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紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第2部第2章 魔物が仲間になりました。
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第2部第41話 ローズ・ガッシュ市の衛士隊

(6月8日です。)

  夕食が終り、さあ、もう寝ようかというときに、シルフから『異空間通信』が届いた。シルフが言うには『念話』とは異なる通信手段だそうだが、詳しい話は聞きたくなかったので、スルーすることにした。


  そんなことはどうでも良く、シルフは、今、ガッシュ市衛士隊と交戦中だそうだ。え、なんで?そう言えば、遠くから『ボーッ!』というミニガンの発射音のような音が微かに聞こえる。僕は、ベランダに出て、北の方角を向いた。うん、確かにミニガンの発射音がしている。気のせいではない。僕は、『ベルの剣』だけを持って、ローズ・ガッシュ市の上空に飛び上がった。夜、上空を見ても、僕の姿は確認できないはずだ。


  北の方に進路を取って、飛翔する。あっという間に、北門の上空に到着した。すでに、戦闘は終わっていた。僕達の馬車は、北門外に広がるスラム街の外に停車していたが、その周りにはローズ・ガッシュ市の衛士と思われる男たちの死体が散乱していた。ほとんど肉片になってしまった者もいるので、はっきりとは分からないが、20名位だろうか。生存者はいないようだ。


  馬車の屋根の上に降下する。イオラさんとイオイチ君は、地上で伏せている。可哀そうに。よほど怖かったのだろう。シルフが状況を説明してくれた。


  イオラさんとイオイチ君は、今日、ここで野営するつもりで、夕食の準備をしていた。準備も終わり、さあ食べようとしたとき、巡回の衛士さん2名が来たらしいのだ。身分証明書などを確認していたが、屋根の上のシルフに気が付いて、屋根から降りてくるように指示したらしい。シュタッと屋根から飛び降り、綺麗に着地したシルフに少し引いていたが、型通りの尋問が始まった。


  イオラさんとイオイチ君は、奴隷証明書と旅行許可状を持っていたので、何事もなかったが、シルフは、身分証明書を持っていなかった。というか10歳程度の女の子に身分証明書の提示を求める方もどうかと思うのだが。当然、身分を証明できないシルフは、衛士達に連れ去られようとした。あと、馬車も証拠品として押収すると言っていたそうだ。なんの押収品か分からないが、彼らの目的はシルフの拉致なのか馬車の押収なのかは判然としない。しかし、無理やりシルフの腕を掴んで拘引しようとしたのだ。シルフがほんの少しだけ、体内電池の電流を流したとしても文句は言えないだろう。


    バチーン!!


  衛士二人は吹き飛んでしまった。地面に転がった衛士達は、気が付いてから、恐怖の顔を浮かべ、直ぐに応援を呼びに行ったそうだ。それで衛士隊20名程が応援に来たのだが、そのうちの上官らしい太った衛士が、シルフの胸倉をつかんで、宙づりにしようとしたらしい。その時、すこし戦闘服の胸のボタンが取れてしまったらしいのだ。


  シルフは、自分に対する暴行と認定したので、自己防御及び報復のため、腰のグロック42を抜き出し、38口径弾を3発ぶち込んでしまったらしい。当然、その衛士は即死だった。あとは、グロックを全弾打ち尽くす前に馬車の屋根の上に飛び乗り、ミニガンの一斉掃射が始まったらしいのだ。


  最初は、何が起きているか分からなかった衛士達も、あの恐ろしい機械が『ボーッ』いう音とともに閃光が走って、仲間が次々とミンチになって行く光景を見て、我先に逃げ出したそうだ。しかし、みすみす逃がすシルフではなかった。最終的には、全員を殲滅してしまったそうだ。城門近くのスラムの住民たちも我先に逃げ出してしまい、後に残されたのは、地面で伏せて震えているイオラさん、イオイチ君とシルフだけだったそうだ。


