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第2部第17話 怪しい村長

(4月25日です。)

  今日午前7時、王都に向けて、ギュート市を出発した。ギュート子爵は世話をするのも面倒なので、眠らせてから、イフクロークに収納しておいた。あの異次元空間は、時間という概念がないので、永久に収納し続けても特に問題は無かった。


  シェルは、朝早い事にブツブツ文句を言っている。ホテルの朝食もミリアさんはしっかり食べていたが、シェルはミルクティーを飲んでいるだけだった。僕は、ホテルのシェフにサンドイッチを作っておいて貰った。馬車の中で、お腹が減ったと言うに決まっている。その備えのためだ。


  案の定、30分もしたら『お腹が減った。』と言い始めた。早速、サンドイッチとホットミルクを出してあげた。


  「いつもゴロタ様は、シェル様にこの様にされているんですか?」


  「え?」モグモグ!「何で?」モグモグ!


  シェルさん、お口の中に食べ物を入れてる時は、喋らないで下さいね。何か飛んでますよ。僕はミリアさんに尋ねた。


  「あのう、ミリアさんも食べたかったですか?」


  「いえ、朝、しっかり食べましたから、大丈夫です。そうではなく、普通、女性が男性のために食事の準備をするのではないでしょうか?」


  そうなのか?今までシェルさんの世話をするのが普通だと思っていたのに、違うんですか?


  この国の習慣と、ゴロタ帝国の習慣では違うのかも知れない。


  「あのう、ゴロタ様は皇帝陛下ですよね。宮殿でも同じなのですか?」


  「まさか、宮殿ではシェフや執事・メイドが居るんですもの。ゴロタ君がやったら、彼らの仕事がなくなってしまうじゃない。」


  シェルのさも当然と言う物言いに、ミリアさんは、それ以上、聞くのをやめてしまった。きっと国が違うので、風習も違うのだろうと納得する事にしたようだ。


  お昼は、小麦粉を塩水で練って細長くしたものを茹で、トマトピューレに絡めたものを作った。ベーコンと玉葱の香りが食欲をそそる。


  全部で5人前を取り分ける。イオイチ君の分は、少し多めにする。


  「あのう、シェフ様は作らないんですか?」


  「え、私?作らないわ。だって下手だもの。」


  全く躊躇のない答えだ。うん、シェルの作った料理は破壊的だ。味付けもそうだが、料理の手順を全く理解していなかった。素材の下拵えなど全くせずに、そのまま煮炊きを始めてしまう。きっと料理スキルが、マイナスなんだろう。


  イオラさんも料理は出来るが、素材のまま焼いて塩をかけながら食べる程度で、全く料理とは別次元のものだった。


  午後は、かなり距離を進んだ。しかし今日の宿泊予定地であるグレミア村までは、かなり遠く、村に到着したのは午後7時近かった。途中2回、馬を交代させて急いだのだが、この時間になってしまった。


  村に旅館は2軒あったが、1軒は満室だった。もう1軒もツイン1室しか残ってないので、追加の簡易ベッドを頼んだら、準備できないと言われた。仕方がないので、シェルとゴロタで一つのベッドに寝る事にした。


  イオラさん達は、宿泊所が無いので馬屋の前でテントを出して寝る事になった。馬車の中でも良かったが、テントの中の方が広いのでそうしたのだ。


  夕食は、地元で取れたイノシシの鍋だったが、新鮮な肉で、臭みのない上品な味だ。あと、金串に野菜と一緒に刺して、油で素揚げしたものを、ソースにつけて食べたが、とても美味しかった。特にソースが抜群に美味しかったが、一旦口をつけた櫛をソースの壺に漬けるのは厳禁だった。


  この村の特産は、サツマイモから作るお酒だったが、蒸留はしていたが、芋の風味があって美味しいお酒だ。あ、このお酒は危険だ。店主に、お酒は1杯だけにして貰った。


  食事が終わってから、お持ち帰りを2人前準備して貰って、ホテルに戻ってから、馬屋の方に回った。イオラさん達は、馬屋の井戸水で体を洗って、焚き火をしながら体を乾かしていた。お土産の串揚げを渡した。


  旅館のフロントに行ったら、来客だと言われた。ロビーのソファに初老の男が座っていた。ゴロタ達が近づくと、立ち上がって挨拶をしてきた。男は、この街の村長だった。


  「はじめまして、私はギュート子爵領グレミア村の村長をしているガントと言います。貴方様を冒険者と見込んでお願いがあります。」


  村長の話はこうだった。以前は、村に衛士隊が常駐していたが、最近になって、引き上げてしまった。理由は分からないが、それ以来、西の山に野盗と思われる男達が棲み着いてしまったのだ。


  人数は特に多い訳ではないが、不思議な力を使うそうだ。属性魔法ではないらしいのだが、彼らが来ると反抗出来なくなってしまうらしいのだ。


  被害は、半年に1度、村に来て村長と交渉しているが、要求は現金と女性1人だけだそうだ。最初の時は、村の娘を連れて行かれたが、次からは、高い金で女奴隷を買って来て、差し出しているとのことだった。


