第2部第4話 奴隷の街2
(4月8日です。)
冒険者ギルド・バーミット支部では冒険者証の切り替えと、ランク認定があった。ランク認定といっても、裏の修練場で技を見せるだけだ。
ゴロタは、安物の鋼のソードで、人形の試し切りをしたが、縦横に4等分したところで、もう打ち切りになった。シルフは、クレイスの弓に、普通に矢を番えて打ったところ、標的人形の頭が爆発したところで試技中止となった。他の冒険者達からは、盛大な拍手を貰う事ができた。このギルドでは、『C』ランクが大多数だが、同じ『C』ランクでも幅があり、ゴロタ達が見せた試技は『B』ランク以上のものだったようだ。
今日は、冒険者カードの切り替えだけだが、その内、依頼でも受けてみようと思う。次に奴隷商ギルドに行ってみる。少し離れた、あの入って来た城門の近くにそれはあった。
奴隷を収容する檻も併設されているようで、かなり大きい建物だった。中に入ると、受付があり、中年の男性がカウンターの中に立っていた。
カウンターの壁には、大きなボードが貼ってあり、奴隷取引の相場が書かれていた。この国の文字は知らないが、首に巻いた翻訳機により、苦労せずに読むことができた。
【本日の奴隷相場】
○人間種 時価
○亜人最低売却価格 金貨2枚半以上
○亜人最低買取価格 金貨2枚以上
ただしエルフは人間種の3倍以上
○イオーク
【売却価格】
・成人男子 50歳まで 銀貨15枚以上
・成人女子 30歳未満 銀貨30枚以上
・成人女子 30歳以上 銀貨 15枚以上
・6歳以上12歳未満12歳以下は成人の半額均一
【買取価格】
・成人男子 50歳まで 銀貨8枚以上
・成人女子 30歳未満 銀貨20枚以上
・成人女子 30歳以上 銀貨 8枚以上
・6歳以上、12歳未満は成人の半額均一
※野生のイオークは、躾代餌代で、銀貨5枚を頂きます。
イオークの相場がかなり安い。と言うか馬や牛だってもっと高いだろう。周りを見ると、いかにも訳ありの奴隷商人達が、シェルを品定めしている。黄色く濁った目の奥に淫欲の光が見えていた。そのまま受付の男に声をかける。
「すみません。イオークを奴隷登録したいのですが。」
「奴隷商ギルドに登録はお済みでしょうか。」
男は、慇懃に聞いてきたが、目は笑っていない。
「いえ、今日初めて来たのですが。」
「そうですか。それでは、その奴隷の出身はどちら様の奴隷の子なのでしょうか?」
「いや、森で見つけたのですが。」
「奴隷狩りですか。それでは奴隷狩り許可証をお見せください。」
「いえ、持っていませんが。」
「そうですか。それは困りましたな!その奴隷が、盗品でないと言う証明が無ければ登録はできかねますが。」
「それでは、どうしたら宜しいのですか?」
「そうですね。取り敢えず、我がギルドで使役して、奴隷適性や盗難被害品でないことを証明すると言う方法がありますが。ただ、その期間の必要経費は頂くことになります。」
「で、その期間と費用は?」
「はい、最低1年以上、費用は月に銀貨3枚以上です。」
だめだ。全く話にならない。彼らは、奴隷売買の権益を手放したくないし、奴隷の子を安く買い叩こうとしているのだ。
それに奴隷狩りを割りの合わない仕事にさせておいて、他の参入を防いでいるのだろう。
「早く登録証が欲しいのですが。」
男に『威嚇』を使って脅しておいた。
「ヒッ!」
恐怖に満ちた目でゴロタを見たかと思ったら、震える手で『奴隷登録許可申請書』を出してきた。内容を見るとイオーク1人につき1枚必要なようだ。
しかも、イオークの掌をサインがわりに使わなければならない様だ。そのためには、あの出入国管理専用ホテルからイオラ達を出してこなければならない。確か、検疫で1週間以上かかると言っていたが、ここはこの受付のおじさんに頑張って貰おう。
