第47話 怪我人は 大切にしましょう
何とか生き返ったゴロタは、傷の回復のために、しばらく静養です。今回は、シェルさん達が活躍します。
(5月5日です。)
ゴロタ達はホテルに着いた。
ホテルでは、ダブルの部屋をもう一部屋追加した。
僕を、その部屋に運ぶ。エーデル姫とクレスタの二人がかりで、僕の防具を外す。右側の防具ひもは完全に切れていた。ミスリルの小手と脛当ては無事だったようだ。次に、血塗れになっている、戦闘用の上着とズボンを脱がしてくれた。アンダーウエアも脱がせ、上半身裸になった。右わき腹に血の塊が付いていたが、シェルさんがお湯で綺麗に拭いたら取れて、傷もなかった。おそらく、出血したのが乾いたのだろう。
右わき腹の傷はふさがっていたが、全く無傷ということではなく、大きな爪で割かれた跡があるそうだ。シェルさんが、傷跡を撫でて『治癒』の力を流し込んでくれた。脇腹が温かい。
よく眠れるように、ノエルが温かいミルクに蜂蜜を入れたものを作ってくれて、僕に飲ませてくれた。飲み終わったら、僕は眠ってしまったようなので、毛布を掛け、部屋のカーテンを閉めて、暗くしてからシェルさん達は部屋を出ていった。
シェルさんとクレスタさんは、『牛食亭』に討伐報酬を貰いに行った。金貨1枚だ。ワイバーンの卵が金貨3枚で、2個あるから6枚、それにワイバーンの素材がいくらになるか分からないが、結構なお金になるはずだ。
『牛食亭』の女将ジェンさんに言って、お持ち帰り用の料理を注文し、出来上がりを待っていると、見たことのある男がやってきた。お代官様の執事だ。シュルさんが、用件を聞くと、男爵が、町の外に置いてあるワイバーンの死骸を売って欲しいそうだ。クレスタさんが、少しむっとした様子で、
「はあ? お金さえ払えば売ってあげてもいいけど、高いよ。そうだな。大金貨6枚だね。」
大金貨6枚ということは、金貨60枚、それは「ぼり過ぎ」でしょう。クレスタさん。
「分かりました。お支払いいたしましょう。明日、代官屋敷までおいで下さい。」
ちょ、ちょっと、それは、おかしいでしょう。何たって、たかがワイバーンだよ。竜種の最下等種だよ。なんで、そんな値段なの?
話を聞くと、ワイバーンは、珍しい魔物ではない。竜騎士が、騎乗用に飼育している位だ。しかし、どういうわけか、飼育されたワイバーンは全長8m位の大きさにしかならない。あれ程の大きさのワイバーンは、野生の物で無ければ手に入らない。しかも、身体がほぼ無傷、首も切断されていない。このレベルの物なら、標本として価値が高く、その値段になるそうだ。
クレスタさん達は、男爵が何故、標本を欲しがるのか興味がないが、値段に不満はないので、売ることにした。明日、支払うので、代官屋敷まで来て貰いたいとの事だった。クレスタさんは、ワイバーンの処理がいらなくなった旨を、女将さんに伝えてホテルに戻ることにした。
ホテルのロビーでは、エーデル姫とノエルが待っていた。
ゴロタが目を醒まさないことや傷の状態など、現状を色々、話していたら、突然、クレスタさんが泣き出した。自分が、もっとしっかりしていれば、ゴロタ君は怪我をしなくても済んだ事や、自分を守るためにゴロタ君が怪我をした事などを言いながら泣いている。皆も、慰めながら泣いていた。
「いいわ、私、一生をかけてゴロタ君を守って行くわ。どこまでも、ゴロタ君に付いて行く。」
皆が、ジト目でクレスタさんを見た。誰も同意しなかった。しかし、そんなことは、全く気にしていないクレスタさんだった、ああ、クレスタさん、あなたもですか?
