第438話 タイタン市とのお別れ
いよいよ、タイタン市での皇帝行事は終わりを迎えます。
(12月31日です。)
今日は、大晦日だ。聖夜翌日から、正月休みなのだが、ゴロタ達に休みは無かった。今日行われる
『大晦日さよならコンサート』
の準備のためだ。歌あり、踊りあり、極め付けは演劇だ。演劇の題名は、
『ゴロタの大冒険』
だ。絶対に嫌だと思ったが、シェルが睨んできたので、黙ってしまった。いまだに、我が皇帝一家のヒエラルキーでは、この残念エルフが頂天に立っている。
物語は、こうだ。幼いゴロタ(キティちゃん)は、美しい母親(エーデル姫)と暮らしていたが、ある日、魔物に襲われる。母親は、我が子を守るために、魔物と戦うが力尽きて倒れてしまう。1人残されたゴロタを救ったのは、旅の少女だった。
2人は恋に落ちたが、少女には旅の目的があった。病気の父のために、『蛍の光』を探さねばならなかったのだ。それから数年、一人で森で暮らしていたゴロタ(フェルマー王子)は、逞しい少年に育っていた。
ある日、森の中で魔物に襲われていた可憐な少女 (ドミノちゃん)を助ける。なんと、その少女こそ、ゴロタを迎えにきたシェルだったのだ。
2人は、結婚のために旅に出るが、途中、不思議な剣を目にする。岩に突き刺さった剣は誰にも抜けなかったのだ。その剣こそ、王たる者しか抜けない剣『紅き剣』だった。
ゴロタは、剣に興味がなかったのでスルーしようとしたが、ゼロス様が現れ、剣を抜くようにと啓示する。
多くの騎士や冒険者が見守る中、見事、剣を抜くことが出来たゴロタは、剣を天に掲げ、いつのまにか青い盾を手に持って宣言するのだ。
「我こそ、全てを統べる者なり。」
幕が降りて、終了だ。この話、何処かで聞いたような話だが思い出せない。しかし、絶対に嘘なのが、シェルが迎えにきたことだ。
しかし、そんな事は怖くて言えないゴロタだった。
今日、午後1時、開演だ。最初は、男女対抗の歌合戦だ。シェルに、ゴロタも歌うように言われたが、それだけは嫌だと泣いて頼んで許してくれた。
圧倒的に、男性歌手が少ないので、警察本部代表や国防軍代表など、男性のいる職場から、個人やチームが参加している。『素人のど自慢』のようだ。
意外だったのは、コリンダーツさんが、抜群に歌が上手かった事だ。何でも、行政庁の中で選抜大会を開き、優勝したそうだ。
伴奏は、タイタン大学音楽部の皆さんのオーケストラだ。今年、新設した学部だが、才能ある方達ばかりで、プロ顔負けだ。将来の、帝立ゴロタ・フィルハーモニーのメンバーになる者も多数いるだろう。
男女対抗なのだが、採点はグレーテル国王陛下御夫妻や、ガチンコさんなどで、ジェンキン宰相は目を皿のようにして舞台を見ていた。
キティちゃん、シンシアちゃん、レオナちゃん、リサちゃん、レオナちゃんそれにリトちゃんの6人コーラスは、リトちゃんがあまりにも音を外すので、会場中、大爆笑だったが、本人は全く気付いていないようだった。
圧巻は、ミキさんとフェルマー王子のデュエットだった。天使の歌声とは、このような声を言うのだろうか。聞いているだけで、胸が締め付けられる気がした。
悲しい恋の歌を歌えば、皆涙し、楽しい恋の歌を歌えば、会場中が明るくなる。
ドミノちゃんは、ピアノの伴奏だったが、不満そうだった。歌合戦の結果は、紅組の圧勝だった。
最後は、『TIT48』と『イブニング娘』のコラボだ。勢揃いしている妻や婚約者達。男性陣の嫉妬の目線が辛くて、そっと席を外すゴロタだった。
劇場のロビーで、マリアちゃんとアイスクリームを食べていたら、マリアちゃんが、もっとくれと駄々をこね始めた。
この子は、もう1歳半なのだが、まだ喋らないそうだ。しかし、シルフの検査では、言語機能に異常はないので、自分で喋りたくないのだろうという事だった。ゴロタは嫌な予感がした。自分のコミュ障が遺伝しているのではないだろうか?
