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第434話 災厄の神が留学します。

いよいよ、ゴロタと災厄の神が対決します。いや、対面します。

(11月1日です。)

  モンド王国のデビタリア辺境伯邸では、リトちゃんが父親に呼ばれていた。母親の元メイドのノラさんも一緒だ。ノラさんは、リトちゃんが何かやらかしたのか、不安そうだった。リトちゃんは、猫のペルを抱いていた。最近は、チワワはちっとも構わない。聞けば、あまりにも馬鹿なので、もう嫌いになってしまったそうだ。


  本当は、言うことを聞かないので、使徒をクビにしたのだが、まあ、馬鹿な犬という事は本当だった。


  デビタリア伯爵は、リトちゃんに話しかけた。


  「リトよ。そちは幾つになった。」


  「はい、父様、今年の6月で4歳になりました。」


  「うむ、そちはもう、算数や読み書きもでき、多くの本を読んでいるらしいがまことか?」


  「はい、このお屋敷では、ご本を読む位しか楽しみがないので、毎日、ご本を読んでいます。」


  「ピアノもかなり上達したらしいの。」


  「はい、バイエルはもう終わりました。今は、先生にチェルニーを教えてもらっています。」


  デビタリア伯爵は、妻のザイナと顔を見合わせた。ザイナは、目で頷いていた。


  「リトよ、そちにゴロタ帝国への留学を命ずる。勿論、母親のノラも一緒だ。ゴロタ皇帝陛下とシェル皇后陛下には、すでに了解を貰っておる。今度、ゴロタ帝国に素晴らしい大学ができるそうだ。そちは、そこで勉学に励め。なに、夏休みや正月休みには帰ってくるのだから、寂しくはないだろう。向こうで、多くの友達を作るが良い。」


  「へ?」


  リトちゃんは、キョトンとしていた。どこの世界に4歳の女の子を留学させる親がいる。一体、何を考えているのか、この馬鹿親父め。うん、ここは泣いて断ろう。リトちゃんは、黙って下を向いた。少し、涙腺に力を込めた。ポタポタと涙がこぼれてきた。


  「どうしたのじゃ、そんなに嬉しいのか。あの国は良いぞ。何より食べ物がおいしいし、文化的で、先進的だ。できれば、儂が留学したいくらいだ。」


  「あなた、目的は、あのハッシュタウンの店でしょ。まだ、そんなことを言っているのですか。」


  あれ、痴話喧嘩が始まってしまった。ダメだ、この馬鹿夫婦。4歳の娘を、遠い外国に出すという意味をまったく理解しようとしていない。うん、これは困ってしまった。


  リトちゃんは、チラと隣の母親を見た。胸が大きいが、完全に知能の発達が遅れている女性だ。目がボーっと泳いでいる。自分の置かれている立場が全く分かっていない。これから、何千キロも離れた異国に行くんじゃぞ。少しは不安を感じろ。このバカ女。


  ノラさんには、伯爵の言ったことがあまり理解できなかった。ゴロタ何とかと言っていたが、それは何だろう。留学って、何をするのだろう。そんなことよりも、今日のお昼に食べる予定のバナナ、早く食べないと黒くなってしまう。大事に取っておき過ぎたわ。そんな事を考えているノラさんだった。


  部屋に戻ってから、リトちゃんはなんでこんな事になったのだろうと考えてしまった。うん、ここは使徒の『ペル』を使おう。リトちゃんは、『ベル』を両親の部屋に忍び込ませた。デビタリア辺境伯は、妻のザイナと話し合っている最中だった。


  「少し可哀そうだったかな。4歳で家を追い出されて。」


  「追い出すなんて、人聞きの悪い。でも仕方がないでしょ。ブリちゃんが、大学にいって、医者になりたいなんて言い出すんですもの。」


  「うむ、医者になるためには、26歳くらいまでは、結婚どころではないらしいし。それでは、ブリとゴロタ皇帝陛下を結婚させるという儂の夢は、かなわないことになってしまう。ああ、我がデビタリア家もこれまでかと思ってしまったわい。」


  ああ、そうか。それが狙いか。すべてを悟ったリトちゃんだったが、何分、4歳の女の子、何かができる訳もなく、じっと思案に暮れていた。


  問題は、留学すること自体ではない。ゴロタに自分の正体がバレてしまいかねないのだ。リトちゃん自体は、現世に来てから何も悪いことはしていない。精々、乳母と執事長をペルに命じてこの世から排除したことだけだ。北の大陸で何万人も死んだのは、リトちゃんが覚醒する前の話で、一部の使徒が勝手にやったことだ。南の大陸の最南端の町で、数百人規模で殺戮が起きたのもリトちゃんが意図する前、この世に転生する前だ。リトちゃんは、今の魔人の娘の身体が年老いて朽ちたら、天上界に帰るつもりだ。創造主に文句を言ってやるのだ。話が違い過ぎる。この世界の人間の王にだって、数万人規模の軍隊を編成されたら、なかなか勝てないのに、『全てを統べる者にして魔界の王、そして妖精王たるべき者』に勝てる訳無いではないか。


  妾など、瞬殺で消滅させられてしまう。魔界の王は、不死と聞く。肉体が滅んでも、精神世界での死はない。それで直ぐに復活してしまうらしいのだ。すぐと言っても300年程度は立っているが、無限の時間の中に生きる神々や精霊にとっては一瞬にも等しい時間だ。


  よし、ここは思いっきり馬鹿な娘を演じてやろう。絶対に妾の正体がばれることのないように。


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(11月18日です。)

