第2部第9話 旅立ちの日
(4月15日です。)
今日は、ギュート子爵領の領都、ギュート市に向かう。バーミット市から約300キロ、馬車で7泊8日間の旅だ。途中、旧バーミット男爵領だった町が1つと村が2つ、領境を超えると、町が1つと村が1つあるので、残りの2泊は野営になる予定だ。これから冬に向かう季節なので、朝夕はかなり涼しくなる。きちんと防寒対策をしておく必要があるようだ。
馬車を曳く馬は黒毛が2頭と赤毛が1頭、それと芦毛が1頭だ。芦毛の馬が一番賢そうだったので、右前を引かせることにした。イオラは、馬の世話などしたこともないし、馬車を操作するのも初めてだったが、ゴロタが一つ一つ教え込んで、何とかできるようになっていた。でも、暫くは、ゴロタが業者台の左側に座ることにしている。イオイチ君は、後ろの御者席に一人で座って貰う。荷物もいっぱいなので、もたれかかって寝るのにちょうど良いみたいだ。ても、寝ていて転落してはいけないので、しっかりと腰をロープで縛りつけておいた。
午前9時、皆に見送られてバーミット市を出発したのだが、単調な道のため、緊張感が薄れそうだ。警戒のため、イフちゃんに声を掛けておく。すぐに時空の狭間の境目まで来てくれて、周辺の警戒を始めてくれた。あ、シルフが馬車の屋根上に飛び乗ってきた。例のコンバット服にフルフェースヘルメットを被ってMP5を構えている。イオラさんが、吃驚していた。急に変な格好の女の子が現れて、屋根の上に寝そべっているのだ。驚かない訳がない。
お昼になった。ちょうど、キャンプベースとなるような場所があったので、そこでお昼休憩にしよう。シェルとミリアさんが馬車から降りて来た。硬くなった体をほぐしている。
シルフが屋根から飛び降りてきた。器用に1回転して、地上にシュタッと降り立つ。でも、口で『シュタッ』と言ってもね。次元の狭間からイフちゃんが現れた。いつもの真っ赤なワンピースを着た、10歳児の姿だ。ミリアさんにシルフとイフちゃんを紹介する。もう、ミリアさん、大抵のことには驚かなかったが、シルフがヘルメットを脱いで、シェルと瓜二つなのには、完全に言葉を失ってしまっていた。
お昼は、ホットドックにした。既に下ごしらえは出発前に済んでいる。後は、オーブンで焼くだけだ。イフちゃんも食べたいと言ったので、7本準備する。余りの1本は、イオイチ君用だ。大きなコッペパンに特大のフランクフルトだ。シェルやミリアさんには絶対に食べきれないだろうと思っていたら、ミリアさん、どこにそんなに入るんですか?ペロリと平らげてしまった。スープは、青豆のチリソース・スープにした。冷え切った体には、とても美味しかった。
ミリアさんが、シルフが全く食べないことを不思議がっていたが、シルフはアンドロイドだと説明しても分からないだろうから、放っておくことにした。食事が終ると、簡単に周辺の偵察をお願いする。シルフは、衛星からの映像解析をするのだが、イフちゃんは、自分の意識を飛ばして、実映像を見せてくれる。周りには大した獣も魔物もいないようだ。今日の宿泊予定地のバーク村まではあと、5時間位だというので、到着は午後6時頃になるだろう。うまく宿屋が開いていれば良いのだが。それとイオラさん達、イオーク専用部屋があればいいのだが、無ければ彼らは、馬車の中で寝て貰うつもりだ。彼らにとっては十分な広さの筈だ。きちんとお風呂に入っているので、イオーク臭さは全くないはずだ。
イオラさんは、馬達にまず水を飲ませ、次に燕麦とトウモロコシを混ぜた餌を与えている。馬車の旅は、この準備が大変なのだ。野営となる場合には、4食分の餌と水が必要となる。水は何とかなっても、餌はどうしようも無い。野草だけでは、大量に食べなければエネルギー不足になってしまうのだ。だから、野営の時は、人間を運んでいるのか、餌を運んでいるのか分からないくらいだ。
