第439話 新たなる旅立ち
もう、ゴロタ帝国内では、冒険はありません。でも、それでは満足できないゴロタでした。
(3月10日です。)
今日は、いよいよ引越しだ。普通、引越しと言うと運送業者の方が大勢来て、タンスなどの大型・重量物を運び、洋服などの小物は、家族が整理して、紙製の箱に詰めるのだが、そんなことは誰もしていない。もう、すでに各自の部屋の調度品は、業者によって運び込まれている。すべて、今回購入するか、タイタン離宮のお気に入りの物は、代用品を離宮に運び込んで、交換している。つまり、引越し荷物のうち、大型・重量物は皆無だった。洋服類にしてもそうだ。当面、5月位まで着る衣類だけを搬入している。
考えてみれば、タイタン離宮が誰かの手に渡るわけではなく、それぞれの部屋は、これからもそれぞれの部屋なのだ。
それに、セント・ゴロタ王城とタイタン離宮は、ゲートでつながれているので、まるで巨大なクロークがタイタン市にあるようなものだ。
セント・ゴロタ王城は威容を誇っていた、その巨大さもさることながら、四隅に立っている尖塔が、周囲を見下ろし、まるで龍の牙のようだ。王城は、その外壁が真っ白な大理石で作られており、太陽の光でキラキラ光っている。誰ともなしに『白龍城』との二つ名が付いてしまった。まあ、それについては、それでいいかと思った。帝国の紋章が、赤い剣をつかんでいる竜が青い盾の中に描かれているのだから。
大広間に、宰相を始め、各閣僚、高級官僚が整列している。脇には、『白龍城』で働く使用人達300名も整列している。また、皇宮警察本部や近衛連帯の幹部たちも大広間に入っている。それでも、大広間には余裕があった。この大広間の他に、晩餐会会場と舞踏会会場が両脇につながって設置されている。すべてつなげると、室内で大規模な運動会ができそうなほど広かった。
奥には、皇帝謁見室が設けられており、これも半端なく広い。謁見台を下げて、大広間につなげると、笑えるくらい広い空間が生まれる。
さらに大聖堂がその奥にあり、入口から、裏口まで300mもあるのが、納得できた。
その日の夕方、3階の内宮の皇族専用食堂で全員揃っての食事会だ。長いマホガニーの分厚いテーブルの一番奥には、ゴロタとシェル、それにエーデルの3人が座る。勿論、ゴロタが真ん中だ。
シェル側には、マリアちゃんとクレスタが座り、続いてビラ、ジェーンと続く。エーデル側には、ノエル、シズ、フランと座っている。一番末席はリサちゃんとリトちゃんだ。
会話は、マイクを通じて皆に聞こえるようにしている。ゼロス様へのお祈りは、フランが指揮を取っている。
「生きとし生ける者に死する定めを与えたもうた聖ゼロス様、今日の糧を得られましたことに感謝申し上げます。神の祝福を我らに。」
さすが、元大司教様。澄み切った声が食堂に響き渡る。今日は、シロッコさん達も一緒だが、4月になったら、フミさんとフランちゃんはタイタン市に戻る事になっている。二人とも、治癒院と孤児院の後任者への引き継ぎに1か月位かかるそうだ。
こちらでも院長の着任を首を長くして待っている孤児院と大学附属病院があるのだ。セント・ゴロタ孤児院の入所人員は200名だそうで。職員が40名、指導教官が12名いるそうだ。
大学付属の病院は、病床数360床の大病院だ。大学の研修医まで入れると医師が80名、看護師が210名、その他の職員を入れると400人以上の大所帯だ。看護師は、3交代制のシフトなので、通常70人で、外来、入院そして手術や採血をこなしている。医師もそうだが看護師不足は深刻だ。
大学に併設の看護学校は、授業料無料で学生寮も完備している。シェルが、学生寮には絶対に行ってはいけないと言っていた。危険なのだそうだ。
ゴロタの噂は、帝都でも有名らしく、既にファンクラブができているらしい。どおりで、引っ越し当日は城郭の外が騒がしかったはずだ。耳の良いゴロタには、ハッキリと女性達の嬌声が聞こえていた。
ミキさんとレオナちゃん、それにフェルマー王子とドミノちゃんは、グレーテル王国の王都にあるゴロタ帝国領事館に戻る。それぞれ学校に通うのだ。シンシアちゃんとカテリーナさんも、週に2回、グレーテル美術大学に通うことになっている。シンシアちゃんは、付き添いだ。ジルちゃんもタイタン学院大学に入学したのでタイタン離宮から通学することになっていた。
シロッコさんは、市内の閑静な住宅地に一軒家を新築した。薬草採取と販売の会社を立ち上げたそうだ。公国の郷から、何人かのエルフを呼んで、共同生活を始めている。
