第45話 お代官 反省してください
いよいよ、お代官様と対決です。あの〇〇黄門のようなシーンがあるのでしょうか。
(5月4日です。)
翌日、午前10時に、グルー町の代官屋敷の前で待ち合わせた。
村長さんは、すでに来ていた。僕達が到着すると、村長さんは、代官屋敷の門番さんに、訪問の趣旨を伝え、お代官様に面会したい旨申し述べた。
しばらく待たされて、執事のような方が、門まで出て来てくれた。案内してくれるのかなと思っていたら、お代官様は忙しいから、今日は面会できないと言われた。午前10時に申し込んで、今日1日会えないなんて、本当に忙しいんだなと思っていたら、エーデル姫が前に出てきた。
『代官の横領の件について、お聞きしたい事があるんですが。』と言った途端、顔が引きつった執事さんが、周りを見渡して、門の中に入れてくれた。
僕達は、屋敷の中のあまり広くない客間に案内された。三人掛けのソファが一つと、一人掛けのソファが二つ置かれているが、お代官様の座る位置を考えると、三人掛けソファしか使えない。村長を真ん中にして、クレスタさんとエーデル姫が両脇に座る。
僕とシェルさん、ノエルはその後ろに立っている。僕は、この部屋のドアの向こうに数人の男の人が剣を持って控えていることが分かった。殺気というよりも、待機していると言った感じだ。この部屋は、そういう部屋なんだろうと思った。
お代官様と執事さんが入ってきた。お代官様は30代のいかにも貴族という雰囲気の人だった。身長も高く、スラッとしていて、まあイケメンの方だろう。しかし、目付きが狐のように感じられ、その目でじっと見られると寒気がするようだった。
お代官様は、一人用のソファに深々と座り、執事さんは、右後ろに立たれた。
お代官様の方から、口を開いた。
「サンク、『横領』とは、どういうことだ?」
僕は、村長さんが『サンク』という名前だと初めて知った。サンク村長は、汗をかきながら
「いえ、決してそのようなことではなく、あの、毎年の年貢のことにつきましてご相談がーーー。」
「あなたは、何を言っているのですか。この代官の2割のピンハネの事を言いに来たんでしょ。」
エーデル姫が、きつく窘めた。エーデル姫、口調が直っているんですが。
「小娘、何だ、その2割とは。私が、何かしたか?」
「小娘ではありません。私はエーデルワイスです。エーデルワイス・フォンドボー・グレーテルです。ドンカ男爵。」
お代官様の名前を呼び、しかも爵位に閣下を付けないのは不敬と言われているが、エーデル姫なら問題ない、
「エーデルワイス?グレーテル?え、あのエーデルワイス姫君?まさか。」
あわてて、立ち上がり臣下の礼をとるお代官様だった。
エーデル姫は、立ち上がって、右手を前に差し出し、お代官様の手の上に乗せる。形式的にその手にキスをするお代官様。手を引っ込め、そのままの姿勢で、エーデル姫が、お代官様を詰問する。
年貢2割について、いくら問い詰めても知らぬ、存ぜぬと全く話にならない。まあ、最初から村長とお代官様との口約束、証拠などある筈もない。
そのとき、イフちゃんがドアを開けて入ってきた。手に何やら黒い帳面を持って。イフちゃんは、スピリットなので、実体化したりしなかったりが自由自在だ。
姿なき者の時は、扉や壁は役に立たない。それで、執事の事務室を漁って、いわゆる二重帳簿を見つけてきたのだ。エーデル姫がそれを受け取って、中を見ると、毎年、秋に『リングバーク村、上納麦〇〇〇』と書かれており、それは、表帳簿に書かれている年貢麦の量とはちがうので、別に徴収されていることが分かる。
過去3年分の帳簿に、しっかりと書かれており、言い逃れはできない。ナイス、イフちゃん。
「ドンカ男爵。これでも、知らないと仰るのですか!」
普通、ここで、逆上したドンカ男爵が、「者共、出会え!」と言って、チャンチャンバラバラとなるのだが、そうはならず、観念したドンカ男爵は、
「済みませんでした。姫君の仰る通りです。上納は、廃止します。どのような措置もお受け致しますので、寛大なるご処分をお願いします。」
と、平身低頭して謝罪している。
ドンカみたいに、自領を持たない貴族は、王国から派遣される国家公務員のような者で、税を上げて着服など、どこにでもある話だった。
「分かりました。この帳簿は、預かっておきます。私達は、ある所へ旅行中ですので、帰りに、また寄らせて貰います。その時に、未だ同じようですと、御父上にお伝えしなければならなくなりますので、心して下さい。」
もう、完全にお姫様モードでした。
ドンカ邸を出た僕達は、そこで、村長と別れた。村長は、知り合いのところで、もう一泊して、明日の駅馬車で村に帰るという。ノエルが、明日、両親に町のお土産を渡すので、持って帰ってくれないかとお願いしていた。
ノエルとクレスタさんの買い物に付き合い、皆んなでワイワイ歩いている時に、イフちゃんが、ドンカ邸から付いて来ている二人組の男について、どうするかを念話で聞いてきた。
『始末して下さい。でも、殺さないようにお願いします。』
イフちゃんは、物陰に隠れて『お兄さん』の格好になってから、二人組に近づいて行った。可哀想に。ご愁傷様。
