第2部第5話 冒険者ギルド・バーミット支部
(4月9日です。)
今日は、朝から冒険者ギルドに行ってみる。依頼ボードの前には、大勢の冒険者達が集まっていて、ボードに貼られている依頼書を見ている。依頼の殆どは『D』か『C』ランクのようだ。冒険者達は、少しでもリスクが低く報酬の高い依頼を探しているようだ。
ゴロタは、あの集団の中に入っていくのに気後れして、暫く静観していた。シェルは、いつものように併設されているレストランで、オードブルセットを食べながら、りんご酒を飲んでいる。30分位経ったろうか、少し人が引いたので、ゆっくりと依頼書を読んでいく。
『D:犬を探してください。』
『D:冬山の薬草採取』
『D;畑の草抜き、20ha』
ランクが低い割に難易度が無駄に高いものばかりだ。討伐系を探してみると、殆どがゴブリン討伐だ。あと、魔物を討伐するので力を貸してくれと言うものが多いが、素人の手伝いでは、こっちが殲滅されてしまう。そして、そんなのに限ってその割に報酬が安いのだ。
ゴロタは1枚の依頼書に目が止まった。それは、魔物討伐の応援依頼だが、報酬が銀貨50枚と桁違いに多いのだ。それもそのはず、過去に何度も依頼失敗になっているのだ。『FAILE』のスタンプが沢山押されている。冒険者ランクは、『A』から『B』に下がっているが、『A』ランクパーティーが過去に失敗していて、それ以来、受託するパーティがないので、仕方なくランクを下げたようだ。
ゴロタは、依頼書のピンを外して受付に持っていく。受付嬢のミズリさんは、ゴロタ達のランクを見て難色を示した。まあ、本当は『SSS』ランクなのだが、目立たないように『C』ランク冒険者にしているのだから。
でも、自らのランクの1階級上位でも受諾できるはずなのだが、この国では違うのだろうか。いや、この国でも同様のルールはあったようだ。
依頼受諾料の銀貨1枚を支払い、詳しく依頼内容を聞く。依頼は、この街の旧領主の娘さんからのものだった。2年前まで、この辺一帯は、バーミット男爵の領地だったのだが、東の山から湧いてきた魔物に田畑を荒らされ、討伐に向かったバーミット男爵は、魔物に殺されてしまったそうだ。国王陛下からは、魔物を討伐して旧領主の仇を取るまでは、新領主就任は認めないと沙汰があり、北のギュート子爵が、暫定領主になっているそうだ。そして、この街の代官には、それまで奴隷商ギルドの支部長だったアッシュと言う男がなったらしい。それと同時に、縄文の警備も、アッシュ代官の子分たちがやる事になったらしい。どうりで、柄が悪かった筈だ。
レストランに行って、シェルを見るとかなり酔っていて、股間モッコリの男達に囲まれていた。あーあ、だから飲みすぎないようにって言ったのに。
男の1人が、シェルの腕を掴んで何処かに連れて行こうとしていた。他の男達は、ニヤニヤ笑っている。ゴロタは構わず近づき、シェルの腕を掴んでいる男の腕を捻り上げた。
腕が悲鳴を上げている。
『ビキッ!』
あ、折れた。男は、あまりの痛さに悲鳴を上げている。男達の血相が変わっている。身体こそ大きいが、痩せていて、どう見ても15〜6歳にしか見えない少年だ。やられっぱなしで、黙っているわけがない。
一度に3人が、襲ってきたが、水月や雁下そして頸中と、人間の急所に掌底を当てていく。気づかれないように、ほんの少し、力を流し込む。全員、その場で崩れ落ちてしまった。骨を折られた男の骨折部位を『治癒』で直しておく。
さあ、行こう。酔いつぶれているシェルを、お姫様抱っこで抱え上げ、ギルドの外に出る。近くの馬車屋に行って、馬車と御者をチャーターする。本当は、歩いて行きたかったが、シェルがこうなったのでは仕方がない。
のんびりバーミット男爵邸に向かう。以前は、代官所が市内の別宅だったのだが、現在は本宅しかないようだ。1時間ほどで、男爵邸に到着した。シェルも酔いが覚めたようだ。ギルドでのイザコザは、全く覚えていないようだ。男爵邸は、今のゴロタにとっては、かなり小さな屋敷だ。
大きな声で案内を乞うと、扉が少し開き、初老の男性が顔を覗かせた。どうやら執事らしい。要件を話すと、中に招き入れられ、応接室に案内された。暫く待つと、いかにも男爵令嬢という姿の女性が現れた。髪の毛の色は、赤みを帯びた金髪で、ナイスバディの美人さんだった。シェルが、あからさまに嫌な顔をしている。
ゴロタとシェルは、冒険者証を見せて身分を明らかにしたが、お嬢様は、ランクを確認して眉を潜めた。以前は、『A』ランクの冒険者を依頼したのだが、失敗してしまい、それから誰も依頼を受けてくれなくなったので、仕方なくランクを下げたらしいのだ。
討伐条件は、ただ一つ。敵の魔物を倒し、父の肩身の男爵章を取り戻す事らしいのだ。それが、男爵家の領土復活の条件にされているらしいのだ。
魔物の生息する山は、屋敷から20キロくらい離れており、馬車で急いでも1時間以上かかるようだ。敵のボスは、よく分からないが、前回はオーガ数体で、チームが全滅しかけたようだ。