  ギュート市の衛士隊本部に派遣要請をしても、いつも全てが終わった頃にやって来て、高い派遣費用を取られるだけだったそうだ。そして、今から1週間後に、今年初めての徴収日が来るそうなのだ。これから、ギュート市の奴隷市場で若い女奴隷を買ってこなければならないが、その前に討伐が出来れば女奴隷を買って来なくても済むとも言っていた。


  話を聞いていて、ゴロタは違和感を覚えた。まず、年に2回しか来ない野盗がどうやって生きていくのだろうか。現金と女だけを要求したとして、食料はどうやって調達しているのだ。また、若い女奴隷は、金貨数枚以上、高ければ10枚以上はする。この村にそれほどの財力があるとも思えない。


  それに、幾ら衛士隊がやる気がないと言っても、ただ来て帰るだけと言うのもおかしい。普通、西の山に討伐隊を出すはずだ。まして衛士隊本部長は、あのデボラ隊長だ。そんないい加減な事をする訳がない。


  その事はシェルも気が付いたみたいで色々聞いていた。


  「その今まで差し出した女奴隷は、どうなったんですか?」


  「知りません。誰1人として、帰って来ませんでした。」


  「領都の衛士隊は何人位来て貰ったんですか?」


  「はい、毎回10人位でした。」


  「何故、その野盗の連中のアジトを殲滅しなかったんですか?」


  「分かりません。1度、討伐に行ったのですが、そのまま行方不明になってしまって。」


  ますます、怪しい。衛士隊の仲間が帰って来なければ、総力を上げて捜索するはずだ。


  「それで、今回は女奴隷は買ってないのですか?」


  「はい。皆さんが冒険者だとお聞きして、討伐をお願いしようと思いまして。」


  「それで討伐報酬は、お幾らですの?」


  「えーと。金貨1枚で如何でしょう。手付けは、銀貨1枚で。」


  え?金貨1枚?これには呆れた。衛士隊だって、殉職すれば金貨の5〜6枚は支払われる。それがミリアさんを入れて3人、そんな安い値段で命をかけるなんて、あり得ない。


  「は、金貨1枚、それで、この超絶美少女に命を掛けろと。近くに寄るだけでも金貨3枚は必要な、私の美貌がたった金貨1枚。このお話は無かった事にしますわ。」


  かなり無理のある論理だが、そこは無視をして、この話は受ける気がなくなった。理由は、このガント村長のの申し出に悪意を感ずるからだ。交渉は決裂だ。黙ってソファから立ち上がる。さあ、部屋に戻ってお風呂に入ろう。


  「ま、待ってくれ。金貨10枚、金貨10枚出すから、頼みを聞いてくれ。」


  『こいつ、絶対に出さないな。』と思ったが、とりあえず依頼を受託する事にした。野盗に興味があったのだ。と言うか、野盗の蓄えた財宝に興味があった。この村以外にも、旅人から奪取したお宝が蓄えてあれば、結構な財産になるに違いない。


  しかし、村長の魂胆が気に食わない。それにシェルやミリアさんを見る眼付き、絶対に下卑た考えの対象として見ている。


  シェルは、依頼書を書いて、署名をさせた。これで契約は成立だ。村長には、これ以上用はない。お引き取り願った。ただし、ただでは帰さない。イフちゃんに監視をさせることにした。どうも、あの村長、怪しいのだ。イフちゃんは、思念を離脱させて村長を追跡していく。


  村長は、自宅に真っすぐ帰って行った。自宅は、村行政所に併設された建物だった。建物内に入って行った村長は、そのまま誰もいない村行政所事務室内の応接室に入って行った。そこには、一人の男がいた。身長は180センチ位だが痩せていて、目だけがランランと大きな男だった。まだ4月だというのに、黒のマントを着ている。


  『どうじゃ、あの3人は野盗討伐に来るのか?』


  『はい、マスター。やっと承諾して貰いました。あいつら、金貨10枚も要求しやがって。』


  『良いではないか。どうせ、報酬は貰えずに土くれになってしまうのだからの。』


  男は、事務室の天井の方を向いた。イフちゃんの意識がそこにあるのだ。気付かれた。イフちゃんは、直ぐに意識を引き戻した。きっと、気づかれなかっただろう。あの男は、人間ではない。というか強大な魔力を有している人外の存在だ。


  『バンパイア』


  思い当たるのは、人の形をした最強の魔物。それなら、今まで人間を餌食にして来たことも納得できる。


  しかし、何故、村長が、バンパイアと共同しているのだろうか。まあ、後でゆっくり聞く事にしよう。今日は、もう十分だ。寝る事にしよう。この日、ゴロタは久しぶりにゆっくり寝ることができた。ミリアさんが、別にベッドで寝てくれたのだ。


  女性は、月に一度、そう言う時があるのだが、余り深く詮索しない事にしている。

村長は、怪しいです

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