シェルさん達女性陣の特徴は、他人の目を気にしたり、他人の考えを尊重して自らの行動を決めて行くという気がさらさらないことだ。社会生活をするうえで、どうかと思うが、彼女達にとっては自分の考えが正しいと信じ込んでいるので、直すのはかなり難しいと思われた。
(5月6日です。)
僕は、翌日、1日じゅうホテルでゴロゴロしていた。
シェルさん達4人は、代官屋敷の応接室で、ドンカ男爵から大金貨6枚を貰った。1枚、1キロ以上ある金貨なので、ズッシリと重い。ドンカ男爵は、遠慮の無い目線でクレスタさん達を見ていた。特に、ノエルの極端に短いミニスカートの太腿辺りをジッと見つめていたので、ノエルは、スカートの裾を下に引っ張っていた。お金を貰ったら、もう用は無いので、シェルさん達は、帰ることにした。代官屋敷の外に出たら、みんなブルブルと震え、ドンカ男爵の視線が、まだ突き刺さっているのでは無いかとばかり、胸や腰の辺りを手で払っていた。
ドンカ男爵は、その頃、執事と密談をしていた。あいつらのボディガードらしい男は、今日はいない。怪しい奴で、手の先から火を出して、うちの密偵2人を手玉に取った恐ろしい男だそうだ。今日は、女4人だ。全員、殺して渡した大金貨を奪おうと思ったが、気が変わった。あのエルフと、黒髪の子供は、殺さずに攫って来るように指示した。
シェルさんは、早い段階から、男達が付けているのを知っていた。町といっても、賑やかなところばかりでは無い。特に、代官屋敷の周辺は、大きなお屋敷が並んでいて、人通りも少ない。襲うなら、絶好の場所だ。
シェルさん達は、角を曲がってから、物陰に身を隠した。後ろから付いて来た男達は、全部で6人だった。角を曲がって突然いなくなった女達を探して、キョロキョロしている。
クレスタさんが最初に出て行った。
「誰を、探しているのかしら。」
この赤毛の女は殺す事になっている。勿体ないと思うが、命令だ。無言で、斬りかかる。
ガキン
白く光る円盤が、目の前に現れて、剣を弾いた。
「くっ、魔法使いか。」
「ウインド・カッター」
風の刃が、クレスタさんの後ろから襲って来る。それも3本。仲間3人の腕が落ちた。
「ファイア・ボール」
あの小さな子まで、魔法使いか。不味い。残った仲間2人が、火だるまになって転がり回っている。逃げなければ。あれ、おかしい。足がすくんで動かない。なんだ。この感覚は。あの金髪の女だ。俺を蔑んだ様な目で見ている。許してくれ。
男は、その場で土下座をして、動けなかった。クレスタさん達は、そいつらを放っておいてホテルに戻った。
僕は、起きていた。帰る途中、何があったかも知っていた。イフちゃんに、こっそり護衛を頼んでいたのだ。僕の傷は、全く残っていなかった。シェルが流してくれた『治癒』の力と、僕自身の自然回復力が、直してしまったのだ。だが、まだ完全に復活するには決定的に足りないものがある。栄養だ。大量に流した血を補う様な食事をする必要がある。
その夜、町に1件だけある、ジビエ料理店で、バーベキューを食べた。鹿とか鳥の肝臓を中心にして。食事は、僕の回復祝いを兼ねていたが、クレスタさんとシェルさんが大量にワインを飲んでいる。
嫌な予感がした。
その内、シェルさんとクレスタさんが口論を始めた。山に帰れとか、命の恩人だとか、僕には、何を言っているのか分からなかった。僕は一人で冷えたトマトをポチャポチャ食べていた。
うん、このトマトは美味しい。5月の初旬だというのの、どうやって作るんだろう。今度、ハッシュ村に帰ったら、作ってみよう。
その日の夜、僕は、シェルさんとエーデル姫の2人に挟まれて寝た。ノエルとクレスタさんは、隣のツインだ。どうやら、僕と誰か1人の2人きりで寝ると、僕の回復に良くないらしいので、そうなった。あの、それなら一人で寝かして下さい。
