第2部第28話 コボルト村の悲劇
(5月10日です。)
今日は、コボルト村の周辺を探検というか散策に出かけることにした。コボルト村は、この大陸の中央付近に位置しているが、西側には高い山脈が連なっている。残りの3方向は、森に囲まれており、村と森の僅かな間を耕して、必要な食料を得ているようだ。しかし、森の近くには魔物が出没するので、森を切り開いて耕作地帯を広げるわけにも行かず、常に食料不足の状態が続いているらしい。これから厳しい冬がやってくる。3月の収穫は、思ったよりも収量が少なく、このままでは10月まで持ちそうもないと心配していたそうだ。
この村の主食は、サトイモやタロイモなどの芋類だ。ジャガイモやサツマイモは種芋がないので、栽培していないそうだ。米や麦は、ほんの少ししか収穫できないそうだ。周りを森に囲まれているのだが、基本的に農業用水がふそくしているようだ。この付近の川は、南側にあった、あの小さな川だけらしい。そこから用水路を弾くのには、あまりにも距離があり、わずかな村人だけの力では不可能だ。村の西側に回って、水脈を探すことにした。『L』字型の金属棒2本を両手に持って、水脈のありそうなところをウロウロしていた。ある地点まで来たら、金属棒が左右に開き始めた。うん、この辺だろう。
僕は、土魔法で、穴を掘り始めた。どんどん、どんどん掘り進めた。30m位掘り下げていったところで、地下水脈に届いた。水脈の流れを見ると、水量は十分そうだ。飲料水としては、十分な量だが、農業用水としてはどうだろうか。シルフが、『この村の農耕面積から計算した場合、この水脈でも十分と思われます。』と言ってくれた。直ぐに必要量の計算式を唱え始めたので、スルーをして、この井戸の揚水方法について考えた。シルフに魔道具のポンプを設置して貰い、魔力を注入すれば揚水できるようにするか、それとも風車を使って揚水するかだが、平均的コボルトの魔力量が分からないので、やはり風車を使う事にしよう。
ゴロタ帝国で稼働しているシルフにお願いして、風車作成の部材を準備して貰う。建設木材や大型歯車は既存の物が活用できるので、明後日には準備が終るそうだ。
あと、耕作面積をもう少し増やすことにしよう。村の南側の森を切り開くことにした。今は、旧街道に面して僅かな田畑が広がっているだけだが、南側に向けて、3キロ四方を切り開くことにした。エアカッターで樹木を倒していく。途中、ファングラビットやグリーンベアが現れてきたが、皆、今日の晩御飯のおかずにしてしまう。切り倒した木は、そのまま細かく切り刻んでチップのようにしていく。木の切り株は、土魔法で根ごとひっくり返し、やはりチップにしてしまった。3キロ四方と言っても、大体の感覚で切り開いたので、結局10平方キロメートル以上を開墾しなければならなかった。耕された土とチップがまじりあっている。このままでは、窒素やカリウム成分が足りなさそうだったので、シルフにお願いして、ゴロタ帝国から肥料の補給をして貰った。石油コンビナートでは、肥料も生産しているので、在庫は潤沢にあったようだ。
最後に、風車で揚水した地下水をためる貯水池を作っておく。その貯水池から村をグルっと一周するように用水路を作り、その周回用水路から放射状に東西南北の田畑に用水路を伸ばしていく。ついでに、貯水池に肥料を投入して、液肥になるようにしておく。風車が完成して田畑に流れていけば、きっと肥沃な田畑が自然に出来上がるはずだ。
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(5月13日です。)
今日、風車の部材がゴロタ帝国から届いた。ゴロタ帝国のシルフが搬入してくれたが、一時的にシルフが2人になってしまった。同じコンピュータで制御されているのに、全く違う動作をするなんて、異次元のスーパーコンピュータってチート過ぎると思ってしまう。もう、ミリアさんもビンセント君も、シルフが2人になったことに驚きもしなかった。すべてがチートで想像できない世界なのだろう。
風車の組み立ては、コボルト村の男衆にも手伝って貰った。こちら側のシルフ(面倒くさいので『シルフ1号』と呼びます。)の指示に従って、組み立てるのだが、部材を持ち上げたり、支えるのは僕の『念動』によるので、彼らは、釘を打ったり、ボルトで止めたりだけだった。その日の夕方、風車が出来上がった。後は、風車を止めているかんぬきを外すだけだ。それはジェロ村長にやって貰う事にした。すべての村人が集まってきた。凡そ600名位だったが、極端に子供の数が少ない。どう数えても15人位しかいないのだ。ジェロ村長に理由を聞いたら、子供達の多くが、原因不明の病気にかかって寝ているそうだ。その話は、今日、初めて聞いた。ジェロ村長に風車作動開始セレモニーが終ったら、その子達を見せて貰う事にして、取り敢えず、風車を動かすことにした。
