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第430話 レオナちゃん、おしゃまな猫娘

カテリーナさんは、王都で絵の勉強をします。

(8月31日です。)

  今日、カテリーナさん達が、グレーテル王国の王都にある、ゴロタ帝国グレーテル王国領事館に引っ越してくる。まあ、領事館と言っても、以前のタイタン屋敷だったのだが、今は、門を入ったすぐわきに小さな事務所を構えて、領事事務をしている。小さいと言っても、30人程の入れるホールと受付、それに領事官室や尋問室などを備えているので、その辺の商店よりは大きい建物だ。一応、領事は、屋敷の執事長のレブロンさんと、メイド長のダルビさんが交代で詰めてもらっている。当然、領事手当ても支給しているので、忙しいが文句ひとつ言わないで働いて貰っている。


  館員24人は、コリンダーツさんが王国内から募集した人達で、王都出身者が半数以上いる。領事館は、出入国管理課、帝国民保護課それに総務課だ。後、駐在武官と情報連絡員が数名いる。情報連絡員は、勿論イチローさんの配下の忍びの者たちだ。



  そう言えば、イチローさんとサクラさんが結婚した。サクラさんは、現在妊娠中だそうだ。


  カテリーナさんが、この前、シェルと一緒に王都に来た時には日中だったので、ミキさんはピアノのレッスンに行っていたし、シロッコさんは、郊外に薬草を探しに行っていた。ドミノちゃんとフェルマー王子は、夏休み中だったので、タイタン離宮の方に帰っていた。ノエルも大学の研究室だったので、レオナちゃんしか居なかったのだ。レオナちゃんは、ちょうどお昼寝中で会えなかったので、今日が初めての対面となる。


  引越しの手配は、シェルがやってくれた。引越しと言っても、部屋から部屋へゲートで繋ぐだけなので楽なもんだ。


  カテリーナさんが、ミキさん、シロッコさん、レブロンさんとダルビさんに挨拶をする。


  「カテリーナ、今日からここ、お願い。」


  大人との会話になると、緊張して片言になってしまう。まだ社会性までは発達していないようだ。シンシアちゃんとは、あんなにスムーズに話せるのに、こればかりは経験を積むしかない。


  それに、声が極端に大きい。これも人工中耳の影響だろうか。自分の声は、直接、中耳に響くはずだが、実際の処、自分の声がどう聴こえているかが、よく分からないそうだ。


  脳の再建は、うまく行ったようで、現在は微弱電流を脳に流す治療は行っていない。基幹となる脳シナプスは、既に機能しており、後は細かなシナプスのネットワークが繋がっていくのを、待つしかない。そのためには、毎日の学習と体験しかないそうだ。就寝時の睡眠学習は、既に小学3年生レベルになっているらしい。素晴らしい学習速度だ。


  それに、9月からは、音楽大学の学生さんが、家庭教師にやってくるらしい。早く、高校卒業レベルまでの学力を付けてもらいたい。


  レオナちゃんが、部屋から出てきた。耳をピョコピョコさせて可愛らしい。カテリーナさん達を見て、ミキさんの後ろに隠れた。


  「ほらほら、レオナ、カテリーナさんとシンシアちゃんにご挨拶しなさい。」


  言われたレオナちゃん、頭をピョコンと下げながら、一応カーテシの形を取る。しかし、スカートを上げすぎて、イチゴパンツが見えてしまった。それをジッと見ていた、カテリーナさんもシンシアに言った。


  「ほら、シンシアちゃん、ご挨拶は。」


  シンシアちゃんは、吃驚してしまった。今まで、カテリーナさんに指示された事などなかったからだ。涙が溢れてきた。シンシアちゃんは、涙を拭く事なく、綺麗なカーテシを決めた。


  「シンシアです。宜しくお願いします。」


  これには、ミキさんが吃驚した。シンシアちゃんは、レオナと同い年の筈なのに、シンシアちゃんの方がずっとお姉さんだ。これなら1年早く小学校に上がるのも無理は無い。


  レオナとシンシアは、2人とも国のトップだった男の娘、そしてゴロタの婚約者と言う立場だ。それにミキさんとカテリーナさんも、正妻ではなく、無理矢理手篭めにされて妊娠した経緯を持ち、似た境遇だ。


  しかし一つだけ、ミキさんが優位な点が有った。それは、ゴロタさんと男女の関係になったことが有るという事だ。しかし、カテリーナさんも言動はおかしいが、物凄い美女というか可愛らしいので、これからどうなるか分からない。出来る事なら、自分と同じようにゴロタさんと関係を持ってもらうと、自分も気が楽なのだが、それは嫌だと言う気持ちもあり、複雑だった。