奴隷商ギルドから主入国管理事務所長宛の、『検疫対象奴隷に関する検疫免除申請書』と、『法定病疫罹患確認結果書』を出してくれた。手数料は、1件につき大銅貨1枚だ。
手数料を払ってから、男と一緒に、昨日のホテルに行く。フロントの男に書類を提出して、イオラさん達を出して貰う。
イオラさん達は酷い状況だった。あの狭い檻に閉じ込められ、トイレも垂れ流しだ。上の檻のイオークが垂れ流した糞尿を浴びてしまっているし、自分のした糞尿もふくこともできない。
見張りの男にお湯を持って来るように命じた。その男は、『なんで俺が』と無視していたが、ゴロタが睨みつけたら、股間を濡らしながら素直に持ってきた。
フロントの男と奴隷商ギルドの男それに見張りの男3人がかりでイオラさん達を綺麗にしてもらう。イオフさんとイオミちゃんは、このホテルのメイドさんに綺麗にして貰った。メイドさんには、大銅貨を3枚ずつをチップとして渡した。
イオラさん達が昨日着ていたバスローブは無くなっていたので、ホテルの寝巻きを5枚購入した。値段は分からないが、銀貨2枚でいいだろう。
そのまま、奴隷商ギルドに戻って全ての手続きが終わった。届出書類には、イオラさん達の右手と左手の掌紋をスタンプして、血液を採取されておしまいだった。
奴隷カードが交付され、奴隷の生年月日、性別、名前それと主人の名前が登録されている。あと従事できる職業があったがイオラさん、イオフさん、イオイチ君は『全業務』となっていた。きっと性病とかがあると、従事できない業務があるのだろう。
首に奴隷用の首輪を巻いてカチッと魔力で封印して、全ての登録作業が終わる。この首輪は、ゴロタにしか外せないそうだ。また、奴隷商ギルドと王国裁判所の許可状が無ければ、この首輪を外すのは犯罪らしい。
イオニちゃんの従事できる職業は、10歳なので子守と留守番位だった。イオミちゃんは、8歳だったので、子守以外の業務には従事できないようだ。うん、その辺は、キチンとしているみたい。
でも奴隷商の男が、これはあくまで法令上のことで、実際は6歳から売春させている者も居るそうだとニヤニヤ下卑た笑いを見せながら教えてくれた。その時の男のイオミちゃんの見る目がおぞましくて、目を潰してやるのを我慢するのに大変だった。
この奴隷商ギルドのギルド・マスターのことを聞いたら、このバーミット市の代官が兼務しているみたいだ。この市の周辺の森には、イオークが数多く暮らしているので、定期的に奴隷狩りをしているようだった。
ギルドを出ると、その足で洋服屋に行った。イオラさん達の服を買わなければならない。街の中心街の洋服店は、どこも奴隷の入店を断っている。四角いマスにイオークの顔が書かれていて、赤い斜線が引かれているシールが貼られている店は、駄目らしい。街の西側のダウンタウンまで行ったら、ある程度、大丈夫そうだった。
エーブル洋装店と言う店に入っていくと、女性の店員が暇そうにしていた。奥の一角では、1人のイオークが洋服を仕立てていた。首には、やはり首輪をしている。
店長の女性は、私たちとイオークの格好を見て、ニコニコして声をかけてきた。
「いらっしゃい。手作り洋装店『エイブル』にようこそ。』
うん、感じが良さそう。シェルは、それまで握っていたゴロタの手をパッと離して、奥の方のいかにも高級そうな品を見始めている。
ゴロタは、イオラさん達に合いそうな服と下着、靴下に靴、それと帽子をお願いした。エイブルさんが、イオフさんに合わせる服は、夜のお仕事用ですかと聞いてきたので、普通の服、この街で人間の女性が着ているような物をお願いした。
イオフさんに、好きな服を選んで良いと言ったら、目を輝かせて選び始めた。まあ、女性って皆、同じなんだなと思ってしまう。
