第435話 タイタン市って、とても綺麗
いよいよリトちゃんは、ゴロタと対決です。でも圧倒的戦力の差に全く歯が立ちません。
(11月19日です。)
今日は、リトちゃんを連れて、タイタン市に戻る日だ。リトちゃんと、母親のノラさん、それにメイドが2人と婆やが1人だ。皆、魔人族の巨人種なので、小人種のノラさんは、大人に囲まれた子供のようだった。
ゴロタとブリちゃんは、メイド達と婆やは必要ないと言ったのだが、デビタリア辺境伯が、とりあえず連れて行ってくれと頼んできた。どうも、妖しい。まあ、そのうち、彼女たちの目的を調べてみよう。
来るときは、ゲートを使ったが、帰りは、皇帝専用の『タイタニック号』だ。ジュラルミンの機体に、ミスリルを伸ばした箔をはって、強度を上げてある。周りの建物や木々が綺麗に映し出されるほどにピカピカの機体だ。小さな窓も、空気抵抗を考えて、機体表面と均一の面になっており、張り合わせ部分のリベットも、少し沈んだ位置までねじ込まれ、そのうえから、ミスリル銀でおおわれているので、どこが接合部なのか全く分からなかった。
ノラさんは、ニコニコ笑いながら搭乗していったが、メイドさん達は顔が引きつっていた。初めてのジェット旅客機に緊張しているのだ。リトちゃんは、子供らしい表情で、興味深げに見ている。しかし、内心では呆れかえっていた。
天上界では、このような飛行体を作り上げている文明を持った世界の話を聞いたことがある。それは異次元というか、この世界とは別の時空間での話だ。なぜ、ゴロタがこのような飛行体を製作できているのか、もしかしたらゴロタは異次元からの転生者なのかと疑ってしまう。
しかし、そのような思念は、おくびにも出さず、できるだけ4歳の幼児のようにふるまおうと努力しているリトちゃんだった。ゴロタは、大量の『モンドの月』を買い込んでいる。やはり、『タイタンの月』とは、味が微妙に違うらしい。最近、お土産屋兼ケーキ屋の『クレスタの想い出』の評判が芳しくない。味が落ちてきているわけではない。しかし、新作が少ないのだ。この前も、チョコレートとメロンを挟んだミルフィーユを販売したが、はっきり言って、とても美味しくなかった。やはり、チョコにはイチゴが一番合う。メロンを重ねても、水気が出てきて、べちょべちょになってしまったらしい。
こうなったら、本家『モンドの月』を販売して、利益を出そうと言う事になったのだ。やはり、クレスタの抜けた穴は大きく、白薔薇会の皆が幾ら努力しても埋められるものではないようだった。
『タイタニック号』は、高高度を超音速マッハ2で飛行して約3時間、およそ7000キロのたびだった。タイタン市は、初冬の寒さだ。ノラさんをはじめ、メイドさん達は寒さで震えていた。ノラさんとリトちゃんには、寒くないように薄いシールドをかけてあげた。メイドさん達は、ほっといておく。事前に、タイタン市は寒いと言う事は伝えていたのだ。その準備をしないほうが悪いのだ。
空港までは、シェルとシルフが迎えに来ていた。タイタン市までは、路面電車で行く。路面電車と言っても、タイタン市内までは、専用軌道を走行するので、まあ電車だ。通常は2両編成だが、ゴロタ専用車両が、最後尾に連結されている。電車と言っても、路上を走行するようにできているので、最高速度も80キロ位しか出ない。『ゴーガタン、ゴーガタン』と揺れながらタイタン市のタイタン中央駅に到着した。電車を降りると、もう、タイタン市のランドマーク、中央大広場は目の前だった。
タイタン行政庁が威容を誇っている。大広場を中心に東西南北に大通りが伸びており、ゴロタ達は、タイタン離宮にいたる通りを西に向かう。約4キロ先にタイタン離宮の屋根だけが見えている。両脇は、金木犀と花水木の並木になっている。もう、金木犀の花は散ってしまったので、匂いは残っていなかった。
約1時間後、タイタン離宮に到着した。デビタリア辺境伯邸の3倍位の大きさだ。ノラさんとリトちゃんは、大きな屋敷に大喜びだったが、メイドと婆やは、ゴロタの財力と言うか、権威に吃驚していた。しかし、今、建設中のセント・ゴロタ市の帝城を見たら、腰を抜かしてしまうだろう。
リトちゃん達は、別館の2階に住んでもらう。シンシアちゃん達の隣、リサちゃんの向かいの部屋だ。メイドさん達は、離れの使用人専用宿舎に住むことになった。使用人宿舎と言っても、完全個室で、冷暖房完備だ。勿論、食事の準備や掃除、洗濯は雇い人がやってくれる。いわば、下宿のようなものだ。
リトちゃんとノラさんは、カテリーナさん達と一緒に別館で食事をとってもらう。勿論、本館の大浴場は使い放題だ。部屋は、2部屋続きとなっており、ベッドルームと、リビングが繋がっている。アップライトピアノが置いてあるが、ドミノちゃんの練習用に置いてあったものだ。そのため、この部屋は防音構造となっていた。
メイドさんと婆やは、平素、1階の使用人控室に詰めてもらう。用があるときには、部屋の紐を引くと、控室の部屋番号の所の鈴がなる仕掛けになっている。しかし、ほとんど鈴がなることはなかった。別館のメイドさん達がローテーションで泊まっており、彼女達は、何もやることがなかった。当然、本館には本館のメイドさん達がいるので、彼女らが本館に入ることはなかった。
