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第423話 北の魔物

最近、とても忙しいです。コロナウイルスで、自宅待機にならないかと思うのは、不謹慎です。ついに、昨日、毎日連載の予定が落ちてしまいました。

(6月25日です。)

  東タイタン州の州知事のマルタン男爵がタイタン離宮を訪れてきた。今年の小麦の生育が良くないというのだ。


  6月は、雨も多く、植物がグングン伸びる時期なのに、今年は、5月に芽が出てから殆ど育っていないのだ。理由は、ずっと吹き続けている冷たい北風のせいだ。


  東タイタン州の北は、大雪山脈に接しており、間に深い渓谷がある。渓谷の手前は、未開の森になっていて、まだかなりの多くの魔物が生息しているはずだ。しかし、単に魔物が多いだけで、気候が変わるわけがない。


  ゴロタは、調査に行くことにした。東タイタン州北部の秋は早い。早急に手を打たなければ手遅れになってしまう。


  次の日、ゴロタを始めとした調査隊が編成された。メンバーはシェル、エーデルそれにシズだ。当然シルフも一緒だ。まず、東タイタン州の最北のニモ村にゲートを使って行ってみることにした。ゲートは、一度行ったことがある場所なら、イメージだけで双方を繋げることができる。


  ニモ村に行ってみて驚いた。本来なら、畑には麦が群生している筈なのに、ヒョロヒョロの若芽がのびているだけだ。元々、遅い春を待って植え付けをするのだが、今の時期にこれでは、多くの収穫は望めない。


  空は、どんよりと曇り、日差しもない。一体、何が起きているのだろう。とにかく、冷たい風が吹いてくる方向に向かうことにした。


  メンバーは、総員で5名なので、『タイタニック号』を取り出す。銀色に輝く、見事な流線型の機体だ。自動でタラプが降りてきた。搭乗すると、パイロット専用アンドロイドが、操縦席に座っている。客席には、キャビンアテンダント専用アンドロイドが2体出迎えてくれた。


  シルフが、目的座標をパイロットに電送している。目が青白く光っている。怖い。パイロットが、『ラジャー』と言って、フライト前の注意事項をアナウンスしている。


  暫くして、浮上を始める。飛行石による浮上なので、無音だ。上空1000mで推進用のジェット推進機が動き始める。徐々に加速し始める。時速400キロで巡航する。高度は上げない。


  ゴロタは操縦席から地上を見ている。特に、変わったことはない。うん?おかしい。森の木々が枯れ切っている。幾ら緯度の高い場所とはいえ、もう6月だ。新緑の季節を経て、深い緑で覆われている筈なのに、まるで真冬の枯木立だ。


  そればかりではない。魔物を含め、生命の動きが感じられないのだ。そう、まるで死の森だ。たまに動いているものを見つけると、屍肉を漁る鳥どもだ。


  さらに北に進んでみる。ニモ村を出てから1時間半、大雪山脈の麓に到着した。しかし、眼下には、真っ白な銀世界が広がっている。


  幾ら北の地とはいえ、これは、絶対におかしい。東タイタン州の最北のニモ村から、600キロ程度しか移動していない。山脈の頂上付近なら分かるが、麓まで雪が溶けないことなど1回も無かった。


  取り敢えず、地上に降りて見ることにした。機内で、防寒具に着替えた。まさか北半球で6月の下旬に、防寒服を着るとは思わなかった。


  北半球と南半球の往復が多いので、ゴロタを始め皆の防寒服は、常にイフクロークの中に入っている。シルフまで、毛皮のコートを着ている。お前は、寒くないだろう。


  皆の毛皮は、黒テンつまりセーブルやチンチラ、リンクスなどで、ミンクのコートは普段着扱いだ。シルフの着ているコートなどは、モグラの毛皮らしいが、どうやってあんなに捕獲したのだろう。


  まあ、そういうことは詮索せずに、皆で機外に出た。空気が刺すように痛い。気温が、氷点下10度以下は間違いない。


  シールドを張って北風を防ぎ、少しだけ熱を発散する。みるみる木々の雪や氷が溶けて行く。


  ゴロタ達は、山の頂を目指して歩き始める。この付近の山は、せいぜい300m位の標高だ。奥に行くに従って、高い山が増え、登はんも困難になる。


  シズが、声を上げた。


  「止まって。向こうに何か見えるわ。」


  皆が、遥か先を見た。そこには、真白な雪の砦のようなものが見えていた。


  「なあに、あれは?」


  シェルが、ふと漏らした。誰に聞いても、答えなど分かる筈ないのに、つい、聞いてしまったのだ。しかし、シルフがその疑問に応えた。


  「あれは、砦です。生命反応はありません。組成物は、『H2O』つまり水の個体、氷が殆どですが、若干ですが鉄分も混ざっているところがあります。


  「誰が作ったの?」


  「その疑問には、回答を保留します。」


  うん、見た目以上の詳しい回答を求めてはいけないようです。もう質問はやめよう。ゴロタ達は、周囲を警戒しながら砦に近づいて行く。砦の正門前には、奇妙なものが並べられていた。


  大きな雪の玉が置かれ、その上にはやや小さな雪玉が重ねられている。上の雪玉には、黒い石で目が二つはめ込まれている。手足はない。それが、幾つ幾つもも並んでいる。


  ゴロタ達が、雪玉の前を通ると、雪玉の目玉が、ジッと追いかけて見ている。通り過ぎた後、雪玉の下の段からニョキニョキと手のようなものが2本生えてきた。


  足も無いのに、雪面の上を滑って、ゴロタ達の後を追いかけてくる。滑っているので、足音はしない。


  最初に、異変に気づいたのはシズだった。ほんの微かな、雪を押し除ける音に気づいたのだ。後ろを振り返ると、夥しい数の雪の玉が付いてくる。


  襲ってくる気配はない。しかし、気味が悪い。シズが、『ヨイチの弓』を構える。一番近い雪玉に矢を放つ。


  ズボッ!


