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第433話 帝国セント・ゴロタ大学の憂鬱

またまた、フェル&ドミノの活躍です。

(10月10日です。)

  今日は、ドミノちゃんの13歳の誕生日だ。フェルマー王子は、20日前に13歳になっている。ドミノちゃんは、最近、クラスの人気者だ。。可愛らしいし、ピアノの技術は超高校級だし。それに、今、超絶人気のフェル&ドミノの本人達だとばれてしまって、人気はうなぎのぼりだった。


  ドミノちゃんのピアノ実技の授業は、見学者が鈴なりだった。しかし、そんなことはちっとも気にせずに、いつもの通り、超絶技巧を完璧に演奏しているのだった。


  フェルマー王子は、実技ではドミノちゃんと違う教室になってしまうので、ドミノちゃんの演奏を聴く機会はあまりなかったが、実力は十分に知っているので、きっと大変なことになっているのだろうなと心配している。


  特に、誰にも言わなかったが、小学6年生の時のピアノコンクールで、中学生の部で優勝したことは、もう皆が知っていた。今、高校に行っている何人もの先輩を押しのけて優勝したのだ。そのドミノちゃんがピアノを演奏するのだ。見物したい学生や教師が大勢になってしまっても仕方がないかも知れない。


  ドミノちゃんは、いつも完璧に演奏をこなしている。それもそのはずだ。朝5時、フェルマー王子が剣の早朝稽古をしているときから、朝食の時間まで、みっちり練習し、放課後、ピアノの教授から個人レッスンを受け、離宮に戻っても、ずっと練習をしている。練習量だけを見ても、一般学生の倍はしているのではないだろうか。


  もともとの才能も素晴らしい。ドミノちゃんは、いわゆる絶対音感に優れているので、音を聞くと音符が浮かび、音符を見ると音が聞こえてくるのだ。そのため、楽譜を覚えるのが異様に早い。


  フェルマー王子も音感は良いのだが、ドミノちゃんほどではない。フェルマー王子が、他の声楽科の生徒と違うのは、その声量と音域だ。低音は力強く、高音域は伸び伸びと澄み切った声だ。


  10月14日、今日は音楽学院の学園祭があるのだが、そこでフェルマー王子の独演会が予定されている。曲目は、モーツアルトのオペラ『魔笛』の中から、2曲、アリアを歌う。最初は、王子タミーノが歌う『なんと美しい絵姿』だ。バリトンからテノールまでフェルマー王子の綺麗な歌声が響く。


  続いて、夜の女王のアリア『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』を歌う。今の音楽大学の小学部から大学部まで見渡しても、この歌を歌える女性はいない。通常のソプラノの音域をはるかに超えている。最初の曲のバリトンパートから比べると4オクターブ位高い。フェルマー王子は、声帯の弾力性が常人よりも柔らかいのか、かなり薄く変化させて高音域をカバーしている。しかもこの曲は、小鳥のさえずりのようなスタッカート部分がある。かなり、声帯に無理を掛けないと綺麗な音にならない。


  フェルマー王子は、今だからこそ、歌えるので、変声期が終わってもこの歌を歌えるかどうかは分からない。しかし、今は、きちんと歌えている。観客は、天使の歌声に聞きほれている。伴奏は、ドミノちゃんだが、決して出しゃばってこない。控えめに、しかもしっかりと存在感を示している。


  演奏は無事終了した。フェルマー王子は、ドミノちゃんとデュエットで歌いたかったのだが、学園祭の演目はクラシック音楽と決められていたので、あきらめるしかなかった。


  演奏が終わり、万雷の拍手の中、ステージの下手に下がっていったが、いつまでも拍手が鳴りやまない。アンコールの要求だ。しかし、時間もないし、練習もしていないので、すぐに応えることはできない。しかし、いつまでも拍手がやまないのだ。このままでは、次の演奏ができない。発表会担当の教師が、フェルマー王子達に顎で出るように合図した。


  フェルマー王子達は、急いで、ギターを抱え、ステージに出て行った。フェル&ドミノの演奏だ。曲は、『スカボロウ市場』だ。ギターの物寂しいイントロが始まる。最初は、二人のデュエットだ。フェルマー王子は、高音部の第2パートを歌う。


  ♪Are you going to Scarborough Fair?

  ♪Parsley, sage, rosemary and thyme,

  ♪Remember me to one who lives there,

  ♪For she once was a true love of mine.


  2番からは、フェルマー王子が、ソロパートだ。ギターの腕前もドミノちゃんの方が上手い。綺麗なアルペジオが物悲しい雰囲気を盛り上げる。


  ♪Tell her to make me a cambric shirt,

  ♪Parsley, sage, rosemary and thyme,

  ♪Without no seam nor fine needlework,

  ♪And then she'll be a true love of mine.


