第436話 災厄の神は、人気者です。
リトちゃんの運命は、風前の灯火でした。
(12月1日です。)
リトちゃんは、毎日、ノラさんと一緒にフミさんの孤児院に行っている。フミさんのお手伝いだ。もう、正体がばれてしまったので、幼児扱いはしてくれない。
あの後、ゴロタはリトちゃんを連れて、冒険者ギルドに行った。能力測定をするためだ。『え、妾を測定するのか?』と不満だったが、文句は言えないリトちゃんだった。
『しかし、あのイフリートやヴリヴィアターンは測定などしていないのに、何故、妾だけ。』
そう思ったが、それも言えないリトちゃんだった。どうやら、ゴロタの持つ、あの奇妙な『炎』はイフリートの『煉獄の炎』どころではないエネルギーを持っているようだ。
リトちゃん達、精神エネルギー体は、存在そのものが吸収されて他の物質になってしまうだろう。エネルギーが物質になる。そんなことが、現実にあるのかと思ったが、どうやらあるらしい。
冒険者ギルドでは、リトちゃんは、非常に目立っていたが、一緒にいるのがゴロタだったため、誰も何も言わなかった。新人らしい子が、先輩から、『あれがロリコン帝王のゴロタ皇帝だ。ついにあんな小さな子にまで。なんて鬼畜なんだ。』と教えられていた。それ、絶対に違うからと思ったが、きりがないのでやめた。
リトちゃん、計測器に手を差し出した。いつもの手順通りだ。
**************************************
【ユニーク情報】
名前:リトルホライズン・デビタリア
種族:魔人族のようなもの
生年月日:王国歴2025年6月6日(4歳)
性別:女のようなもの
父の種族:魔人族
母の種族:魔人族
職業:王族のようなもの
******************************************
【能力情報】
レベル なし
体力 4900
魔力 6000
スキル 100
攻撃力 30
防御力 20
俊敏性 10
魔法適性 なし
固有スキル
【不明な力】【とてもエッチ】
習得魔術 なし
習得武技 なし
************************************************
この計測器、絶対壊れている。『のようなもの』って一体なんだ。それにスキルに『不明な力』って、どういうことだ。それに『とてもエッチ』って、それはスキルではなく、性格だろう。まあ、正確に計測などできないと思っていたので、細かな突込みはしないでスルーすることにした。
あと、魔法適性なしという割には、魔力量は半端ない。おそらく、全ての魔力が使用できるのだろう。それで、適性が表示できないのだ。ゴロタの場合は、『全て』と表示されたが、それは、魔力の適性値と言うものがすべての魔法に対して一定以上の値を示していたからだろう。リトちゃんは、まったく針が触れなかったらしい。かえって、そのほうが怖い。
というよりも、早くギルドを出ていきたかった。冒険者たちの興味津々な誤解の目線を浴び続けるのもつらくなってきたゴロタだった。
ノラさんは、フミさんに言われたことは確実にやるだけの能力は持っているが、どうも積極的にするべきことを見つけることは不得手なようだ。
聞けば、小学校も途中で退学したらしい。カテリーナさんと違い、脳に損傷があるわけではなく、先天的な資質らしい。年齢は、20歳になったばかりだそうだ。
デビタリア辺境伯邸に勤めに出る前は、洋服店やケーキ屋で売り子をしていたが、計算が遅いので、1年位でクビになってしまったらしい。最後は、救護院の下働きをしていて、15歳になってから、デビタリア辺境伯邸の下女になったのだ。
メイドと下女の違いが良く分からないが、下女は、掃除や洗濯、それに皿洗いなどの雑用係という位置づけらしい。
まあ、カテリーナさんよりは、役に立っているが、逆にカテリーナさんは、子供達と同じ視点で行動するので、子供たちに人気が高いのだ。
シンシアちゃんは、ママを取られるのが嫌いなようで、すぐに他の幼児とカテリーナさんの間に入って邪魔をしてくる、まあ、しょうがないか。
最近、リサちゃんが、フミさんに連れられて孤児院に来ている。見ていると、遊びが荒っぽいのだが、他の子供達が喧嘩していると、仲裁に入って仲直りさせている。
どうやら、狼の群れのボスの真似をしているようだ。他の子供達も、リサちゃんが歯をむき出して怒ると、怖がって素直に言う事を聞いているようだ。
でも仲直りの印に、相手の子の口と鼻の周りを舐め回すのは、辞めたほうが良いみたいだ。
そのリサちゃん、リトちゃんを、異様に怖がっている。目を合わそうとしないのだ。首も縮めている。まるで、飼い主に叱られている子犬のようだ。
きっと、リトちゃんの本当の姿を感じているのだろ。ところで、リトちゃんの本当の姿ってどんなのだろう。
聞くと、結構えぐい神様の姿らしい。もともと、精霊に性別はない。精神エネルギーで浮遊しているのであれば、性別など必要ないからだ。たまたま、リトちゃんは、6月6日に生まれる子の中から女の子を選んだに過ぎないらしい。
しかし、話を聞くとどうも、素で女性神のようだ。この世界では、精霊に近いが、天上界に戻ると絶対に女性のはずだ。
