第2部第47話 サウス・インカン市ダンジョンその1
(6月25日です。)
本当は、今日このサウス・インカン市を出発する予定だったが、昨日、ギルドに行ってボラン君の依頼の完了報告後、西のダンジョンの様子を情報提供したところ、更なる調査と攻略をギルドマスターに指名依頼されてしまった。
「えー!?私達、旅に出発したいし、『C』ランクですし。」
とシェルが言ったら、モノクル越しにギロッと睨まれてしまった。あ、あのモノクル、僕達の素性がある程度バレてしまうんだっけ。僕は『隠蔽魔法』をシェルにかけるのを忘れていた。と言うか、僕達の情報は、極秘情報として各ギルド間に通報されているのだ。古代のアーキテクチャとして、能力測定装置やモノクルそれに情報共有システムが冒険者ギルドのみに伝わっている。能力測定装置は、一部、王室や貴族に流出しているが、情報伝達はトップシークレットにされているみたいだ。僕達の情報が王室に流れていないのも、そういう訳らしいのだ。
負い目のある僕達は、依頼を受けることになってしまった。まあ、あのまま放置したら間違いなくスタンピードが発生してしまうだろう。ギルドマスターに受託する旨を伝えたら、安心したようで、それからはお茶の時間になった。
「シェル殿がゴロタ帝国という国の皇后陛下で有ることは分かりました。と言う事は、ゴロタ殿は帝国の皇帝となる訳ですか?」
「はい、そうなりますかね。」
「えー、失礼ですが、ゴロタ殿は大変お若いようで。それで皇帝とは、父君が先代の皇帝陛下だったわけですか?」
「いえ、ゴロタ君は、もともとはド田舎の孤児でした。森からの収穫だけで暮らしていたのです。皇帝陛下になれたのは、たまたまです。」
うん、すごく簡単に説明してくれた気がするが、何点か気になる点もあった。ハッシュ村を『ド田舎』とは、酷い言い方だ。確かに『ド田舎』ではあったけど。それに孤児だったことも本当だけど、もともと孤児だったわけじゃあないし。それに、たまたま皇帝陛下になったわけではなく、弱い人たちや困っている人たちを助けていたら、皇帝になってしまったわけで。今から考えると、シェルと一緒に旅に出た時から、今の運命が決まってしまったような気がする。まあ、黙っているけど。
「ところで、ゴロタ帝国とは、どれくらいの大きさなのでしょうか?」
「うーん、良く分かりませんが、空のかなたから見たところ、インカン帝国の3倍位の広さでしょうか。」
「え、3倍?」
「はい、これは漠然とした数値ですが。正確に測量をしておりませんので。オホホホホ!」
ええと、国の力とは、その国土の広さだけではなく、農工業等による収入と、社会インフラの整備それと国民の教育レベルの高さなどで比較できるようだけど、ゴロタ帝国は、現在、あの大陸では最大にして最強の国であることは間違いないようだ。まあ、そんな事にも全く興味が無かったが。
「ところで、昨日、ワイバーン1頭をオークションに出されていましたが、あのワイバーン、どこにも傷らしい傷が無かったのですが、どのようにして倒したのですか?」
「あら、あれは私の弓によるものですわ。よくお探しになれば、私の弓の傷跡が胸元の急所付近にあるはずですが。」
「シェル殿は、弓が得意なようですな。通常、ワイバーンの皮膚には弓矢は無力なはずですが。」
「ホホホ!それは企業秘密ですのよ。」
ギルドマスター、もうそれ位にして下さい。シェルさん、増長してしまいますから。」
ギルドマスターとの打ち合わせも終わり、ギルドの大広間に出たら、もう大変な騒ぎだった。西のダンジョンの攻略依頼が張り出されていた。攻略レベルは『C』ランク、それぞれの階層ボスの攻略がサブミッションだ。単に、魔物の討伐も、依頼達成条件に加えられている。例えば、ゴブリンなら10匹以上、オークなら5匹以上討伐すれば依頼達成となるのだ。これは、とても美味しい。初心者『C』パーティでも達成可能なような依頼だ。しかし、実際には『C』ランクでは、地下第1階層で全滅してしまうだろう。あのゴブリン達の数の多さは脅威だ。しかも剣や槍で武装しているし、動きもかなり素早かった。きっと、大量発生しているので、あのダンジョン内で生き残りをかけた戦いが来る広げられ、その戦いに勝ち残ったゴブリンだけがひしめいているのだろう。それに、奥にいたオーク、通常のオークよりも大きく、かつ早いのだ。それが数匹単位で群れている。『C』ランクでは絶対に無理だと思うのだ。