  レオナちゃんとシンシアちゃんがままごとを始めている。勿論、シンシアちゃんがお母さん役だ。レオナちゃんは、素直に子供役をやっていた。


  その時、フェルマー王子が、ピアノのレッスンから帰って来た。


    「お兄ちゃん!」


  シンシアちゃんは、直ぐにフェルマー王子に抱きついた。フェルマー王子とは、腹違いの兄、妹だ。フェルマー王子は、ニコニコしながらシンシアちゃんを抱いたが、直ぐにカテリーナさんに気付いた。


  フェルマー王子は、カテリーナさんに会うとドキドキしてしまう。初めて王宮内で会ったのは6年前だ。最初は、新しい掃除婦かと思っていたが、父の新しい愛人だと知って驚いた。若過ぎるのだ。どう見ても、子供だった。しかし、物凄く可愛い人だと思ってしまった。その時、ふと目と目が合った。ペコリと頭を下げたその子の綺麗な瞳に、ドギマギしてしまった。


  それ以来、会っていなかったが、去年、タイタン市に留学に来て、カテリーナさんと一緒に暮らすことになったのだ。その頃は、カテリーナさんは小さな子と同じで、話すこともできず、聴くことも出来なかった。


  今年の春、王都に来てからは、完全に忘れていたが、今日、久しぶりに会うと、顔が赤らんでくる。それを見ていたドミノちゃんが、なんか変な顔でフェルマー王子の顔を見ていた。まずい。カテリーナさんとは、余り、仲良くならない方が良いかも知れない。


  カテリーナさんはそんな事も気付かず、フェルマー王子が、あの男の面影に似ている事に恐れを感じた。


  「お、お帰りませ。私、カテリーナ申します。」


  深々と頭を下げた。頭さえ下げていれば、殴られない可能性が高まると言うことを、小さい時から学習している。


  フェルマー王子は慌てた。自分の父がカテリーナさんに何をしたか詳しくは知らないので、何故、そんなに怖がるのかが謎だった。


  「ただ今、帰りました。あの、ここは王国ではないので、そんなに丁寧にお辞儀しなくても良いのですよ。」


  説明しても、頭を上げない。その内、土下座をしそうだった。フェルマー王子は、ドミノちゃんと一緒に2階に上がって行った。


  レオナちゃんが、トコトコ歩いて来た。カテリーナさんの顔を覗き込んでいる。


  「おばちゃん、怖い?」


  カテリーナさんは、漸く顔を上げた。フェルマー王子が居なくなっていることを確認したので、ホッとした顔をしている。


  事情を聞いているミキさんは、カテリーナさんの肩を抱いてソファに座らせた。熱いホットミルクを持ってこさせた。ホットミルクを全部飲み干す頃には、顔色も普通に戻っていた。


  「あの男の子は、フェルマー。貴女には何もしないわ。だから安心して。」


  「あの男の人に似ている。私をいつも殴っていた。」


  「安心して。あの子は、その人とは違うから。殴ったりしないわ。」


  レオナちゃんが、カテリーナさんの隣に座る。カテリーナさんの方を見て、


  「大丈夫って、何?」


  なんでも聞きたがる年頃だ。カテリーナさんが、なんて答えて良いのか、困っている。ミキさんが、助け舟を出してくれる。


  「レオナ、大丈夫ってね、笑っていることよ。」


  「おばちゃま、笑う?」


  カテリーナさんは、力無く笑った。レオナちゃんの、可愛らしいクルクルッとした目を見ていると、悲しい思い出も流れ去って行くようだった。


  夕飯の時、フェルマー王子は、中々部屋から出てこなかった。フェルマー王子だけではない。ドミノちゃんもだ。シロッコさんが、部屋の扉をノックしたが、返事がない。2階のドミノちゃんの部屋も同じだった。どこに行ったんだろう。大学から帰ってきたノエルは、


  「玄関から出ていなければ、ゲートを使って離宮に行ったんでしょ。心配しなくても良いから、食事にしましょう。」


  と言った。感謝の祈りを捧げている時、2階から2人が降りてきた。大きな荷物を抱えていた。中身は、『クレスタの想い出』で売っているケーキだった。かなり大きなケーキだ。今日、カテリーナさん達が入居したお祝いだそうだ。


  カテリーナさんは、大きなケーキとフェルマー王子の顔を見比べていた。もう、怖くはなかった。涙が溢れてきた。自分が来たお祝いということは、自分のために買ってきたんだ。そんな経験は初めてだった。


  ケーキは、苺がたくさん載った豪華な物だった。ドミノちゃんは、イチゴよりもチョコケーキが良かったのにと不満そうだったが、一口食べると、幸せそうな顔になった。


  こうしてグレーテル屋敷の歓迎式典は終わった。


  その日、シンシアちゃんは、お兄ちゃんと一緒に寝た。ドミノちゃんが、とても悔しそうだった。


  

レオナちゃん、随分、大きくなりました。

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