第2部第29話 ラキ魔道具やさん
(5月24日です。)
今日は、ラキ魔道具やさんに頼んでいたものが出来上がる日だ。その前に、西の風車を見に行く。きちんと揚水ポンプが作動しているみたいで、貯水池は満々と水を貯え、各方面への用水路に流れている。うん、上手く行ったみたい。
その後、ラキ魔道具屋さんに行ったら、もう注文の品、ビンセント君のロングソードを魔道具化することと、シェルやミリアさんの髪飾りができあがっていた。早速、魔道具屋さんの裏庭で効果の確認だ。
最初は、金色の髪飾りだ。実験台は魔法測定人形だ。流石にミリアさんを実験台には出来ない。人形の頭にに髪飾りを付ける。虹色の魔石に魔力を流し込む。魔法シールドは、当然に魔力を消費する。攻撃レベルが高い程、魔力消費量も大きくなるが、この魔石は、小さい割に結構魔力チャージができそうだ。
もう流し込めなくなったことから、満タンなのだろう。よし、早速魔法攻撃をしてみる。15m位下がってから、レベル3の『ファイア・ボール』を撃ちこむ。通常なら、測定人形は、黄色に近い色に変化するはずだが、元の赤黒いいろのままだ。同じく、『アイス・ランス』、『ウインド・カッター』、『サンダーボルト』と連続で打ち込んだが大丈夫なようだ。本当なら、もっと高レベルの魔法を撃ち込んで限界を確認したかったが、せっかく作ったのに壊しては勿体ないので、これでやめておこう。プラチナの髪飾りも同様に試したが、やや防御効果が高いように感じられたが、それほど差はなかった。金の髪飾りをミリアさんに、プラチナの髪飾りをシェルさんに付けて貰うことにした。
次に、ビンセント君のロングソードを試してみる。ビンセント君に構えて貰ったが、両手正眼の構えはきちんとできている。少し素振りをして貰ったところ、やや右手の力が強いようで、剣先の軌道がややぶれていた。それに、この国の剣術の流儀なのかもしれないが、身体の移動と剣の振りが一致していない。先に、右足を1歩だしてから、剣を振り降ろすのだ。うん、相手の間合いに入るのと、剣の振りを分けて考えているようだが、どうもバラバラ感が強い。僕は、『オロチの刀』を抜き、『明鏡止水流長剣の形』のうち、『1の形』から『3の形』までを見せてあげた。最後の3の形では、面を打ち終わった後に、わずかに青白い『斬撃』が放たれている。ビンセント君、ポカンとしていた。
さあ、形の練習は後にして、まずは魔力を込めさせてみる。なかなかうまくできないようだ。『ウン、ウン』唸っているが、どうも無駄に魔力を四散させているだけのようだ。ロングソードは、刃体が赤くなってきたかなと思うと、直ぐに元の地金の色に戻ってしまう。うまく制御できないようだ。
僕は、少し嫌だったけど、ビンセント君の右腕を掴み、魔力をほんの少し流してやる。そのままビンセント君が両手正眼で構えているロングソードに流し込んでやった。ロングソードは、メラメラと炎を纏い始めた。そのまま、ビンセント君の腕を上段に引き上げ、ゆっくりと振り下ろさせる。勿論、僕の腕はビンセント君の腕を握ったままだ。ロングソードが中段で止められたとき、真っ赤なファイアボールが測定人形の方に向かって放たれた。
ドゴーーーーン!
大きな火柱が上がった。測定人形から煙が上がっている。色は黄色だ。うん、『レベル3.5』と言うところかな。後は、練習だ。もっともっと魔力を込めることが出来れば、かなりのレベルを発揮できるかもしれない。剣が持てばの話だが。ビンセント君は、初めて魔法を打てたようで、とても喜んでいた。ビンセント君の魔法適性は、『土』なのだそうだが、攻撃魔法は不得意で、詠唱を唱えている間に、敵に攻撃されてしまうらしいのだ。まあ、普通の人間は、そうだろう。適性魔法が1つでもあるだけましなのかも知れない。
僕は、土魔法の一つ、『ロック・ランス』を教えてあげた。大地の組成を少しだけ分けて貰って、中空に土を金属のように固めた槍を出現させ飛ばす業だ。槍の大きさと速度は反比例するので、あまり大きな槍を出現させると飛ばすことが出来なくなってしまう。僕は、長さ1m位の槍を出して、計測人形に向けて飛ばした。『ビュッ!』という音を残して、ほぼ目では負えない速度で測定人形に飛んでいく。測定人形は、粉々に砕けてしまった。あ、いけない。ラキ爺さんに怒られる。そう思ったが、あの測定人形はラキ爺さんの自作なので、幾らでも作れるらしい。爺さん、ニコニコ笑いながら教えてくれた。うん、良い人だ。