  矢が、貫通したが、大きな穴が開いただけだ。その穴は、みるみるふさがって行く。


  攻撃を受けたのが、気に食わなかったのか、すべての雪玉が速度を上げて迫ってきた。まあ、それだけだが。しかし、四方八方から囲まれ、動けなくなった。


  ゴロタが、『オロチの刀』で、『斬撃』を放つ。放った方向の雪玉は、全てが両断され、切り口が溶けかかっている。しかし、これも、あっという間に修復された。


  シェルが、


  「ダメよ。周りの雪がある限り、この雪玉達は不死身よ!」


  なるほど、そういう訳か。しかし、雪は無尽蔵にある。これではキリがない。それに、急に気温が下がってきた。雪玉の硬さが増してきているような気がする。ゴロタは、全員を連れて、『飛翔』で飛び上がる。


  上空から周囲を見て驚いた。ゴロタ達がいたところを中心にして、500m位先まで、雪玉が密集している。


   真ん中付近の雪玉は、圧力で潰れかかっている。こいつらは、きっとバカだ。と言うか、もうゴロタ達はいないのだから、諦めれば良いのに、ドンドン真ん中に集まっている。


  真ん中は、完全に潰れて雪の山だ。その雪の山が、大きくなって行く。え?これは!


  その雪山が、グチャグチャっと変形して、大きな雪のゴーレムになった。それで、まだ合体していない雪玉を掴んで、ゴロタ達の方に投げてくる。投げる速度が遅いので、避けるのは簡単だが、めんどうなのでシールドを張って防ぐ。ゴロタ達には全くダメージがない。


  しかし、ゴーレムは、どんどん投げてくる。応援の雪玉も遠くから集まってきている。ダメだ。キリがない。ゴロタは、ファイアボールをゴーレムの胸の中で爆発させた。


  流石の、ゴーレムも粉々になって四散した。はずだった。しかし、真ん中の雪玉を中心に、モコモコと盛り上がり、元に戻ってしまった。前と同じゴーレムか、新しいゴーレムかはわからないが、物理的に粉々にしては、ダメなのかもしれない。


  ゴロタは、シェル達を『タイタニック号』まで戻し、単身、攻撃することにした。シェル達は、5キロ位離れたところに退避する。高度8000mの上空で旋回をしていてもらった。


  ゴロタは、まず、上空300mの位置に、ミニ太陽を出現させた。地上温度30度になるように、熱反応を制御する。みるみる雪と氷が溶けて行く。さすがに、雪ゴーレムも溶けざるを得ないようだ。雪ゴーレムは、どんどん溶けて小さくなって行く。


  その時だった。例の氷の砦から、真白な雲が吹き込んできた。溶けかかった氷が、再び凍り始める。それと同時に、雪ゴーレムも復活した。


  ゴロタは、ミニ太陽を地上50mの位置まで下ろした。ミニとは言っても、太陽に変わりがない。表面温度は6000度だ。


  流石に、これには対抗できず、しばらくで、湯気になってしまった。と言うか、半径1キロに渡って、地表が現れ、ミニ太陽の直下はドロドロのマグマになってしまった。


  ゴロタは、ミニ太陽を消して、しばらく様子を見た。ジワジワと氷が張ってくる。空気中の水蒸気が凍ってキラキラ光っている。


  やはり、あの砦から冷気が押し寄せているようだ。あの砦に行って見ることにした。イフちゃんを呼ぶ。最初は、10歳の女の子だったが、本来の姿になってもらう。


  『あの砦には、懐かしいものがおるようじゃ。』


  イフちゃんが教えてくれた。イフちゃんの、昔馴染みらしい。ゴロタは、絶対に会いたくなかった。きっと面倒臭い奴に決まっている。


  ゴロタが、ミニ太陽の直撃をしようと準備する前に、イフちゃんは砦の方に飛んで行った。砦から、霧が立ち上り、その中から大きな、狼が現れた。


  『イフリートよ。来るでない。そなたは嫌いじゃ。』


  『まあ、そう言うな。久しぶりじゃ。また、力比べをしようぞ。』


  『ふん、そちは狡いから嫌いじゃ。』


  『何を言うとる。儂が何をした。』


  『ふん、後ろから不意打ちをして、妾の尻尾を焼いたのはどいつじゃ?』


  ゴロタが、追いついた。見ると、イフちゃんの相手は、真っ白な狼?だった。


  「あのう?」


  『あん?そちは、さっきの恐ろしげな魔物か?』


  誰が、『魔物』だ!ゴロタは、自己紹介をした。


  「僕は、ゴロタ。貴女は?」


  『そちに、名乗るような名前など・・・』


  『そ、そちは?』


  『ふん、やっと気が付いたか。』


  『魔界の王にして、世界を統べる者、それに精霊王の末裔、なんとチートな。』


  「それで、貴女は?」


  ちょっとイラッときたゴロタは、強めの口調で聞いた。狼は、真白なドレスに長い金髪の美女に変身した。


  『妾の名は、フェンリル。冬を司る者。』


  『フェンリル』それは氷の精霊、雪の女王、いや残念な狼だった。

変な仲間が増えてしまうのは、定番です。

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