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第2部第25話 王都への旅の仲間

(5月3日です。)

  ビンセント君は、母方のお祖母様がエルフだったそうだ。人間と結婚したお祖母様の間に生まれた母親は、ハーフエルフのため、ビンセント君の父親の前ゲシュタルト男爵の子を産んでも妾としてしか扱われなかったそうだ。しかし、正妻との間には娘しか生まれず、男子はビンセント君だけだったそうで、国王陛下の許しを得て、ビンセント君を嫡男として認知したそうだ。


  そういう深い話に全く興味が無かったので、それ以上はスルーをして、ビンセント君の事務引継ぎを待っていた。ビンセント君の後任は、40歳位の準男爵で、ここの任務を終えて帰京すると男爵に叙爵してくれる約束で、誰もが嫌がる辺境の地グラシャス町へと赴任してきたらしいのだ。名前は、ビラード・ベルギーヌと言う名前の温厚そうな方だった。


  ミリアさんの話では、準男爵と男爵の間には、身分にかなり隔たりがあり、準男爵は、新年の挨拶に国王陛下に拝謁することもできず、行政官としての仕事も平民と大差ない仕事しか与えられないらしいのだ。官舎もかなり差があり、準男爵は何とか正規の男爵になろうとしているが、そのためには、ここの司令官のように危険を冒して長い旅をし、それから長い年月を勤務しなければならないのだ。ビンセント君は、最初から男爵として叙爵しているので、この地の任務も2年で終えることが出来たが、今度来る準男爵は、10年は、この地で過ごさなければいけないそうだ。


  準男爵は、当然、既に結婚していて、奥様もお子さんもいるそうだが、王都に置いてきたそうだ。まあ、こんな辺境の何もないグラシャス町に来たがる訳もないか。


  引継ぎは、特に問題もなく、上手く行ったようだ。まあ、この街自体が軍事要塞としての機能を持っていて、司令官の交代が失敗するなどあり得ないだろう。後は、ビンセント君の旅の準備が整い次第、出発しよう。


  この国では、貴族が旅をするときの警備の人数がきめ細かく決められている。貴族の安全確保というよりも貴族の品位と格式を保持するためらしいのだが、ビンセント君のような若年男爵の場合は、騎士10名以上となっているらしい。当然、その騎士は、王国騎士団に所属するか、男爵自身が任命した騎士に限られている。王国騎士団の騎士の場合は、一人当たり1日銀貨1枚以上を騎士団に前金で支払わなければならない。貴族が騎士を任命するのは、領地持ちの貴族に限られているので、ビンセント君は、王国騎士団に依頼しなければならない。ここから、約40日、銀貨400枚が必要となる。そのほかに、騎士たちの宿泊費や食費などの必要経費もかかることから、金貨10枚以上の経費が掛かってしまう。ビンセント君は、何とか貯めていたらしいが、王国も、こんな辺境への赴任を命じているのだから、それ位負担しても良いのにと思うのだが。


  だから、この地への赴任は、かなり覚悟がいるらしいのだ。結局、後任の準男爵が引き連れて来た王国騎士団のメンバーを、そのまま王都までの随行騎士団として任命して貰う事になった。騎士団長は、30歳位の大尉さんで、士官が2名、下士官が2名、残りの6名が兵卒だった。兵卒のうちの2名は、馬の世話をする輜重馬車の担当で、騎士とは名ばかりの農家出身の人だった。


  団長は、今回の任務が終れば、名誉準男爵に任じられることになっているそうだ。名誉準男爵は、平民出身者が王国のために貢献した場合に授与される名誉称号で、平民の中でも限られた者にしか与えられない。通常は、騎士団を退団する場合に授与されるらしいのだが、団長のように在職中に授与されるのは非常に珍しいそうだ。


  護衛の騎士団の方達は、ようやく長旅から帰ってきたかと思ったら、直ぐに王都への旅を始めなければならないので、少し可哀そうだったが、まあ、任務なら仕方がない。僕達は、団長さんと副団長の少尉さんと3人で、これからの旅程等について打ち合わせをした。ここからガッシュ伯爵領の領都、ローズ・ガッシュ市まで300キロ、そこから王都まで900キロだ。馬車だと、1日に40キロ、4日に1日は馬を休めなければならないので、どんなに早くても40日はかかってしまう。


  途中、ガッシュ伯爵領の先、王都の手前にあるブキャナン侯爵領を通過しなければならない。ブキャナンは、亜人嫌いで有名な人らしい。なんか嫌な予感しかしない。でも、今までだって色々あったけど、何とかなっていたし、『殲滅の死神』などという嫌な二つ名が付くようなことは、もうないだろう。きっと。






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(5月5日です。)

  今日、午前8時、ベルギーヌ新司令官に見送られて、グラシャス町を後にした。騎士は、前衛に4騎、ビンセント君の4頭立ての馬車、僕達の乗っている馬車、それから輜重馬車、後衛の騎士が6騎となっている。旅は、1時間ごとに休憩を取っているので、かなりペースが遅い。しかし、馬車にはスプリングが付いているが、騎馬は、硬い鞍に乗ったままだ。休みながらでないと長時間の乗馬は出来ないそうだ。あまり馬に乗らない僕には、よく分からない。