妻達との夜のセレモニーは、いつもの通り、西タイタン州のニースタウンの別荘で行う。シェルは、別荘に行かない。ただ、隣の部屋から訪れて、一緒に眠るだけだ。シェルとだけは、まだ最後まで行っていない。というか、できないのだ。シェルの話では、ハイ・エルフは30歳で女性の印が現れるのだそうだ。
今は、固く閉ざされている。やはり、人間とは成長が違うのだろう。そう言えば、ゴロタも最近、第二次性徴が出て来た。まあ、毛が生えて来たのだが。
ゴロタは、毎日、街に出ている。最近、明鏡止水流のゴロタ帝国支部が出来た。道場は、一度に100人位が稽古できるほどの広さだ。
支部長は、8段の範士だ。ここに来るまで、総本部で師範代をしていた。ゴロタも、一度稽古をつけてもらったが、勝ち負けはともかく、美しい剣技だった。無駄な力が入らず、剣理に適った動きだ。これなら、大抵の剣士の手本には十分過ぎるくらいだ。
セント・ゴロタ市の南の郊外にある、国防軍中央方面軍駐屯地に行ってみる。ダンヒル大将は、統合幕僚長元帥になっている。陸・海・空3軍の頂点だ。
中央方面軍は、総数2万人を擁しているが、実際に駐屯している部隊は、約4000人で、残りの16000名は、市中で、一般市民として平穏な生活を送っている。『予備役』として、年に120万ギルの手当てを支給している。
シェルを除いたゴロタの妻達は、陸軍の上級将校に任官している。エーデルの陸軍少将を最高位に、陸軍大佐にノエル、シズ、ビラそしてフランが任官している。ジェーンは、非戦闘要員だが、過去の戦闘経験を考慮し、陸軍中佐に任官させた。フミさんは戦闘経験がないので、任官していない。
ゴロタ帝国は、グレーテル王国、ヘンデル帝国、モンド王国、ザイランド王国並びにニッポニア帝国と相互不可侵並びに安全保障条約を締結した。まあ、ゴロタ帝国と戦争をする国は、南北大陸にはないはずだが、万が一のことを考えて条約を締結したのだ。
陸軍駐屯地の脇には、空軍基地があり、『翼改』型戦闘爆撃機と『ファルコン改』型戦闘機が駐機している。この戦闘用飛行機は、他国へは販売していない。当たり前である。特に最高機密と言うわけではないが、万が一、他国と戦闘となった時の抑止力は、我がゴロタ帝国のみ有することになっている。
陸軍では、新型戦闘車両の操縦訓練をしている。大容量エンジンを内蔵しており、小さなタイヤが片側に8輪ずつ付いているのだ。火器は、72ミリ砲が1問と、7.6ミリのチェイン・ガンが1門だ。
歩兵は、この戦闘車両の後方から追従するか、けん引されているワゴンに乗車して移動する。悪路でも、全ての車輪が独立懸架方式により、乗心地は、まあまあだった。ダンヒル元帥は、軍令部にいた。いろいろ聞くと、問題点が山積しているようだ。
最大の問題点は、士官、下士官の圧倒的不足だ。前回のゴロタとの戦闘で、幹部はだいぶ戦死したし、今後、士官学校に入学した学生が卒業してくるのを待つしかないのだ。
駐屯地を後にしたゴロタは、その足で、モンド市に転移した。『モンドの月』を20個位買いたかったのだ。子供達へのお土産だ。未就学の子供達は、4月から新設の保育園に通うことになる。学力的な問題ではなく、他のお友達と一緒に遊んだり、お勉強することが大切なのだ。
それにリトちゃんも、見た目相応の活動をしてもらう。それに、自分の事を『妾』と呼ぶのは禁止とした。
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シルフが、王城地下にあるシルフ専用工房に来てもらいたいと言ってきた。以前の工房もある程度大きかったが、今度の工房は、信じられない位の広さだ。いたるところに、いろんなものが置かれている。
シルフは、ゴロタを見かけると、その場で、上半身裸になってくれるように頼みこまれた。
最近、ゴロタの身体は一回り大きくなった。身長は変わらないが、各部の筋肉が増えてきたのだ。しかし、筋肉モリモリではなく、必要な部位のみ、筋肉が太くなっているのだ、見た目はあまり変わらないが、いわゆる『痩せマッチョ』なのだ。上半身裸になったゴロタを、いたるところから写真に撮り、機械につなげると、画面にゴロタの模型が表れてきた。
ゴロタのアンドロイドの最終調整のため、実際のゴロタの骨格と筋肉のデータを必要としていたらしい。シルフが、今、ゴロタと二人っきりなので、あっちの最終確認をしたいと言ってきたが、当然、拒否して、自室に空間転移で逃げてきた。