しかし、キラ爺さん、いい仕事をしていた。髪飾りの造形も素晴らしいが、魔石の台座の裏には細かな魔法陣がいくつか刻まれている。頭に付けると見えない部分なのだが、この魔法陣の描きようによって、発動する魔法が異なるとの事だった。魔法陣には、作成者の癖が現れるので、他人が書いた魔法陣は、すぐには内容が理解できないのだが、高度な魔法理論が使われていることは僕にも分かった。シェルさんやミリアさんは、綺麗な宝飾品をゲットできたと単純に喜んでいるだけだが。
キラ爺さんに、この細工料を聞いたところ、金貨5枚と言われた。しかし、素材として、それぞれ1キロのインゴットを渡していたので、その余りで良いと言ってくれた。その代わり、あることをお願いしたいと言ってきた。孫娘を王都まで連れて行ってくれと言うのだ。王都には、キラ爺さんの師匠がいるらしいのだが、その師匠に弟子入りさせたいそうだ。しかし、自分たちだけでは旅行が出来ないし、困っていたところに僕達がきたので、頼もうと思っていたらしい。え、孫娘というと、この前見かけた小さな女の子だ。たしか『メリ』ちゃんと言っていたな。でも、あんなに小さくて、弟子入りなんかできるのだろうか。まあ、コボルトの成長速度は良く知らないが、子供1人位増えてもきっと大丈夫だろう。
僕達は、明後日、出発することにしているので、出発の朝、準備をして村長の家まできてもらうことにした。キラ爺さんが、裏の住居に声を掛けたら、メリちゃんとご両親が出てきた。父親は、コボルト族としては、かなり大きい方のようで、身長150センチ位あった。母親は、120センチ位の平均的な身長だ。でも、胸がでかい。うん、あまり見ていると、今晩は正座になってしまうので、直ぐに目をそらしておいた。メリちゃんは、身長80センチ位で、肌の色は、薄い若草色、髪の毛は金髪だ。耳は、少し尖っているが、あとは普通の女の子とほぼ変わらない。木綿のワンピースを着ていて、素足に革のサンダルを履いている。眼がクリクリしていて、向こうの大陸のキキちゃんに似ていた。
メリちゃん、僕達を見て、キラ爺さんの後ろに隠れている。人間種で身長80センチと言うと、1歳半から2歳程度に該当するが、人間種と違い、頭も小さいので、遠目で見ると12~3歳程度のバランスだ。年齢を聞くと、13歳だという。え? 14歳? 絶対に嘘だ。でも、本人がそう言うし、コボルト族の平均身長を考えるとそうなのかも知れない。両親が、私達に挨拶をしてきた。メリちゃんは、13人目の子供だそうだ。しかし、今、残っているのは、男の子が2人とメリちゃんだけだそうだ。あとは、魔物に襲われたり、人間に狩られたり、あとは謎の病気で死んでしまったそうだ。
人間に狩られるって何だろう。聞いたら、ゴブリンと間違えられて教わっるらしいのだ。間違いと分かったところで、何もせずに立ち去ってしまうのだそうだ。コボルト族は、基本的に攻撃魔法は使わない。存在そのものが魔的存在なのだが、魔法は、細工物を作る時に土魔法や火魔法を使って形作っていくのだ。そのため、強力な炎を細いトーチにして金属を溶かしたり、金属を加工する際に、土魔法で柔らかくする位だ。彼らの戦いは、魔道具を使っての攻撃と防御で、大抵の魔物は撃退することができるのだ。しかし、成人前の子供は、魔道具の所持を禁止されており、護身用の小さなナイフしか持っていない。ゴブリンと違って鋭い爪も牙もないのだ。人間に襲われたら、絶対に敵わないだろう。村の外に出るときは、魔物避けの魔道具を持って行くが、人間避けの魔道具などないので、いつでも子供達は、人間の狩りの対象となってしまうのだ。そのため、子供達は、人間を極端に恐れているようだ。
メリちゃんも、僕達と一緒に王都に行くのを怖がっていたようだ。しかし、この村に滞在中、子供達をはじめ、具合の悪いコボルト族を治癒してあげていたので、恐怖心がなくなったらしい。しかし、やはり面と向かうと恐怖心がこみあげてくるみたいだった。ま、そのうち慣れてくれるでしょう。ところで、コボルト族の13歳って、人間でいえば何歳ぐらいなんだろう。平均寿命が150歳って言っていたから、人間族の倍位だ。と言う事は、その半分と考えると、7歳? キラ爺さんが、笑いながら、コボルト族の女の子は、15歳位で結婚できるようになるそうだ。人間族よりも少し遅いようだが、それからが長く生きていけるようだ。弱小種族は、長く生きるか、たくさん子供を産むことで種の保存をしているようだった。
シェルは、メリちゃんの胸がシェルと同じようなペッタンコだったことに安心しているようだった。ミリアさんは、何も考えずに、メリちゃんが可愛いから、一緒に寝てあげると喜んでいた。ビンセント君は、自分のロングソードを抱えてニマニマ気持ちの悪い笑いをしていた。こうして、旅の仲間がまた増えてしまった。