ジェロ村長の演説は、少し長かったが、まあ、どこでもそんなものだろう。ジェロ村長が、僕の方に向いて、
「あなたは、村の恩人だ。あなたには『名誉村民』になって貰い、この偉業を称えたいと思います。」
あ、これで僕は、『コボルト村民』になってしまったようだ。『名誉村民』が何をするのか分からなかったが、ジェロ村長も全く分かっていなかった。まあ、くれるというのだから、取り敢えず貰っておく。
その後、村人の間で、病気の子を見て回ることにした。最初は、ジェロ村長の娘が嫁いだ先の子供、つまりジェロ村長の孫娘を診ることにした。その子の家は、村の東側にあり、平屋の家だった。奥の部屋に、その子は寝ていた。手足は極端に細く、左腕は変な方向に曲がっている。きっと折れているんだろう。体の表面を診ても、それほどの異常は感じられない。極端に痩せているが、貧しい食生活ではしょうがないかもしれない。
目や心臓の音を聞いたが、それほど以上はなかった。最後に口腔内を見た所、歯がボロボロだった。シルフが、取れ掛かっている歯を1本抜いて、色々と調べていた。あ、どうやら分かったようだ。ご両親にいくつかの質問をした。
「この子の好きな食べ物は何ですか?」
「里芋の似たのが好きです。」
「ご飯のおかずは、何を食べていますか?」
「はい、この辺に自生している青い葉の草を叩いて塩をまぶして食べています。ネバネバしてとても美味しいのです。」
「お魚は食べますか?」
「魚はめったに食べません。この辺の川は、南に2日も行った川だけですから。」
シルフは、色々と調べてから、診断を下した。
「この子の病気は、『ビタミンD欠乏症によるくる病』ですね。」
『くる病』。骨が柔らかく、曲がりやすくなり、伸びにくくなる病気だ。ただでさえ小さなコボルト族。それが成長不良になるのだ。この子も年齢の割には極端に小さい。もっと小さなときは、乳歯の生えるのが遅かったり、歳をとっても、身長が伸びない、転びやすいなどの症状が出てきて、直ぐに骨折してしまうらしいのだ。この原因は、『ビタミンD』という栄養素が足りないためだそうだ。僕は、『ビタミンD』と言うのを知らないが、それは何と聞いたら、これから1時間は、無駄知識をしゃべり続けそうだったので、黙っていた。直ぐにゴロタ帝国から取り寄せた『魚精油』を処方して飲ませることにした。最近による病気ではないので、抗生物質等は処方しない。『魚精油』は、サメやタラの肝臓から絞り出した油で、『ビタミンD』が豊富らしいのだ。水竜の肝臓でも大丈夫かと聞いたら、大丈夫だろうが、魔物の内臓には、どんな副作用があるか分からないので、海の魚を利用した方が安心だと言っていた。
あと、この子の折れて固着してしまった腕を『治癒』と『復元』で治してあげた。結局、39人もこの病気で寝たきりになっていた子供達がいて、全員に『魚精油』を飲ませてあげた。1日に小さじ1杯分の魚精油を飲ませてあげるだけで、この病気は治るはずだ。あと、ニワトリや豚、牛、山羊を飼って、定期的に内臓を食べさせるとこの病気は防げるらしいと教えてあげた。しかし、家畜を買ってくるだけの現金収入がないので、直ぐには難しいと言っていた。
うん、その問題は後で考えよう。とにかく、この村を交易対象から外したことがそもそもの問題なのだ。そのことも、今度、国王陛下にあった時に進言してあげよう。
その日の夜は、あの川で大量に釣り上げた鮭の料理にした。ちょうど、今は鮭が産卵のために遡上してくる時期だ。鮭は捨てる所のない魚だ。しかし、村人全員で食べるとして、料理が面倒なので、鍋にして食べることにした。それなら『ビタミンD』も接種できるだろう。
病気の子供達の母親が、お酒を持って御礼に来ている。みな、綺麗におめかしをしているのだろう。なんだか色っぽい。シェルが、目を爛々と光らせている。この時期にしては、布地の少ない服を着ているが、どうも子供が色っぽくなっている感じなので、変な感じだった。
女性は、肌の色が緑色なだけで、人間の女の子のようだ。あ、鼻が高く少し尖り気味かな。耳は、シェルよりも短いがエルフの耳のようだ。特筆すべきは、胸の大きさで、10歳位の女の子が成人女性の胸をしているので、かなり刺激的だ。極端に短いワンピースを着ていて、僕の前に座って、チラチラスカートの中を見せつけている。皆さん、いったい、何をしたいんですか?
ビンセント君は、さっきから鼻血が止まらないようだ。それを見て、奥さんたちが笑っている。ジェロ村長に、コボルト族の平均寿命を聞いたら、約150歳位だという。女性は、20歳位から子供を作れるようになるのだが、前回の大飢饉で、若い女性は、皆、奴隷として売られていったため、今は、婆さんと子供しか残っていないそうだ。え、ということは?
ジェロ村長に、さっき、僕の前でスカートの中を見せつけていた女性は、何歳か聞いたところ、93歳だと答えてくれた。ああ、ここの女性達って。ビンセント君、鼻血を出して興奮しているのって、絶対、悲劇だから。