----------------------------------------------------------------
次の日の朝早く、冒険者ギルドに行って、これからダンジョンに潜ることを知らせてから、西に向かった。攻略メンバーは、僕の他にはシェルとシルフとメリちゃんだ。火力不足のビンセント君とミリアさんは、セレンちゃんと一緒にお留守番だ。ギルドマスターの部屋に行っている間に、シルフとメリちゃんは、怖い冒険者たちに囲まれていたが、僕達の連れだとわかると、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。どうやら、僕達は昨日1日で、超有名になってしまったようだ。まあ、夕方、階層ボスの討伐証明を2体分とワイバーンをほぼ無傷のままオークションにかけたので、完全に僕達の実力がバレてしまったようなのだ。
そのまま、僕達は、西のダンジョンに向かう。これだけ目立ってしまっているのだ。『飛翔』や『空間転移』は使わずに、自分たちの馬車で移動する。後ろから、冒険者たちがチャーターした馬車が5台位ついて来る。別に一緒に潜るつもりは無いのだが、僕達が潜った後から行くと、少しは安心できるだろうと考えているらしい。でも、僕達の後ろをついて来るメリットはそれだけでは無い。ゴブリンやオーク、オーガなどのありふれた魔物は、討伐証明の耳をそいだり、魔石をえぐり出したりなどせずに放置しておくので、後から来たパーティがちゃっかり回収するだけでも良い稼ぎになるはずなのだ。まあ、僕には興味のない話だけど。それよりも、あまり接近してついてこられると、広域殲滅魔術を使えなくなるので、ついてくるにしても100m以上離れて貰いたい。まあ、潜ってから注意してもいいか。
ダンジョンに到着したのは、午前9時30分位だった。昨日は、何も無かった筈だが、今日はダンジョンの入口に露店がいくつか出ていた。今日の昼食や干し肉、黒パンなどの携行食、それに魔光石や魔水石、魔火石などの生活魔道具だ。あのう、その木彫りの熊と木刀、誰が買うんですか?
地下第1階層に潜ると、至る所でゴブリン相手に戦闘の真っ最中だった。楽勝のパーティもあれば、苦戦しているパーティもあった。ここのゴブリンは、素早いし、少し体が大きいのだ。持っている武器も剣や槍で使い方もかなり上手い。さすがに剣の修行はしていないだろうが、持ち前の反射神経と夜目が効くので、薄暗いダンジョン内では絶対のアドバンテージを持っている。
僕達は、どんどん先に進んで行く。先の方では、ゴブリンとオークの混成チームに苦戦しているパーティがあった。5人パーティだが、1人が瀕死の傷を負っている。ヒーラーが治癒しているが、なかなか上手く行かないようだ。僕は、シルフとシェルに合図した。シルフが先頭に躍り出る。メリちゃんもその後ろに続く。
『下がって!』
シルフが叫ぶと同時に、MP5の9mmパラベラム弾が毎分800発の速度で掃射される。銃撃音とともにゴブリンやオーク達がバタバタと倒れていく。メリちゃんのMP7が4.6mm専用弾が打ち出される。こちらは、3点射モードで、確実にオークの頭を吹き飛ばしていく。ゴブリン達が、泡を食って逃げ出そうとしたが、シルフは、ゴブリンの背中から情け容赦なく殲滅していく。あっという間に戦闘は終わった。シェルが、負傷者に『治癒』を掛けていた。もう大丈夫だろう。さあ、これで僕達が先頭になったわけだ。僕達が助けたパーティは、この辺では有名な『A』ランクパーティだそうだが、先頭の戦士がオークにやられてしまってからは、防戦一方だったらしい。まあ、ここのオークは、大きい、素早い、力が強いの3点強化モードだから『A』ランクパーティと言えども油断すると全滅してしまうだろう。
そのまま、オーク軍団やオーガ軍団それとチョロチョロしているゴブリンの群れを殲滅して階層ボスエリアに到着した。驚いたことに、もう復活していた。トロール3匹だ。僕達のことを覚えていたみたいだが、昨日活躍したビンセント君がいないので、無謀にも僕達に歯向かってきた。僕は、『オロチの刀』を一閃する。赤い光の半円が3つ、3匹のトロールの首に向かって行く。首が落ちると同時に、1500度の熱で切断面を焼き尽くす。これで出血は防げるだろう。