アイスクリームを食べすぎてはいけないので、取り上げたら、怒ったマリアちゃん、じっとアイスを見ている。アイスが、ふわっと浮いてマリアちゃんの所へ引き寄せられそうになる。ゴロタは、そっと『念動』で阻止する。2人の間で、アイスがプルプル震えている。
うん、この子は大丈夫だ。何となく、そう思ったゴロタだった。何が大丈夫かは、判然としないが、きっとゴロタ達がいなくても、ちゃんと生きていくことができるだろうと思ったのだ。
1歳半で、もう『念動』を使っている。この子にとって、『念動』を使う事は、手を伸ばして物をとるのと同じくらい普通のことなんだろう。クレスタも魔力量はすごかったが、『念動』は、魔法ではない。ゴロタの形質を受け継いでいるのだ。
しかし、このまま喋らなかったら、女の子としてはとても困るだろう。ゴロタは、どうかこの子だけはコミュ障でありませんようにと願わずにはいられなかった。
この日の夜、タイタン離宮の裏から、大きな花火が打ち上げられた。市民の皆は、その花火の大きさ、華麗さそして数の多さに吃驚していた。12月31日の夜、タイタン市はしんしんと凍てつく気温だったが、皆、その寒さを忘れるような荘厳なひと時だった。
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翌日、2030年1月1日は、平穏に訪れた。今日は、何も行事を入れていない。いつものようにお餅をたっぷり入れたお雑煮を食べる。お餅をついたのは、執事さん達や厩務員さん達だが、量が半端ないのだ。
シルフが、自動餅製造機を使って、大量にお餅を搗きあげていた。既に、親戚、まあ妻や婚約者、同居人の実家が殆どだが、全てに配布して回った。いつものように、『ゼロ型改』に乗ったシルフ型パイロット達が配布して回ったのだ。
今年は、セント・ゴロタ市への遷都がある。正確には、遷都ではない。最初から、セント・ゴロタ市はゴロタ帝国の首都だったからだ。首都の主、つまりゴロタ達が引っ越して入城するのだ。
3月中に引越しを終え、4月1日からは、新しい国政の始まりだ。すべてが、セント・ゴロタ市に集約される。いわゆる中央集権制度だ。
シルフから、国名の変更について提言されている。今までは、単に『ゴロタ帝国』だったが、4月1日からは、
『神聖ゴロタ帝国』
と呼称する。ゴロタは、通常の人間ではない。魔族と妖精という在りえない種族の子だ。その存在は、神でさえ恐れおののいているほど強大だ。
現に、今まで天上界で何度もオリンポスの神々と戦ったが負けたことは一度もない。まあ、神に勝っても、相手は絶対に死なないチートな存在だから、勝った気はしなかったのだが。
国名の変更については、1月7日のタイタン市行政庁での新年の挨拶後、初閣議にかけて決定した。シルフは、国名変更に備えて、すでに紙幣と貨幣の国名を変更している。4月1日に、全国の銀行や郵便局などの金融機関に配布するのだ。当然、紙幣は、同額の紙幣と、貨幣は同額の貨幣と交換する。現在、国内に流通している貨幣は、5兆ギルほどだ。国家予算が23兆ギルと比較して、少ないように思うが、まだ地方では金貨、銀貨が流通していることを考えると十分だろう。印刷費と流通費のみ新規支出になるが、今のゴロタ帝国にとっては、微々たる予算だ。
予算と言えば、ゴロタ帝国内は、空前の好景気らしい。国家予算の基礎は、長い間、農業生産だったが、現在のゴロタ帝国では、農業・水産業の占める割合は半分程度だ。
鉱物資源や工業製品の生産が残りの殆どを占めている。潤沢に算出される石油と関連製品、金やミスリル銀等の貴金属鉱山も、シルフの作成した掘削機械の活用と、酸素送風機のおかげで、3倍以上の生産量になっている。
衛星写真により、まだまだ鉱山資源は眠っているらしいが、急ぐ必要はない。国力の充実と労働人口の増加により、自然と開発が進んでくるはずだ。
貿易収支も物凄いことになっている。ようやく、南のモンド王国、北のザイランド王国との連絡トンネルが開通した。
現在は、鉄道を建設中だが、馬車でも十分に交易できるのだ。特に、貧しいザイランド王国にとっては、豊富に産出されるが、使い道のない鉱物資源を輸出できるメリットは計り知れないものがある。もう、死ぬ思いでワイバーンに乗って、大雪山脈を越える必要がないのだ。
シルフは、最近、変なものを作っている。ゴロタとシェルのそっくりアンドロイドだ。あの異世界のスーパーコンピューター、つまりシルフの母体だが、そのコンピューターとクラウドでつないでいるので、遠く離れたゴロタ達と『念話』に似た会話をすることができる。
シルフは、『影武者』と言っていたが、何か他に用途があるようだ。この『影武者』のことは、ゴロタとシェルだけの秘密だ。エーデル達にさえ、教えていない。驚いたことに、股間の大切なところまで、完全にコピーされている。あの日の夜、たった1度だけのことだったが、しっかり採寸されていたようだ。当然、精液は出ないが、疑似精液は出るようにしているそうだ。見た目と匂い、それに味までゴロタの物と同じだそうだ。
シルフさん、あなた、いつ僕のを飲んだのですか?
1月、2月はあわただしく過ぎていって、いよいよ『引っ越し大作戦』実行の3月がやってきた。
相変わらず、チートなゴロタ帝国です。フェルマー王子、大変なところへ来てしまいましたが、ドミノちゃんがいるので、我慢できます。
リトちゃん、舞台初体験です。これから、慣れていくのでしょうか。




