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紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第2部第2章 魔物が仲間になりました。
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第2部第44話 暴虐のインカン国王

(7月のある日です。)

  この国では、7月は真冬である。凍えるような朝、インカン王国の王宮では急遽、閣議が行われていた。当然、主催者は、アンドレ・ベンリ・インカン7世、そう、この国の第11代国王陛下である。


  国王陛下が閣議を開催するのは、異例のことであった。通常は、宰相以下で行われ、決定事項だけを簡潔に国王陛下に報告するだけである。今日は、国政の最重要事項を審議する事になっている。本日の閣議は、国政の主要メンバーが集められていた。


    ・ブレードナット宰相


    ・ベンジャミン国防軍総司令官


    ・バーモント王国魔法騎士団長


    ・ビンセント外務大臣


    ・ボロネーズ司法大臣


    ・バイマール衛士庁長官


  本日の議題は、ガッシュ伯爵領が消滅したことであった。いや、正確には施政権が消失したことであった。みな、『ゴロタ』という新たな脅威にどう対抗して良いか悩んでいた。


  (ブレーナット)「して、ガッシュ伯爵領は、どうなっているのじゃ?」


  (バイマール)「はい、我が衛士隊の密偵によれば、現地衛士隊300名、騎士団1000名が壊滅し、ガッシュ伯爵は、市民たちの手により処刑されたそうです。」


  (バーモント)「吾輩の配下からの報告では、彼は『地獄の業火』という人知を超えた魔法を駆使するとともに、火を吹く魔道具を使って殺戮を行うそうじゃ。」


  (ボロネース)「彼に対して逮捕状を発出しても、一体、誰が逮捕するのじゃ。衛士庁長官、そなたに逮捕できるか?」


  (バイマール)「何を言うんですか。我々は普通の人間と戦うのですぞ。そんな国家級の大魔法使いに対峙するのは、国防軍しかないのでは。」


  (ベンジャミン)「ふざけたことを申すでない。我が国防騎士団は、北の辺境で魔神国と戦っており、そのような余裕が、ある訳ないじゃろ。そもそも、かの男は、一人でガッシュ伯爵領の騎士団1000人を殲滅したと言うではないか。そのような恐ろしい男に対応できる訳なかろう。」


  (ブレードナット)「そもそも、その『ゴロタ』と言う男はどこから来たのじゃ。」


  (バイマール)「何でも、南方の果て、旧バーミット男爵領に流れ着いた漂流者との事でした。」


  (ブレードナット)「漂流者?どこからの漂流者だ。南の海は氷に閉ざされている前人未到の地の筈だが。」


  (ビンセント)「漂流と言えば、この前、やはり漂流してきて西の海岸に打ち上げられた男が、『ゴロタ帝国』とか言う国が、はるか東にあると言っていたと記録があります。あいにく、その男は、間もなく死んでしまいましたが。」


  (ブレードナット)「なるほど、『ゴロタ帝国』か。して、そのゴロタなる男は、その『ゴロタ帝国』から来たかも知れないのじゃな。」


  (ボロネーズ)「とにかく、ガッシュ伯爵は、可哀そうなことをしたが、相手の素性が分かるまで、そっとしておくしかないのう。」



  (ブレードナット)「ふむ、司法長官がそう言うなら、法的にはそう言う事になるかな。陛下、いかがでしょうか?」


  「ブレードナット、良きに計らえ。わしはもう休むぞ。」


  アンドレ国王は、閣議の内容には全く興味が無かった。もう11代300年も続いている王政だ。国王が何もしなくても、何も変わらない。それよりも、昨日捕らえて来た兎人、あの子はどんな身体なのだろう。この前の兎人は、ウサギとは似ても似つかぬ身体だったが、今度は人間の血が入っていない純粋の兎人というから大丈夫だろう。しかし、一夜を過ごした後、王室の威信が保たれぬと言って殺してしまうのは勿体ないと思うのだが。そんなことを考えながら後宮に向かっていた。





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(6月19日です。)

  僕達は、北にある王都を目指して旅を続けた。王都であるセント・インカン市は国王直轄地も含んでいるので、貴族の領地の数倍も広いが、それに隣接している侯爵領も半端ない広さだ。セント・インカン市の南側には、ブキャナン侯爵領が広がっている。しかし領都は、領地の一番南側に所在している。領都からセント・インカン市の市境までは200キロもある。


  領都の名称は、通常、治めている貴族の名前を冠するのだが、セント・インカン市に面している領地の場合には、方角プラス『インカン市』と決められているようだ。従ってブキャナン侯爵の領都は、サウス・インカン市と呼ばれている。


  ローズ・ガッシュ市を出てから10日、途中2つの村があったが、殆どが野営だった。野営と言っても、街道沿いの野営地は整備されており、食料品や日用品、薪を売っている店が併設されていた。街道は、森から少し離れたところにあるので、強力な魔物は出てこないのだが、野盗の類が頻繁に出没するそうだ。


