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第2部第7話 ミッション・コンプリート

(4月10日です。)

  ギルドマスターは、『ブリンカ』さんと言う、元王国戦士で、ミリアさんの父君の部下だった人だそうだ。お茶を飲みながら、色々話していくうちに、ミリアさんが領地を取り戻すのには、これからが大変らしい事が分かった。


  まずアッシュ代官に討伐証明書を書いて貰わなければならない。これが難題で、ギュート子爵の息のかかったアッシュ代官が、素直に書くとは思えない。


  次に、ギュート子爵のところに行って、領地返納願いを書いて貰う。これは、一旦領地を国王陛下にお返ししておく事にするらしいのだ。


  最後に、国王陛下から領地の拝領及び爵位の叙爵を受けなければならない。王都までは、距離にして約2000キロ、何も無くても馬車で2か月もかかるし、経費も膨大だ。今のミリアさんには、とても負担はできないだろう。実は、今回の依頼も成功報酬はギルドが立て替えてあげることになっていたそうだ。


  ミリアさん、聞いているうちに泣き出してしまった。王都までの往復4か月の経費も無ければ、手続きにどれ位の日数が掛かるか分からない。そもそもアッシュやギュート子爵が素直にサインするなど考えられないからだ。


  シェルが、爆弾発言をした。


  「ブリンカさん。個別依頼を出して下さい。依頼内容は、ミリアさんの領地と爵位を取り戻す事。成功報酬は金貨1枚、あと必要経費は別払いに。如何ですか?」


  ブリンカさんは、吃驚していた。冒険者ギルドの業務範囲を遥かに超えているからだ。それに、場合によってはギュート子爵の騎士隊と戦闘になるかも知れないからだ。


  「大丈夫ですよ。私達は常に平和的に物事を進めていますから。」


  ギルドマスターのブリンカさんは、この時、シェルの言っている意味をよく理解していなかった。しかし、言われるままに依頼書を作成した。勿論、依頼者はミリアさんだ。


  依頼受託料の銀貨1枚を支払うと、ギルドを出て、そのままホテルに戻った。ミリアさんも一緒だ。今日は、このホテルに泊まって、明日の朝、また代官所に行くことにしたのだ。ミリアさんのために、ダブルの部屋を取ってあげた。本当は、スイートルームの控えの間のベッドが空いていたのだが、シェルが嫌がっていたのだ。その日の夜は、豪華なコース料理を注文したが、ワインは1本を3人で分けることにした。あ、ところでミリアさんは、お幾つですか?


  聞いたら18歳になったばかりだと言う。シェルの顔が引き攣っていることには全く気が付かずに、なら大丈夫とワインを注いであげるゴロタだった。


  「ところで、ゴロタ様はお幾つですか?」


  「24歳です。」


  「まあ、私よりも随分お兄様ですのね。私と同じ位かと思っていましたわ。」


  シェルの引き攣りが激しくなってきている。そんなシェルには構わずに、話が続いて行く。


  「ところで、シェル様とはご夫婦でいらっしゃいますの?」


  「ええ、私は第一夫人、皇后ですのよ。」


  「あら、第一夫人ということは、奥様は何人いらっしゃいますの?」


  あ、地雷を踏んでしまった。黙り込んでしまうシェル。しかし、そんな事には全く気が付かず、


  「シェルと、他にはエーデル、クレスタ、フミ、ビラ、シズ、ノエルの7人でした。でもクレスタは、娘のマリアを産む時に死んでしまって。」


  「まあ、お可哀想に。それではお寂しいでしょう。」


   いえ、そんな事はありません。妻が多くて困っているんですから。シェルのコメカミがピクピクっと動いているのに、全く気が付かないゴロタだった。


  深夜、異様な気配にゴロタは目が覚めてしまった。廊下に、3人の気配がする。忍足で歩いているので、絶対に他の宿泊客ではない。足音は、隣のミリアさんの部屋の前で止まった。


  ゴロタは、そっとベッドから出ると、ミリアさんの部屋に転移した。ミリアさんは、熟睡していた。じっとドアの方を見ていると、鍵穴がボウッと光っている。『解錠』の魔法だ。


  ゴロタは、気配を消して、賊が入ってくるのを待った。部屋に無断で入ってくれば、その時点で犯罪者だ。ドアがそっと開けられる。覆面をした3人の男が入って来た。ゴロタは逃げられないように、ドアの外にシールドを貼っておく。


  先頭の男の右膝に指鉄砲を撃ち込む。指鉄砲は、圧縮された高エネルギー弾を音速で撃ち込むもので、気功と違い物質的な破壊に威力を発揮する。余り威力が強いと、脚が消滅してしまうので、エネルギー量を最小にしておく。


  先頭の男は、もんどり打って転倒してしまう。残りの二人には用はない。眉間に指鉄砲を撃ち込む。これも、余り威力が強いと、後頭部まで貫通して脳漿が撒き散らされるので加減が難しい。


  物音に目覚めたミリアさんが起き上がる。暗視能力のあるゴロタには、真っ暗な室内でも昼のように明るく見える。あのう、ミリアさん。寝る時もパンツは履いていて下さいね。


  部屋の明かりをつける。ミリアさん、慌てて毛布で自分の体を隠している。あ、胸が大きいんですね。生き残っている賊が、足の激痛でウンウン唸っている。手には、ナイフを持っている。ナイフは、刃体が黒く塗られている暗殺用のものだ。刃先が紫色に濡れている。毒を塗っているのだろう。


