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第2部第23話 城塞都市 グラシャス町

(4月30日です。)

  次の日、朝早く河原に行くと、もう筏には数人の旅人が乗っていた。ゴロタ達は、馬車ごと乗り入れていく。馬車が筏につかえないように、4人の筏渡し人足が、一生懸命、馬車を持ち上げようとしていたが、そんな必要はない。僕は『念動』で、馬車を浮かし、スムーズに筏に乗せてやる。馬、8頭を乗せても、筏は4連となっておりスペースにはまだ余裕があった。丸太を上手く組み合わせ、川の流れに逆らわないようにして、筏を向こう岸まで運ぶようだ。4人が乗り込んで、出発準備完了だ。彼らは、最初から僕とは目を合わせないようにしていた。まあ、目を合わせたところで、何もしないけど。


   川を渡るのに30分位かかってしまった。降りるとき、筏渡し人足達が、僕にペコペコしていたため、対岸で待っていた渡し人足達が不思議そうな顔をしていた。どうやら、こちら側とあちら側では、組合が違うようだ。筏を降りて、そのまま北に向かおうとしたら、河原の土手を登ったところに柵があった。柵の入り口には、6人の衛士がいて、旅人たちの身分証明書を確認していた。あれ、あっち側には、そんな衛士はいなかったんだけど。


  どうも、治安体制に大分差があるようだ。僕達の身分証明書には特に問題はなく、通行料を取られることもなくガッシュ伯爵領内に入ることが出来た。うん、これが普通ですよね。渡し事務所の前を通りがかりに、渡し料金を確認したら、向こうの10分の1だった。勿論、訳の分からない手数料や税金は無かった。渡し場の村で、馬の食糧を買ったあと、少し村の中を見た歩いたら、この村特産の魚の干物や、キャンプファイア用の薪などが撃っていた。水竜の皮の工芸品も売っていたが、とても高価だった。勿論、絶対に買わない。


  店の入り口付近に珍しい物が売っていた。地図だ。ゴロタ帝国では普通に売っているが、ヘンデル帝国やモンド王国では、国防上の秘密と言う事で地図の流通は無かった。この国では、特に問題はないのかも知れない。というか、南側は極地の山脈だ。隣接する国は北にしかないので、ここから王都までの詳細な地図があっても特に問題はないと判断したのだろう。


  地図は、銀貨3枚もしたが、勿論買っておいた。この地図があれば、大体の目的地の位置が分かるし、そこまで飛翔していくのも楽になる。まあ、シルフに教わりながら飛翔すれば地図などいらないのだが、自分の力で旅をすると決めたのだ。あまり、シルフに頼っていてもなあ。


  ガッシュ伯爵領の領都、ローズ・ガッシュ市まで約400キロ、10日ほどかかる。ギュート子爵とバーミット男爵は、ガッシュ伯爵麾下の貴族だそうだ。まあ、王国軍を編成した場合には、ガッシュ伯爵の下につくという程度で、あとは貴族の付き合いをするだけだそうだが。したがって、バーミット男爵はギュート子爵の部下でも何でもないことから、主従関係はないのだが、そこは男爵と子爵、上下の礼は尽くしていたそうだ。


  そう言う事には、全く興味の無かった僕だったが、ミリアさんにとっては、とても重要な事らしい。馬車の中で、ミリアさんの説明を聞き流しながら地図を見ていたら、面白いことに気が付いた。途中、コバルト村という村があるのだが、街道は、その村に立ち寄らず、大回りして次の村に向かっているのだ。そのことについて、ミリアさんに尋ねると、その村には人間はいないそうだ。え、人間がいない。と言う事は、誰がいるんですか。


  「その村の住民は、『コボルト』族よ。」


  初めて聞く種族だ。元の大陸にはいなかったと思う。シェルが説明してくれた。コボルトは、人間族ではない。魔族でもないらしい。妖精と人間の中間と言われているらしい。見た目は、ゴブリンによく似ているが、普通に髪の毛が生えており、耳が極端に長いのが特徴だ。知性があり、正確は温厚、森や山の恵みを採集して暮らしているらしい。力があまり強くないために、戦闘は得意ではないらしい。ただし人間と共存しないのは、森や山を大切にしていて、自分たちが消費できるだけの物しか採集しないため、人間がクラスには不自由なのだそうだ。


  普通なら、人間に責められて奴隷に等されそうに思うが、先先王の時代に、人魔戦争が勃発し、コボルト達は人間側について戦ったそうだ。その活躍のせいかどうかは知らないが、戦争に勝った論功として、コバルト村の永久不可侵権を勝ち取ったらしいのだ。


  村の特産品は、コバルトという金属で、この国では、染料や絵の具にしか使われていないそうだ。全く興味が無かったが、シルフが直ぐに飛びついてきた。


  『単体金属としてのコバルトの利用は一部用途にしか使われていませんが、合金材料として貴重です。ニッケル・クロム・モリブデン・タングステン、あるいはタンタルやニオブを添加したコバルト合金は、高温でも磨耗しにくく腐食に強いため、ガスタービンやジェットエンジンに使われており、『F35改ライトニングⅢ』のメインエンジンにも多用されております。』


  うん、無駄知識ありがとう。コバルト村は、ここから一つの町を過ぎた北にある。うん、どんな村か見に行こうと考えている僕だった。





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(5月1日です。)

  トウネ河を渡って2日目の夕方、初めての街、『グラシャス町』に着いた。この町は、城塞都市だった。まあ、トウネ川を渡河してはじめての町になるので、当然に南方への防衛の要衝となるのだろう。しかし、ギュート子爵領やバーミット男爵領は、いまではインカン王国の所領となっているので、この街が城塞都市としての機能を発揮したのは、一体いつだろうか。