  僕は、イオラさんを助け起こしてから、今日は、このまま北の方へ逃避するように指示した。明日、明るくなってから合流するから、安心して逃げるようにと言ってあげた。あと、シルフには、馬車を守るようにお願いしておく。北の方に去っていく馬車を見送ってから、イフちゃんを呼んで、衛士の死体を完全焼却するようにお願いした。うん、証拠隠滅かもしれない。その後、ホテルまで『空間転移』で戻ったら、シェルがまだ寝ないで待っていた。今までの経過を離すと、『フーン、しょうが無いわね。』の一言だけで、あとは眠ってしまった。僕も、しょうがないので眠ることにしたが、このことが、この街を恐怖に落とす事になるとは、思いもしなかった。







  翌朝、ホテルで朝食をとっていると、衛士隊がレストランに入って来た。20名ほどだったが、朝食の雰囲気にはまるで合わなかった。背の高い衛士が、僕達のテーブルに近づいて来た。なんの用事か直ぐに分かったが、黙っていると向こうから話しかけて来た。


  「お前は、ゴロタか?」


  いきなり『お前』呼ばわりもないと思ったが、黙っていると、今度は、何かのメモを見ながら、


  「それでこのエルフが『シェル』か。」


  「後は、ビンセント男爵にミリア嬢だな。貴方達には嫌疑はありませんので、ご安心下さい。」


  「ゴロタとシェル。2人はちょっと来て貰おう。」


  シェルが、抗議をした。


  「あら、貴方、ずいぶん偉そうですけど、貴方は何ですの?」


  「はあ?この制服で分からないのか?」


  「すみませんね。私達は、この国の者ではないので、制服だけでは分かりませんのよ。オホホホホ。」


  「これは失礼。私は、この市の衛士隊長のゲルマという者だ。昨日、北門の外で衛士隊長22名が行方不明になってな。その捜査中だ。」


  「ゲルマさん、それで私たちに何の用なのです。昨日は、ずっとホテルにいましたわ。」


  「いや、昨日、市内に入って来た時、馬車が一緒だった筈だが、その馬車はどこにあるんだ?」


  「イオークの税金が高くて、北門の外に置いていますわ。」


  「それが、今朝、捜索をしたのだが、その馬車だけ見つからないので、事件に関係あるかもと思い、こうして調べているんだがね。」


  「あら、おかしいですわね。きっと、用足しにでも行ったんでしょ。」


  「いや、昨日の事件の目撃者の話では、貴族の乗るような馬車の屋根から轟音と火が噴いていたということだ。お前らの馬車しか、貴族用馬車は無かった筈だ。」


  「とにかく、ちゃんとした証拠なり令状が無ければ、同行はお断りします。」


  「ほう、これでも断るのか。」


  ゲルマ隊長が右手を挙げた。後ろの衛士達が一斉に剣を抜いた。ホテルのレストラン内で剣を抜くなんて非常識なことだ。しかも、狭いレストラン内で20人近い人数が一斉に剣を振ったら、相打ちになりかねない。シェルは顔色一つ変えずに、僕の方を見て頷いていた。ああ、僕が処理するんですね。


  仕方なく、ナプキンをテーブルの上に置いて、立ち上がった。僕は、一番近い衛士の持っているロング・ソードの刃を手づかみで掴んだ。手が蒼く光っている。そのまま『ポキリ。』と折ってしまう。当然、僕の手は何ともなっていない。刃を折られてしまった衛士は『え?』という顔をしてしまった。後は、10人位の持っていたロング・ソードの刃を折ってしまう。時間にして、10秒くらいだろうか。隊長を含め、衛士達は何が起きているのか理解できなかったようだ。隊長は、震える声で、


  「お前、魔法使いか?」


  というのが精一杯だった。


  いいえ、違います。魔法など、一切使っていません。こんな狭い場所で魔法を使ったら、大変なことになってしまいます。僕は、自席に戻って、朝食の続きを食べ始めた。


  「まだ、続けますか。私達を拘引したければ伯爵様の直筆の拘引上でも持って来てくださいね。」


  シェルの高ビーな物言いに、ゲルマ隊長は、歯ぎしりをしながら引き上げていった。さあ、早く食事をして、町を出なければ。そう思っていたんだけど、シェルがグズグズしている。早くしないと、またゲルマ隊長が来るからと思っていたんだけど、シェルには早く町を出たくない理由があったようだ。


  「ゴロタ君、私とミリアさん達で、お買い物に行ってくるわ。ゴロタ君はビンセント君と一緒におとなしく待っていてね。」


  へ、何ですと。買い物?


