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第46話 おお、ゴロタよ 死んでしまうとは

  ワイバーン討伐です。チョイチョイとやっつける積もりだったのですが。

(5月5日です。)

  ワイバーンは洞窟の中だ。強力な魔法を打ち込めば、一発で終わる気もするが、卵も素材も諦めなければならない。それに、ワイバーンは竜種だけあって、火耐性が高いそうだ。洞窟の外に出して、火魔法以外で攻撃したい。


  僕は、シールドを纏った。身体が、白く光っている。かなり弱くしたファイア・ボールを、洞窟の天井に打った。


    ドン


  超弱爆破が起きて、洞窟の中が明るくなる。


  居た。緑色の飛龍が居た。大きさは、12〜3m位で、まんま翼の生えた蝙蝠トカゲだ。


    ギャッ!


  そいつは、一声、威嚇の声を上げて、ノソノソと洞窟を出てきた。僕は、十分に下がって、出て来るのを待つ。


  ワイバーンは、洞窟から完全に体が出ると、翼を思いっきり広げた。


  翼は、蝙蝠の翼のようになっており、翼の中間部分の前端には、かぎ爪が付いていて、紫色の液体が付いている。


  指骨は4本あり、かぎ爪の部分を要として、扇の様に広がっている。足の踝辺りと各指骨間を飛膜が張られている。


  尾の先端が3つに分かれており、その間にも飛膜が張ってあった。これは、舵の役目をするためだろう。


    ウインド・カッター


  シェルさんがワイバーンが広げた飛膜を狙って魔法を飛ばす。


  しかし、その前に飛翔を始めていた。早い。一瞬で、50m位上昇した。竜種は、決して翼の空力によって飛んでいるのではなく、魔力かスキルで飛んでいるのだ。翼は、飛びやすくするためか、飛べる事をアピールするための存在にすぎない様だ。


  上空まで上がったワイバーンは、翼を狭めて、頭から急降下してきた。


  衝撃波が、僕達を襲う。


    「キャッ!」


  シェルさん達が、スカートを押さえる。そいつが、翼を広げ、低空飛行に移ろうとした瞬間、


    ズバン!!


  『ベルの剣』から青い力が放たれた。『斬撃』だ。


    シュバッ


  軽い音を立てて広げた右翼の指骨2本を切断した。ワイバーンは、たまらずに右側に傾いて、地面に激突した。


  クレスタさんが、アイス・ランスの雨をそいつの広がった左翼に注ぐ。何本かが命中して、飛膜に大きな穴を開ける。


  殆ど、戦闘が終わった様なものかと思った瞬間、そいつは毒ブレスを吐いた。紫色のブレスは強力で、まともに浴びると、その威力で吹き飛ばされてしまいそうだ。


  僕は、『瞬動』で避けたが、後ろのシェルさん達は、そうは行かない。その時、白く輝くリングが空中に現れた。クレスタさんの『シールド』だ。


  毒ブレスを跳ね除ける。その瞬間、シェさんの弓矢が、青白い光を放ち、毒ブレスを切り裂きながら、そいつの口の中に突き刺さる。


  矢は、喉を突き刺し、後頭部から突き出ていた。ワイバーンは、静かに崩れ落ちた。


  その時、僕は胸騒ぎがした。なんだ、この感覚は。


  瞬間、脅威を探知した。後方上空80m、急降下してくる大型のワイバーンだ。


  もう間に合わない。狙われているのは、クレスタさんだ。


  僕は、『瞬動』により、一瞬でクレスタさんを突き飛ばした。クレスタさんは、10m以上、吹き飛ばされて、ゴロゴロ転がっていったが無事の様だ。そう思った瞬間、僕はワイバーンの鋭い後ろ足で、脇腹を腕の方まで引き裂かれた。


  僕が装備しているのは、軽鎧なので、脇には何も防護がない。さらに、『瞬動』の動作を起こす際に、シールドの魔法が解かれてしまっていたのだ。僕は、横に避けようとしたが間に合わなかった。