すぐに魔石を回収して、そのまま地下第2階層に向かう。後ろでは、冒険者達が拍手をしているのが聞こえる。こんなトロールでも、片耳を持って行くと討伐証明となるようで、何人かが100m位後方からダッシュで駆け出していた。
地下第2階層も昨日踏破した状況と何ら変わらなかった。もう他の冒険者たちは付いて来ていない。ここのメイン雑魚キャラはオーク、オーガにサーベルウルフどもだ。シルフとメリの機関銃が火を吹いて殲滅していく。途中、シェルも『ヘラクレイスの弓』を使って、一度に10体位を殲滅している。昨日のような魔物で超混雑しているようなことはなく、それなりに落ち着いて対処できる数だったが、それでも通常のダンジョンでは考えられない数の多さだった。
地下第2階層のボス、ケルベロスも復活していたが、2頭に増えていた。そればかりではない。サーベルウルフを従えているのだ。その数、約30頭。これは、通常の人間では無理だろう。シルフのMP5が火を吹く。狙いは、サーベルウルフだ。メリちゃんもケルベロスに向けて撃ち始めたが、1匹の頭1つを吹き飛ばすのに20発入り弾倉が空になってしまうようだ。しかし、確実に相手にダメージを与えているようだ。でも、ケルベロスの頭が次々と生えてくる。これでは切りがない。僕は、『オロチの刀』を抜き、力を込めていく。もういいだろう。そのまま、飛び上がって、『瞬動』でケルベロスの背中に乗ると同時に3つの首を切り落としてしまう。もう1頭は、シルフが殲滅してしまっていた。今回もドロップ品はなかった。
大きな魔石を回収してから、地下第3階層に降りていく。シルフがメリちゃんに新しい弾倉を渡していた。今度のは30発入り弾倉だ。また、空になったマガジンにはバラの弾薬を装填していく。20発入り弾倉が4つ、30発入り弾倉が2つだ。かなりの領になるが、メリちゃん、平気なようだった。体力的に随分レベルアップしているみたいだ。今度、皆のレベルを計測してみよう。
地下第3階層は、岩山エリアで、ストーンゴーレムが遠くからローリングストーンを投げてくるのは同じだ。ただ、昨日と違うのは、ワイバーンがいないことだ。昨日、あれだけやられて学習したのか、東の遥か彼方の岩山の上で群れている。こちらに近づこうともしないようだ。
投げつけられてくるローリングストーンの爆発に構わず、どんどん、ストーンゴーレムに近づいていく。紅きシールドがローリングストーンの爆発を無効化している。そのまま、僕は飛び上がり、ストーンゴーレムの頭から胸にかけて『オロチの刀』を切り下ろす。ヒヒイロカネの硬度は、ストーンゴーレムの肌の1,5倍以上あるそうだ。綺麗に切り下げていけた。
ストーンゴーレムは、動かなくなってしまった。ローリングストーンも動きが止まっている。結局、この岩山エリアの階層ボスの所に行くまで、4体のストーンゴーレムを殲滅ししまった。階層ボスは、大型のライオンのようにも見えるが上半身は鷲の形をしている。あ、思い出した。あいつは『グリフォン』だ。背中に翼が付いている所を見ると、飛べるのだろうか。しかし、それは無理がありそうだ。なぜなら、全身が岩でできているからだ。
ストーン・グリフォンは、僕達の予想を裏切って空に舞い上がった。さすが何でもありのファンタジーだ。高度30m位の所から、石を落としてくる。見上げてみると、その石は、グリフォンのお尻から出てきている。あ、きっと、この石の塊はグリフォンのウン●だ。シェルとメリちゃんは逃げ回っている。石の癖に、すこし柔らかいというか、泥石のようだ。地面に落ちるとべチャッと潰れてしまう。しかし、きっと当たると大けがをするのだろう。
シェルが、『ヘラクレイスの弓』を構えた。全身が赤く光っている。弓につがえている矢は金色に光っている。今回は、1本の矢にすべての力を込めているようだ。シュバッと矢が放たれた。まっすぐグリフォンの胸を目がけて飛んでいく。大轟音とともに、グリフォンの胸に大穴が開いてしまった。グリフォンは、地上に落ちてきて、地面に当たってくだけてしまった。後には、大きな魔石と20センチ位のグリフォンのミニチュアがドロップしていた。ミニチュアは、綺麗なガラスでできているようだ。これはラッキーかも知れない。シルフが、鑑定眼を使用して成分を調べていた。
「このグリフォンのミニチュアは、ほぼ100%の炭素でできています。いわゆるダイヤモンドのミニチュアです。重さは、1500カラットつまり300グラムほどです。」
うん、もしかするとこれで大金持ち確定なのかも知れない。




