第2部第13話 ラーメン一丁出来上がり
(4月22日です。)
朝、朝食のために1階のレストランに降りていったら、沢山の商人が屯していた。ゴロタの姿を見かけると声をかけてきたのだ。どうやら昨日宝飾店での買い物が噂になっているらしいのだ。宝石類の他に、高級服や高級そうな食器、あと武器や魔道具も展示していた。さながらお土産やさんのような雰囲気だった。武器をチラッと見たら、安物の宝石で飾って高級そうに見せているナマクラソードとか、絶対に使い道のなさそうな魔道具ばかりだった。洋服なんか絶対に買わないと思っていたら、シェルとミリアさんが引っかかっていた。
二人に、大銀貨1枚までだよと注意したら、何人かの洋服屋さんが血相を変えて売り込み始めた。どっちみち支払いはゴロタだろうから、放っておいてレストランに入っていく。
朝食は、卵料理がメインで、焼き立てのパンと濃厚な乳製品だった。ん、このバター、牛乳では無いな。聞くと、ヤギの乳から作ったバターらしい。濃厚な味だ。パンも外の皮はパリッとしているが、中はしっとりフワフワだった。
一人で黙々と食べていると、シェル達がレストランに入ってきた。3人の商人を連れている。もう何を買ったのかは確認せずに、全員に代価を支払った。全部で大銅貨7枚だった。ああ・・・。品物は、部屋に運んでおくようにお願いした。
さあ出発だ。順調にいけば、今日の夕方には、ギューダ市に到着するはずだ。
ホテルを出ると、もう既に馬車はホテルの前に回されていて、イオラさんが御者台の上に乗っていた。イオイチ君がドアを開けてくれた。乗り込む前に、脇に立っていたイオークに大銅貨1枚のチップを渡す。きっと彼にとっては1日分の稼ぎを朝の1回で稼いだのだろう。
街を出ると、暫くイオーク・スラム街が続いた。北側の方が多いのは領都への交通量が多いためだろう。雨の日のぬかるみに嵌った馬車を引き上げるだけで稼ぎになるのだから、交通量の多い方に住みたがるのは当たり前だった。
スラム街を抜けると綿花畑が続く。所々に粗末な建物があるのは、荘園のイオーク奴隷小屋だろう。イオーク奴隷達が働いている所も見たが、それなりに太っていて、食糧事情は良さそうだった。
お昼近くになったので、キャンプ地を探したが、驚いたことにレストランがあった。結構馬車が止まっていた。
『センター・ドライブイン』と言う変な名前の看板がかけられていた。中に入ると、大きなカウンターがあって、その裏が厨房になっているようだ。ゴロタ達は、お勧めのホットドックとパスタサンドを頼んだが、結構いける。特に、パスタサンドは、ケチャップで絡めたパスタを、焼いたコッペパンに挟んで食べるのだが、炭水化物in炭水化物だったが、ケチャップがパンに染み込んで、とても美味しかった。勿論、外で待っているイオラさん達にも、同じものを頼んで渡していた。
食事が終わって外に出たが、店内の一角にいた男たちの目付きが気に食わなかった。あ、またこのパターンか。薄汚れた髭面の男達。如何にも無頼ですと言う感じを出している。一番大きな男は、自分の身長ほどもある大剣を背中に背負っている。もしかすると、冒険者かも知れない。冒険者、時々犯罪者ってパターン、ゴロタ帝国でも珍しく無い。
気付かぬフリをして、街道を北に向かう。段々、森が深くなって見通しが悪くなった時、男達の乗った馬が後方から接近してくる。ニヤリとほくそ笑む。馬ゲットだ。
馬車を止めて、男達が接近するのを待つ。シェルが弓を持って外に出ようとするのを抑える。気付かれないように、アイスランスを10本ほど上空に浮かばせておく。
男4名が馬に乗って近づいて来た。一人の男が、馬上から声をかけてきた。
「おい、にいちゃん。馬車を置いて、どこかに行ってろ。」
ゴロタは、馬車の窓から顔を出して男に尋ねる。
「あなた達は、強盗ですか?」
「なら、どうするって言うんだ。」
「こうします。」
アイスランスの浮遊を解除する。地上30mの高さから、繁った葉をかき分けてアイスランスが落下する。可哀想に、4人とも肩から心臓にかけてアイスランスが貫通してしまった。
アイスランスの勢いが強過ぎて、乗っている馬にまで到達しないように、落下速度を加減するのが難しかったが、大丈夫のようだった。
絶命した男達が馬から転げ落ちる。吃驚した馬達が走り出そうとするが、少しだけ『威嚇』を使って、動けないようにしておいた。
後は、イオラさん達に任せよう。男たちの所持品からは、たいした戦利品は無かったと報告を受けたのは、それから20分後だった。しかし、1頭で大銀貨3枚以上の馬を4頭も手に入れたのだ。これで良しとしよう。彼らも、変なスケベ心を起こさなければ、こんな目に合わなかったのに。