この日の夕方、メイドさん2人と婆やさんが、本館に呼ばれた。1階の皇帝執務室だ。シェルとシルフそれにコリンダーツさんまでいる。彼女らの真の目的を聞き出すためだ。
最初は、ノラさん親子の世話をするためだと言っていたが、ゴロタの追及にごまかせるはずがなかった。
彼女たちの目的は、リトちゃんとゴロタの婚約もしくは既成事実の構築だった。は?まだ4歳の女の子とどうにかなる訳ないと思ったが、相手はリトちゃんではなく、ノラさんだった。
ノラさんとゴロタが密接な関係になれば、デビタリア辺境伯のモンド王国での地位は確固たるものになるのだそうだ。このような事は、王国では普通にあることで、自分の愛人を相手に回して歓心を買うのだ。中には、自分の妻を差し出す者もいるそうだ。
あの国って、結構、性風俗が乱れていると思ったが、そこまでとは思わなかった。シェルは、ブルブル震えて怒っている。
シルフが丁寧な手紙を書いていた。文体は、丁寧で慇懃であったが、書かれている内容は辛辣だった。
『今回、辺境伯閣下のご高配により、配置賜りましたリトルホライズン嬢の世話係と教育係、誠に恐縮ではありますが、あまりの上品さゆえに、当方の家風にあわず、荷物ともどもお返し申し上げます。これ以上のご高配は無用に願います。さもなければ、ブリッジブロック嬢にも里帰りをお願いする次第になるかとも思料されます。」
この手紙を持たせて、ゲートを開けて、デビタリア辺境伯邸に『空間転移』して貰った。これで、この女性達が、タイタン市に戻ろうとしても3か月以上のつらい旅が待っているし、絶対にあのトンネルは通過できないだろう。
夕方、リトちゃんを皆に紹介した。あれ、誰かが2階にいる。ゴロタが2階に上がっていくと、ブラックさんとバイオレットさんそれにワイちゃんがいる。既にドレスを着ている。あの、そのドレス、夏物なんですが。彼女たちは、洋服は肌を隠すものであって、防寒目的はない。まあ、1年中、裸でいるので当然だろうが。
何の用で来たのかと思ったら、今日、面白い客人が来たので挨拶しようと思い来たそうだ。面白い客人って、ノラさんとリトちゃんのことしか該当しないので、階下に案内した。
ブラックさんが、ゴロタが世話をしている精霊、神獣らをすべて呼んで参れと命じた。
言われるがまま、念話で皆を呼んだ。
最初は、イフリートのイフちゃん、次に天上界の門番犬、コマちゃんだ。
世界の四方守護人も呼んだというか、ここにいるので、皆を集めた。白虎のトラちゃん、青龍の青ちゃん、朱雀のスーちゃん、玄武のゲンさんだ。それにユニコーンのユニちゃんとリヴィアターンのリバちゃん、最後は、最近、仲間になった氷の精霊フェンリルのフェンさんだ。
ブラックさんが、リトちゃんの方を見ている。目が笑っていない。怖い。
『どうじゃ、そなたの敵は、ここにいる皆じゃ。そなたはどのようにして戦う、アスモデウスよ。』
リトちゃんは、震えて涙目になっている。あ、おしっこも漏らしていた。
『妾は、そのような者ではない。だ、誰じゃ、そのアスモデウスと言う者は。』
ダメだ、リトちゃん、完全に地が出てしまっている。ノラさんが、リトちゃんのお漏らしを見て、メイドさんにタオルを持ってきてもらう。
『ほう、それでは、そちの真の姿を見せて貰おうか。アスモデウスでないなら、何者であるかを。』
リトちゃんは、観念した。目の前のブラックさんやヴァイオレットさんも怖いが、その他の精霊や神獣達だって、1対1の戦いでは、ほとんど勝ち目がない。リトちゃんの得意なのは、心理戦と消耗戦だ。自分で戦うのは、7柱の災厄伸の中で最弱だ。
『妾は、来たくなかったのじゃ。今まで、誰も勝てなかったのに、妾みたいなカスが勝てる訳無いではないか。あの全能の創造神様のご命令がなければ、こんな小さな田舎惑星になど誰が来るか。本当は、早く帰りたいのじゃ。しかし、あの方のご命令が無ければ帰れないのじゃ。のう、リヴィアターン。そうじゃろ?』
『うむ、妾には帰ってきて良いとのお許しが出たが、この世界が面白いのでもう少しいることにしたのじゃ。』
ああ、使徒が1人(匹)もいない今のリトちゃんでは、一番弱いとされているユニコーンにさえ、瞬殺されてしまう。まあ、瞬殺されても100年後には復活できるのだが、痛いのは嫌じゃ。そう思っているのだった。
ゴロタは、ヘンデル帝国北部で起きた大量虐殺事件の犯人がリトちゃんかと聞いた。もしそうなら許すわけにはいかない。
リトちゃんは、明確に否定した。
『確かにあの魔物たちは、我が配下ではあるが、命じた訳ではない。勝手に忖度して、先走ったのじゃ。あの頃は、妾は、天上界で惰眠を貪っていたのじゃ。』
『ゴロタ殿が、全てを統べる者として、完全に覚醒してから、いやいやこの世界に転生してきたのじゃ。だから、あの惨劇は、妾が産まれる前に発生したはずじゃ。』
『あの馬鹿どもが殲滅されたので、天上界に居づらくなって、この世界に転生してきたのじゃ。』
ここで、リトちゃんは、涙目でじっとゴロタを見つめた。このウルウルした目を見れば、大抵のことは許してくれるはずじゃ。この4年間で学んで来たのじゃ。
ああ、タイタン離宮には、どうして、こうも残念な姫ばかり集まるのだろうかと思ったゴロタだった。
ブラックさん、ナイスタイミングです。もう、災厄の神との戦いがなくなりました。あれ、と言う事は、今物語ももうすぐ終了ですか?




