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第2部第15話 騎士の名誉

(4月23日です。)

  子爵邸前でミリアさんが出てくるのを待っていると、泣きながらミリアさんが屋敷から出てきた。キッと血相を変えたシェルが、ヘラクレイスの弓を持って屋敷の中に入っていこうとしたので、慌てて止めてやった。いつもながら、シェルさん、女性特有の被害には、すぐに激昂してしまうんだから。


  ミリアさんを馬車に乗せてホテルを探そうとしたら、さっきの衛士隊長さんが馬車のドアを叩いた。ゴロタは、イフちゃんを通して衛士隊長さんの顔は知ってたが、衛士隊長さんは初対面なので吃驚していた。背の高い男の子が乗っているとは思わなかったのだろう。


  ゴロタは馬車を降りて、ミリアさんを護衛している冒険者であると自己紹介をした。衛士隊長さんは、デボラさんと言って、ミリアさんの父君、バーミット男爵が王都で近衛騎士団の中隊長をしていた時の部下だった人らしい。ミリアさんが心配で後を追いかけてきたそうだ。


  ゴロタは、これからホテルを探すので案内してくれませんかとお願いしたら、すぐに紹介してくれた。馬車の乗り込んできたので、ミリアさんの隣に座って貰った。


  デボラ隊長の紹介してくれたホテルは、市の南西部、ダウンタウンにある小さめのホテルだが、スイートルームがあり、昔から格式のあるホテルだそうだ。人間も従業員も多く、獣人やイオークもキチンとした身なりでキビキビ働いていた。


  ホテルの裏には、獣人やイオーク専門の宿泊施設が併設されており、驚いたことに専用レストランがあった。部屋は、狭いがバストイレ付きの個室だそうだ。ゴロタは、好きなものを食べる様にと銀貨1枚を渡しておいた。


  ホテルで受付を済ませてから、レストランでお茶を飲みながら、ギュート子爵とエチゴヤ行政官の密談内容を教えてあげた。


  ミリアさんが、みるみる涙を溢れさせてきた。きっと悔し涙だろう。殺された行政事務官一家も可哀想だった。きっと幼児もいただろう。


  デボラ隊長は、そのことを知っていた。行政庁の直属の上司から、一家の捜索願いが出ていたらしいのだ。殺された行政事務官は36歳、奥さんは25歳で、8歳の女の子を筆頭に、6歳の女の子、3歳の男の子、それに1歳の女の子がいたそうだ。


  シェルが怒りでブルブル震えている。ゴロタに一つの考えがあった。まあ、今日は食事をしましょう。あ、デボラ隊長も一緒に如何ですか?


  夕方、6時、デボラ隊長が勤務を終えてホテルを訪ねてきた。今日は、シェフに大きなロブスターを2匹渡しておいたので、縦に2つに割ってガーリックバター焼きを作ってもらう。お酒は、和の国のライス酒とガーリック侯爵領で作られる最高級ワインを冷やして貰う。このワインは、完熟した葡萄にボトリティス・シネレアという貴腐ワイ菌が付着して出来る特殊な葡萄で、貴腐菌が果皮のロウ質を壊すことにより、果汁中の水分が蒸発して、糖度が著しく濃縮されて、木になったままで乾葡萄のような状態になっていくらしいのだ。その葡萄を使ってのワインを貴腐ワインというが、ガーリック地方でも年に数本しか取れない貴重な白ワインだ。あと、特別の日に飲むスパークリングワインも冷やして貰う。


