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紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第2部第2章 魔物が仲間になりました。
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第2部第35話 セイレーンのセレンちゃん

(5月30日です。)

  朝5時、シェルが起きないようにそっと起きだす。着替えてから、ホテルのロビーでお茶を飲んでいると、ビンセント君が降りて来た。手には木刀を持っている。かなり太い作りだ。重さも2キロ以上あるだろう。ホテルの裏に回ると、すでにイオイチ君が来ていた。イオイチ君の木刀は、普通の木刀だが、重さ700グラム位だろうか。ホテルの裏は、お客さんの馬車や馬を繋いでおく場所だが、結構広くなっている。まず1000本素振りだ。約30分位で素振りが終った。最初の頃は、ダメダメだったが最近はきちんと振れるようになって来ている。


  次に、『明鏡止水流』の剣の形だ。全12本のうち、7本だけだ。ゆっくりとした流れの中で、最後に決めて貰う。


   1本目  左上段からの面抜き面

   2本目  正眼からの小手抜き小手

   3本目  下段からの突き返し突き

   4本目  八相からの突き返し面

   5本目  左上段からの面擦り上げ面

   6本目  正眼からの小手擦り上げ小手

   7本目  正眼からの抜き胴


  イオイチ君は、形は完璧に覚えているが、最後の木刀を止めるときの『気』の入れ方がもう少しだった。ビンセント君は、形をしっかり覚えて貰おう。稽古中にメリちゃんが起きて来た。メリちゃんには、魔法を教えている。小さなハンカチを手の平に乗せて、風で浮かばせる訓練だ。手のひらに魔力を集中させるやり方については、直ぐに覚えていたが、風をコントロールすることについては、苦労しているみたいだ。でも、訓練を初めて数日だ。それで、ここまで無詠唱で出来るなんて、才能があるようだ。うん、訓練のしがいがある。


  稽古が終って、食事の前にシャワーを浴びる。朝食は、午前7時からだ。イオイチ君は、ホテルとは離れている専用宿舎に戻っている。朝食が終ってから、皆で水着を買いに行く。南半球の5月末というと、北半球の11月末なので、かなり寒くなってきてる。そのため、水着を売っている店を探すのに結構手間取ってしまった。店では、男性陣は、紺色のパンツだけだが、女性陣は、ああだ、こうだとなかなか決まらない。僕は、もう慣れっこになっているので、黙って待っている。ようやく決まったようだ。さあ、それでは皆で、ダンジョンに行きますか。一旦、ホテルに戻って、水着を着てから、その上に冒険者服を着てギルドに向かう。手続きをしてダンジョンに向かった。きちんと手数料を払っているので、ダンジョン入口の事務所にも挨拶をしておく。


  ダンジョンに入ったら、昨日と同じように、人目につかないところで、地下第4階層のボスエリアに転移する。昨日、階層ボスを殲滅したばかりなので、まだ復活していなかった。そのまま、地下第5階層に潜っていく。





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  地下第5階層は、シーサイド・エリアだ。もう5月末だというのに、真夏の太陽が燦燦と輝いている。あの太陽、実際はどれくらいの高さにあるのだろうか。僕達の姿を見たせいか、海面に黒い頭が浮かんでいる。瞼の無い目、海藻を乗せたような髪の毛、『サハギン』だ。半魚人ともいうが、人魚の遠縁にあたるそうだ。あ、こっちに向かってきた。手には三つ又の槍を持っている。でも、先っちょが真っ赤にサビているのは、あまり手入れをしていないせいかも知れない。


  サハギンは、特殊な攻撃はしないが、時々、塩水を顔にかけてくるのに注意が必要だ。ビンセント君が戦ってみる事にした。まあ死ぬような事は無いだろう。しかし敵の長い三又槍の間合いの中に入れない。何合かやり合っているうちに、少しずつ負傷部位が増えて来たようだが。


  「ビンセント君、石礫だ!」


  この前、土魔法の一つ、『石礫』を教えてあげたのに、忘れているようだ。慌てて、後ろに下がり、右手を前に差し出して『石礫』と叫んだ。未だ、完全無詠唱は出来ないようだ。


  5個ほどの石礫がサハギンを襲う。サハギンが槍で払い落とそうとした瞬間、ビンセント君のロングソードが胴体を横薙ぎに払った。少し浅かったが、十分に致命傷だったようで、サハギンはピクピクしながら息絶えてしまった。イオラさんが直ぐに魔石を取り出していた。水色の綺麗な魔石だ。うん、結構高そう。


  浜辺を1キロ位進む間に、サハギンが3体出現したが、ビンセント君は、今度は危なげなく撃退していた。魔石も計4個になった。その先に行くと、なにか大きなものがワサワサ動いていた。よく見てみると、大きなヤドカリだった。大きな巻貝の殻を背負ったヤドカリだ。というか、あんなに大きな巻貝、どこにいるんだろう。見つけたら、絶対に捕獲したい。ヤドカリは、エビとカニの中間のような味だ。巻貝も食べてみたい。醤油を垂らしてつぼ焼きにすると、とても美味しいのだ。まあ、しょうがない。ヤドカリを殲滅することにした。とりあえず、雷撃をヤドカリの上に落そう。


   「サンダー・ストリーム!」


  ヤドカリに雷が直撃した。体内の塩水が電気をよく通すみたいで、一瞬で、ヤドカリは動かなくなってしまった。後は、殻から外すのだが、体長5m以上もあるヤドカリだ。なかなか上手く行かない。『オロチの刀』を両手で持ち、『力』を流し込む。刃体が真っ赤に燃え上がっている。そのまま、上段から振り降ろす。


     ズバン!