子供達の分は、少しサイズ調整をしなければならず、お針子さんのイオークが、一生懸命に手縫いをして直していた。結局、この店で一番高い買い物をしたのはシェルだった。帝国では見たこともないトカゲの皮のハンドバッグや、これから夏になるのでセールをしているセーブルの毛皮コートとか。全部で金貨7枚だったが、金の重量を測って貰って、帝国金貨4枚で支払うことができた。
今度は、武器屋に行く。イオラさんとイオフさん、それにイオイチ君の武器を買うことにした。普通の武器屋は、イオーク入店禁止だが、エーブルさんに教えて貰った店では、大丈夫だった。
通常、イオークは武器を携行してはいけないそうだが、主人と一緒の時だけはOKなのだそうだ。
イオラさんには、ショートランスとナイフ、イオフさんにはクロスボウとナイフ、イオイチ君にはショートソードを買ってあげた。
あと店内には興味の引きそうな武器はなかった。
店を出たら、いい匂いがしてきた。近くの屋台でハムを焼いている。あ、そういえばお昼がまだだった。取り敢えず、大きな串5本を買ってあげた。子供達はがっついて食べていたが、イオフさんは、半分しか食べずに残りの半分をイオイチ君に分けていた。自分だってお腹がすいているのに、我慢して食べ盛りの子にあげているのだろう。もう3本買って、子供達とイオフさんにあげたら、今度はイオラさんと半分こだ。うーん、イオラさんにお腹一杯食べさせるのって難しいかも知れない。
今日、泊まるホテルも聞いていた。ここダウンタウンの中では、まあまあのホテルで、奴隷用の部屋もちゃんとしているそうだ。奴隷用の食事も、お弁当と飲み物を部屋に届けてくれるので、気兼ねなく食べられるそうだ。
そのホテルはエーブル洋装店の直ぐそばのホテルで、古いが格式のありそうなホテルだ。中もサッパリしていたし、メイドも亜人だったがキチンとした服装をしている。
ゴロタ達の部屋は、最上階のスイートルームにして貰った。1泊銀貨18枚だ。まあ、お金の使い道に困っているゴロタにとっては、僅かな額だった。
ホテルの中にある両替屋で両替をして貰ったが、この王国の金貨は、ゴロタ帝国金貨の半分しか金が含有していなかった。当然、正当な交換率で交換したが、交換手数料は、貨幣価額の1.2%だった。昨日の両替商が、いかにボッタかが分かってしまう。
イオラさん達の部屋は狭いが清潔な部屋だった。4人部屋だが、イオフさんとイオミちゃんが同じベッドに寝るそうだ。お風呂はないが、シャワーからは暖かいお湯が出るし石鹸やタオルも準備されている。食事は、専用の食堂に準備されており、パンは食べ放題、スープは飲み放題だ。あと飲み物は、現金だそうなので、イオラさんに銀貨1枚を渡して、好きな物を頼むように言っておいた。
イオラさん達は、まだ人間の言葉が不自由なので、イオークのメイドさんにチップを渡して、面倒を見てくれるようにお願いしておいた。
シェルと2人でレストランのコース料理を頼んだ。料理は、フランス料理とは違い、チリソースをふんだんに使っている料理だ。魚介が中心だが、牛肉を薄いパン生地丸めてチリソース煮のビーンズと一緒に食べたらとても美味しかった。
シェルは、ワインをグビグビ飲んでいたので、あやしいなと思ったら、案の定、完全に酔い潰れていた。いつものようにお姫様抱っこで、4階の部屋まで連れて行ったが、途中、キスをしてくるので、前が全然見えなくなってしまいます。
取り敢えずベッドに投げ出し、お風呂にお湯を張ってから、シェルの服を脱がせお風呂に入れてあげる。もう何回も、何十回もしているので慣れっこなんですが、あのう、大事なところを引っ張るの、やめて下さいね。
かつてゴロタが殲滅した町のことが思い出されます。