  そう言えば、この街に来てから恒例の買い物をしていなかった。こうやってゆっくり旅をしているのも、いろんな町の名産、特産品などを見て歩きたいためだった。でも、グズグズしていると、あのゲルマ隊長が伯爵の拘引状を持って来てしまいますよ。メリちゃんとセレンちゃんは、不安そうな顔で僕を見ていたが、シェルに促されて、一緒に買い物に行ってしまった。なんか、嫌な予感しかしない。昨日の事件は、不可抗力としても、今日、この街で騒ぎを起こしたくない。このまま、そっと街をでて旅を続けたいのに。


  予感と言うものは2種類あって、良い予感と悪い予感だ。良い予感というのは、自分の希望的観測に基づくもので、概ね外れることが多い。半面、悪い予感というのは、十中八九当たってしまう。今回も、悪い予感が的中したようだ。お昼前になって、もうそろそろシェルさんが山のような買い物をして帰ってくる頃合いなのに帰って来ない。あ、シェルさんの『念話』が届いた。


  『ゴロタ君、私達、今、司法庁舎の中なの。あの隊長、伯爵の令状を持って来たのよ。仕方がないから、黙って言う事を聞いておいたわ。』


  ああ、だから言ったのに。しょうがない。イフちゃんに飛んでもらう。イフちゃんは、実体のない精霊となって、『ガッシュ伯爵領司法庁』の庁舎内に入って行く。僕とは『思念共有』をしているので、イフちゃんの見聞きしたものは、僕も見聞きしていることになるのだ。司法庁の中は、どこも一緒で、受付があって奥には裁判を行える場所がいくつか設置されている。2階から上は、裁判官や訴追官の詰所と調べ室になっている。3階は事務官の事務所や資料室だ。留置場は、地下1階にあって、特別取調室も地下にある。特別取調室といっても、単に拷問道具が置いてあるだけで、どこにでもある拷問室だ。


  シェルだけ、特別取調室に連行されている。ミリアさんは、2階の取調室だ。メリちゃんとセレンちゃんは、受付前のソファにチョコンと座っている。受付の女の人がジュースをくれたみたいで、二人でチューチュー飲んでいた。


  シェルは、木製の手枷を嵌められ、椅子に座らされている。衣服に乱れたところは無いので、今のところ、酷い事は受けていないようだった。取調官は、眼鏡をかけたインテル風の小さな男と、衛士隊の制服を着た身体の大きな男だった。ちょうど、取り調べが始まったところらしい。


  「名前は?」


  「シェルナブール・タイタン」


  「職業は?」


  「冒険者。」


  「年齢は?」


  「女性に年齢を聞くのは失礼ね。」


  後は、取り調べにならなかった。完全に供述拒否をしている。何を聞かれても『拒否します。』の一点張りだ。取調官は、業を煮やしているようだったが、拷問をしようとは思っていないようだ。単なる脅しで、拷問室に連れて行ったみたいだ。


  それじゃあ、ゆっくり迎えにでも行きますか。そう思っていたところ、ホテルの外が騒がしくなってきた。あ、向こうから迎えに来たのかな。ビンセント君と二人で、ホテルの外に出てみる。朝の衛士隊長が立っていた。その脇には、騎士団の鎧、兜を装備した大きな男の人がいる。真っ赤なケープが偉そうだ。二人の広報には、衛士隊200名、騎士団300名の大部隊が隊列を組んでいる。


  衛士隊の隊長が、前に出て何やら紙を読み上げた。あ、きっと伯爵の拘引状だ。


  「拘引状。冒険者 ゴロタ。右の者に対し、2030年6月8日午後8時頃、ローズ・ガッシュ市郊外北門付近に於いて、共謀して衛士隊22名の命を奪った嫌疑により拘引することを許可する。インカン王国ガッシュ領主ブリザンチン・ガッシュ伯爵」


  うん、読み上げて貰ったけど、身に覚えはありません。事情は知っているけど。でも、実行犯のシルフ達はどうするのかな。その疑問は、直ぐに解けた。


  「お前の連れは、衛士隊100名、騎士団200名により、北街道を追跡中だ。間もなく捕縛されるであろう。」


  あ、危ない。その衛士さんと騎士さん達、絶対にピンチだから。

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