  白ワインは大銀貨3枚、スパークリングワインは大銀貨1枚もする。しかし、値段では無い。これからミリアさんの力になって貰いたいので、その願いを込めて奮発したのだ。


  食後、明日の作戦を言う。まず、エチゴヤ行政官を拘束して、偽造された書面を奪取する。それから、命令を受けた殺し屋を見つけて、衛士隊本部で、犯行を自供させる。


  それをネタに、ギュート子爵に領地返納願書を作成させる。その後、ギュート子爵を王都に搬送する。


  以上が、明日の計画だ。デボラ隊長が呆れていた。ゴロタが話した計画を実行して成果を出すためには、大勢の捜査員と気の遠くなる様な期間が必要となるからだ。


  シェルが、にっこり笑って、


  「だいじょうぶですよ。ゴロタ君、普通じゃ無いから。」


  シェルさん、それ知らない人が聞いたら絶対誤解するから。


  その日の夜、スイートルームに置いてある二つのダブルベッドを合わせて、超巨大サイズのベッドを作った。


  3人で一緒に寝る予定だ。お風呂に入っていると、シェルが入ってきた。いつもの通り、体の隅々まで綺麗にする。もうシェルも慣れた物だと。洗っている最中に、ミリアさんが入ってきた同じように綺麗にしてあげたが、胸と股間を綺麗にしている時、体を捩って悶えている。まあ、慣れていないからね。その間、シェルがゴロタの体を洗ってくれるが、あのうシェルさん、そこだけ前後にこするのやめていただけませんか?


  お風呂から上がったら、2人は下着もつけないでベッドに潜り込んできた。勿論、ゴロタはパンツを履いていたが、すぐに剥がされて仕舞った。今日も、寝不足になるんですか?


  次の日、ゴロタは行政庁の前で、エチゴヤ行政官が登庁して来るのを待っていた。エチゴヤは2頭立て馬車に乗ってやって来た。馬車から降りて来たエチゴヤに声を掛けた。


  「エチゴヤさん。」


  振り返ったエチゴヤは、ゴロタの顔を見てギョッとしている。すかさず『瞬動』で、目前に接近し、オデコに左手のひらを当てる。一瞬で意識を失ったエチゴヤは、ボーッと立ち尽くしている。


  「僕の後について来て下さい。」


  そのまま、隣の衛士隊本部に向かう。エチゴヤは、黙ってごろたの後をついて来る。革製の鞄を大事そうに持っている。衛士隊の中では、デボラ隊長が待っていて、そのまま取調室に入って行った。


  取調べ官はゴロタだ。調書を作成する書記官と、デボラ隊長が立ち会ってくれる。ここはゴロタ帝国風の取り調べをしよう。最初は、供述拒否権の告知だ。


  「これから、貴方を殺人事件の容疑で取り調べます。貴方は、自分の意思に反して供述する必要はありません。また供述を拒むこともできます。ただし、ここで供述した事は証拠として採用されることがあります。」


  これだけ言うと、本格的な取り調べだ。人定事項を聞いた後から時系列に従って聞くことにする。バーミット男爵領を召し上げる詔勅書やミリアさんがサインした返納届を魔法文字で偽造した事、魔物を討伐したことを知ってから、当時の押収を執行した若い行政官を家族ごと殺させた事、また、この事はギュート子爵の了解のもとに行っている事など全てを自供したのだ。殺し屋は、裏社会の顔役ブッチと若い衆に頼んだとも自供した。エチゴヤはそのまま留置場に留置された。


  エチゴヤが大切そうに持っていたカバンの中には、領地を放棄する確認書と国王陛下からのバーミット領下賜の詔勅書が、入っていた。ゴロタが『復元魔法』により、消し去られて文字を復元させたところ、ミリアさんが、バーミット男爵の仇である魔物を討伐し、男爵章を取り戻せたら、領地を返還するという文言が、両書面にしっかりと記載されていた。


  デボラ隊長以下衛士隊20名とともに、ダウンタウンの歓楽街にある暗黒社会の組織の事務所に向かう。風俗店が多く入っている建物の3階に、その事務所はあった。鉄製の扉が閉められていたが、構わず、ドアヒンジごと引きちぎる。中には、若い衆が10人近くいて、博打か何かをしていたが、『威嚇』で意識を飛ばしてやった。本当は、全員を殲滅したかったが、若い行政官を殺害した犯人がいるかも知れない。殺すのは、全部自供してからでも間に合う。


