太陽が沈んでくれるなら。ダンジョンの太陽は沈まない。夜の帳が閉じるだけだ。
そんなことを考えていたら、シルフが声をかけて来た。
「左方500mから敵の大群、その数凡そ100万。」
え?シルフさん、数がおかしいですよ。
しかし、間違いではなかったことが、直ぐに分かった。はるか彼方、地平線まで埋め尽くして迫ってくる生物、『レミング』だった。しかも、かなり大きく、上の前歯2本が牙になっている。
赤く光る目が不気味だ。勿論、こんなネズミの群れにやられる訳には行かない。群れの進行方向に大きく深い穴を開けておく。深さは50M以上あるだろう。そこには、水を貯めておく。レミングの群れは、構わずに穴に向かって走ってくる。穴の直前でピョーンと飛んで、向こう岸に行こうとするが、全く飛距離が足りずに、穴底にまっしぐらに落ちて行く。全てのレミングが穴に落ちるのに3時間以上かかってしまった。
全てのレミングが落ちてから、土を被せておいた。レミングのゾンビなど見たくない。この先は階層ボスエリアだ。階層ボスは、一つ目のサイクロプスだ。やっとまともな魔物が出てきた気がする。シルフとメリちゃんの一斉攻撃にシェルの『ヘラクレイスの弓』の連射を受けている。可哀想なサイクロプスは、あっという間にミンチになってしまった。
地下第5階層は密林エリアだ。嫌な予感がする。密林の上空から、虫の羽音がした。ドキッとして、上空を凝視する。あの古代からの生き残り、黒の『G』かと思ったら違った。単なる蝿だった。しかし大きさがハンパない。体長が2m以上あるのだ。口が触角のようになっていて、ベタベタした粘液を溜めている。あれは、消化液だろう。絶対に触られたくない。シルフのMP5で撃つと、破片が飛び散りそうだ。それは嫌なので、イフちゃんに頼んで、コンガリと焼いて貰った。蝿は100匹位いたのだが、半分以下になったところで、どこかに飛んでいった。
密林を進んで行くと、今度は高周波の羽音がする。この音は聞いたことのある音だ。夏場、暗い部屋で寝ているとプーンとやってくる奴だ。そう『蚊』だ。 それも10センチ位の大きさだが、数が多い。100匹以上はいそうだ。シルフが、異次元空間から大きなタンクを出してきた。後、全身をくるむスーツを着ている。タンクを背中に背負い、ホースで繋がれている噴霧器を蚊の群れに吹きかけ始めた。バタバタと落ちてきた。これもイフちゃんに焼いて貰って殲滅した。
階層ボスは、案の定『黒のG』だった。しかもでかい。5mはありそうだ。その周りには、小さな『黒のG』が、ビッシリと蠢いている。絶対に見てはいけない光景だ。僕は、シールドを逆に貼って奴らをシールドを野中に閉じ込めた。その中に、力を注ぐとシールドの中は3000度以上になったはずだ。匂いの成分まで焼き尽くしてしまう。よし早くこの階層から逃げよう。
地下第6階層はシーサイドエリアだ。いつもなら、ゆっくりして行くのだが、少し急ぐことにした。サハギンや大ヤドカリ、クラーケンは瞬殺して行く。1時間くらい砂浜を歩いて行くと階層ボスエリアだ。いるはずのセイレーンが見当たらない。まさかセイレーンが世界に1体と言うことは無いだろうが、どうしたのだろうか。まあ、いないのなら仕方がない。ここはスルーして地下第7階層に潜ることにする。後で聞いたら、海の中は情報網が発達していて、セレンちゃんが海から出ていったことなんて、あっという間に世界中のセイレーンが知ったらしいのだ。それで、僕達がきたことを知って海の中に逃げたらしいのだ。良かった。ここのセイレーンまで、地上に連れて行ってと言われても困るし。
地下第7階層は、山岳地帯だった。切り立った山肌、足を踏み外すと何百mも滑落する。谷底は見えない。いつも思うのだが、ダンジョンの空間構成って、絶対に物理原則を無視している。