  ワイバーンは、すぐに上昇を始めたが、物凄い業火に包まれて、一瞬で炭になってしまった。イフちゃんの身体が燃え上がっており、『炎の魔人』の様な姿になっていた。その身体の炎は、直ぐに消えて、いつものイフちゃんが現れた。


  僕は、意識が遠くなっていくのを、ただ感じていた。変な感じだ。体が言う事を聞かない。寒い。寒い。眠くなってきた。あ、寒さが感じない。僕は、このまま死んでしまうのかな。


  ノエルが、直ぐに駆け寄りゴロタに『ヒール』を掛けたが、凄い出血量だ。身体の小さなゴロタでは、致死的な量だ。イフちゃんが、皆に命令していた。


  「ノエルは『ヒール』を掛け続けるのじゃ。シェルは、キスをして『治癒』の力を流し続けろ。エーデルとクレスタは、毒避石で、体内の毒を消すのだ。」


  皆は、言われた通りにした。シェルさんは、ゴロタに覆いかぶさる様にしてキスをした。涙が、ゴロタの口に入っても構わずにキスを続けた。


  ノエルは、あらかたの傷が塞がったのを確認してから、長い詠唱に入った。


  「愛と慈しみを司る精霊アリエス、聖なる力を統べる至高の御方、その力を生きとし生きる者、か弱き死する定めの者にお与えください。我は懇願す。その力を我に与えよ。」


    「ヒール。」


  今まで見たことのない様な神々しい光が、ノエルの右手に宿り、ゴロタに吸い込まれていく。


  エーデルさんとクレスタさんは、涙を溜めながら、ゴロタのありと凡ゆるところを、毒避石で撫で回していた。毒避石は、毒を吸って段々紫色になってきた。


  しかし、出血量が余りにも多すぎた。


  「ゴロタ君、ねえゴロタ君。息をして。お願い。息をしてよ。」


  キスをしていたシェルさんが叫んだ。ノエルが、慌ててゴロタの胸に耳を当てた。しばらくして、ノエルは力なく首を横に振った。


  「ええい何をしておる。ノエル、どくのじゃ。」


  イフちゃんが、心臓マッサージを始めた。


  「シェルよ、長く息を吹き込むのじゃ。鼻を抑えて息が漏れない様にするのじゃ。首をもっと持ち上げろ。」


  イフちゃんが、大声で指示をした。


    1、2、3、4、5


  規則正しく、心臓を両手で押す。暫く押してから、胸に耳を当てる。また、胸を押し始める。


    1、2、3、4、5


  20回位繰り返したが、突然、やめてしまった。


  「シェルよ、どくのじゃ。」


  僕に息を吹き込み続けているシェルさんをどかすと、僕の瞼を開き、瞳孔を確認する。


  「あきらめろ。ゴロタは、死んだのじゃ。」


  残酷な宣告だった。


  「嘘、嘘よ。ゴロタ君が死ぬ訳無いわ。ゴロタ君、あんなに強いんだもの。絶対に死ぬ訳無いわ。ねえ、さっきのどうやるの。私にも教えて。ゴロタ君が生き返るまで、ずっとやってあげるから。ねえ、こう?こうなの?」