シェルが、体が痛いと言っている。馬車の揺れがひどくて、いろいろ、ぶつけてしまったようだ。シルフが、魔石を取り出して、ゴロタに魔力を充填するように頼んできた。直ぐに満タンにしてあげると、もう一つの魔石が嵌められた装置にセットしている。馬車の下に潜り込んで、装置を取り付けていた。スイッチを入れると、みるみる馬車のスプリングが伸びて来た。
シルフが、装置概要を説明しようとしていたが、慌ててやめさせた。仕組みはゴロタでも分かった。馬車の重量を軽減させているのだろう。乗り心地が良くなるばかりではなく、馬の疲労も軽減できる。それからは、快適な馬車の旅が続いた。
何事もなく、バーク村に着いた。村の中心、教会の傍にホテルがあった。ホテルという看板が立っていたが、ホテルと言うよりも民宿みたいな感じだ。受付の女の人も、この旅館の女将さんと言う感じだ。ダブルを1つとシングル1つを予約する。あと、イオークが泊まれる部屋があるかと聞いたら、馬小屋の2階が獣人やイオーク用の部屋になっているとのことだった。部屋にはシャワーもあるし、きちんと布団もあるそうだ。イオーク用の部屋を1つ予約してから、食事のことについて聞くと、このホテルにはレストランはないが、もう少し先に行くと郷土料理の店があるそうだ。そこは、店先に屋外用のテーブルがあり、そこならイオークが一緒でも大丈夫だそうだ。
その店はすぐに見つかった。郷土料理と言っても、鹿のローストをスライスしてパンに挟んで食べるのと、キノコを主体としたキッシュがメインの料理だった。キッシュは非常に美味しかった。イオラさん達は、こんなに上手い料理は初めてだと言って、お替わりをしていた。ミリアさんも負けじとお替わりしていたが、ミリアさん、そんなに食べていると、ナイスバディが泣きますよ。
シェルが、地元のトウモロコシを原料にしたお酒を頼んだけど、いかにもアルコール濃度が高い感じがした。案の定、2杯飲んだ段階で、潰れてしまった。シェルは、アルコールに弱いくせに飲みたがるんだから。
あ、ミリアさん、そんなに飲んだら危ないですよ。と思ったが、遅かった。目つきが怪しくなってきている。トローンとして、手をゴロタの膝の上に伸ばしてくる。イオラさんが気を利かして、イオイチ君を連れて先に宿に戻ってしまった。イオラさん、お願いだからここにいてください。
右に座っているミリアさん、ゴロタの方にもたれかかってくる。左手をゴロタの右太ももの上に乗せて、撫でまわしている。シェルは、ゴロタの左で眠り込んでいる。駄目だ。帰ろう。勘定を済ませて、シェルを抱き上げ、ホテルに向かう。あたりが薄暗い。
「ねえ、ゴロタ様、私も抱っこして。」
いえ、それって物理的に無理ですから。
「抱っこ、抱っこ。」
あなた、お幾つですか?18歳の女の子の言葉ではありません。あ、背中にオンブしてきた。大きな胸が背中に当たっているんですけど。
本当なら、手を背中に回して、落ちないようにオンブしてあげたいんですけど、シェルを抱っこしているので、それは出来ません。ミリアさん、ゴロタの耳を舐めながら、
「ねえ、今日、一緒に寝よ。」
寝る訳ありません。私には、シェルと言う立派な妻がいるんですから。あ、シェルさん、目を開けてジッとミリアさんを見ている。眼が怖い。シェルは、ゴロタの首に手を回し、ギュッと引き付けて濃厚なキスをしてきた。うえー、酒臭い。
ミリアさんも、耳たぶを舐めながら、ゴロタの顔を自分の方に向けようとしている。もう、これ以上は大変なことになるので、そのまま、ホテルの部屋に転移してから、シェルをベッドに投げ捨て、そのままミリアさんを隣の部屋のベッドに投げ捨ててから、一人で馬車の中に逃げ込んだ。今日は、ここで寝よう。
ホッとしたのも束の間、いつの間にか、全てを脱ぎ捨てているシルフが、上に乗っかってきている。止めろ。お前はアンドロイドだろ。しょうがないので、また、自分の部屋に戻ったら、シェルが飲食していたもので、ベッドをベタベタにしていた。