このエリアは、ワイバーンやアイアン・イーグルなど飛翔魔物のオンパレードだった。このエリアで困るのは、飛翔中の魔物を倒しても、深い谷に落ちてしまい、魔石や素材を回収出来ないことだった。しかし、それは通常の場合だ。僕の飛翔能力とイフクロークの収納力が有れば全て回収できるからだ。
早速、怪鳥どもが襲ってきた。代表的なのは、アイアンイーグルだ。嘴と爪が鋼鉄製の鷲だ。大きさも翼を広げると3m近くある。高高度から急降下で襲ってくる。しかし、この鳥のバカなところは、あまりにも高高度からの急降下のため、速度が上がりすぎ、衝突の衝撃に身体の骨格が持たないことだ。次々と、僕の貼ったシールドに激突して絶命し、谷底に落ちて行くことだ。
後、超大型のアホウドリがいるが、この鳥は自力で飛び立つことができず、崖の上からダイブして落下の速度により、翼の揚力を得ている。しかし、落下中、風に吹かれて崖に激突というのも少し可哀想な気がする。シェルが、極大級風魔法を放つ。『タイフーン・ストリーム』だ。物凄い風で、アホ鳥どもは、次々とコントロールを失い、谷に落ちて行ったり、岩肌に打ち付けられて絶命してしまった。
エリア中央付近まで行くとワイバーンがいた。7匹の群れだ。中でも一際大きいのが、少し青みがかったワイバーンだ。特殊個体だろう。他のワイバーンはどうでもいいが、そいつだけは絶対に無傷で確保しよう。『飛翔』で飛び上がり、接近する。そいつは僕の接近に気が付いたのか、大きく口を開けた。白いブレスを吐いてきた。冷気のブレスだ。触れた者は忽ち凍り付いてしまう。しかし、僕は、体内から熱を発散して無効化した。ブレスの効果が効かないワイバーンは、ただのワイバーンだ。急旋回して逃げようとするワイバーンに接近していく。僕の気配を察したそいつは、右に、左に、上に、下にと逃げ回る。ワイバーンとの鬼ごっこだ。そいつの動きを予測して先回りすることにより、やっと、近づくことが出来た。背中に乗って、後頭部に手を乗せる。手のひらから脳へ直接『威嚇』を流し込む。ワイバーン特殊個体は脳活動が停止してしまった。落下するそいつをイフクロークの出し入れ口が待ち構えていた。無事、無傷でゲットした。シェルの所に戻ると、またジト目で見られていた。うん、今回、初めてやった方法だけど上手く行ったみたい。でも、鬼ごっこは結構疲れるので、特殊個体の時だけにしよう。
このワイバーン特殊個体は、この大陸では売らない予定だ。ゴロタ帝国の冒険者ギルドでオークションにかけよう。最低落札価格は、大金貨100枚だ。それでもきっと売れるだろう。さあ、あとは雑魚ワイバーンだと思っていたら、シェル達で殲滅されていた。すべて谷底だ。まあ、必要だったら、また狩りに来ればいいからそれでもいいか。
地下第7階層のボスは、グリフォンだった。結構、面倒くさい。火は吐くし、毒はまき散らすし。それに、このグリフォン、飛ぶのが異様に速い。きっと特殊個体なんだろう。高く売れそうだ。グリフォンの背中に乗ると、尻尾と頭の両方から攻撃を受けそうなので、それは諦めて、正面攻撃をすることにした。シルフとメリの機関銃は、皮膚が傷だらけになるからNGだ。やはり、シェルの『精密射撃』に頼ろう。狙いは、グリフォンの目の間、いわゆる眉間だ。別にグリフォンがこちらを向かなくても、矢が正面を向くように方向変換してくれるから便利だ。見事にグリフォンの眉間をピンポイントで撃ち抜いた。血や脳漿もほとんど飛び散らない。落下して、大切な身体を傷つけてはいけない。『念動』で、そっと地面に下ろす。矢をゆっくり抜いて、傷口を塞いでおく。綺麗な身体だ。これなら大金貨200枚は行くかも知れない。そのまま、そっとイフクロークに収納した。
もう、今日はこの位でいいだろう。皆で、一旦地上に戻り、ホテルに帰ろう。ホテルに戻ってから、僕たちに付いて来ていた冒険者達のことを思い出したが、まあ、彼らのレベルでも、第1階層位なら大丈夫だろう。今日は、ゆっくり眠ることにした。




