表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第2部第2章 魔物が仲間になりました。
487/753

第2部第39話 トレントの森

(6月4日です。)

  朝、野営地の区画の南側に広がっているオーガの死体というか肉片を炭にしていく。このままでは、衛生上も良くないし、それに匂いもひどいので、朝食が不味くなりそうだからだ。


  朝食を終えて出発しようとしたら、昨日、一緒に泊った村人たちも一緒に混ぜてくれと言う。しかし、向こうは、荷車を曳く馬だけで、人間は徒歩なので、速度が違い過ぎる。と言って、人間を乗せるほど、僕達の馬車も余裕がないので、丁寧にお断りした。ビンセント君が。


  ここから北のセコイア村について、ビンセント君は何もない村だと言っていたが、住んでいる人達がいるのなら、きっと何かがあるはずだ。夕方、村に近づいただけでその村が異様であることがわかった。大きな木が生えている。その木は、セコイア種の巨木だが、その大きさがハンパないのだ。高さは100m以上だ。季節的に紅葉に季節も終わりかけなのだろう。赤茶色の細い葉が重なったものが風に吹かれて散ってくるが、その数が半端ない。


  村の至る所で、その葉を集めて山のようにしている。何に使うのだろうか。腐葉土にしても使いにくいと思うのだが。


  村は、周囲の森を切り拓いて、細々と農作物を栽培しているが、生活の糧の殆どは森の恵みだ。木の実や自生している芋、山菜にキノコとスローライフには最適の環境だろう。


  この村には、食堂兼宿屋が1軒あるのみだった。元は小さな食堂だったのだろうが、街道が整備された事に伴い、宿屋を増設していったらしいのだ。宿屋は、セコイアの木のすぐ側にあったが、村人達がセコイアの木の前に集まっている。お祭りでもあるんだろうか?


  僕達が馬車を降りていくと、村人達が僕達を注目している事に気付いた。今までも、シェルやミリアさんを見て劣情を催した目で見られることは良くあったが、ちょっと雰囲気が違った。


  村人の中から、3人ほどの男が近づいて来た。一番、年長そうな男が声をかけて来た。


  「あのう、あなた達は冒険者様ですか?」


  『冒険者様』と言うほど偉くはないが、まあ、確かに冒険者です。僕とシェル、それにメリちゃんとセレンちゃんは、この付近では珍しい迷彩模様の冒険者服(戦闘服?)を着ているし、メリちゃんに至っては、暗視ゴーグル付きの迷彩ヘルメットにMP7を装備しているので、冒険者でなければ、単なるミリタリーオタクだろう。


  貴族服風の冒険者服を着て、超高級そうなロングソードを佩刀しているビンセント君が答えてくれた。


  「いかにも。私達は、史上最年少『C』ランクパーティーの冒険者です。」


  あのう、あなたは、まだ『F』ランクでしょう?まあ、細かなところは放っておいて話を聞くと、この村では、困った事が起きているようだ。話しかけて来た男の人は、この村の村長で、リーフさんと言った。


  取り敢えず、宿屋にチェックインしてから話を聞く事にした。チェックインをしている間中、リーフさんは傍につきっきりだった。ちとウザかったけど、それだけ切羽詰まっていたのだろう。


  困った事というのは、森に魔物が出たという事だった。子供ばかり、もう6人程犠牲になっているらしい。一人で森にキノコを採りに行って帰ってこないらしいのだ。村人達が探しにいくと木の根に取り込まれている子供が発見される。当然、干からびた遺体となっているそうだ。


  今日は、これから村の自警団で魔物狩りに行くそうだ。しかし、魔物の正体も知らずに闇雲に森に入って行っても、魔物の餌食になるか、全く魔物を発見できないのどちらかだろう。


  子供しか狙わないということは、大人の男では敵わないと言う推測もできる。僕には魔物の正体が予想できた。きっと『トレント』だ。トレントを殲滅するのは、かなり難しい。あの木の根のような触手、あれが厄介なのだ。地中から突然伸びて来たり、樹上から垂れ下がったりと。本体は、木に擬態しているが魔法を放ったり、火を吹いたりと特別の攻撃能力はない。


  今日は、もう夕方なので、明日、討伐をしてあげる事にした。村長に、セコイアの枯葉を積み上げてどうするのか聞くと、燃料にしたり肥料にするそうだ。村中に針葉樹独特の匂いが充満していた。しかし、針葉樹の葉は、油成分が多いので、火事の恐れはないのだろうか。