  この街は、高さ10m位の石積みの城壁に囲まれており、南側には、かなり小さめの門しかなかった。僕達の乗った馬車では、通過できない位の幅しかなく、城門の前には幅の広い濠があって、渡されている橋も狭い物だった。この街の正門は、城塞の東側にあり、グルっと回り込まなければダメだった。正門は、大きな木製の扉が付けられているが、今は開け放たれている。どこの国とも戦争状態ではないので、防備も形式的なのだろう。


  門を守備している騎士団の人に身分証明書を見せて、城塞内に入れて貰う。僕とシェルの冒険者証の時は何事もなかったが、ミリアさんの身分証明書を見せた時、確認していた騎士の人が、上司のような方に目配せをしていた。当然、そんな様子を見逃す僕ではなかった。


  この街の防備は、騎士団が担当しているようだ。衛士隊は、城内の治安維持が主な任務らしい。ミリアさんの話では、この街を守備している騎士団の指揮官は、領地を持たない男爵で、35歳までは、騎士団で働き、それ以降は王都か主要都市での官職につくらしいのだが、領地持ち貴族の養子の口を血眼で探しているらしいのだ。ミリアさんの父上がなくなった時に、ここの指揮官から手紙が来ていたのだが、字も汚いし、文章も幼すぎるので、お断りをしたそうだ。


  まあ、あまり興味のある話ではないので、宿屋を探すことにした。この街の主な産業は防衛産業と言う事で、ホテルも大したことは無かったが、この街で一番良いと紹介されたホテルに行った。レンガ造り2階建てのホテルだったが、かなり古そうな建物だった。ホテルの予約はミリアさんが行ったが、ダブルを1部屋とシングルを1部屋取ってくれた。ダブルが銀貨1枚半、シングルが大銅貨9枚だった。食事は、ホテルのレストランで取ることもできるが、宿泊代金には含まれていなかった。このホテルには、奴隷専用部屋があり、一般客と接点を持たないように、食堂、トイレや浴場もイオーク専用のものがあるそうだ。宿泊料は、人間の部屋の3分の2程度でリーズナブルなものだった。夕食と朝食もお願いして、1人銀貨1枚だ。


  近くで、美味しいレストランはないかと聞いたところ、ウサギ料理専門店がお勧めだと言われた。ホテルから予約を入れて貰ってから、一旦、部屋に入り、旅の誇りと汗を流すことにした。このホテルは、小さいながら、各部屋に風呂とシャワーがあり助かった。今日は、シェルと一緒の部屋に寝ることになっている。最近は、ミリアさん、積極的に僕に迫って来なくなった。うん、どんなに迫られても、一線を越えることは無いから、あきらめたのかも知れない。


  お風呂から上がって、シェルの髪を乾かしてあげているとき、誰かがドアをノックしてきた。誰かなと思ってドアを開けたら、いかにも執事さんという格好の年配の男性の方だった。


   「ゴロタ様でしょうか。」


   「はい、そうですが。」


   「私、ゲシュタルト男爵の執事をしているノバと言います。あのう、ミリアお嬢様はいらっしゃるでしょうか?」


   「ミリアさんは、隣の部屋ですよ。」


  すぐに教えてしまったが、教えて良かったんだろうか。でも、何かあっても、僕がどうにでもできるから、まあ、いいか。


   「淑女の部屋を訪ねるのは憚られますので、このお手紙をお渡しください。この街の防衛騎士隊指揮官のゲシュタルト男爵閣下から、夕食の招待でございます。」


  え、夕食。何で。というか、僕達、何も連絡していませんけど。キョトンとしていたら、ノバさん、直ぐに僕の不審顔に気が付いて、


  「城門の警備隊から報告のあった、本日の入城者名簿の中から、ミリアお嬢様のお名前を見かけ、きっとこのホテルにお泊りだろうと思われたようです。」


  え、入城者名簿、そんなもの、いつ作ったのだろう。どうやら、僕達の持っている冒険者証やミリアさんの持っている身分証明書は、魔道具で身元確認ができるとともに、記録することもできるようだ。しかし、入城者は、かなり多いと思うのに、どうしてピンポイントでミリアさんの名前を見つけられるのだろう。あ、あの目配せはそういう意味だったのか。ミリアさんがこの街に入ってきたら、指揮官に通報するようにとでも命令が出ていたのだろう。


  ノバさんには、下のロビーで待っていて貰って、ミリアさんの部屋に行く。ミリアさん、食事に行くつもりで、冒険者服から貴族服に着替えていた。僕達とは、心構えが違いますね。シェルなんか、いつだって冒険者服だから。手紙を渡したら、ミリアさん、少し緊張して読み始めた。読みながら、何故かニヤニヤ笑っている。


  「相変わらず、下手な字ね。いいですわ。行きましょう。ゴロタさん達も着替えてください。」


  シェルは、久しぶりの正式な晩餐会招待と言う事で、気合を入れてドレスに着替えていた。でも、あまり宝飾品は付けないでください。恥ずかしいですから。僕は、いつもの貴族服に着替えた。帯剣は、『ベルの剣』だけにした。シルフとイフちゃんは、異次元空間で待機して貰う。さあ、準備ができた。


  ノバさんと一緒に迎えの馬車に乗り込む。乗り込んでから、アッと思った。ウサギ料理の予約。慌てて、馬車を降りて、ホテルのフロントに予約をキャンセルして貰った。

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