  野営地に入っていく旅人の馬車列を見て、衛士隊や騎士団の警護が付いていれば諦めるが、僕達のように馬車1台だけと言うのは、良い餌食という訳だ。


  店は、夜になると完全に扉を閉めて、中から鍵を掛けてしまうので、野党も襲わないそうだ。まあ、こっちとすれば襲ってくれるのを待っているんだけど。


  僕達は、野営地から少し離れたところにキャンプする事にした。別に野営地の中でも良かったが、トイレがかなり臭く、またお風呂にも入りたいので、あえて離れたところにキャンプする事にしたのだ。


  全くの平地だったので、お風呂の他にトイレも作る事にした。シャワー石を使っての完全水栓掛け流しだ。汚水の行き先は、2キロほど離れた森の大きな木の根元だ。ゲートで繋げておく。


  テントやキャンピングテーブルなどをセットする。この付近には、木が生えていないので、枯れ枝広いは出来ない。仕方がないので、森に行って、適当な木を伐採し、薪を作る事にした。そのままでは生木で燃え難いので、火魔法でよく乾燥しておく。森に来たついでに食べることができる木の芽や野草を収穫しておく。結構ハーブ類が自制していた。もうキノコの季節は終わっていた。


  キャンプ地に戻ったら、メリちゃんが今日の夕食の下準備が終わっていた。セレンちゃんも一生懸命手伝っていた。手伝うと言っても、メリちゃんに言われたことをするだけだが。イオラさん達は、馬の世話をしている。


  シェルは、枯れ枝拾いも出来ないので、ミリアさんとお茶を飲んでいた。ビンセント君は、剣の練習だ。最近は、大剣の素振りも出来るようになっている。まあ、成長期の彼には、もう少し大剣の素振りを頑張って貰おう。


  夜、イフちゃんが、僕達のテントが囲まれていると教えてくれた。気配を探ると、30名ほどだ。西側と東側から挟み撃ちで迫って来ているそうだ。僕とシェルは、様子見をする事にした。ビンセント君とミリアさんが西側、メリちゃんとイオイチ君が東側を担当させる。各自、持ち場に散っていった。


  イフちゃんにはビンセント君チームの、シルフにはメリちゃんチームのバックアップを任せる。セインちゃんは、僕にしがみついている。シェルの目線が痛い。


  西側では、ミリアさん側が、上空に『ライティング』を打ち上げる。周囲が明るくなった。黒い覆面をしている野党10人位が丸見えだ。すでに抜刀しているビンセント君が走り始める。ロングソードを地面に付きそうな位、右脇に下げている野党どもも、県を振り上げて襲い掛かろうとしたが、脇腹から肩にかけて切り上げられた。右腕が、肩ごと切り飛ばされてしまう。切り上げたソードを切り下げるときには、次の野盗の右腕が斬り飛ばされていた。ミリアさんがファイア・ボールで離れた野盗を各個攻撃で殲滅していく。ビンセント君が、ロングソードに魔力を込めている。剣が赤く光った瞬間、『斬撃』を飛ばした。剣が空を切って横に払われたが、放射状に赤い光が広がっていく。光で切り裂かれた野盗達は、致命傷ではなかったが、戦闘能力をを完全に奪われてしまった。


  動くことができる男達は、我先に逃げ出して行く。しかし逃げて行く先には、赤いジャンパースカートを履いた女の子が待っていた。男達に向けて、ピンポイントで炎を放っている。生きたまま燃え上がって行く男を見ながら、ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべている。ビンセント君は、イフちゃんの本質を見た気がして寒気がして来た。


  東側では、メリちゃんが、暗視ゴーグルを装備し、MP7で野盗達を殲滅して行く。3点射モードで的確に男達を行動不能にして行く。野盗達は、何が起きているのか理解できないでいた。『ダダダッ』と言う音がしたかと思うと、仲間が一人倒れてしまう。誰かが放った『ライティング』で微かに見えるのは、変なマスクを被った子供と、剣を構えているイオークだ。その子供が持っている魔道具が、轟音とともに火を放っている。誰かが弓を打とうとして構えると、直ぐに標的にされてしまう。向こうには、自分たちの行動が丸わかりのようだった。このままでは自分もやられてしまう。もう逃げるしかない。背中を向けて、逃げ出そう。しかし100mも行かないうちに、胸が熱くなった。何が起きたか分からないまま意識がなくなってしまった。


  シルフは、ゆっくりと三脚に乗せたレミントンM24のボルトを引いて、薬室から空薬莢をエジェクトするとともに、バランス精度の高めた7.62ミリ×51弾を送り込んでいた。


  結局、重傷を負いながらも生き残っていた野盗のボスは、シェルに『治癒』を受けた後、翌日の朝、自分達のアジトにシェル達を案内する事になった。アジトからのお宝は金貨が17枚、大銀貨が83枚、銀貨が275枚だった。あと宝飾品が幾つかあったが、きっと殺された旅人の物だったのだろう。この辺で換金すると疑われる恐れがあるので、取り敢えずイフクロークに収納しておいた。

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