シェルの服を全て脱がし、お風呂に入れて綺麗に洗ってやる。あのう、脚の間位、自分で綺麗にしましょうね。ベッドの汚れを洗濯石で綺麗にし、乾燥させてから、裸のシェルをベッドの中に押し込んだ。ゴロタも気持ちが悪いので、お風呂に入ってさっぱりした。
ベッドに戻ると、シェルが熟睡している。隣にそっと潜りこんだが、シェルさん、そこをつまみながら寝るの止めてください。
翌朝、シェルとミリアさんが交渉をしていた。交渉と言うか、一方的に宣言しているだけだが。旅の間、ゴロタを誘惑しないこと。必要な時以外、ゴロタに触らないこと。ゴロタの隣には座らないこと。
シェルが言い渡していたが、ミリアさんもしぶとい。
「ゴロタ様がアレをしたいなら、私は構わないのよ。」
ああ、ダメだ。これは。シェルは、ゴロタをキッと睨んでいる。あのう、僕、何もしていないんですけど。
この日、旅に出発する寸前になって、ミリアさん、着替えてきた。え、冒険者服ではなくってミニスカですか?シェルは、ミリアさんの魂胆が直ぐに分かってしまったようだ。
ひざ掛け毛布を持って準備している。ミリアさんが、ゴロタの真正面に座った瞬間、ひざ掛け毛布をミリアさんの綺麗な太腿にかけてしまった。瞬間、ミリアさんの脚の間の白い物がが見えたことは、黙っていたゴロタだった。
この日の夜は、初めての野営だった。野営テントは二つ。人間用とイオーク用だ。人間用は、大きな寝袋と一人用の寝袋だ。当然、ミリアさんは、一人用の寝袋だ。シェルはいつものようにパンツ一つで寝袋に入ってくる。上を隠す必要はないのだ。ミリアさんは、パンツとシャツ姿で寝袋に入って行く。うん、普通、そうだ。ゴロタも寝袋の中に入って、シェルに腕枕をしてあげながら、眠ってしまう。深夜、何か違和感を感じて目を覚ますと、ミリアさんの顔が目の前にあった。眠かったし、面倒くさかったので、ミリアさんのしたいようにさせていたら、シェルもゴロタに抱きついてきた。あのう、どうすれば良いんですか?
次の日、シェルとミリアさんが、また、話し合っている。今日から、1日交替でゴロタと一緒に寝るが、絶対に一線を超えないこと。あと、シェルが寝る番の時は、ミリアさんは別の部屋で寝ることになった。あのう、それって昔の妻達との旅行の時の約束ですよね。またですか。
この日、最初の町バラッド・タウンに着いた。かなり大きな町だったので、ホテルもそれなりに立派なものだった。今日もダブルとシングルを頼む。イオラさん達にも、馬小屋ではなく、きちんとした部屋が用意されていた。食事も、ゴロタ達は室内、イオラさん達は屋外だったが、同じものが用意されている。ホテルとしては、同じテーブルにして貰った方がサービスも楽なのだが、イオークと一緒に食事をするのを嫌がるお客さんがいるのでしょうが無いそうだ。
今日は、初めてミリアさんと一緒に眠る日だ。シェルも一緒に寝るそうだ。あのう、それって一つのベッドに3人で寝るんですか?
お風呂も3人一緒だった。いつものようにシェルを、足の間以外を丁寧に洗ってあげると、ミリアさんも洗って貰いたいと言ってきた。まあ、普通はそうでしょうね。シェルを見ると、あきらめたように頷いていたので、ミリアさんも綺麗に洗ってあげた。あのう、ミリアさん、ただ洗っているだけですから。変な声をあげないでください。
ベッドに入ったら、右にシェル、左にミリアさんだ。シェルはいつもの格好だったが、ミリアさん、その挑発的なネグリジェ、とても透けているのですが。あ、思い出した。この状況、エーデル姫とシェルの3人で旅した時のシチュエーションにそっくりだ。と言う事は、不味い。とても不味いんですが。
この日、ゴロタが眠りについたのは、夜もかなり更けた時間だった。
いよいよ領都目指して冒険の旅に出発です。




