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第2部第26話 コボルト族の村

(5月6日です。)

  次の日の夕方、僕達は、ガッシュ伯爵領のドレイン村に到着した。人口3000人程度の小さな村だ。村は、宿場町という性格上、宿屋が4軒もあった。その中でも、貴族が停まれる宿は、1つだけのようで、石造りの立派な旅館だ。僕達とビンセント君一行はその旅館に泊まったが、騎士さん達は、隣の普通の一般客の泊る旅館に泊まることになった。僕達は、ダブルを2つ予約した。勿論、僕とシェルで1部屋、ミリアさんで1部屋だ。ビンセント君もダブル1部屋に泊り、執事さん達は、ツインを2部屋取っている。イオラさん達は、旅館に併設されている亜人・イオーク用の宿舎に泊ることになった。イオラさんも、もう慣れっこになってしまったようだ。


  夕食は、旅館の食堂で取ることにしたが、執事さん達は、僕達が食べ終わってから食べるそうだ。食事をしている最中にこの村の村長がビンセント君に挨拶に来ていた。テーブルの脇に立って、ずっとペコペコしているので、随分腰の低い人だなと思っていたら、実はお願いがあったようだ。


  村長のお願いと言うのは、ゴブリンの討伐だった。西の森で、ゴブリンが大発生しているらしいのだ。村に衛士はいるが、5人位しかおらず、また王国騎士団もローズ・ガッシュ市まで行かないと駐屯していないそうだ。森と村の間には牧草地が広がっていて、牛や羊を放牧しているのだが、今年の春先から、ゴブリンに襲われ始めたらしいのだ。村の自警団と衛士3人で、討伐に向かったが、帰ってきたのは、傷だらけになって死に物狂いで逃げ帰った衛士1名だけだったらしいのだ。


  この前、グラシャス町に向かうベルギーヌ新司令官にお願いしたのだが、指揮官交代のために急いでいると断られてしまったらしいのだ。まあ、それも仕方がないだろう。僅か10名の騎士団では、せいぜいゴブリン10匹程度にしか対応取れないだろう。20匹以上の群れとなると全滅する恐れもある。しかし、その時無理でも、その後着任してかあ、討伐の騎士団を送ってくれても良いと思うのだが。


  前の騎士団が通過してから1週間、その間、家畜が5頭ほど襲われてしまったらしい。このままでは、全ての家畜を食べ尽くされてしまいかねない。ビンセント君、チラチラと僕を見ている。シェルさんが口を開いた。


  「私と、こちらのゴロタ君は冒険者です。今は、男爵閣下と同行していますが、閣下さえ良ければ、明日、討伐して差し上げますわ。ただし、討伐報酬はしっかりと頂きますわ。」


  うん、シェルさん、きちんと営業をしているようだ。村長は、目をパチクリしている。どう見てもか弱そうな女の子と、身長だけは高いが、細身の少年のような子に数十匹もいるだろうゴブリンを討伐できるのだろうか。しかし、冒険者ギルドを通じない直接依頼であれば、依頼料は発生しない。成功した場合にのみ報酬を払えば良いので、依頼しても村に損はない。しっかりと計算した村長は、『大銀貨3枚』を成功報酬とした。ゴブリンの群れとなると『C』ランクパーティ以上の依頼となり、相場的にもそんなものだろう。話はまとまった。明日の出発は午前10時と言う事で、その前に片づけることにした。


  翌朝、午前5時、僕は一人で村の西はずれに行き、そこから飛翔で西の森まで行って見る。上空からゴブリンの群れを探すと、森に入って2キロ位の所にゴブリンの群れが見えた。ゴブリンだけではない。オークも何匹かいるようだが、それ以上の魔物は見当たらない。単に、森の魔物が増え過ぎただけのようだ。今回は、場所を確認しただけなので、そのまま旅館に帰ることにした。帰るのは、旅館の自分の部屋だ。部屋に戻ると、シェルはまだ眠っていた。