お嬢様の準備があるので、出発は明日にするそうだ。今日は、この屋敷に一泊して貰いたいそうだ。うーん、それなら、一旦、市内に戻りたいんですけど。しかし、今日は晩餐の準備もするからと言ってくれたので、戻るに戻れなくなってしまった。
しょうがない。今日、泊まる客室から、イオラさん達が止まっているホテルに転移し、これから3日程連泊するからと、宿泊代を前払いしておく。
イオラさん達に事情を話すと、暇過ぎることが問題だが、ホテルからは3食出して貰えるし、敷地内は自由に出歩けるそうだ。イオラさんに銀貨10枚を渡してから、男爵邸に戻ることにした。
男爵邸に戻ったら、シェルが、ベッドに横になっていた。起こすと、何故か怒っていた。一人にしたのが、気に食わないらしい。
と言うか、ドレスの入っているトランクを出して貰いたかったらしいのだ。今日のドレスは、薄水色のフレアロングドレスだ。パッド入りブラジャーも、しっかりしている。ブルーダイヤの指輪に真珠のネックレス。小さなダイヤのティアラまでしている。
ついでに、ゴロタの貴族服も出してきた。え、これを着るんですか?シェルは、さも当然のように、次々と準備してきた。皇帝章と勲章それと大きなエメラルドの指輪だ。靴もピカピカに磨き上げられ、右腰には、純金の鎖で『ベルの剣』が下げられているの
絹の手袋を嵌めて待っていると、執事さんが晩餐会場への案内に来た。ノックをして扉を開けた執事さんは、左目に嵌めていたモノクルを思わず落としてしまった。ゴロタの左腕を組んだシェルが静々と歩く。最近は、王侯貴族の所作も心得ているゴロタだ。ゆっくりと階段を降りていく。階段の下で待っていたバーミット嬢も口をアングリと開けてしまった。バーミット嬢もそれなりに着飾っていたが、シェルと比べると、平民と貴族位の差があった。
食堂には、バーミット嬢とゴロタ達の3人だけだった。席に着くと、直ぐにバーミット嬢が口を開いた。
「あ、あのう、あなた、いえ、ゴロタ様はどちらの国の貴族様なのですか?」
「私達は、この大陸の反対側、神聖ゴロタ帝国から参りましたのよ。」
「神聖ゴロタ帝国?聞いた事が無いのですが。ゴロタ!え!ゴロタ帝国って、まさか?」
「はい、私達の国ですのよ。此方は、初代皇帝の『ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン1世』であらせられますの。」
慌てて、立ち上がるバーミット嬢を手振りで押さえて、そのまま食事をする。食事は、ヤマドリと鹿肉の上品な味わいのジビエ料理だった。バーミット嬢は、粗末な料理に大変恐縮していたが、気にしないようにと言っておいた。
「ところバーミットお嬢様。」
「ミリア、ミリアとお呼び下さい。陛下。」
「あら、それなら私達のことも『ゴロタ』と『シェル』と呼んで。ミリアさんは、私達の雇い主なんだから。」
「雇い主なんて、そんな。」
顔を真っ赤にしている。それから明日の作戦を打ち合わせながら、会食を進めた。ここで、ゴロタの冒険者ランクが『SSS』で、人類最強勇者レベルだと言うことを明かした。また、シェルも『S』クラスで、魔物10匹程度は瞬殺出来ると教えてあげた。
それから、今度はバーミット市の状況のことが話題となった。そもそも領主が魔物討伐で戦死したからと言って領地を取り上げるなど有り得ない。そんな事が罷り通ったら、魔物討伐に行く領主などいなくなってしまう。
ミリアさんが言うには、今回の件は、代官のアッシュと、北のギュート子爵の陰謀だと思うのだが、証拠がないので、何とも言えないらしいのだ。まあ、それは今回の討伐が終了してからにしよう。
所で、明日の魔物討伐、ミリアさんも行かなければいけないのですか?そう聞いたら、『是非連れて行ってください。』とのことだった。やはり父の仇は討ちたいのだろう。では、それは明日という事で、今日は楽しく食事をしよう。
お茶になったら、ゴロタ帝国の事をいろいろ聞いてきた。何も内緒にすることもないので、全て教えてあげた。
次の日の朝、ゴロタは、一人で起き出し、いつもならする剣の型の稽古をしないで、東の山を目指す。高さ500m位の低い山だが、麓の林の中から低級の魔物の気配がしている。
林の中を通れるように道を切り開き、周囲の低級魔物には、思いっ切り『威嚇』をかけてやる。オークレベルの魔物まで、完全にショック死してしまった。道を作りながら、トロールやオーガ、ケルベロスを殲滅していく。
山を登っていくと、牛頭のミノタウロスが現れた。ゴロタを見ると、慌てて逃げ出そうとしたが、当然、逃すわけがない。指鉄砲で殲滅してから、山の頂上を見るとサイクロプスが2体、のんびりと猪を食っている。うん、あいつがボスらしい。山の途中まで階段を作ってから、屋敷に戻った。勿論、高級魔石はキチンと回収しておいた。
あ、朝飯前の一仕事だったね。
ゴロタ達は、この国の冒険者になりました。でも、またまた美少女の登場です。