  今日の夕食は、この村の特産のキノコ鍋だ。キノコと猪の肉や里芋を一緒に煮て、タレにつけて食べるのだが、新鮮なキノコが香り高く、とても美味しかった。






  次の日、僕とビンセント君、それと村の自警団の皆さん10人とともに森の中に入っていく。魔物の森は、村の西側の森で、途中の里芋畑を抜けていく。


  森の入り口は、村からの道が、そのまま森の中に入ったところだ。森の樹種は、針葉樹と広葉樹が半々位だが、広葉樹は、すでに落葉が終わっていたので、森の中は意外に明るかった。楠木などの常緑樹と針葉樹が混在しているところがあり、流石にそこは薄暗い雰囲気があった。


  「この辺で、子供達をみつけたんです。」


  村人が教えてくれた。しかし、トレントは見当たらない。通常の魔物は、獣の匂いと血と腐臭が混じった独特の匂いがあるのだが、トレントは、獲物を攻撃するのは、長く伸びている触手だし、獲物から養分を吸うのも触手なので、本体は何も食べる必要が無い。トレントは確か、顔に目、鼻、口が付いているが何に使うのだろうか。


  森の中に分け入っていくと、魔物の気配はするが何事も起きない。やはり警戒されているんだろう。僕は、イフちゃんを飛ばした。イフちゃんなら、ほんの僅かな気配まで感知できる筈だ。


  イフちゃんは、すぐトレントをに見つけてくれた。ここから西に500m位進んだところだ。


  皆で、森の中を進んで行くと見るからにあるのだが怪しいエリアがあった。樹上から何本かの木のツルのようなものが垂れ下がっている。そのツルの間を通り抜けようとした時、何人かの村人がツルに襲われてしまった。


  直ぐに、他の村人によりツルが切り離されてしまったが、『バタンバタン』と切り離されたツルが地上をのたうち回るのも気持ちが悪い。僕達はどんどん進んで行く。地中からも、突然ツルが伸びてきて村人の足元に巻きついて来た。これも、あっという間に切断されてしまう。トレントの触手も、巻きつく以外の攻撃手段がないみたいだった。


  進むに従って、触手の攻撃も激しさを増して来た。向こうも必死なのだろう。一度に20本以上の触手が襲ってくるのだ。流石に、足を掬われたり宙吊りになって身体の自由を奪われてしまっている。自警団の皆さんは、全員、触手に捕まってしまった。


  唯一、ビンセント君がいい仕事をしている。ロングソードを赤く光らせて触手に切りつけていく。まるでチーズスティックを切るようにスパスパと切り離して行く。職種の切り口は、僅かに燃え上がって炭化している。もう、再生は出来ないだろう。


  村人全員を助け出してから、本体に向かう。本当は、イフちゃんに本体を焼かせても良かったんだが、子供の恨みを晴らしたい親の気持ちを考えて、敢えて殲滅しないでおいたのだ。


  トレントの本体は、大きな楡の木に寄生していた。元々太い幹に、びっしりと根を這わせ、上半身だけ、その根から浮かび上がっている。肌は、完全に樹木の肌で、目は付いているが、白く濁っている。物凄い本数の触手が地面から生えて来た。ビンセント君が、触手を断ち切っている間に、村人が次々とトレント本体を攻撃していく。斧で斬りつけるのが、最も効果的なようだ。ショートソードでも切りつけている。斬られたところから、白っぽい粘膜がグジュグジュと出て来ている。


  しばらくすると、トレントは動かなくなった。殲滅したようだ。トレント本体を、楡の木から引き剥がしていく。楡の木の幹に入り込んだ根は、出来るだけほじくり返している。ついにトレント本体が剥がれた。胸から魔石を取り出す。緑色の魔石だった。


  斬られて転がっている触手と一緒に燃やす事にした。最後は、イフちゃんに活躍してもらう。『地獄の業火』により燃やし尽くす。生木のように白い煙を上げながら、炭になってしまった。村人達は、男泣きに泣いていた。死んでいった子供達のことを思い出しているのだろう。


  村に戻ると、リーフさんが待っていてくれた。討伐のお祝いをしたいと言ってくれたが、丁寧にお断りした。直ぐにでも村を出発したいと言ったら、まだ礼金も払ってないのにと引き止められたが、その礼金は、これから定期的にトレント討伐をする資金に当ててくださいとお願いした。


  シェル達の出発準備は完了していた。でもリーフ村長が、『どうしても昼食だけは食べて行って下さい。』と言って来たので、それでは昼食だけと言う事で、心のこもった料理をご馳走になった。結局、僕達がセコイア村を出たのは、お昼をだいぶ回った時間になってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