  朝、少し早めの食事を終えてから、皆で村の広場に行く。村長も出て来ていた。森の中にゲートを開き、シェルと一緒に群れの近くまで転移する。続いて、ビンセント君とミリアさん、騎士さん達が続く。最後に村長と、村の衛士さんが転移してきた。


  ゴブリンの群れは、シェルの『ヘラクレイスの弓』の餌食だった。一度に5連射、気の陰や岩の陰に隠れても、光の矢は、ギュインと曲がって、急所を撃ち抜いてしまう。撃ち抜くと同時に矢は消えてしまうので、いちいち回収する手間は要らなかった。6回ほど、撃ち抜いたら、もう動くゴブリンはいなくなっていた。あ、オークもほとんどが息も絶え絶えだ。後の処理は、騎士さん達と衛士の方にお任せした。騎士さん達、剣を抜き、歓声を上げて突撃していったが、もう動ける魔物はいませんでしたから。


  この村にとっては、ゴブリンの魔石と言えども、貴重な財産のようだ。まあ、僕達にとっては無用の長物だから放っておくことにするが。村長と一緒に、奥にある大木の根元の巣穴を確認する。巣穴からゴブリンが出てくることは無いが、子供のゴブリンがいるかも知れない。イフちゃんにお願いして、巣穴の中に『煉獄の炎』を投げ込んで貰った。


    ズズーン!


  地響きが聞こえてきてから、暫くして巣穴から真黒な煙が出てきた。村長は、何が起きたか分からなかっただろう。しかし、依頼はこれで完全コンプリートだ。しばらくは、魔物が湧いてくることは無いはずだ。


  村に直ぐ戻り、村長から成功報酬をもらっておく。大した金額では無いが、キチンと貰っておかなければ冒険者としての最低限のマナーに違反する。冒険者は、ボランティアでは無い。依頼に基づかない仕事をしてはならないのだ。でも、大銀貨を受け取るときのシェルさんの腑抜けた顔を見ていると、どうも違う意味がありそうだった。


  森に討伐に行っている間に、イオラさん達は、出発の準備をしてくれていた。今日は、野営の予定なので、飼い葉もいつもの倍準備していた。村の人たちに見送られての出発だった。


  その日の夕方、小さな川の辺りに到着した。道は、この川を東に向かって、つまり上流に向かって曲がっていた。川の向こう岸に渡るには、小さく細い橋を渡らなければいけないが、馬車が通れるほどの幅はなかった。


  ミリアさんが、この細い橋を渡って、まっすぐいくと『コボルト』達の村、『コボルト・フォール』村だ。通常の旅人は、川の手前を右折して大回りをして北へ向かっている。どうやら、『コボルト』族は、その外見からイオーク以上に毛嫌いされているみたいだった。


  僕は、ビンセント君に相談というか申し入れをした。このまま真っ直ぐ進んで北上するか、東回りで大回りするかだ。勿論、僕達は真っ直ぐ進む予定だ。騎士さん達は、遠回りをしたいそうだ。そんなに『コボルト』族が嫌いなのだろうか。


  2年前、ビンセント君が、こちらにきた時には、やはり大回りしたそうだ。だが、今回はミリアさんと一緒に旅をしたいので、自分だけ、僕達と一緒に川を渡って行きたいと言ってきた。シェルもミリアさんも、特に断る理由も無いと言うことだったので、ビンセント君だけ、ここから僕達と一緒になる事になった。ビンセント君の執事さんと御者さんは、明日の朝でお別れで、次は、ガッシュ伯爵領の領都ローズ・ガッシュ市のホテルで落ち合う事になった。その日のよる、ビンセント君は冒険者服に着替えて、僕達のテントのところまで来た。大きな荷物を2つ程持って来ていたが、シェルに仕分けされていた。冒険の旅に不必要な荷物や書籍は、そのまま、自分の馬車に戻す事になってしまったようだ。