  シェルさんが、見よう見まねで心臓マッサージをしようとする。


  「辞めるんじゃ。心の臓が潰れてしまうわ。」


  力なく、手を外すシェルさん。


  「ゴロタ君、ゴロタ君。私と一緒に『郷』に行くんでしょ。私を守ってくれるんでしょう。約束したじゃない。」


  皆が泣いていた。イフちゃんも泣いていた。涙など無い筈なのに泣いていた。


  5分位経ったのかも知れない。誰も時間なんか気にしていない。


  ゴロタの身体が光り始めた。最初は、誰も気付かない位の光だった。白っぽい光だった。段々、光が強くなると共に、光の色が黄色に変わった。


  更に光は強く大きくなっていった。


  ついに、光は金色の神々しいまでの色となり、昼なのに辺りを照らすばかりに強くなった。


  光が小さくなり始め、全てが終わった。


  ゴロタが目を開けた。






----------------------------------------------------------------


  僕は、白い世界を歩いていた。


  ここが、どこかは知らない。


  しかし、甘い匂いがした。この匂いは知っている。シルがよく作ってくれた、甘いお菓子の匂いだ。あのお菓子は、どうやって作るんだろう。シルに聞いておけば良かった。


  誰かが僕を呼んでいる。遠くから呼び声が聞こえる。でも、誰が呼んでいるんだろう。


  遠くに白い人が立っていた。シルだ。


  どんなに遠くても、すぐわかる。走って、近寄りたかった、抱きつきたかった。でも、できなかった


  シルは、どんどん上に昇っていった。


  シルの声が聞こえた。


    『ゴロタ、起きなさい。私のゴロタ。』


  僕は、意識を失った。








----------------------------------------------------------------


  目を覚ました僕は、辺りを見回していた。シルを探していた。7歳の時から会いたいと思っても、何処にもいなかったシルが、側に居る様な気がした。


  「お主、何処へ行っておった。ん、この匂い。お主、天上界へ行っておったの?」


  「シルがいた。遠くにいた。抱きつこうと思ったが出来なかった。」


  僕は、久し振りに泣いた。皆も泣いた。不思議なことに、僕に何があったのか、皆が知っていた。


  僕達は、ワイバーンの巣に行ってみた。卵が2個あった。人の握り拳位の大きさだ。


  あと、死んだワイバーンの皮を剥ごうとしたが、硬くてダメだった。


  僕が、『斬撃』を使おうとしたが、剣に力を込められなかった。当たり前である。天国にプチ・旅行したのだから。帰ることにした。僕は万全でない。このまま、帰るのには無理がある。シェルさんが、独りで『ベルの剣』を持って下山することになった。


  『能力強化』のうち、『身体強化』と『持久力強化』を同時に使っている。シェルさんは、飛び降りる様に下山して行った。


  町の手前で、辺りに誰も居ないことを確認してから、『ベルの剣』を抜く。凄い威圧感だ。『ベルの剣』に話しかける。


  「イフちゃん、着いたわ。」


  『そうか、早かったのう。』


  シェルさんの頭の中に話しかけて来た。


  剣の前の空間が揺らぐ。何かが見えてきた。イフちゃん達だ。イフちゃんの右腕をクレスタさんが繋ぎ、クレスタさんは、ワイバーンの翼の先の指骨を握っていた。


  イフちゃんの左手には、エーデル姫とノエルが捕まっていた。そして、2人に抱えられる様に、僕がいた。


  町の治癒院に行っても、何も役に立たないと思ったので、そのままホテルに戻った。


  クレスタさんとノエルさんは、ギルド出張所に寄って、報告をする。ワイバーンの卵を2個、カウンターの上に置いたら、女将さんがビックリして、ギルド専用の通信機で本部に連絡していた。声は無理だが、手紙は送れる様だ。


  ここでは、卵は買い取れないので、帝国から竜騎士が、この町に来るので、それまで待って貰いたいとの事だった。


  シェルさんが、町の外にワイバーンを置いていると言うと、女将さんは口をアングリと開けてしまった。どうやって、あんな大きな竜を高い山の上の巣から持って来れるのか。しかも、この子達が依頼を受けたのは昨日だったのにと驚いたからだ。


  町の外は、大騒ぎになっていた。突然、ワイバーンの死体が転がっていたからだ。


  女将さんは、死体を確認してから、また、本部へ連絡を入れていた。ワイバーンを処理する職人を派遣してほしいと。しかし、この町の近くで、ワイバーンを処理することが出来る職人は、この町の先にあるダンベル辺境伯領の領都、ダンベル市しかない。馬車で10日間以上かかる距離だ。


  ワイバーンを持ってきたのは、無駄だったかも知れない。

  

  ゴロタのチートには吃驚してしまいます。でも、シェルさん達の措置が遅れていたら、このお話も終わっていたでしょう。お話は、まだまだ続きます。

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