  赤い閃光の『斬撃』が、大ヤドカリの殻に向かって一直線。綺麗に二つに割ってしまった。あとは、ヤドカリの身を食べやすい大きさに小分けするのだが、イオラさん、イオイチ君、メリちゃんの3人がかりだ。切り分けたヤドカリは、次々とイフクロークの中に収納していく。


  後は、クラーケンだ。今日は、新鮮なクラーケンで串焼きダコを作ろうと思っていた。しかし、なかなか現れない。ヤドカリを討伐する時、派手にやり過ぎて警戒されたかも知れない。イフちゃんに偵察に行かせたら、かなり沖合の海底に潜んでいるらしい。チッ!頭のいい奴め。


  諦めて、ある食材だけでBBQをする事にした。イフクロークから、以前、捕獲していたロブスターとクラーケンの足を取り出しておく。さっきの大ヤドカリの身と交互に串に刺して炭火で焼き始める。味付けは、醤油ダレと塩味の2種類だ。


  魚介だけでは飽きてしまうので、牛肉と豚肉のブロックも取り出して、玉ねぎと一緒に串に刺しておいた。もうダンジョン攻略ではなく、完全にピクニック気分だ。ビンセント君は、こんなことしに来た訳では無いと言う顔をしていたが、串焼きを一口食べたら、顔付きが変わってしまった。あっという間に、一串食べてしまった。もう、それからは大食い大会みたいになってしまった。


  僕は、3本ほど焼き串を持って、階層ボスエリアに向かった。このエリアの階層ボスは確か、歌を歌うしか能の無い魔物のはずだ。特に恨みもないので、焼き串3本で、スッと通して貰うつもりだ。シェルやエーデルはセイレーンの姿を見ると、僕がじっくり見る前に殲滅してしまうので、いつも申し訳なく思っていたのだ。ボスエリアは、ビーチに飛び出した岩礁になっていて、僕が近づいた時には誰もいなかった。


  岩礁の突端に行って、海面を見ていたところ、大きな魚が近づいて来た。いや、魚ではない。上半身が人間の人魚だった。海面から顔を出すと、銀色の長い髪の女の顔だった。人魚は、『念話』で話しかけて来た。


  『貴方は誰?私を殺しに来たの?』


  「僕は、ゴロタ。これ食べる?」


  持って来た焼き串を上げた。人魚は、手を伸ばして来たが、その時、胸を隠している髪の毛が割れて、先っちょのポッチが見えてしまった。ドギマギしながら焼き串を渡すと、あっという間に食べてしまった。


  『美味しい。もっと。』


  もう1本、渡したところ、右手に持っているもう1本も、欲しそうに見ていた。僕は、黙ってもう1本を渡した。さすがに大きな焼串3本を一気に食べると、お腹がいっぱいになったのか、もう欲しがらなかった。


  『ありがとう。久しぶりに美味しいのを食べた。本当に久しぶり。』


  「あなたの名前は、何ですか?」


  『名前は、ない。海底の神殿では、『●▽●▲×▲』と呼ばれていた。』


  名前は、人間の耳では発音できないような呼び名だった。僕の知っているセイレーンは、2本足のある女性だったが、このセイレーンは、伝説の人魚の姿だった。きっと海中にいるときは人魚の姿、地上に上がると尾が2つに分かれて人間の足になるのだろう。


  『地上に上がりましょうか。人間族の男は、その方が好きなようだから。』


  いいえ、遠慮します。シェルに怒られますから。しかし、名前のないのはちょっと困るので、名前を付けてあげよう。


  「名前がないと、これから呼ぶとき困るので、あなたは『セレン』ちゃんと呼んでもいいですか?セレンちゃん。」


  セレンちゃんの身体が、青白く光った。


  「あなた、私に名前くれた。隷従の契約結んでしまった。これからは、いつもあなたの言う事を聞きます。」


  あ、いけない。そんなつもりはないのに。魔物と言えども、地上ではかなり上等な美女である。ずっと連れて歩くわけには行かない。そんなつもりは無かったのに。今後、どうするか決められないので、シェルに相談することにした。とりあえず、これからは人間を襲わないことを約束して貰った。


  直ぐに、皆のところに戻った。全員、海に入って遊んでいた。イオイチ君やメリちゃんは、初めての海水浴らしく波打ち際でチャプチャプしているだけだった。僕は、ビーチベッドに寝ているシェルに、セレンちゃんのことを話した。シェルは、呆れた顔をしながら、取り敢えず会ってみる事にした。


  シェルと一緒にさっきの岩礁のところに行ってみる。セレンちゃんは、今度も姿が見えなかった。


  「セレンちゃーん!」


  大きな声で呼びかけたら、沖合いでセレンちゃんが海面に飛び上がってから、こちらに寄って来た。うん、どう見てもイルカだ。セレンちゃんの近づく姿を見たシェルが、エーデル姫用の冒険者服を出しておくように言っている。まあ、胸だけ見ても、シェルの服は絶対に着られないと思われた。


  「あなたは向こうを向いていて。」


  じっと見ていたら、シェルに怒られた。慌てて後ろを向いて、しばらく待っていたら、『もういいわ。』と言われて、振り向いたら、セレンちゃんが人間の女の子の姿になっていた。

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