  「誰に、頼まれた。」


  「殺せ。死んでも言う・・・。アッシュだ。アッシュ代官に頼まれた。」


  『威嚇』で、簡単に白状した。思った通りだ。ミリアさんが、父の仇を取った事は、町中の噂になっているだろうし、今日、ミリアさんが代官所を訪ねた用件も分かっているだろう。そうなるとアッシュ代官のやるべき事は限られている。


  もう、この男には用はない。この場で殺してもいいが、ミリアさんが見ているし。そう思っていた時、ミリアさんが後ろから抱きついて来た。感触から、何も着ていない事は明らかだ。


  「ゴロタ様、怖い。」


  いや、もう賊は怖くありませんから。しかし、抱きついてきたのは怖かったからではなかった。振り向くこともできずにジッとしているゴロタの右手を取って、自分の股間に押し付けて来たのだ。不味い。このままではシェルに怒られる。


  ゴロタは、そっと右手を引き離すと、賊3人と共に代官所の前の路上に転移した。まだ生きている男の左膝と両肘を撃ち抜いてから、ホテルの自室に戻った。シェルはパンツ一つで寝ていた。毛布を掛けて横に寝たら、寝ぼけたシェルが、ゴロタの右手を、自分に引き込んできた。あ、起きていたんですか?


  次の日の朝食の時、ミリアさんがチラチラとゴロタを見て、ニッコリしている。その素振りに気が付いたシェルが、殊更にミリアさんの視線を遮ろうとしているが、効果はないようだった。ああ、このシーン、いつか、どこかで見たシーンだ。


  朝食が終わって、部屋に戻ったらシェルに正座させられた。昨日の事を正直に話す事になった。事件のこと以外に、ミリアさんが後ろから抱きついて来た事も、正直に話したのは当然であった。


  午前9時に3人で代官所に行ったら、代官所の前には、大勢の衛士達がいた。昨夜の殺人・傷害事件の捜査と警備のためらしい。衛士隊の隊長さんは、ミリアさんの知り合いだった。と言うか、この街の殆どの人達は、ミリアさんを知っているし、その境遇を憐んでいるのだ。ミリアさんが、昨日の事を隊長に話したところ、隊長は頭を抱えていた。街の代官を拘束するには、領主の命令書が必要だし、代官から『ゴロタを殺人罪で拘束しろ。』と言われたら、法律上断れないらしいのだ。


  ゴロタは、隊長さんに、安心してついて来てほしいと言って、代官所の中に入っていった。代官所の中の様子は一変していた。職員は、事務室の一角に集められていた。十数人の柄の悪そうな男達が、事務所内のあちこちにいた。


  「なんだあ、テメーは。」


  粋がった男が一人、ゴロタに迫って来たが、何もしていないのに男は壁に叩きつけられていた。男達が血相を変えてゴロタに襲いかかって来たが、結果は同じだった。いや、何人かは首が変な方向に折れ曲がって息絶えていた。ミリアさんと隊長さんは、目の前の超常現象に声も出ないでいたが、シェルだけは興味なさげにしていた。


  アッシュ代官の事務室は2階だった。ドアをノックする。返事がない。もう一度、ノックをした。


  「だ、誰だ?!」


  代官の声がした。ミリアさんが応える。


  「私です。ミリアです。」


  「何、ミリア?何の用だ。」


  聞かなくても分かっているはずだ。ドアの向こう側には、剣を抜いて構えているゴロツキどもが5人、ドアの周りを固めている。


  ゴロタは、ゆっくりとドアを開ける。男達が、上段に構えた剣を振り下ろそうとしたが、その機会は、永遠に来なかった。ゴロタに睨まれた男達の心臓と脳の血管が一瞬にして凍りついたのだ。冷気は、徐々に全身に周り、最後は等身大の氷柱になってしまうだろう。蘇生できるかどうかはゴロタの知った事では無かった。まあ、蘇生する気もないが。


  アッシュ代官は、目の前で起きたことを理解できなかった。手下の中でも乱暴者の5人に、ゴロタとミリアを片付けるように命じていたのだが、何もせずに凍ってしまったのだ。


  ミリアがアッシュの前に進みでた。


  「アッシュ代官、仇の魔物は倒しました。これが魔物の魔石と、父の男爵章です。討伐証明書にサインをお願いします。」


  アッシュは、絶対に断らない。いや、断れない。涙を流しながら、震える手で、書類にサインをしている。サインを確認した。うん、汚い字だが本人のサインだ。立会人に隊長さんのサインも貰っておく。うん、これでよし。


  後は、ミリアさんを殺そうとした事について一応弁明を聞こう。


  「昨日、何故ミリアさんを殺そうとしたのか教えて貰おう。」


  「このままでは、ミリアに領地を返さなければならなくなると思ったからだ。」


  「ギュート子爵は知っているのか?」


  「子爵からは、いつでも殺して良いと言われている。いや、早く殺せと言われていた。」


  これだけ聞けば、もう用は無い。アッシュの意識を飛ばしてやった。もう、正気に戻る事は無いだろう。アッシュは、目の光を失い、涎を垂らしながら立ち尽くしていた。


  衛士隊長さんは、アッシュとその一味を連れて衛士隊本部に去っていった。

明日は、2021年元旦です。投稿しない予定です。

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