それからはのんびりと領都である市に向かう。馬車の後ろには、さっき入手した4頭の馬を繋いで引いている。2時間ごとに交代させる予定だ。
今日の朝、ホテルでギーグ市の情報を聞いたのだが、ギーグ市は人口12万人の大きな街で、主な産業は、綿糸・綿布の生産及び綿製品の縫製らしい。綿花は手間のかかる植物で大量の労働力を必要とする。大勢のイオーク奴隷が働いているはずだ。
また、ギーグ市では、自由奴隷は存在せず、所有者が遺棄した奴隷イオークは、奴隷オークションで売り飛ばされる。ひどい時には、銀貨1枚以下で落札される時もあるそうだ。
それでも落札されない場合があるが、そのままギーグ子爵所有の奴隷となり鉱山での採掘に従事させるそうだ。しかし身体が小さい分、体力が低く、損耗率が極めて高いそうだ。
そんな事を思い出しながら馬車に揺られていると、イフちゃんが『城壁が見えたぞ。』と、教えてくれた。もう、辺りは薄暗くなっていた。大きな城門は、固く閉ざされている。もしかすると、開門時間を過ぎてしまい、城門は閉鎖されてしまったかも知れない。
城門の前には、幌馬車や旅行用の箱馬車が並んでいるが、動いている気配はなかった。周囲には、徒歩や乗馬で旅行をしている人達が野営するためのテントがいくつも貼られていた。
しょうがない。ゴロタ達も野営しよう思っていたが、シェルが物凄い我儘を言ってきた。お風呂に入りたいので、昨日のホテルに戻りたいと言うのだ。ミリアさんが、この人何を言っているんだろうと言う顔をしている。1日かけて、ここまで来て、また戻るなんて、あり得ない冗談だと思ったのだろう。
ゲートを使えば、自由に移動できる。しかし、それでは冒険の旅とは言えないだろう。仕方がない。少し戻って、誰もいない場所を探そう。イオラさんに少し戻るように指示した。イフちゃんが、3キロくらい戻った丘の麓に、キャンプ適地があると教えてくれた。うん、そこに行こう。
そこは、周りが森に囲まれた広場で、東側には小さな丘が盛り上がっている。ゴロタは、キャンプセットを出すと、テーブルと椅子をセットし、シェルとミリアさんにお茶を出す。次に、丘を5m位登ったところに、深さ80センチの浴槽を掘り下げた。壁と床を固めてからお湯を張る。浴槽の下側には洗い場を作り、あと下から階段を設置して完成だ。シャワー石でシャワーをセッティングして、いつでも入浴OKだ。
次に竈門を作って、大きな鍋でお湯を沸かす。それから鶏の骨を煮込んだスープを取り出して、ちいさな鍋にかけ、水を足してスープを作る。長ネギやニンニク、香草で味を整える。
和の国で購入しておいた生麺を大鍋で茹でる。ラーメン丼に醤油と塩胡椒を入れ、熱いスープを入れておく。茹で上がった麺を細長い取手付きのザルに入れて油切りをする。醤油スープに麺を入れ、豚肉を煮込んでスライスしたものや茹で卵、筍のスライス、青野菜を入れ、長ネギを刻んだ物を載せて出来上がりだ。竹を削った端で食べるのだが、ミリアさんはシェルの食べ方を見様見真似で食べている。イノラさんとイノイチ君は、フォークとスプーンで食べて貰う。
イノイチ君は、大盛りにしてあげたミリアさん、最初は恐る恐る食べ始めたが、味を確認してからはものすごい勢いで食べ始めた。あ、下を火傷したみたい。冷たい水を準備してあげた。
「これは何という料理ですか?」
「ラーメンと言って、和の国という島国の名物料理です。」
「そうですか。今度、その国に行ってみたいですわ。」
「今度、連れて行ってあげますよ」
そう言った途端、シェルに思いっきり脇腹をつねられてしまった。
食事後、3人でお風呂に入る。ミリアさん、ゴロタの目の前で裸になる事には慣れてしまったようだ。満点の星空の下、ゆったりと入るお風呂は最高だった。ゴロタの右側にはシェル、左側にはミリアさんが入っている。シェルが、ゴロタの右腕を取って、自分の股間に持って行く。ミリアさんも、ゴロタの左腕を取って、自分の股間に持って行く。
ゴロタは、ジッとしている。下手に動いて声でも出されたら困ると思ったからだ。その時、シェルが甘い声を出した。
「ねえ、あなた。動かして。」
え、ミリアさんが隣にいるんですよ。
「ミリアさんも、動かして貰いたいでしょ。」
ミリアさん、顔を真っ赤にして頷く。まあ、薄暗いからあまり分からないが。もう、どうなっても知りませんよ。ゴロタが、指を動かし始める。二人の声が夜空に響き渡った。
イオラさん、イオイチ君の耳を一生けん命押さえていた。
ラーメンは、中国が発祥ですが、独自の発達をした日本のラーメンって、世界中でスタンダードになっています。