  今日、デビタリア辺境伯邸にゴロタとブリちゃんがやってきた。リトちゃんを迎えに来たのだ。今日は、土曜日なので、ブリちゃんは、TIT48の公演を休んで来たのだ。ブリちゃんが、実家に戻ったのは夏休み以来だったので、今日は泊って行く予定だ。


  広くはないが豪華な調度品に囲まれた応接室で、お茶を飲んでいた。デビタリア伯爵は、半袖の軽装で、奥様のザイナさんにいたっては、超ミニスカートだ。絶対にソファに座ってはいけない短さだ。ブリちゃんのお母さんだから、もう30歳は超えているはずなのに、巨人種の特性か、長くスラっとした脚は全然年齢を感じさせなかった。ゴロタは、スカートの奥に見える白い三角帯を見て見ぬふりをして、しっかり見ていた。


  次女のリトちゃんが母親のノラさんと入ってきた。ノラさんは、夏だというのにロングドレスを着ている。リトちゃんが母親を叱っていた。


  「母様、今は夏だから、その春物のドレスではおかしいです。母上様のように半袖のミニスカートにしてくださいな。」


  言葉は、とても4歳児とは思えない。ブリちゃんから、妹は神童と言われているくらい賢いと聞いていたが、どうやら本当のようだ。


  リトちゃんは、母親似の可愛らしい顔で、巨人種の父親と小人種の母親の両方の特質を持っているようだ。背はあまり大きくはないが、体形は手足が長く、4歳の幼児体形ではない。金色の巻き毛を後ろで結わえていて、真っ白な肌と真黒でクルリと巻いている小さな山羊角が良いコントラストになっている。リトちゃんは、ゴロタを認めると、その場で、とても可愛らしいカーテシをした。


  「初めまして、私は、デビタリア家次女のリトルホライズンです。リトとお呼びください。」


  「初めまして、ゴロタです。よろしくね。」


  リトちゃんは、ゴロタに正体がばれるのではないかと思ったが、大丈夫なようだ。ホッと安心したが、今の挨拶で、バカな娘と思ってくれただろうか心配だった。自分の事を『妾』とは言わなかったし、名前もフルネームではなく、名だけを言った。それに幼児らしい可愛らしいカーテシを決めたから大丈夫なはずだ。しかし、このバカ女のおかげで、つい、いつもの口調が出てしまったではないか。用心、用心。


  リトちゃん、最近は、同い年の子と遊ばなくなっていたので、自分と同年代の子供達の知能レベルがどれくらいか分からなくなっていたのである。まあ、リトちゃんも残念神であることは間違いないようだ。


  リトちゃんの抱いている猫の『ペル』が、ゴロタを見て、尻尾を丸めて、逆毛だっていた。怖いのだ。リトちゃんが、ペルを話すと、脱兎のごとく部屋から出て行って、二度と戻ってこなかった。リトちゃん、また使徒を失ってしまったようだ。


  この日の夕食は、デビタリア辺境伯領内の重臣及び主だった大商人達が集まっての晩餐会になった。皆、夫人を連れている。夫人達は、今、話題のゴロタ皇帝陛下に拝謁できるチャンスに大喜びだった。ゴロタは、真っ白なシルクの貴族服で晩餐会に臨んだ。いつもなら、右隣りにシェルが腕を組んでいるのだが、今日は一人だ。ブリちゃんが、不満そうにしていたが、もう、これ以上、同居している女の子達と結婚するつもりがないゴロタにとっては、ブリちゃんと腕を組むだけで、ブリちゃんに対して申し訳ない気持ちがあったのだ。


  晩餐会の話題は、ブリちゃんとの結婚式がいつかと言う話題ばかりだったが、ゴロタはニコニコするばかりで、はっきりとは返事をしない。また、ブリちゃんも『大学を卒業するまでは、このままです。』と答えていた。最近のゴロタの態度は、明らかに以前とは違う。クレスタさんが亡くなってから、妻達以外の女性とは距離を置き始めているのだ。はっきりとは言わないが、どうも、自分の子供を作るのを敬遠しているようだ。ジェーンさんやエーデルさんは、子供を欲しがっているようだが、ゴロタさんが拒否しているとのことだった。


  晩餐会の間中、リトちゃんは、あちこちをチョロチョロ歩き回り、母親のノラさんは、注意するでもなく、豪華な食事を黙々と食べ続けていた。どうも雰囲気がカテリーナさんに似ているのは気のせいだろうか。小人種で、銀に近いほどのプラチナブロンド、魔人族特有の大きなアーモンド形の目と、スーッと通った鼻筋が、人間族ではありえないほどの美しさだ。シェルやエーデル位になると違反だが、ノエルやビラとの比較では、きっと好みの分かれるレベルだ。


  晩餐会終了後、南の極地に近い場所での鉱山開発の話が出た。かなり深い山の奥なので、馬車も通れないような道しかなく、良質な銀鉱山があるのは分かっているが、開発の資材や人員を搬送できないそうだ。そこで、ゴロタに助力をお願いしたいとのことだった。ゴロタには、判断が付かないので、シェルとシルフがいるときに話を伺うことにした。


  今、女性陣の親元に行くと、このような話ばかりだ。あ、そういえば、アスコット大公は、そのような話を聞いたことはない。やはり、エルフ族は、人間や魔人族とは違う価値観で生きているようだ。

もう、いつものパターンです。災厄の神との戦いは始まるのでしょうか?

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