  お昼休みになった。もう、変に気を遣うこともなく、普通にイフクロークからキャンプセットを取り出す。この国にも空間収納魔術の伝承はあるらしいのだが、使える魔術師はほとんどいないそうだ。ゴロタが何事もなかったように次々とキャンプセット、竈門、食材、食器を出してくるのには、ビンセント君をはじめ団長以下の騎士さん達も吃驚していた。


  本来なら、イオラさんも含めて5人分を作ればよいのだが、ビンセント君、ビンセント君の御付きの執事さん2人、御者2名それと騎士団10名の計15名分が追加されている。まあ、主食の黒パンと干し肉はそれぞれの準備したものを食べて貰うことにして、スープ位は、用意してあげよう。30人分は入る大きな鍋で、お肉たっぷりのキャベツスープを作る。時間もないので、火魔法と土魔法を使って短時間料理だ。シルフに教わったのだが、鍋の蓋をきっちりと閉めて、鍋の中の圧力を高くすると短時間で料理ができるらしいのだ。出来上がったら、土魔法で固めた蓋をゆっくり外す。膨大な湯気とともに、美味しそうな匂いがあたりに漂い始める。


  食器だけは、大量にあるので、全員分にスープをお裾分けだ。僕達の主食は、フライパンで焼いたパンと作り置きしておいたパスタだ。カリカリに焼いたベーコンもあえておいた。ビンセント君も一緒のテーブルで食べることにしたのだが、一口食べて、その味に驚いていた。まあ、たっぷりバターで焼いたトーストはとても美味しいよね。ビンセント君の執事さんが、食後のお茶を準備してくれた。あ、この紅茶、美味しい。とても良いお茶葉を使っているみたいだ。


  ビンセント君のお付きの騎士さんは、僕たちの馬車の御者がイオークだと言う事に、違和感を感じているようだ。イオークに馬の制御が出来るとは思わなかったらしいのだ。普通、馬に乗ったり手綱を操作できるのは、獣人以上の亜人からで、イオークがするのは糞の処理や飼葉運びくらいらしいのだ。まして、馬車に乗るなどとんでもなく、馬車の後を走って付いてくるらしいのだ。


  しかし、イオラさん達は、キチンと馬を制御していた。もっと驚いていたのは、昼食の時にイオラさん達と一緒に食事をしている事だった。イオークは臭く汚いものと言う固定概念で凝り固まった騎士さん達には信じられないらしい。


  でも、イオラさん達は、いつも綺麗な服を着ているし、毎日風呂に入っているので、下手をすると騎士さん達よりも綺麗なくらいだ。


  今日は、野営となった。野営地には、井戸が有るだけの広場になっており、コテージのような宿泊場所はなかった。僕は、直ぐに野営の準備を始める。イオラさん達が馬を馬車から外して、水辺に連れていく。ビンセント君の馬車の馬と騎士さん達の馬が集まってきたので、結構な数だが、イオラさんとイオイチ君で手際よく世話をしている。


  その間に、僕はキャンピングテーブルセットと2連竈門を出して、大きな鍋にお湯を沸かす。お湯が沸くまでの間に、土魔法で露天風呂を作ってお湯を張っておく。周りには、簀子状の目隠しをして、女性陣にお風呂に入ってもらう。


  ビンセント君の執事さんにお茶を淹れてもらって、ゆっくりして貰い、僕は今日の夕飯を準備する。今日は、ベーコンたっぷりのスープパスタとコーンバターそれとローストターキーだ。ローストターキーは、調理済みのものを火魔法でチンするだけだ。


  いっぺんに20人前を作ってしまう。僕達が5人、ビンセント君達が5人、騎士さん達が10人だ。スープパスタは大鍋で2つ作っておいたので、量は十分だろう。トマトソース味の濃厚スープにベーコンの旨味が出ていて、とても美味しい。


  騎士さん達の隊長から、自分達にも風呂に入れさせて貰えないかと言う要望が来たので、特に断る理由もなかったが、流石に全員が入ったらお湯が汚れすぎちゃうので、騎士さん達のテントの裏にもう一つ、露天風呂を掘ってあげた。ずっとお湯が湧き出るようにしておく。いわゆる掛け流しだ。


  夜、寝る時には見張りは要らないと申し入れた。夜間は、必ず見張りが必要なのは、どこの国でも常識なのだが、僕は、シルフを隊長さんに紹介した。シルフは、迷彩戦闘服にMP5を手に持ち、暗視ゴーグル付きのヘルメットを被っている。本当は、暗視ゴーグルなどいらないのだが、夜間は、カッコ良いからという理由で装着しているらしい。当然、シルフはアンドロイドだから眠る必要はない。それどころか、上空240キロからの衛星画像により、50センチ以上の物体を識別できる。それどころか、画像解析により、10センチ以下という識別能力を発揮できるらしい。


  隊長さんは、にわかに信じられなかったらしいが、異次元空間に出入りするシルフを見て、納得していたみたいだ。本当は、シルフ以外にもイフちゃんを警戒に当たらせているのだが、そのことは内緒にしている。


  こうして、旅は順調に進んで行った。

王都への旅は、4人とその他大勢になりました。

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