リトちゃんは、4歳児とは思えないような行動をとる。ほかの子のようにおしっこを漏らしたり、泣き続けて院の先生たちを困らせたりしない。それどころか、泣き止まない子には、玩具を持ってなだめているのだ。
ある時など、男の子二人がつかみ合いの喧嘩を始めた。女の子たちは、遠巻きに見るだけだった。リトちゃん、部屋の片隅にあった、ほうきを持って、間に入っていった。
フミさんが様子を見ていると、ほうきで喧嘩している子供達の顔を撫でている。くすぐったいのか、匂いがきついのか、喧嘩している子供達が逃げ始めた。それを追いかけるリトちゃん。いつの間にか鬼ごっこになってしまっていた。
あっという間に、リトちゃんは孤児院の人気者になってしまった。午後になると、小学校に通っているお兄さんたちが帰ってくる。これからオヤツの時間だ。今日のオヤツはサツマイモの焼いたものだ。
小さな子供達は、手をべたべたにして皮をむいている。リトちゃんは、きちんとフォークを上手に使って皮をむいていた。むき終わった途端、近くにいた小学3年生の子が、そのお芋を奪って逃げようとした。リトちゃん、『ダメ!』と大きな声で叫んだ。フミさんが、振り返ってみると、お芋を奪って逃げようとした子が、その場でおしっこを漏らしていた。小学3年生でお漏らしは珍しい。リトちゃん、何の気なしに『威嚇』を使ってしまったらしい。
能力検査では、そんなスキルは検出していなかったが、どうやら大抵のスキルは使えるみたいだ。と言う事は、あの『とてもエッチ』というスキルを使ったらどうなるのだろう。
フミさんから話を聞いたゴロタは、リトちゃんのスキルのことは忘れることにした。
もうすぐ、聖夜だ。北半球にあるタイタン市での聖夜は、これで最後だろう。もう、クリスマスケーキの販売促進行事はなしになっている。あれは、クレスタが発案して、シェルが乗り気になっていたので、仕方なくやっていたが、ゴロタはもう皇帝陛下だ。さすがに、女のお客さんと握手とか、ハグやキスはできない。
今年は、ゴロタのフィギュアを格安で景品にしている。ついに、彩色フィギュアの大量生産が始まったのだ。というか、単に型に樹脂を流し込んで、後はおばちゃん達が、ラッカーで彩色するだけなのだが。クリスマス用に3000個作ったそうだ。クレスタがいなくなっても、えぐい商売を考える奴がいる。その名は、シルフだ。
リトちゃんは、雪の聖夜は初めてらしい。南半球では、その日から夏が始まるらしい、クリスマスが終わると、学校は夏休みになるのだ。リトちゃんは、毎日が夏休みだが、この期間は、婆やが暇を貰うので、王宮の中をのびのびと歩き回ることができた。
しかし、ここタイタン市では、孤児院に冬休みはない。お勉強はないが、その代わり町の掃除とか、一人暮らしのお爺さん、お婆さんの所に行って、歌を歌ったりするのだ。
リトちゃんは、孤児院に置いてあるオルガンを弾いて伴奏だ。ピアノは、もう400年位練習している。あ、見栄を張ってしまった。本当は、そのほとんどを精神エネルギーで存在しているので、ピアノの練習をしたのは、今から300年前、わずか2年だけだった。依り代の女の子が死んでしまったのだ。
しかし、あの頃覚えたピアノの弾き方より、オルガンの方が、はるかに簡単だ。ただ、一つ問題があった。ペダルに足が届かないので、空気が遅れないのだ。そこは、さすがシルフ。すぐに電動モーターの送風機を組み込んでくれた。もうスイッチを入れるだけで、いつまでも音を出し続けてくれる。
今日は、『咲いた咲いた。』を演奏する、とても簡単な曲だ。リトちゃん、手が届かないところは無理して弾かない。4歳児なりの演奏を心掛けている。でも、フミさんよりもずっと上手だ。
というか、一度弾いた曲は、絶対に忘れないし、間違えないのだ。とてもチートなのだが、リトちゃんは、皆そういうものだろうと思い、大して自慢もしていない。
ドミノちゃんやジェリーちゃん程ではないが、孤児院の中では、誰よりも上手だった。フミさんが、それを見ていて、離宮に帰ってから、リトちゃんをピアノの前に座らせた。
「えー、わたち、ピアノなんてひけない。」
可愛らしく、演奏を拒否したが、フミさんはごまかせなかった。リトちゃんの正体は、完全にばれてしまっているのだ。というか、タイタン離宮の女性陣は、ブリちゃんも含めて、全員が知っている。
リトちゃんは、こんな経験は初めてだ。今まで、リトちゃんの正体を知った者は、怖れ、敬いそして死を迎えるのだ。
しかし、絶対神にも似たゴロタ、全てを統べる者に対して、蟷螂の如く無力なリトちゃんは、ほかの小さな子供達と同一視されているのだ。
リトちゃんは、世界を混乱に陥れる事は諦めたが、では、これからどうしたら良いのだろうか。
ふとリトちゃんは、良いことを思い付いた。ゴロタの嫁になれば良いのだ。そうすれば、夜の生活だけでも支配してやる。
リトちゃんは、大事な事を忘れている。ゴロタに淫夢を見せるのは、『蒼き盾』がある限り不可能だということを。
リトちゃん、本来の使命は完全に忘れたというか、記憶の外に追い出してしまったようです。