危ない。時々、シルフは変な行動をする。全身が機械で、欲望もないのに、どうしてしたがるのだろうか。これは、シルフがしたがるのではなく、リンクしているスーパーコンピューターが要求しているのかも知れない。まあ、あの日以来、絶対に要求に応じないゴロタだった。
あの『そっくりアンドロイド』は、ゴロタの影武者であると同時に、皇帝としての執務補助をしてくれる。
閣議や、式典、それに面会者らとの面談、全てをこなすのは、かなりオーバーワークだ。そこで、補助としてアンドロイドにゴロタの身代わりをお願いするのだ。
同じくシェルのアンドロイドも製作して貰っている。まあ、シルフを少し大きくすれば、シェルになるのだから、難しくないのだが。
シルフは、アンドロイド・シェルの胸を少しだけ膨らませている。うん、危ない。あの胸を見ていたらムラムラっとしてしまう。シェルは、まだまだ大きくなる予兆が無かった。一時、少しだけ大きくなった時があったが、しばらくしたら、腫れが弾くように平らになってしまったのだ。成長期の女の子に良くある、ホルモンバランスの乱れのせいらしい。
そういえば、シェルのお母さんもあまり胸が大きくなかったが、これは遺伝なのだろうか。しかし、そんなことをシェルに言えば、往復でビンタを食らいそうなので、絶対に思っているだけにしている。
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4月1日、『白龍城』にすべての州知事と閣僚それに上級官僚が集合した。『神聖ゴロタ帝国』の誕生だ。冒頭、ゴロタが宣言書を読む。この宣言書、草案はシルフが作成したが、実際に手直しをしたのはゴロタだった。
帝国臣民は、神に神託され、その地位を確個たるものにする皇帝と、正当に任命された大臣及び知事の補佐により、帝国臣民とその子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、臣民の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意した。
ここにすべての権能が皇帝に存することを宣言し、帝国憲法が権能行使のためにのみ存することを確認した。
そもそも国政は、神の厳粛な信託によるものであつて、その権威は皇帝に由来し、その権力は皇帝がこれを行使し、その福利は臣民がこれを享受する。これは我が帝国普遍の原理であり、我が憲法はかかる原理に基くものである。臣民らは、法と秩序に反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する権利を有するが、その権利は皇帝により与えられたものであること確認する。
帝国臣民は、恒久の平和を念願し、全ての人種相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、臣民の安全と生存を保持しようと決意した。しかし、公正と信義がないがしろにされた場合、その行為の代償は、神により神託された皇帝によって必ずや支払わせられるであろう。帝国臣民は、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めることにより、国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。
帝国臣民は、全世界のあらゆる人種が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生存する権利を有するこ
とを確認する。
帝国臣民は、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、帝国と皇帝の主権を維持するものである。これは、我が帝国の安寧と発展を保証することが各国の責務であると信ずる。
帝国臣民は、国家の名誉にかけ、全力をあげて、その責務を果たすものである。
うん、随分長いが、中身のない宣言文だ。要約すれば、これから皆で仲良くしようね。そうしないと痛い目に会うよ。と言うところだろう。
この日の夜、妻と婚約者それに婚約予定者や、婚約予定のない同居人それに関係者全員に対して重大発表をした。
皆、何かと思ってゴロタとシェルを見ている。ゴロタが、シルフに合図する、シルフが、後ろのドアを開けて、彼らを中に入れる。皆から驚きの声が上がる。ゴロタとシェルが入ってきた。