この日は、2人は珍しく上着を着ていた。しかし、ベッドに入って暫くしたら、エーデル姫がモソモソしていて、僕の手を股の間に挟んで来た。直ぐに、シェルさんも同じことを始めた。皆さん、僕、起きたら腕がカピカピになっているんですけど。
(5月7日です。)
朝、僕は町の外にいた。何時もの稽古の他に、シールドを纏いながらのスキル『瞬動』を使う練習をした。
上手く行かない。どうも、魔法とスキルは力の根元が違うようだ。何回か、やってみるが、スキルを発揮するため、力を体の中に溜めようとすると、魔力の流れが切れてしまう。『流れ』と『溜め』、うん、その内出来るだろうと思い、稽古を辞めた。
ホテルに戻って、皆で朝食を食べることにした。朝食は、目玉焼きとベーコン、ほうれん草のグリーンスープだ。パンはバスケットに入れてちいさな子がテーブルを回っているので、好きなだけ取るのだが、チップを渡さなければならず、大銅貨1枚を渡したらとても喜んでいた。見ていると、銅貨1枚しか渡さない客もいる様だ。
食事が終わったら、町の防具屋さんに行った。僕の鎧を直すためだ。僕の防具の作りを見て、防具屋さんは驚いていたが、今回の損傷程度なら、すぐに直せるとの事だった。
次に、クレスタさんの防具を新調する事にした。鎧は、胸と背中のフルアーマータイプ、腰には前垂れ、ガンレットは良いとして、脛当てはいらないという。その代わり、茶色のロングブーツで、甲に鉄板の入っている物を購入した。アンダーウエアは、自分で決めると言っていた。鎖帷子にしたら良いのに、それは嫌な様だ。
既製品の中で、一番上等な物にしたが、軽量合金製のものしかなかった。鎧は、女性用という事で、胸が異様に膨らんでいた。
装具を調整するため、2時間後に受取りに来るという事で、防具屋さんを出た。次は、洋服屋さんに行った。クレスタさんの服を買うそうだ。僕は、外で待っていたが、異常に待たされた。
まあ、急ぐ用事もないので、そのまま待っていると、ようやく出てきた。僕は、目が眩しかった。空色のカッターシャツに、白色のベスト、赤と白のチェックのミニスカートを履いている。物凄く似合っている。太腿まである白色ニーソックスとスカートの間の絶対領域に、男だったら目が釘付けになってしまうだろう。もういいです。
シェルさん達は、とっても不満そうだった。1人、クレスタさんだけがニコニコしていた。あのー、クレスタさん、もしかして、その上から鎧を付ける気ですか。怖くて聞けない僕だった。
町を歩いても、僕達は目立つらしく、男は必ず振り返った。特に、クレスタさんは、背も高く、スタイル抜群なので、一緒に歩くのが恥ずかしい位だ。
お昼に、例のレストランに行くと、今日、昼過ぎに竜騎兵が来るので、ここで待っていてくれと言われた。みんなで、軽い食事をして、あとはお茶を飲んでいたら、竜騎兵の皆さんが来られた。
僕は、初めて竜騎兵という人を見たが、何かカッコいい。紺色の厚手の制服に銀色の甲冑、帽子は耳を隠す様な覆いを顎で縛り、丸いメガネを革ベルトで帽子に付けている。何でも、空の上は寒いので、防寒性を高めた服装だそうだ。
彼らが、女将さんに話しかけ、僕達の方を見ている。僕達のテーブルに近づき、自己紹介をしてくれた。
クレスタさん、あなた、歳の差とか、周囲の状況とか考えないのですか。もう既に3人の婚約者がいるんですよ。しかも、あなたはゴロタよりも7歳も年上なのですよ。ゴロタが20歳の時、あなたは27歳、30歳の時は、37歳、40歳の時は、47歳です。うん、普通にあるかも知れません。
しかし、進展が遅くてすみません。ゴロタは、一体いつになったら紅き剣を手に入れるのでしょうか?