後で、聞いたら、かなり痛ぶってやったみたいで、ドンカ邸の方に、猛ダッシュで帰って行ったそうだ。もう、二度と変な真似はしないだろうと思う。うん、思いたい。
買い物も終え、町のレストランで昼食を食べようとしたところ、ギルド出張所と兼ねているレストランがあるというので、そこに行ってみる事にした。
そこは、普通のレストランで、名前が「牛食亭」という変な名前だったが、一番奥に、掲示板と小さなカウンターがあるのが、他のレストランとの違いだった。カウンターには、誰もいなかった。
食事を終えて、皆で依頼を見ていると、魔物討伐依頼があった。見ると、ワイバーン討伐だった。僕は、ワイバーンという魔物を見たことがないので、興味があったが、シェルさんはスルーしようとした。
シェルさんに聞いてみると、ワイバーン1匹なら、遠距離火力を持っている『B』ランク以上のパーティーでも何とか出来る。
しかし、この依頼のようにワイバーンの巣となると、2匹以上の同時討伐になるので、『A』ランクパーティーが2パーティー以上揃って居ないと、全滅の恐れがあるらしいのだ。
ワイバーンの討伐が難しいのは、空を飛んで、剣が届かないだけでは無い。他の竜種の様に、炎のブレス攻撃は無いが、毒ブレス攻撃を上空から撒き散らすことと、鋭い爪の急降下攻撃だ。しかも、嫌らしい事に、爪にも毒があるらしい。兎に角、シェルさん達のレベルでは、お近づきになりたく無い様だった。
しかし、僕の考えは違った。『SSS』級のイフちゃんと、『A』ランクの僕、『B』ランクのシェルさんがいるんだから、何とかなると思った。
それに、駅馬車の出発は明後日だし、明日1日、何もやる事がない。達成報酬の金貨1枚も魅力だった。
「これ、受けよう。受けてみたい。」
シェルさんには、ハッキリと意思を伝えることができた僕だった。
シェルさんは、このチームは、僕のチームだし、僕が、珍しく自分から言い出したので、しょうが無いかと諦めた。
シュバッと依頼書を剥がして、
「スミマセーン。」
と、大声を上げたシェルさんだった。
レストランの太った女将さん『ジェン』さんが、ギルドの出張所長を兼ねている様で、直ぐにカウンターに来てくれた。
僕達の冒険者証を確認して、吃驚していた。『A』ランクの冒険者が、この町の依頼を受ける事など無かったからだ。
依頼内容は、北の山あいに棲み着いたワイバーンのつがいを討伐する事で、もし卵が手に入ったら、1個金貨3枚で引き取るとの事だった。
依頼請書にサインをして、手数料銀貨1枚を支払った。手数料を取るのは、それがギルドの収入となると共に、依頼を受けるだけで達成する気のない空受託を防ぐためだ。
僕達は、防具屋に行って毒消薬と、毒避石を買った。毒避石は、一人にしか効かないので、人数分を買ったら、何故かクレスタさんも買っていた。クレスタさん、洞窟に帰るんでしょ?
その日は、夜まで『まったり』していた。
夜は、いつもの通り、僕争奪戦だったが、何故か、クレスタさんも乱入していたし、お休みのキスにも参加していた。結局、最後だからと、クレスタさんと寝る事になった。僕は、殆ど、記念品扱いである。
ベッドの中では、クレスタさんが、僕の手を取って、自分の股の間に持って行こうとするので参った。何故か、濡れているし。でも、暴れる訳には行かないので、ジッとしていたら、クレスタさんが小さな声を出し始めた。僕は、五月蝿いなあと思いながら、眠ってしまった。
後日、僕の手を股の間に挟むのがプチ・ブームになったが、ノエルだけにはさせなかった。未だ、捕まりたく無いから。
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(5月5日です。)
翌朝、早朝にワイバーン討伐に出かける事にした。え、クレスタさん、何で付いて来るんですか?
クレスタさんは、僕が心配だから、付いて行くと言っている。あのう、帰りの駅馬車は?クレスタさんは、ここに戻って来るまで、僕達と旅を一緒にしたいそうだ。つまり、シェルさんの郷まで一緒に行くという事になる。旅をしたいのは、夜のアレが気に入った訳では無いですよね!
停車場で、村長さんにお土産を託してから、討伐に向かった。北の山は、高さ1000m級の岩山で、その中腹に洞窟があって、そこがワイバーンの巣だ。登るのも大変なので、僕が先に登って、ロープを垂らし一人ずつ引き上げようと提案したら、却下された。
イフちゃんが居れのだから、僕一人だけで登って、後で一遍に全員が行けるからという事だ。君達、冒険を甘く見ていませんか。ま、残念なエルフだし。僕は、一人で岩山を登った。登っていると、ハッシュ村の谷川の向こう、大雪山脈の麓の崖を思い出す。そして、ベルの事を思い出した。シルの事を思い出した。2人は本当に死んだのだろうか。元々、不死の存在だったと言う。僕には、分からなかった。
ワイバーンの巣の傍に着いた。イフちゃんにみんなを連れて来て貰った。巣の様子を伺うと、中に1匹いる。もう1匹は、餌でも採りに行っているのだろう。都合が良い。最初に1匹目をやっつけてしまえば、後が楽になる。
ワイバーンとの戦いが、始まった。
くるめく夜の営み。ノエルちゃん、見ちゃ駄目ですよ。あなたは、まだ13歳、中学2年生なんだから。