ゴロタが、皆に説明する。明日から、ゴロタ達は、また旅に出る。同行するのは、シルフとイフちゃんだけだ。残った皆は、ここにいるコピーを僕だと思って対応して貰いたい。このコピーは、僕やシェルとつながっているので、いつでも帰ってこれるし、僕達の考え通りに行動するはずだ。
いつ帰ってくるか分からないが、その間、この国を守ってもらいたい。行政の処理は、今まで通り、シェルとジェーンにお願いするが、シェルは、アンドロイドなので、実質的にはジェーンがこの城と国を守る中心になる。まあ、今、やっていることを継続するだけなのだが。
エーデルは、帝国全体のギルドの管理をお願いしたい。もう、冒険に出ることはできないかも知れないが、冒険者達の安全と幸福のために頑張って貰いたい。
ノエルは、帝国全土の魔導士、魔法使いのトップとして、違法な魔力の行使を監視するとともに、優秀な魔導士育成に頑張ってもらいたい。もう、魔法の研究で1日を過ごすことは出来ないかもしれないが、ビラとともに帝国魔導士協会の総統として頑張ってもらいたい。
シズは、帝国陸軍の上級将校として、指導育成に当たるとともに、陸軍士官学校校長として、若く優秀な帝国軍人の育成に頑張ってもらいたい。あ、それから明鏡止水流の支部長は、将来の総本部長候補なので、補佐してやってほしい。
フランは、帝国の医療行政全般に目を向けて、足りないところはどんどん金と人を注ぎ込んでもらいたい。また、貧乏のために医者に診て貰えない人たちのために、制度や施設それに医療体制を拡充してもらいたい。それと魔法を使わない治療をもっと開発して貰いたい。新しい知識は、シェルのコピーに聞けば教えてくれる筈だ。
フミさんは、病気や事故で親を亡くした子、親から見離され、虐待され、売られていく子供たちを救っていただきたい。そのために、福祉警察本部を創設し、本部長をお願いする。特に15歳以下の子供を大人の欲望の対象にした者は、死罪もしくは奴隷落ちなので、徹底した取り締まりをお願いする。また、各市町村には孤児院もしくは救護施設を設けるので、その総括運営と管理もお願いしたい。
あと、ジルちゃんやジェリーちゃん達、勉強をしっかりしてください。あなた達が大学を卒業したとき、将来のことを考えましょう。それまでは、自分が進むべき道は何か、よく考えてください。
あす、出発しますが、今夜から、僕たちはこの城にいません。どこにいるかは内緒です、僕達とコピー達が一緒にいると変に思われてしまうから。
「それでは、皆さん、さようなら。」
そういうと、ゴロタとシェルが消えてしまった。ゲートをくぐったのではない。消えたのだ。ゴロタは、シェルと手を繋いで、『空間転移』をしたのだ。行先は、モンド王国の南、あの深い森の先の谷だ。誰もいない谷。そこに、以前使っていた二人用のテントを出す。あの簡易かまどセットとキャンプテーブルセットも出して、鹿肉のBBQだ。シルフは、時空の『はざま』で、イフちゃんと一緒だ。
南大陸の4月は、北大陸の10月に相当する。秋真っ最中だ。もう、周りの樹々は紅葉しかかっている。二人で、食事をし、二人で星を見ながらお風呂に入る。二人っきり、言葉はいらない。これから、シェルと二人、どこに行こうか。不安はない。ハッシュ村を始めて出た時、不安だらけだったが、今は、これから始まる冒険に対し胸が膨らむゴロタだった。
これで、物語は終わりです。さしたる戦闘もなく、ちまちまと女性たちの日常を描き続けてもう、439話になってしまいました。最後までお付き合い戴きありがとうございました。もう少し、書けるかと思ったのですが、ある程度、能力が向上すると敵の設定が難しくなってしまいます。同じパターンが多いと感じられた方々には、創造力が枯渇した私を許してください。
あの、オリンポスの神々に勝った頃から、もういけませんでした。あまり強力な敵では、宇宙が消滅してしまいます。ブラックホールだって、星がなくなってジ・エンドになってしまいます。やはり、剣と魔法だけで戦うような設定が良かったと反省してます。
誤字脱字だらけの作品でした。今、最初から校正し直していますが、最初の方は、自分で読んでいてもワクワク感があります。しかし、女性陣が増えすぎてしまって、収拾がつかなくなった頃から、執筆速度が遅くなってしまいました。
なんとか、1日1話以上のペースで描き続けましたが、あのコロナウイルス騒動で、仕事が極端に忙しくなってしまいました。
あと、エビローグをいくつか書いて終わる予定です。第2部の主人公は、フェルマー王子か、マリアちゃんか悩んでいます。ご期待下さい。