  3番は、またデュエットだ。会場の観客が、身体をゆっくり揺らしながら、リズムをとっている。演奏は終了した。ステージの袖で、出番を待っていた高校生のお姉さんたちが、フェルマー達を睨んでいる。


  『え?僕たち、何か悪いことしたかな?』


  フェルマー王子は、お姉さんたちのいない方の袖に下がっていった。その日は、もう演奏が無かったので、すぐに帰ることにした。


  音楽堂の裏口からギターを抱えて出ていったら、大勢の人たちが待ち受けていた。サインを求めたり、握手を求めたり。こんなに大勢の人が音楽堂から出てきたということは、音楽堂の観客席は悲惨なことになっているのではないだろうか。


  フェルマー王子は、恐ろしいことは考えずに、もみくちゃにされながら、学院を立ち去った。


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 フェルマー王子達の演奏を聴き終わったゴロタとシェルは、シルフとともに帝立セント・ゴロタ大学に向かった。国内のすべての大学は、学校法人として、半民営化を図ったが、この大学だけは、帝国直営だ。法学部、工学部、芸術学部、医学部とあらゆる学部をそろえている総合大学で、付属の小学校から高校までを、各州に置いている。卒業見込み高校生の中から優秀な人材は、無試験の推薦入学を受け入れるのだ。


  今年、春の一般入試試験の出題レベルは、それほど難しいレベルではない。高校の教科書をしっかり勉強すれば解ける問題ばかりだ。しかし、出題数が非常に多く、全問を解答するのは困難なように作られている。最初、教授達は、問題数が多いと採点が大変だから、今まで通り、1問か2問出して、優劣を決めようと言っていたが、当然、無視した。


  教授達には、念を押しておいた。最高学府の教授たるもの、学生の教育のみならず、自ら研究をして発表しなければ、職を失うことになる。現に、今年の春に、大勢の教授を辞めさせた。本当は、学長にも辞めてもらいたかったが、経済学界の重鎮で、著書は、会計士を目指す者のバイブルとなるべきものが多く、そのまま学長として遺留せざるを得なかった。しかし、大学の経営については、一切の権限を奪い、事務局長と理事会で大学運営をこなすことになった。当然、事務局長は、ヘンデル帝国から引き抜いてきた人物だ。もともと、学者肌で、学内経営にまったく興味を示していなかった学長は、まったく意見が無く、素直に大学改革の方針を受け入れていた。学部長をはじめ、教授の中には、異論を述べる者もいたが、各地方の州都にある私立大学への転勤を進めたら黙ってしまった。


  今日は、来年3月初めの一般入学試験についての打ち合わせだ。ゴロタが考えているのは、全国統一試験だ。おおむね100問の問題を制限時間内に解けるだけ解かせて、正解数の多い者から、合格とする。各問題には、難易度が付けられていて、難易度Aは、1点、Bは2点、Cは3点の配転だ。


  試しに、シルフにやらせてみたが、まったく試験にならなかった。解答を書く手先が霞んで見えない。1時間の試験時間なのに15分で全問正解してしまった。うん、問題用紙を無駄にしてしまった。


  ジェリーちゃんとブリちゃんに解かせたら、回答数は7割程度で、得点は、120点だった。きっと、この点数が、トップ合格の基準だろう。ジェリーちゃんは、音楽大学へ、ブリちゃんは、医学部へ行くことになっている。本来なら無試験でも良いのだが、試験を受けたいという二人のために、参考で受けさせることにした。


  デビちゃんとデリカちゃんは、タイタン学院に行きたがっていた。タイタン学院なら、慣れているし、友達もいるのでタイタン離宮から通学したいとのことだった。それでも良いと言う事になり、二人は受験勉強もせずにのんびりしている。夏休み終了時点で、推薦入学が決まってしまっていたのだ。


  デリカちゃんは、大学を終えたら、故郷に帰りお嫁さんになるはずなので、どうでもよかったが、デビちゃんは、今でも、ゴロタと結婚したがっている。


  ゴロタは、皆には内緒にしていたが、もう誰とも結婚したくなかった。クレスタの死がトラウマになっている。愛する者の死が、あんなに悲しいとは思わなかった。もう、あのような思いは二度としたくない。シェルからジェーンまで、現在の妻たちは、もう結婚してしまったので、しょうがないが、新しい妻は、できるなら貰いたくなかった。


  とりあえず、モンド王国から来ている子たちは、大学を卒業したら、王国に帰そうと思っている。モンド王国では、女性は15か16で結婚するのが普通だが、人間よりは長命な魔人族だ。結婚が10年位遅れても、長い人生では問題はないだろう。


  現在、妻達以外の女性とは、夜のセレモニーは一切していない。あ、ミキさんとのことは、皆には秘密だ。皆、自分の生きていく道を大学で見つけてもらいたいのだ。


  セント・ゴロタ大学の学長エネオスさんは、もう60を過ぎているのだが、まだ元気で、現役を退く気はさらさらないようだ。60歳になると、大学からの俸給の他に、年金がフルに貰えるらしく、年収が8割位増えたそうだ。これでは、やめる訳がない。


  ゴロタは、カノッサダレスさんに年金制度の抜本的改革をお願いした。年金は、現職中は受給できない。他に収入がある場合も、年金は減額される。夫婦で公務員だった場合に、お互いの年金に配偶者手当が加算されていたが、もちろん廃止した。


  中には、今まで払った年金を返してくれという者もおり、当然、全額返してやった。その代わり、年金は一切、受給できない。返して貰った者は、返金額があまりにも少ないのに吃驚していた。現行年金額の3年分くらいにしかならないのだ。


  ああ、この国は、根本的に腐っている。

大学改革は難しいですが、公務員制度の改革は、もっと難しそうです。

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