  今日は、ここで野営となる。夕食は、川で釣った魚を油で揚げたものにしたが、新鮮な魚だけあって、変な匂いもなく非常に美味しかった。ちなみに4人で釣りをしたのだが、一番釣ったのはシェルだった。シェルが、釣り針を投げるとき、『誘導射撃』スキルを使って、ピンポイントで狙った場所に糸を垂らしていたことは内緒にしておいた。イオラさん達は釣りをしたことは無いそうで、僕達のやることを後ろでみているだけだった。


  ビンセント君が一緒になったため、テントは4つ必要となってしまった。まあ、出来上がったテントをイフクロークから出すだけなので、手間はかからないからいいけど。






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  翌朝、騎士さん達や執事さん達と別れて、僕達は、川を渡る事にした。『転移ゲート』を川の両岸に出現させて、馬車ごとくぐるだけだ。とっても簡単だ。ビンセント君が、ある疑問を聞いて来た。


  「あのう、この魔法を使えば、あっという間に王都に着くのでは無いでしょうか?」


  「そうね。この『空間転移』魔法は、行ったことのある場所にしか転移できないの。行ったことの無い王都には行けないのよ。」


  本当は、ゆっくり行って冒険者の旅を満喫したいんだとは、口が裂けても言えないシェルと僕だった。


  「あ、そうするとゴロタ殿のお国には、直ぐに行けるのですか?」


  ドキッ! その通りです。でも、そう言うと、『行ってみたい。』と言いかねないので、


  「どうでしょう。そんなに長い距離を転移したことは無いので、行けるかどうか分からないわ。」


  シェルさん、上手く誤魔化したようです。


  橋を渡ってから、最初は野営だった。いつものとおり、僕達のテントと、ミリアさんのテント、ビンセント君のテントを張ってそれぞれに寝たのだが、次の日、つまり5月9日の早朝、皆がまだ眠っている時間に、一人でテントの外に出た。この星の裏側では、ジェーンの28歳の誕生日だ。そっとゲートを開き、『白龍城』のジェーンの部屋に『空間転移』した。誕生日プレゼントはシルフに買って来て貰っていたブルーダイヤモンドの指輪だ。それほど大きくはないが、毎年、プレゼントする気だ。10個溜まった段階で、ティアラにでも作り直そうと思っている。ジェーンは、いつもの黒髪を頭の上で丸めて寝ていたが、僕が現れると、『きっと来てくれると思った。』といって、とても長いキスをしてきた。ジェーンの部屋には、2時間ほどいたが、いつもの剣の稽古とは違う汗をかいて、野営地に戻ってきた。シェルは、僕が何処で何をしてきたか、直ぐに分かったようだったが、何も言わなかった。


  この日の昼過ぎ、コボルト村に到着した。村は、粗末な藁葺屋根の家ばかりで、村の周囲には壁はおろか柵もない。僕達の馬車が村の中に入っていくと、大勢の子供達が家の中から出てきた。皆、粗末な服を着ている。それにしても、子供が多い。この村には子供しかいないのかと思ったが、大きな思い違いに気が付いた。出てきたコボルト達は、身長が120センチ位だったので、皆、子供だと思ってしまったのだ。


  彼らの身体的特徴は、ゴブリンによく似ている。肌の色は緑色だし手の指も4本しかない。ゴブリンと大きく違のは、髪の毛が生えていることだ。色は、白から水色まで、色々だ。また長老だろうか?真っ白な顎髭を伸ばしている者もいた。我々が馬車から降りると、その白い顎髭を伸ばしたコボルトが近寄って来た。


  「人間よ。コボルトの村にようこそ。何の用があって、この村に来られたのか?」


  うん、見た目と違い知性のある言葉だ。そう言えば、目にも知性の光が宿っており、ゴブリンのような飢えた目とは根本的に違っていた。


  「皆さん、こんにちは。私達は、旅の者です。コボルト族の村には来たことが無かったので、寄らせていただきました。どうか、よろしく。」


  シェルが、透き通るような声で挨拶をしていた。

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