  物音を聞いて、奥の部屋から男が出て来た。パンツひとつだ。素っ裸の女が、服を胸の前で合わせて逃げていく。


  「貴方がブッチさんですか?」


  「ああ、それがどうした。」


  ブッチの右手が無くなった。ミニファイアボールが右手の関節にぶつかって爆発したのだ。


  「ギャーッ!」


  噴き出る血を見て騒ぎ立てるブッチに『威嚇』をかける。すぐに大人しくなった。


  「エチゴヤに頼まれて、若い行政官一家を殺したな。」


  「ああん、知らね・・・。ああ、殺した。」


  ブッチは、自分の言葉に驚いていた。


  「実行犯は誰だ。」


  「俺は知らね・・・。そいつとそいつとそいつだ。」


  3人を指さした。ゴロタは、その3人を、ブッチの立っているところに投げつけた。『ゴキュ!』と言う変な音がしたが、構わずにブッチに近づく。後の連中には用はない。全員の意識を飛ばしてから、脳味噌を凍らせる。


  デボラ隊長と隊員さん達には、ゴロタが何をしているのか全く分からないだろう。死体を検分しても、凍った脳が溶けたら絶対に死因は分からない筈だ。


  ゴロタは、投げつけて意識を失っている若い男の1人を蘇生させた。骨折した部位を治癒してやる。これで、普通に話せるだろう。


  「貴方が、行政官一家を殺したんですか。」


  男は、失禁し、泣きながら頷いている。


  「誰に、命令されましたか?」


  力無く、ブッチを指差した。今度は、ブッチに聞く。


  「後の2人は、なにをしたのですか。」


  「女とガキを殺した。」


  「死体は、どうしましたか?」


  「家の床下に埋めた。」


  「案内して下さい。」


  若い衆3人は、立ち上がって、フラフラ事務所の外に出て行った。当然、衛士隊が後をついて行く。残ったゴロタは、ブッチの両足と股間のイチモツを炭にしてやる。左手だけは、後で供述調書を作成するために残してやる。


  デボラ隊長は、呆れ切っていた。この少年は一体何をしたんだ。まだ若そうなのに、こんな恐ろしいことを顔色一つ変えずに。普通ではない。そういえば、あの綺麗なエルフが『普通ではない。』と言っていたな。


  ゴロタは、ブッチを放っておいて、ギュート子爵邸に向かった。デボラ隊長と僅かな隊員が、ついて行く。デボラ隊長は、この事務所の処理は、今日の非番の隊員を招集してやらせようと考えていた。


  ところで、この少年は、どこに行こうとしているのだろう。まさかギュート子爵の所ではないだろうな。あそこには、子飼いの騎士団が100人はいるし、もしかすると、全員つまり300名位が待ち受けているかも知れないのに。


  子爵邸に到着した。通りには、市民は誰もいなかった。騎士団が、道路を封鎖していたのだ。衛士隊の隊員は、市民の避難誘導に当たっていた。


  騎士団の先頭に、あの騎士団長さんが立っていた。僕は、静かに話しかけた。


  「皆さんは、ギュート子爵閣下を守るために、ここにいらっしゃるのですね。女性団員さんは危ないので、向こうに避難して下さい。後、死にたくない方も非難をお願いします。」


  何人かの騎士が避難して行く。シェルと話しをしていた、あの女性隊員も避難していた。


  団長が、ゴロタを睨み付けていた。


  「騎士として、主君のために死ぬのは名誉じゃ。逃げるような腰抜けはおらんぞ。」


  「これでもですか?」


  ゴロタは、手を挙げた。空中に、雷光が渦巻き始めた。空中放電の音と光が凄まじい。


  ゴロタは、手をおろした。渦巻く雷光から、何本かの稲妻が地面を直撃した。数人の騎士が、感電して気絶した。


  「さあ、逃げて下さい。貴方たちを殺したくないのです。」


  ごろたは、雷光を消去した。周囲には、静寂と放電の際のイオン臭が漂っていた。

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